† THEATER OF MOON †

つきこの創作小説劇場◆愛と幻想・・・妖しくも美しい禁断の物語へようこそ!更新遅れてすみません。

第九章 降臨

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「マテアス・・・見てごらん。とてもいやらしいよ。こんなに前も後ろも濡らして・・・」
 シェラ・ドーネはマテアスの銀色の髪を掴んで顔を上げさせた。鏡に映った自分の姿が視界に入って、マテアスはその淫らな己の姿に声も出なかった。それは目を覆いたくなるような恥ずかしい姿だった。
 上気した顔に潤んだ瞳、そして熱い吐息を漏らす紅い唇はまるで自分とは思えなかった。何よりも兄であるシェラ・ドーネに獣のように背後から穿たれて、屹立した先を滴らせている自分が信じられなかった。
「綺麗だよ。マテアス・・・快楽を知ればおまえはもっと綺麗になる。愛されるほどにもっと・・・」
 それはまるで何かの呪文のようだった。シェラ・ドーネの甘い囁きがマテアスの心を熱く融かすかのように響いていた。
「さあ・・・もっと楽しもう。我を忘れるほど・・・快楽の淵に溺れよう。」
 シェラ・ドーネはマテアスの背中に口づけを落とした。それはあまりにもやさしい口づけだった。マテアスは抗うことも忘れてシェラ・ドーネに躯を委ねた。シェラ・ドーネはそんなマテアスを抱き締めると、腰を突き上げて動かし始めた。

「あっ・・・あっ・・・兄上・・・」

 マテアスの中で蠢く熱く滾ったシェラ・ドーネの牡が徐々に激しさを増していくのを感じた。それはもう痛みではなかった。心地よい陶酔感がマテアスを熱くさせていた。
「あっ・・・もう可笑しくなる・・・熱くてもう・・・」
今まで味わったことのない快楽が躯の中を突き抜けていた。このまま融け合ってシェラ・ドーネと一つになってしまうのではないかと思うほど気持ちがよかった。
「マテアス・・・熱い・・・おまえの中で融けてしまいそうだ。」
 シェラ・ドーネも同じように感じているのがわかってマテアスも思わず声を漏らした。

「ああっ・・・兄上・・・もっと・・・突いて・・・」

「・・・?」

 シェラ・ドーネはマテアスの言葉に耳を疑った。マテアスは潤んだ瞳で鏡の中のシェラ・ドーネを見つめながら懇願していた。
「あっ・・・兄上のがほしい・・・中に熱いの・・・いっぱいちょうだい・・・」
「マテアス・・・可愛いことを・・・」
 シェラ・ドーネは目を細めた。マテアスが自分を欲しがっているのがわかって、愛しさが裡からこみ上げてきた。シェラ・ドーネはマテアスの昂ぶった花茎を握り締めた。

