|
◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。 「シェラ・ドーネどの。そこにいるのでしょう?出ていらっしゃい。」 クラウディスはシェラ・ドーネの部屋に来ていた。クラウディスがシェラ・ドーネの部屋を訪れるのは久しぶりだった。シェラ・ドーネの部屋は落ち着いた色調でまとめられ、どこか優雅な香りが漂っていた。中は整然と美しく整理され、誰も住んでいないのかと思わせるほど綺麗だった。クラウディスはほっとする反面、どこか不安でもあった。 テリドレアーネも几帳面で潔癖症で神経質なところがあるけれど、シェラ・ドーネもやはりそんなところがテリドレアーネに似てしまったのだろうか・・・? クラウディスはシェラ・ドーネが元服してからめっきり会話を交わすことも少なくなっていた。シェラ・ドーネが一体何を考えているのか、母親であるクラウディスにも推し量れないほど二人の間の距離は離れてしまっていた。ミーシャのこともあってシェラ・ドーネとは向き合って話をしなければならないと思いながらもなかなか切り出せず、シェラ・ドーネと真剣に話す機会を失っていた。だがアデリースの結婚も近付いてきている今、クラウディスは逃げてばかりもいられないのだと、覚悟を決めて足を運んだのだ。 クラウディスが奥の間に入ると、シェラ・ドーネは長椅子にもたれて横になっていた。 「シェラ・ドーネどの・・・?」 クラウディスが声をかけてもシェラ・ドーネの返事はなかった。クラウディスは怪訝そうな顔つきでシェラ・ドーネに近付いた。 「シェラ・ドーネどの・・・寝ているのですか?」 シェラ・ドーネの無防備な姿にクラウディスは引き寄せられるかのように顔を近づけた。こんなふうにシェラ・ドーネの寝顔を見たのは久しぶりだった。クラウディスはどこか懐かしいかんじを覚えた。 ああ・・・シェラ・ドーネはテリドレアーネによく似ている。更々と流れ落ちる絹糸のような美しい銀色の髪・・・眩いばかりに白く透き通った肌・・・整った美しい鼻梁・・・形のよい眉・・・長い睫毛・・・花のように艶めいた唇・・・どれも見蕩れてしまうほど美しい。 クラウディスはシェラ・ドーネを見て、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。クラウディスは思わずシェラ・ドーネの肌に手を伸ばそうとした。 そのとき目の前のシェラ・ドーネが突然瞼を開けた。銀色の双眸に見つめられてクラウディスは慌ててシェラ・ドーネから離れようとした。だがシェラ・ドーネは素早くクラウディスの手首を掴んで引き寄せた。均衡を崩したクラウディスがシェラ・ドーネの躯の上に重なるように倒れこんだ。 「あっ・・・」 クラウディスには一瞬何が起こったのかわからなかった。シェラ・ドーネは妖しい笑みを浮かべた。 「母上・・・息子の寝込みを襲うつもりだったのですか・・・?」 クラウディスは顔を真っ赤に染めた。恥ずかしさに顔を背けて立ち上がろうとしたが、シェラ・ドーネはいつのまにかクラウディスの背中を抱き締めて、クラウディスは身動きできなかった。 「何を・・・離しなさい・・・」 躯を押し返そうとするクラウディスにシェラ・ドーネは笑っていた。 「母上・・・何を恥ずかしがっておいでで・・・?」 「・・・?」 「母上のいい匂いがする・・・ああ・・・この匂い・・・」 シェラ・ドーネはクラウディスの肌に顔を埋めた。気持ちよさそうにクラウディスの匂いを感じているシェラ・ドーネを見て、クラウディスの躯は震えた。痺れるような甘い疼きが躯の奥から湧き上がってくるのを感じて、クラウディスの躯は途端に熱く火照りだした。 「離して・・・シェラ・ドーネ・・・」 困惑した表情のクラウディスを見て、シェラ・ドーネはそっと腕を緩めた。だがクラウディスの躯は開放されても金縛りにあったようにすぐに動かすことが出来なかった。 「ふふっ・・・母上の躯・・・柔らかくて温かい・・・」 クラウディスは我に返って慌ててシェラ・ドーネから躯を離した。クラウディスの躯はまだ震えていた。 「どうなさったのです?母上・・・そんなに震えて・・・」 からかうように見つめるシェラ・ドーネをクラウディスは睨み付けた。 「あなたは・・・眠っているふりをして私を・・・」 「人聞きの悪いことを・・・母上・・・私が何をしたというのです?私に触れようとしたのはあなたの方だ。」 「あっ・・・私はただ・・・」 「ただ・・・?」 言葉に詰まったクラウディスにシェラ・ドーネはくすっと笑みを零した。クラウディスは自分が恥ずかしかった。シェラ・ドーネを見て胸をときめかせてしまったのは事実だった。浅ましくも息子のシェラ・ドーネの姿に夫のテリドレアーネを重ねて見てしまったのだ。