「くっ・・・」

「あああっ・・・」

 その瞬間ほぼ同時に二人は達していた。鏡にはマテアスの放った白い飛沫が花のように飛び散っていた。勢いよく放たれたマテアスの飛沫はやがて鏡の上を滑るように流れ落ちた。
 マテアスは放心したままシェラ・ドーネに躯を抱きかかえられていた。
「マテアス・・・上出来だったよ。」
 シェラ・ドーネは繋がっていた躯を離すと、マテアスの頬ににそっと口づけを落とした。
 マテアスはまだ夢でも見ているかのように呆然としていた。
「大丈夫か?マテアス・・・一人で立てるか?」
 マテアスが足元をよろめかせて倒れそうになったのをシェラ・ドーネが支えていた。そのとき躯を捩ったマテアスの足の間から白濁したものが零れ落ちた。足を伝うその感触にマテアスは思わず自分の下肢を見下ろした。それがシェラ・ドーネの放ったものだとようやく気がついてマテアスは目を見開いた。
「あっ・・・あっ・・・」
 突然目が覚めたかのように我に返ったマテアスは、訳も分からず涙を零した。そんなマテアスをシェラ・ドーネはやさしく抱き寄せた。
「泣かなくていい。もう恥ずかしがらなくていいから・・・マテアスは気持ちよかったのだろう?」
 シェラ・ドーネにやさしく微笑まれて、マテアスは頬を紅く染めながら思わず頷いた。
「ふふっ・・・素直でいいよ。マテアス・・・」
 マテアスはなんだか不思議だった。こんなふうにシェラ・ドーネに抱き締められているのが嫌ではなかった。今まではシェラ・ドーネに触れられるのも怖くてあまりいい心地がしなかった。だが今こうしてシェラ・ドーネの腕に抱かれているのがとても温かくて気持ちよかった。ずっとこうしていたいと思えるほどそれは穏やかな気持ちに包まれていた。
「兄上・・・」
「ん・・・?」
 恥ずかしそうに俯いたマテアスを見て、シェラ・ドーネは首を傾げた。シェラ・ドーネの長い銀色の髪がさらさらと肩を滑り落ちてきらきらと煌いていた。思わず見蕩れて顔を上げたマテアスにシェラ・ドーネは笑みを零した。
「ありがとう・・・兄上・・・僕、兄上のことも好きだよ。」
 はにかみながら言葉を紡いだマテアスが可愛くて、シェラ・ドーネは意地悪く顔を覗き込んだ。
「私もおまえのことが大好きだよ。マテアス・・・」
 シェラ・ドーネの唇が一瞬マテアスの唇に重なったかと思うと、チュッと音を立てて離れていた。マテアスは目を丸くさせたままだった。
「寂しくなったらいつでも相手してあげるから一人で篭るんじゃないよ。」
 マテアスはちょっと嬉しかった。またシェラ・ドーネが構ってくれるのかと思うと少し照れくさかった。
「ああ・・・でもマテアスにはそろそろ女を教えた方がいいのかな?」
「え?」
 マテアスは何のことかわからず聞き返した。
「女はまだなのだろう?女はアデリースだけじゃない。いつまでもアデリースの幻影を見ていてもつまらないだろう?」
 マテアスの顔は真っ赤に染まった。突然女の話をされても免疫のないマテアスには戸惑うばかりだった。