愚かな姿を息子に晒してしまって、クラウディスは居た堪れなかった。 「そんな顔をなさらないで。母上・・・私に話があって来たのでしょう?やっと母上が私に会いに来てくれて、私は嬉しかったのですから・・・」 「シェラ・ドーネどの・・・」 「ずっとお待ちしていたのに・・・あなたがなかなか来てくれないから私は寂しかった。私のことなど嫌って、もう顔も見たくないのかと・・・そう思っていました。」 クラウディスは思いがけないシェラ・ドーネの言葉に目を丸くした。 「何故・・・そんなことを・・・?」 「母上は私のことを怒っていらっしゃる。そうでしょう・・・?」 クラウディスはシェラ・ドーネの目が冷ややかな色を帯びているのを見て戸惑った。 「何か言いたいことがおありなら遠慮なく言ってくださればいい。」 シェラ・ドーネに見つめられてクラウディスは羞恥した。 そうだ・・・自分はシェラ・ドーネに大事な話をしに来たのだ。それを忘れてしまうところだった。 だがクラウディスは何から話していいのか言葉が見当たらず困惑した。 「シェラ・ドーネどの・・・わかっているとは思いますが、アデリースは輿入れ前の大事な時期なのです。妹を不安がらせるようなことはしないでちょうだい。それでなくてもアデリースの婚礼が遅れているのです。これ以上不安の種を蒔くようなことは・・・」 クラウディスは言いかけて思わず口を閉ざした。それを見たシェラ・ドーネの口元が僅かに歪んだ。 「母上・・・はっきりおっしゃればいい。あなたが言いたいのはそれだけではないでしょう?」 「シェラ・ドーネどの・・・あなたとはきちんと話をしなければならないと常々思っていました。」 真剣な顔をしたクラウディスとは対照的にシェラ・ドーネは余裕の笑みを浮かべていた。 「私も母上とはゆっくりお話したいと思っていたのですよ。昔から母上は私の心配ばかりしてくださった。あなたにはいつも感謝しています。」 どこか他人行儀なシェラ・ドーネの言葉にクラウディスは違和感を覚えた。いつのまにか大人らしく話すシェラ・ドーネにクラウディスは何か寂しいものを感じた。 「では遠慮なく話しましょう。ミーシャのことはご存知ね。あの子が今どんな境遇にいるのかも・・・」 「ええ・・・母上には大変すまなく思っています。ですが私は間違ったことをしたとは思っていません。」 「シェラ・ドーネどの・・・あなたという人は・・・ミーシャがどれだけ傷ついたかわからないのですか?あの子がどれだけ心を悩ませていたか・・・」 クラウディスはつい感情的になっていた。ここで怒ってはならないのだとクラウディスは逸る気持ちを抑えながら自分に言い聞かせた。 「母上・・・あなたは恋をしたことがないのですか?私はミーシャに出会って、ミーシャが堪らなく欲しいと思った。だからミーシャを抱いた。それがいけないことだとでも言うのですか?」 クラウディスは激しい胸の鼓動を感じた。シェラ・ドーネの言葉に躯が熱くなるのを感じた。クラウディスはシェラ・ドーネのその想いを否定することなど出来なかった。 「母上にお願いがあります。ミーシャを私にください。ミーシャを私の傍にずっと置きたい。ミーシャと結婚出来ないのはわかっている。でもミーシャを誰にも渡したくない。シェリークにだって渡したくはない。」 「シェラ・ドーネどの・・・あなた・・・それほどまでにミーシャのことを・・・」 クラウディスはシェラ・ドーネのことを叱るつもりでいたが、ミーシャへの想いを聞かされてそんな気持ちが薄らいでしまった。 「母上・・・」 いつのまにかシェラ・ドーネはクラウディスに抱きついていた。シェラ・ドーネに抱き締められてクラウディスは胸が苦しくなった。知らない間にすっかり大人になって男らしい躯に成長していたわが子の腕に強く抱かれて、クラウディスは胸が熱くなるのを感じた。 「どうかお願いです。母上はいつも私の味方になって、私を助けてくださった。母上なら私のこの気持ちをわかっていただけると・・・」 「あっ・・・」 シェラ・ドーネに強く抱き締められて、クラウディスは思わず甘い声を漏らしてしまっていた。クラウディスは慌ててシェラ・ドーネの躯を押し返した。 「母上・・・?」 「わかりました。シェラ・ドーネどの・・・ミーシャのことは私も責任を感じています。決して悪いようにはしませんから・・・」 シェラ・ドーネは嬉しそうに笑みを浮かべるとクラウディスの手を取った。シェラ・ドーネはクラウディスの手の甲に舐めるように口付けをした。 「約束です。母上・・・あなたのことを信じています。」 クラウディスは頬を紅く染めた。シェラ・ドーネの艶かしい視線に見つめられて、思わず顔を逸らした。息子とはいえ夫のテリドレアーネによく似た美貌のシェラ・ドーネに見つめられて、クラウディスは胸がドキドキするのを止められなかった。 シェラ・ドーネは出会った頃のテリドレアーネによく似ている。いや、昔のテリドレアーネにそっくりだ。闇夜に浮かぶ銀色の月のようにどこか冷たい瞳の色が恐ろしくもあった。何を考えているのかわからないようなところまで・・・シェラ・ドーネはテリドレアーネに生き写しだ。 クラウディスはそんなシェラ・ドーネに恐怖を感じながらも愛しく思わずにはいられなかった。 「外伝 銀の森 第七章 花迷宮」 完 ■長らくご愛読賜りましてありがとうございます。 続きは「外伝 銀の森 第八章 混沌」でお楽しみくださいませ。 |