「そんなの・・・いいよ。女なんて・・・どうでも・・・」
 マテアスは困ったように拗ねてしまった。
「ふうん・・・やっぱりまだ子供だな。その様子では子供の作り方も知らないだろう?」
「それくらい僕だって・・・」
「ほう・・・知っているのか?」
「・・・」
 シェラ・ドーネにからかわれているのがわかって、マテアスは顔を赤くしたまま押し黙ってしまった。
「ふふっ・・・可愛い・・・耳まで真っ赤だよ。」
 泣きそうな顔をしたマテアスを見て、シェラ・ドーネはマテアスの頭をくしゅっと撫でた。
「安心しなさい。マテアスが元服したらちゃんと私が教えてあげるから・・・女を知ることも大事な務めだよ。」
「務め・・・?」
「そのうちマテアスにもわかるさ。」
 マテアスは何だか置いてけぼりにされたみたいで納得がいかなかった。まだ自分が子供扱いされているのかと思うと何だか悔しかった。
「僕だって元服すれば兄上に負けないくらい女たちにもてて、結婚だってして、子供だってたくさん作るよ。」
 マテアスはつい勢いでそんなことを言い放っていた。そんなマテアスを見てシェラ・ドーネは面白そうにくすっと笑った。
「それは頼もしいな。マテアス・・・楽しみにしているよ。きっとラザのアデリースも喜んでくれるよ。」
「・・・」
 マテアスはふとアデリースのことを思い出して複雑な気分になった。
 本当に姉上は喜んでくれるのだろうか?そんな僕を見て嫌いにならないだろうか?
「それより・・・マテアス・・・」
「・・・?」
「いつまでそんな格好をしているつもりだい?」
 シェラ・ドーネに指摘されて、マテアスは自分が裸のままだったことに気が付いた。よく見るとシェラ・ドーネは服を着たままでほとんど乱れておらず、自分だけが恥ずかしい格好をしていたことに羞恥した。
「躯も濡れたままで風邪をひいてしまうよ。どうせならこのまま一緒に湯浴みでもしようか?マテアスの躯も洗ってあげるから・・・」
 驚いたマテアスは逃げるようにシェラ・ドーネから躯を離した。
「いいよ。一人で洗うから・・・兄上は入ってこないで。」
 マテアスは傍に落ちていた自分の服を掴むとそれで躯を隠しながら部屋の奥に消えていった。その後姿をシェラ・ドーネは愉快そうに眺めていた。
「やれやれ・・・世話の焼ける・・・」
 シェラ・ドーネは久しぶりにマテアスと一緒に過ごせたことが楽しくてならなかった。昔からマテアスはからかいがいがあって遊ぶには退屈しなかった。シェラ・ドーネの塞いでいた気分もマテアスのおかげで何だか晴れ晴れとしていた。
「少々やりすぎたかな・・・」
 マテアスがあまりに可愛くてつい構いたくなるシェラ・ドーネであったが、いつかマテアスも自分から離れていってしまうのかと思うと少し寂しいような気がした。
 その頃ラジールでアデリースの身に何が起こっているかも知らずに、シェラ・ドーネはそんな物思いに暫し耽っていた。
 




『外伝 銀の森  第九章 降臨』 完

◆長らくご愛読いただきましてありがとうございます。
続きは『外伝 銀の森  第十章 覚醒』でお楽しみくださいませ。




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 シェラ・ドーネに背中を抱き締められて、マテアスは身動きできなかった。両性体の頃と違ってシェラ・ドーネの躯はすっかり男性として逞しく成長していた。マテアスも以前より背が伸びたとはいえ躯はまだ細く、腕力では兄のシェラ・ドーネに到底敵わなかった。
「もっと素直におなり。もうアデリースはおまえを助けたりしてくれない。おまえのことを護ってもくれない。」
「・・・?」
「私はおまえのことがずっと心配だったよ。いつもアデリースの陰に隠れて、アデリースにばかり懐いているおまえのことが・・・だがもうアデリースはここにはいない。」
 マテアスは突然アデリースのことを言われて動揺した。困惑した顔のマテアスにシェラ・ドーネは微笑んだ。
「もうアデリースに恋をするのはおやめ。ラザの男のものになった姉のことをいつまでも想い続けるなんて悲しいと思わないか?」
「兄上に何がわかると言うの?僕の気持ち・・・一体何が・・・」
 シェラ・ドーネの唇がマテアスの唇を塞いでいた。咄嗟のことにマテアスは逃げることも出来ずにシェラ・ドーネに接吻されていた。舐めるような口づけをしたシェラ・ドーネにじっと見つめられて、マテアスの顔は真っ赤に染まった。
「まだわからないのか?マテアス・・・」
「・・・」
「だったら躯でわからせるしかないな。」
 シェラ・ドーネの銀色の瞳が妖しく光った。マテアスが慄いた目で怯えていると、シェラ・ドーネに腕を掴まれて引っ張られた。
「こっちにおいで・・・」
 シェラ・ドーネに無理やり連れて行かれた先は大きな鏡の前だった。
「あっ・・・」
 マテアスはシェラ・ドーネに腰を抱かれたまま鏡の前に立たされていた。
「ほら・・・前を見て・・・こうして見ると私達はよく似ている。そうは思わないか?」
「似てなんて・・・僕は兄上みたいに綺麗じゃない。僕は兄上とは違う・・・」
 マテアスは鏡に映る自分の姿から目を逸らした。シェラ・ドーネはそんなマテアスの顎を掴んでもう一度鏡に顔を向けさせた。
「拗ねているのか?マテアス・・・自分を卑下してはいけない。見てごらん・・・この銀色の髪も瞳も父上から授かったものだ。私もおまえも銀の森の王族であることに変わりはない。
「でも僕は兄上みたいに両性体として生まれてこなかった。」
「そんなことを気にしていたのか?」
 シェラ・ドーネはマテアスを背中から抱き締めて、やさしく頬擦りをした。
「おまえは両性体なんかに生まれてこなくてよかったよ。そんなものに生まれても何もいいことなんてありはしない。」
「兄上・・・?」
 一瞬シェラ・ドーネの顔が悲しげに泣いているように見えた。それは見たこともないような翳りを帯びた表情だった。
 だがそれはほんの束の間で、シェラ・ドーネは妖しい笑みを浮かべたかと思うとマテアスの耳元に口づけを落としていた。
「あっ・・・」
「もっと自分に自信を持って・・・」
 シェラ・ドーネの甘い声がマテアスの耳元を擽るように囁いた。シェラ・ドーネはマテアスに口づけをしながら躯から服を剥がしとっていた。いつのまにかマテアスは着ていたものを全て剥がされて生まれたままの姿にされていた。マテアスはシェラ・ドーネに見られるのが恥ずかしくて、思わず身を捩って躯を隠そうとした。だがシェラ・ドーネはそんなマテアスの腕をとって背中から抱き寄せた。
「綺麗だよ。マテアス・・・肌も艶々して・・・ほら、ここもこんなに濡れて光っている・・・」
 鏡の前でシェラ・ドーネはマテアスの花茎を握ってみせた。先走った蜜が零れて艶かしく濡れているのがなんとも淫らだった。マテアスは自分の恥ずかしい姿を見せられて驚愕に目を見開いた。
「マテアス・・・もっとおまえの乱れる姿が見たい・・・」
「・・・?!」
 マテアスの背中にシェラ・ドーネの躯が密着していた。マテアスの下半身にシェラ・ドーネの腰が押し付けられて、マテアスの躯はびくっと跳ねた。
「足を開いて・・・これを入れてあげるから・・・」
「あっ・・・いやっ・・・」
 シェラ・ドーネの熱くて硬いものがマテアスの肌に触れていた。マテアスは鏡の前で躯を押さえ付けられて逃げ場を失った。
「おまえの中にこれを入れるのは初めてだったな。マテアスは入れられるのは初めて?」
 マテアスにそんな経験などあるはずもなかった。シェラ・ドーネにお仕置きだの悪戯だのと戯れに指を挿入されたことは何度かあったが、男の楔を打ち込まれたことなど一度もなかった。
「さあ力を抜いて・・・さっき十分解したから大丈夫・・・」
「やっ・・・だめっ・・・」
 マテアスの蕾を抉じ開けるかのように硬いものがゆっくりと押し込まれていた。それは指とは比較にならないほどの熱くて力強い圧迫感だった。そのジリジリと押し寄せてくる痛みに、マテアスは思わず侵入を拒んだ。シェラ・ドーネの熱くなった先端は奥まで辿り着かないうちに途中で強く締め付けられていた。
「マテアス・・・怖がらないで・・・力を抜いて・・・このままでは私の方が辛い・・・」
 シェラ・ドーネに耳朶を甘噛みされて、マテアスの強張った躯は一瞬緊張を解いた。

「あああっ・・・」

 マテアスの中に熱い衝撃が走った。シェラ・ドーネの牡が一気に奥まで侵入したかと思うと、瞬く間にマテアスの中をいっぱいに満たしていた。その重く熱い塊を感じて、マテアスの腰は諤々と震えだした。