第七章 花迷宮
[ リスト | 詳細 ]
|
◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。 クラウディス王妃の指示の下、アデリース王女の婚礼準備が急いで進められていた。ラザの王子との結婚を控えて、銀の森の王城はにわかに慌しい空気に包まれていた。十五歳になったアデリースはすっかり美しい娘に成長していた。だが当の本人には結婚する実感がまだ湧かなかった。 「シェラ・ドーネさま!いけませぬ!そこから先は・・・殿方の立ち入りは禁止です。姫さまのお部屋に勝手に入られては・・・」 アデリースは婚礼衣装の仮縫いの真っ最中であった。シェラ・ドーネは気になってアデリースの部屋を覗き込んでいたのを口煩い乳母に見つかって叱られていた。それでも懲りずにシェラ・ドーネはお針子たちに囲まれて人形のように身動きできなくなっているアデリースを眺めていた。 「ふうん・・・綺麗なものだな。だが少しアデリースには地味ではないか?」 「地味だなどと・・・これはまだ下地の衣装です。この上にまだ装飾を施していくのですからもっともっと美しい仕上がりに・・・」 乳母の説明にも耳を貸さずに、シェラ・ドーネはアデリースの衣装に触れていた。 「シェラ・ドーネさま?!なんてことを・・・ご結婚相手以外の殿方は妄りに婚礼衣装にお手を触れてはなりませぬ。」 乳母は慌ててシェラ・ドーネの手を払い除けた。シェラ・ドーネは驚いて目を丸くした。 「酷いな。私が触ると穢れるとでも・・・?」 「その通りです。たとえ血を分けた兄君さまでも許されないことです。」 シェラ・ドーネは納得がいかず不機嫌そうな顔をした。 「お兄さまはこの衣装に興味がおありなのでしょう?お兄さまのことですから、これを着てみたくなったのではなくて?」 「私は花嫁ではない。馬鹿なことを言うな。」 「あら・・・元服のときの衣装は花嫁衣裳のようだったと皆が噂していましたわ。」 「相変わらずだな。アデリース・・・もう少し口を慎め。それではラザの王子に嫌われるぞ。」 「心配はご無用よ。」 アデリースはぷいと横を向いた。その様子にシェラ・ドーネは笑みを零した。 「アデリース・・・ラジールの連中は派手好きだそうだ。おまえももっと着飾ったほうがいい。そのほうがラザ王も喜ぶだろう。なにしろラザ王はとりわけ派手なことが好きらしいゆえ・・・」 「お兄さま・・・私が結婚するのはラザ王ではなく王子のラセス殿下ですわ。殿下はとても真面目な方で派手なことはお嫌いだそうよ。」 言い返すアデリースにシェラ・ドーネは面白そうに笑ってみせた。 「ふん・・・ラザの王子は何の取り柄もないつまらぬ男だそうだ。さぞかし女を喜ばすことも出来ぬ役立たずな男なのだろうな。」 「まあ・・・何てことを・・・シェラ・ドーネさま・・・姫さまのご結婚相手をそのように侮辱なさるなど・・・」 乳母はシェラ・ドーネの言葉に卒倒しそうになっていた。 「いいのよ。乳母・・・殿下はお兄さまとは違ってきっと誠実な方・・・お兄さまのように不真面目な方ではありませんわ。」 「大した言われ様だな。私はそんなに信用されてないのか?そんなにラザの王子のほうがいいのか?」 「当たり前です。女が皆お兄さまみたいな男に惚れると思ったら大間違いだわ。」 アデリースはつんと上を向いた。アデリースの気の強さにはさすがのシェラ・ドーネも太刀打ち出来なかった。 「おやまあ・・・シェラ・ドーネさまも姫さまの前ではたじたじですわね。」 「黙れ。おまえたちが甘やかすからアデリースはそんな生意気な口を利くようになったのだ。少しは女らしく淑やかになったかと思えば・・・これではラザの王子も尻に敷かれる。」 「お兄さまこそお口が悪い。それでは誰もお兄さまとは結婚したがらないわ。」 「生憎だが私は女に不自由はしていない。そんな心配はいらぬ。」 「やだ。お兄さまったら不潔!」 顔を赤らめたアデリースは傍にあった布を掴んでシェラ・ドーネに投げつけた。シェラ・ドーネは咄嗟にそれを交わした。シェラ・ドーネはふっと微笑むと落ちた布を拾ってアデリースに近付いてきた。