「ふふっ・・・わかるか?マテアス・・・私達は今一つに繋がっている。」

「うっ・・・やっ・・・あっ・・・」

「苦しい?マテアス・・・もっと喘いで・・・もっと悶えて・・・その顔を私に見せて・・・」

 繋がったままシェラ・ドーネの手がマテアスの肌を弄って愛撫した。シェラ・ドーネのしなやかな指先がマテアスの胸の突起を弄りだして、マテアスは思わず甘い声を漏らした。それは自分でも驚くほど恥ずかしい声だった。
 シェラ・ドーネの執拗なまでの愛撫で、マテアスの胸の先は薔薇色に染まってつんと硬く尖らせていた。マテアスは自分の躯がどんどん可笑しくなっていくのを止められなかった。
「可愛い・・・そんなに感じて・・・気持ちいいかい?」
 マテアスの躯は熱く火照って汗ばんでいた。躯中が熱くて融けてしまいそうだった。堪らずマテアスは鏡に手をついて上体を支えていた。一人ではとても立っていられなかった。シェラ・ドーネとの繋がりだけが縁だった。
「どう?もう慣れてきた?随分具合がよくなってきたけど・・・」

「いやっ・・・あっ・・・やめ・・・」

 狭くて窮屈だったマテアスの中が徐々に和らいで余裕が出来てきたのを感じて、シェラ・ドーネはマテアスの腰を引き寄せた。
「もっと気持ちよくさせてあげるから・・・」
 シェラ・ドーネに腰を突き動かされて、マテアスの躯は激しく揺さぶられていた。突き上げられる度にマテアスの中で痺れるような熱い疼きと衝動が湧き起こった。

「あっ・・・あっ、あっ・・・あんっ・・・」

 堪えきれずにマテアスは腰を揺らしながら喘いでいた。マテアスの背中で乱れる銀色の髪が妙に艶かしく、シェラ・ドーネは欲情を煽られずにはいられなかった。









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「あっ・・・」
 シェラ・ドーネの唇がマテアスの耳朶に触れて、マテアスはぞくっと躯を震わせた。シェラ・ドーネの息遣いを肌に感じて、マテアスの体温は一気に上昇した。
 シェラ・ドーネにこんなふうに抱き締められるのは久しぶりだった。首筋に口付けられて、マテアスの躯は勝手に反応していた。
「ふふっ・・・可愛い・・・マテアス、顔が赤いよ。」
「・・・」
 シェラ・ドーネに耳朶や首筋を何度も口付けられて、それだけでマテアスの躯は熱く火照りだした。
「そんなに感じて・・・いけない子だね。」
「いやっ・・・やめ・・・」
 いつのまにかシェラ・ドーネの足がマテアスの膝を割って、股間に足を摺り寄せていた。シェラ・ドーネの大腿が動く度に、マテアスの躯はびくっと跳ねた。それを見たシェラ・ドーネはくすっと笑みを浮かべた。
「マテアス・・・確か元服はまだだったな。背は随分大きくなったが、ここも少しは成長したのかな?」
 シェラ・ドーネの細い指先がマテアスの下腹部を撫で上げていた。その感触に嫌でもマテアスの躯は震えた。
「どうした?さっきまでの威勢は何処へやった?」
 マテアスは熱く震えだす躯を支えるのが精一杯で、返事をする余裕などなかった。
「ふっ・・・それとも大人しくお仕置きを受ける気になった?」
 マテアスは顔を真っ赤にさせて首を横に振った。そんな気になどなるはずもなかった。早くこの恐ろしい魔の手から逃れなければ自分は何をされるかわからない。そう考えただけでもマテアスの躯は竦んで動けなかった。
 だがそんなマテアスの背中をシェラ・ドーネは逃げられないように抱き締めていた。シェラ・ドーネはマテアスの細い顎を掴んで唇を奪っていた。
「うっ・・・」
 重なり合った唇は深く交わり、途端に息が出来なくなったマテアスは舌を喘がせた。シェラ・ドーネはそんなマテアスを弄ぶかのように舌を絡ませ、溢れ出す甘い蜜を舐めるように吸い上げていた。