シェラ・ドーネは布を広げるとアデリースの肩に掛け、背中から布越しにそっと抱き締めた。 「若さま?!」 驚いた乳母が声を張り上げた。シェラ・ドーネは乳母を流し見た。 「私は婚礼衣装には手を触れてはおらぬ。」 シェラ・ドーネが妖しく笑みを零したのを見て、周りにいた侍女たちは皆気絶しそうになっていた。 「なっ・・・なんてことを・・・姫さまからすぐ離れなさい。」 乳母の訴えなど聞こうともせず、シェラ・ドーネはアデリースを強く抱き締めた。アデリースも困ってしまって顔を赤く染めたままだった。 「お兄さま・・・やめて・・・一体何のおつもりなの・・・?」 シェラ・ドーネはアデリースの耳元に唇を寄せてそっと囁いた。 「おまえがラジールに行ってしまうのかと思うと、急に寂しくなってきた。おまえともうこんなふうに話すこともなくなるのかと思うと・・・なんだか悲しい・・・」 「お兄さま・・・?」 まるで小さな子供のように拗ねた顔をするシェラ・ドーネにアデリースは驚いて身動きできなかった。 「おまえは母上によく似ている。目鼻立ちも・・・唇の形も・・・肌の色も・・・違うのはその髪と瞳の色だけだ。アデリース・・・おまえがラザの男のものになってしまうのかと思うと惜しくて堪らない・・・」 「あっ・・・」 まるで愛の告白のようなシェラ・ドーネの言葉にアデリースの胸は高鳴った。いつも澄ました顔で何を考えているのかわからなかったシェラ・ドーネが寂しがっているのがわかって、アデリースは何だか嬉しかった。口では冷たいことを言うけれど、シェラ・ドーネが本当は心のやさしい人なのだということをアデリースは知っていた。アデリースはシェラ・ドーネのやさしさに触れて、胸が熱くなるのを感じた。 「お兄さま・・・私はお兄さまのことが心配でなりませぬ。寂しがらなくてもいいようにお兄さまも早く素敵な方と結婚なさって・・・」 「アデリース・・・」 しばらく抱き締めあったままの二人を前にして、さすがの乳母も言葉を失い、侍女たちもうっとりと二人を眺めていた。シェラ・ドーネとアデリースはまるで絵の中の光景のように美しかった。 「こうして見るとテリドレアーネ王に嫁がれた頃のクラウディスさまにアデリースさまはよく似ていらっしゃる。まるでお若い頃のテリドレアーネさまとクラウディスさまを見ているかのよう・・・」 乳母は昔のことを思い出して涙ぐんだ。 シェラ・ドーネはアデリースを抱き締めていた腕を緩めるとそっと躯を離した。シェラ・ドーネはアデリースを不思議そうに見つめていた。 「アデリース・・・母上と似ていないところがあった。」 「・・・?」 「母上の胸は豊満でとても魅力的だが、おまえはまだ小さいのだな。抱き心地がもうひとつだ。」 「なっ・・・」 言葉より先にアデリースの平手が飛んでいた。だがシェラ・ドーネは俊敏にそれを交わして、逆にアデリースの腕を掴んだ。 「甘いな。私がおまえに打たれるとでも・・・?」 「離して!いくらお兄さまでもそんな失礼なこと許さないわ。」 アデリースは耳まで真っ赤にして怒っていた。アデリースの目には涙が浮かんでいた。 「ふふっ・・・だが女遊びも知らぬようなラザの王子にはそのくらいがちょうどよいのかもしれぬな。」 屈辱的なシェラ・ドーネの言葉にアデリースは我慢出来ずに涙を零してしまっていた。さっきまで見せていたシェラ・ドーネのやさしさがまるで嘘のようだった。 「酷い・・・お兄さま・・・」 泣いているアデリースを見て、シェラ・ドーネは困惑した。シェラ・ドーネはアデリースの涙で濡れた頬を指で拭ってやった。 「アデリース・・・心配することはない。おまえはそのままでも充分綺麗なのだから・・・ラザの男も皆おまえに夢中になるだろうさ。なんだったら男の喜ばせ方を教えてやる。」 「若さま!なんてことを・・・」 見かねた乳母がアデリースを庇おうとしたとき、不意に部屋の扉が開いた。 「何事ですか?騒々しい。仮縫いはもう終わったのですか?」 怪訝そうな顔で現れたのは王妃クラウディスであった。クラウディスは泣いているアデリースの前に立っているシェラ・ドーネの姿を見つけて唖然とした。 「シェラ・ドーネどの・・・?そこで何をなさっておいでじゃ?ここは殿方の出入りは禁止です。さっさと出てお行きなさい。」 クラウディスの顔を見てシェラ・ドーネは冷たい笑みを浮かべた。 「そんな怒った顔をしないで・・・母上・・・ああ・・・でも母上は怒ったお顔も美しい・・・」 シェラ・ドーネの態度にクラウディスは驚愕した。 「からかうのもいい加減にしなさい。勝手な行動は許しませんよ。」 シェラ・ドーネは反省する様子もなく、笑いながら部屋を出て行った。 「お母さま・・・」 アデリースの声にクラウディスは振り返った。アデリースの様子にクラウディスは眉を顰めた。 「一体何があったのです?衣装の仮縫いがちっともはかどっておらぬようですが・・・」 乳母や侍女たちはクラウディスに睨み付けられて萎縮した。 「お母さま・・・お兄さまったら酷いのです。ラセス殿下のこと悪く言って・・・私にも恥ずかしいことを平気でおっしゃるのよ。」 「・・・?」 「以前はあんなこと言うようなお兄さまではなかったのに・・・最近のシェラ・ドーネお兄さまはどこか可笑しい・・・一体いつからあんなふうに変わってしまわれたのかしら?」 クラウディスはアデリースの言葉にどきっとした。それはクラウディスも心配していたことであった。アデリースもそれに気付いてしまったのかと思うと、クラウディスは動揺を隠せなかった。 「アデリース・・・大丈夫よ。シェラ・ドーネのことは気にしないで。あなたは自分のことだけを考えなさい。あなたには大事な結婚が控えているのだから・・・」 「お母さま・・・」 不安そうに見つめるアデリースをクラウディスはただ抱き締めることしか出来なかった。 「シェラ・ドーネどのには私から言い聞かせておきます。あなたは何も心配しないで・・・」 アデリースは怖かった。自分が結婚することがいけないことのように思えた。何か恐怖にも似た想いがアデリースを怯えさせていた。 アデリースにはわかっていた。幼いときから決められていた政略結婚に自分が拒むことなど許されないことを・・・だがそれでも不安な気持ちを拭い去ることが出来なかった。 「ごめんなさい。お母さま・・・私もどうかしている・・・」 アデリースは無理に笑ってみせた。 |
|
◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。 クラウディス王妃はテリドレアーネ王に呼ばれて王の間に来ていた。静かな王の間にただならぬ緊張感が漂っていた。 玉座に腰を据えたテリドレアーネ王はいつにも増して不機嫌な面持ちだった。テリドレアーネの怜悧な銀色の双眸は、目の前にいるクラウディスを凍てつかせるほど冷たい光を放っていた。 「クラウディス・・・アデリースの婚礼の準備が滞っておるようだが・・・何ゆえ遅れている?アデリースを早く嫁がせたいと言ったのはそなたではなかったのか?」 「それは・・・」 テリドレアーネに睨み付けられて、クラウディスは言葉に詰まった。ミーシャのことに気をとられて、アデリースのことが疎かになっていたのは事実であった。テリドレアーネに言い訳することも出来ず、困ったクラウディスはテリドレアーネの傍に控えていたエメリア伯爵にふと目を遣った。伯爵は顔色一つ変えず黙して立っているだけであった。 「どうした?クラウディス・・・そなたらしくもない。最近のそなたはどこか可笑しい。何か理由があってのことなら聞かなくもないが・・・」 クラウディスは目を伏せた。伯爵の沈黙は何も言うなとのことであろうと、クラウディスは耐えた。 「申し訳ございませぬ。全て私の怠慢にございますれば・・・急いで準備を進めますゆえ・・・」 どこかいつもと違うクラウディスの様子を見て、テリドレアーネは深く溜息を吐いた。 「もうよい。下がれ。」 テリドレアーネが冷たく言い放つと、クラウディスから顔を背けた。クラウディスはそれを見て、テリドレアーネをそれ以上怒らせるべきではないと、おずおずと立ち去った。 部屋からクラウディスがいなくなると、テリドレアーネは黙ってエメリア伯爵を見つめた。伯爵は何か言いたげなテリドレアーネの視線に、つい先に言葉を漏らした。 「何か・・・?」 「そなた何か知っているのではないか?最近のクラウディスは何処か余所余所しい。私に何か隠し事でもしている気がしてならないが・・・」 「お気のせいではありませんか?私にはさして変わった様子は見受けられませんが・・・」 エメリア伯爵の言葉にテリドレアーネは鼻で笑った。 「ふっ・・・そなたの目は節穴か?それともそなたも何か隠しているのか?」 「私が我が君に隠すようなことなど何も・・・」 動揺の欠片も見せない伯爵の態度にテリドレアーネはいつになく苛立ちを覚えた。 「私はてっきりクラウディスに男でも出来たのかと思っていたのだが・・・」 テリドレアーネの言葉に伯爵は一瞬ピクッと眉を動かした。伯爵は自分のことを指摘されたのかと思って、内心焦った。 「まさかそのようなこと・・・王妃さまに限ってそのような・・・」 「そなたはないと申すのか?クラウディスの色香に男が溺れないとでも・・・?」 「・・・」 「あれは最近変わった。身に着けているものが派手になった。アデリースの婚礼準備もかまけて・・・新しい男でも出来たのでなければ一体何だと言うのだ?」 伯爵はテリドレアーネの様子に恐れを抱いた。普段は妻のことなど気にも留めない素振りのテリドレアーネが何故急にそんなことを言い出したのかわからなかった。 これは嫉妬だ。王は嫉妬している?今ままで貞淑な妻であり良き母であることを誇りにしていたクラウディスの、夫を裏切る行為に怒りを抱いているのだ。 伯爵もまたテリドレアーネがそれだけクラウディスのことを深く愛しているのかと思うと嫉妬せずにはいられなかった。 「我が君・・・あなたらしくもございませぬ。あなたがそのようなことを気になさる方とは思いませんでしたが・・・」 テリドレアーネは伯爵を冷たく睨み付けた。 「そなたはどう思っている?」 「どう・・・とは・・・?」 「クラウディスに誘われればそなたなら寝るのかと聞いている。」 「王妃さまのお誘いなら嫌といって断る男などおりますまい。」 エメリア伯爵の言葉に怒りを抑えきれなくなったテリドレアーネは傍にあった水の入った杯を掴むと、伯爵の顔を目掛けて勢いよく水を浴びせた。伯爵は咄嗟のことで避けることも出来ずに顔から水を滴らせていた。 「そなたも下がれ。」 呆然と立ち尽くした伯爵にテリドレアーネは吐き捨てるように言った。テリドレアーネの躯は微かに震えていた。仕方なく伯爵は一礼をすると、テリドレアーネの前から立ち去った。 まさか王は私と王妃との関係に気付いたのだろうか?勘のいい王のことだ。何か不審に思ってあんなことを・・・ 伯爵に不安が過ぎった。だが事実を知ればこの程度のことでは済まないことを伯爵はわかっていた。伯爵は濡れた顔を手で拭うと、ふっと笑みを零した。 |
|
◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。 「ミーシャは本当に素晴らしいですわ。磨くほどに輝きを増す原石そのもの・・・これからもっともっと綺麗になりますわよ。」 誇らしげにミーシャを自慢するファルド侯爵夫人にミーシャは少し困った顔をした。 「夫人のおかげです。こんな贅沢をさせていただいて・・・私・・・」 「何を言うの?あなたは大事なお宝をその身に宿しているのよ。私、ミーシャと生まれてくるお子の為なら何だっていたしますわ。」 クラウディスは夫人が何を考えているのかわからず怖かった。ただこうしてひと時の幸せを噛み締めているのでさえ不安が過ぎった。 「きっとシェラ・ドーネさまたちがミーシャをご覧になったら大変なことになりますわ。ねえ・・・伯爵・・・」 いきなり夫人に話を振られて、エメリア伯爵は冷ややかな目を向けた。 「あら・・・怖いお顔・・・伯爵はシェラ・ドーネさまに大層ご執心でいらっしゃるから、いろいろとご心配事がおありのよう・・・」 夫人はからかうように伯爵を見つめた。クラウディスはどきっとした。シェラ・ドーネの名前が出た途端、伯爵の顔が不機嫌そうになったのを見て、クラウディスは何か不思議な感じを覚えた。クラウディスには伯爵と夫人の関係がどこか奇妙に映っていた。 「王妃さま・・・どうぞ・・・」 ぼうっとしていたクラウディスにミーシャが気を利かせて焼き菓子を皿に取り分けてくれていた。 「あっ・・・ありがとう。ミーシャ・・・いただくわ。」 「王妃さまのお好きなムルの果実がたっぷり詰まったお菓子です。」 「まあ・・・覚えていてくれたの?」 「はい・・・私・・・王妃さまがお好きなもの一生懸命覚えました。私、王妃さまの為なら何でもしたいと思っていました。」 「ミーシャ・・・」 クラウディスはミーシャの一途さに胸が震えた。 こんなに素直で真面目で献身的なミーシャのような子がシェラ・ドーネと結婚してくれたらどんなに嬉しいだろう。出来ることならミーシャを妃に迎えたい。だがミーシャの生い立ちでは妾妃となるのが関の山だ。いくらファルド侯爵夫人が後ろ盾したところで、銀の森の王家が二人の結婚を許しはしないだろう。 クラウディスはいつのまにかミーシャに実の娘以上の情を抱いていた。 「王妃さま・・・?どうかなさいました?お口に合いませんでしたか?」 心配そうに見つめるミーシャにクラウディスは笑ってみせた。 「大丈夫よ。あなたに会えたことが嬉しくて何だか胸がいっぱいなの。」 クラウディスの言葉を聞いて、ミーシャも嬉しそうに笑みを返した。 「ミーシャ・・・あなたが無事に子供を産んだら・・・城に戻ってきてくれるかしら・・・?」 思いがけないクラウディスの言葉にミーシャは目を丸くした。 「あなたさえよければ私は・・・」 クラウディスははっとして口を閉ざした。 自分は今ミーシャに何を言おうとしたのだろう?ミーシャに何を望んでいるのだろう? 「王妃さま・・・それはミーシャを正式に妃として迎えてくださるということでしょうか?」 突然夫人が二人の会話に入ってきて、クラウディスは驚いて夫人を見た。 「まさか王妃さま・・・ミーシャに侍女として戻って来いなどと仰せではないでしょうね。」 「そんなつもりは・・・私はただミーシャと一緒に城で暮らせたらと・・・」 「王妃さま・・・おわかりでしょうね。ミーシャはもはやあなたの侍女ではございませぬ。大事な銀の森のお血筋の母御となる身です。ミーシャには然るべき地位を授けていただかなくてはお城に差し出すことは出来ませぬ。」 クラウディスは愕然とした。先ほどまで穏やかに笑っていたファルド侯爵夫人の目が真剣にクラウディスを見つめているのを見て、クラウディスは恐怖にも似たものを感じた。 ファルド侯爵夫人は私の弱みに付け込んでミーシャを利用しようとしている。いや生まれてくる子を盾にしているのだ。 「その話は今ここですることでは・・・それに私の一存で決められることではありませぬ。」 困惑するクラウディスに夫人は近付いてきた。 「王妃さまともあろうお方が何を気弱なことを・・・王妃さまが一言仰せになれば王とて首を縦に振りましょう。」 「王は頑固な方です。私の言うことに耳を傾けるようなお人では・・・」 「王妃さま以外には愛人もお持ちにならない王が王妃さまに耳を傾けないなどとありえませんわ。そうでしょう?伯爵・・・」 クラウディスは驚いて伯爵の方を見た。伯爵は王妃に穏やかな笑みを返した。 「我が君のお心を動かすことが出来るのは最愛の王妃さまのみでございますれば・・・」 「伯爵・・・?」 クラウディスの背中に氷のように冷たい戦慄が走った。 担がれた・・・ クラウディスは二人の策略に嵌められていたことにようやく気付いた。 ああ・・・伯爵が私に近付いたのは私の気を引いて利用したかっただけなのだ。私を丸め込んで私を言いなりにして・・・それなのに私はこの男の色香に惑わされて・・・ クラウディスは自分の愚かさを恥じた。甘い言葉に騙されていた自分をどうしようもなく嫌悪した。 「王妃さま・・・私たちは王妃さまを困らせるつもりはありませんのよ。王妃さまをお助けしたいだけなのです。」 黙りこんでしまったクラウディスに夫人はやさしく声をかけた。 「ミーシャも困っております。どうかミーシャの為にも・・・」 クラウディスはミーシャの方に振り返った。ミーシャは今にも泣きそうな顔でクラウディスを見つめていた。 「王妃さまをこれ以上困らせないで・・・私・・・お城に戻れなくてもいいのです。この子と一緒に生きていけるのであれば何処だっていいのです。王妃さまの迷惑になるようなことはもうしたくない・・・」 「ミーシャ・・・なんてことを・・・正気なの?あなたは自分の立場をわかってないわ。」 夫人はミーシャがまだ遠慮しているのを見て、思わず大きな声を出してしまった。クラウディスはミーシャが夫人の策略に加担していないことがわかって、胸を撫で下ろした。だが、それが返ってミーシャの純真な心を知ることになり、クラウディスは益々ミーシャを手放したくない気持ちになってしまっていた。 「ミーシャ・・・私はあなたのこと迷惑だなんて思っていない。あなたと一緒にいたいと思ったのは嘘ではないわ。だから・・・待っていて・・・あなたのことは私が責任持ちます。あなたは何も心配しないで元気な子供を産むことだけを考えてちょうだい。」 「王妃さま・・・」 ミーシャはまた涙を零していた。クラウディスもつられて涙ぐんでいた。 「あらあら・・・泣いてばかりいてはお腹の子がびっくりするわよ。」 クラウディスはミーシャの背中をやさしく抱き寄せた。 二人を見ていた夫人と伯爵はお互い顔を見合わせてにやりと笑みを浮かべた。夫人の目論見通り事が運んで、クラウディスはもはや後戻り出来ないところまで追い詰められていた。クラウディスもそうとわかっていながら自ら飛び込んでしまったことに、ただこれも運命なのだと自分に言い聞かせることしか出来なかった。 |
|
◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。 しばらくするとファルド侯爵夫人が王妃の下にやってきた。 「王妃さま・・・お待ちしておりましたわ。ああ・・・本当にお越しくださるなんて夢のよう・・・」 夫人は待ちきれないとばかりにクラウディスに駆け寄って、クラウディスの手を両手で握り締めた。 「お招きいただいてありがとう。私も楽しみにしておりましわ。ファルド侯爵夫人・・・」 「まあ・・・王妃さま・・・デラフィーヌとお呼びになって。ここでは堅苦しいことは抜きですわ。」 夫人に美しい菫色の瞳で見つめられて、クラウディスは照れた笑いを浮かべた。 「お疲れになられたでしょう?さあお掛けになって。今お茶を用意させますわ。」 「あっ・・・デラフィーヌ・・・ミーシャは何処に・・・?」 デラフィーヌはくすっと笑った。 「王妃さま・・・今参りますわ。お待ちになって・・・」 クラウディスは自分が焦っているのがわかって羞恥した。横を見ると伯爵は相変わらず涼しそうな顔をしていて憎らしくさえ思えた。 間もなく小間使いたちがお茶とお菓子を用意して現れた。途端に部屋の中がいい匂いに包まれて、クラウディスは目を輝かせた。テーブルにあっという間に美味しそうな甘い香りの菓子が並べられて、香りのよいお茶が注がれた。クラウディスは疲れも吹き飛んでしまうほど幸せな気分になった。 「まあ素敵・・・なんて美味しそうなのかしら。こんなの見たこともないわ。」 「今日は王妃さまがいらっしゃるので特別に菓子職人が腕を振るいました。ここには専属の菓子専用の職人がおりますのよ。ああ・・・でもお城にはもっと大勢の腕のいい料理人を召抱えておいででしょうから、王妃さまにとっては大したことではありませんわね。」 「そんなことはないわ。こんなに私の為に作っていただいて感激だわ。」 嬉しそうに微笑むクラウディスに夫人も笑みを零した。 「王妃さま・・・感激なさるのはまだ早くてよ。」 「・・・?」 「お入りなさい。」 夫人が合図を送ると小間使いが部屋の扉を開けた。そこから薄紅色の服に身を包んだ綺麗な娘が現れて、クラウディスは目を見張った。娘は恥ずかしそうにお腹を押さえながら近付いてきた。それは確かに見覚えのある顔だった。薄茶色の髪を優雅に背中に下ろした少女は円らな薄茶色の瞳を輝かせていた。 「ミーシャ・・・?!」 クラウディスは驚いた。信じられないほどミーシャは美しく変貌していた。だが頬を赤らめて躊躇いがちにクラウディスを見つめる少女は間違いなくクラウディスの知っているミーシャだった。 「いかがですか?王妃さま・・・ミーシャは綺麗になったでしょう?日毎に美しくなるミーシャを見て私も驚きましたわ。」 夫人は誇らしげにミーシャの肩を抱いた。 「本当にミーシャなの?もっと傍に来て・・・顔を見せて・・・」 ミーシャは夫人に背中を押されて、恐る恐るクラウディスに近付いた。 「王妃さま・・・」 ミーシャの声は緊張と感動で震えていた。クラウディスは腕を伸ばしてミーシャの顔に指で触れた。 「ミーシャ・・・元気そうでよかった。あなたの顔を見るまで私は心配で・・・なんてあなたに詫びを入れたらいいのか・・・」 「王妃さま・・・謝罪すべきは私の方です。勝手に王妃さまの下を離れてお城を抜け出して・・・王妃さまに迷惑ばかりかけて・・・ごめんなさい。王妃さま・・・どうかこの私を叱ってやってください。」 「本当に心配ばかりかけて・・・」 涙ぐんだミーシャをクラウディスは思わず抱き締めていた。ミーシャは一瞬驚いたが、クラウディスの温もりに触れて緊張の糸が緩んでしまった。ミーシャの目からは涙が溢れ出して止まらなかった。 「いいのよ。ミーシャ・・・あなたは充分に苦しんだ。もう泣かなくていいの。私はあなたが無事でいてくれたことが何より嬉しいのだから・・・」 「王妃さま・・・」 「私の方こそ許してちょうだい。責めを負うのは私の方です。息子たちが犯した過ちを・・・どうか償わせてほしい。」 ミーシャは言葉にならず首を横に振った。クラウディスに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。自分がクラウディスに秘密にしていたことが恥ずかしくてならなかった。 クラウディスはミーシャの顔をそっと持ち上げると、涙で濡れた頬を拭ってあげた。 「せっかくの綺麗な顔が台無しだわ。あなたがこんなに綺麗だっただなんて・・・」 ミーシャは恥ずかしくて手で顔を隠そうとした。そんなミーシャがいじらしくて微笑ましかった。 「ミーシャ・・・お腹は大丈夫・・・?」 クラウディスに訊ねられて、ミーシャはお腹を大事そうに摩った。 「もうこんなに大きくなって・・・時々お腹の子が動くのです。」 「まあ・・・」 ミーシャは以前より少し大人びて母親らしい優しい顔になっていた。 「あなたのお腹を触ってみてもいいかしら・・・?」 ミーシャは恥ずかしそうに頷いた。クラウディスの手がやさしくミーシャのお腹に触れて、ミーシャはとても嬉しかった。 ああ・・・王妃さまは怒ってなどいなかった。こんなに慈悲深く私に接してくれる。王妃さまの温もりを感じて私はなんて幸せなのだろう・・・ ミーシャはまるで夢でもみているかのような気分だった。 「あらあら・・・そんな所で立ち話では・・・どうぞ王妃さまもお掛けになって。お茶が冷めてしまいますわ。ミーシャもそこにお座りなさい。」 二人の様子を見守っていた夫人が痺れを切らして声をかけた。ミーシャは夫人の好意に甘えて椅子に腰掛けた。ミーシャにとって王妃であるクラウディスと一緒にテーブルを囲んでお茶をいただくなど考えられないことであった。だがクラウディスはそんなことを気にも留めずに楽しそうにミーシャに微笑んでいた。 |