「んんっ・・・んっ・・・」

 シェラ・ドーネの柔らかな唇の感触や熱い舌の温もりがマテアスの思考を奪い眩暈を誘った。シェラ・ドーネに口づけされるのは初めてではなかったが、以前にも増して濃厚な接吻にマテアスの躯はたちまち囚われてしまっていた。マテアスの唇を離そうとしないシェラ・ドーネにマテアスは熱い吐息を漏らしながら顔を上気させることしか出来なかった。
「ふふっ・・・口づけだけでこんなにさせて・・・」
 いつのまにかシェラ・ドーネの手がマテアスの足の間を弄っていた。シェラ・ドーネの手はマテアスの下半身を寛げて、熱くなったものに直接触れていた。
「いやっ・・・触らないで・・・」
 マテアスは涙目で訴えたが、シェラ・ドーネがそれを許すはずもなかった。シェラ・ドーネは笑みを浮かべると、更にマテアスの花茎を掌で握りこんだ。
「こんなに大きくさせて・・・まだまだ子供だとばかり思っていたのに、すっかりここは立派になって・・・」
「うっ・・・」
 シェラ・ドーネに触れられているだけで、マテアスの下半身は熱を擡げた。マテアスはそれを止めることが出来なかった。
「マテアス・・・もっとよく見せてごらん。」
 シェラ・ドーネはマテアスの服の中から硬くなった花茎を引き出した。マテアスは恥ずかしさに思わず顔を背けた。そんなマテアスを見て、シェラ・ドーネは目を細めた。
「綺麗だよ。マテアス・・・色も容も思った以上に・・・」
 シェラ・ドーネは腰を落とすと、マテアスの股間に顔を埋めて花茎の先に口づけをした。シェラ・ドーネの唇が触れて、マテアスの躯はびくっと跳ねた。その瞬間揺れたマテアスの花茎がシェラ・ドーネの頬に当たった。
「あっ・・・」
 マテアスの顔が驚愕の表情を浮かべた。シェラ・ドーネの綺麗な顔を汚したと思ったマテアスは恐怖に怯えた。シェラ・ドーネは冷ややかな笑みを浮かべながらマテアスを見上げていた。
「随分元気がいいようだね。そんなに我慢出来ないのかい?」
 マテアスは声も出なかった。どんなお仕置きをされるのかと思うと、躯が竦んで動けなかった。
「いいよ。マテアス・・・気持ちよくしてあげるから・・・いい声聞かせて・・・」
「・・・?」
 シェラ・ドーネの舌がマテアスの花茎を這うように舐めていた。その生温かな滑った感触にマテアスは思わず甘い声を漏らしていた。

「あっ・・・やっ・・・」

 マテアスは恥ずかしさに両手で口を押さえた。そんなマテアスをシェラ・ドーネは上目遣いで見つめた。
「マテアス・・・我慢しなくていいから声をお出し。可愛い声をもっと聞かせて・・・」
 煽るようにシェラ・ドーネはマテアスの熱くなった塊を口に咥えてみせた。それはあまりにも淫らな光景だった。シェラ・ドーネの舌の音が淫らに鳴り響いて、マテアスの羞恥を激しくさせた。シェラ・ドーネに舐められているだけで、躯の中心が熱く疼いて堪らなかった。

「ああっ・・・だめっ・・・あっ・・・はっ・・・」

 息が乱れる・・・躯中が熱く火照る・・・
 今にも心臓が破裂しそうなほどマテアスの胸の鼓動は大きく音を響かせていた。マテアスの腰は諤々と震えて、とても一人では立っていられなかった。
 そんなことなどお構いなしにシェラ・ドーネはマテアスの花茎を何度も口で扱いては吸い上げて愛撫を繰り返した。

「あっ・・・いや・・・もう・・・」

 限界を迎える寸前でシェラ・ドーネの唇がマテアスから離れた。マテアスの腰は震えたまま蜜を滴らせていた。
「そう簡単にいかせたりしないよ。もっと楽しませてくれないと・・・」
 不敵な笑みを浮かべたシェラ・ドーネはマテアスの下肢を纏っていた服を剥ぎ取った。瞬く間にマテアスの下半身は露な姿になった。
「あっ・・・何を・・・」
「相変わらず可愛いお尻だね。食べてしまいたくなる。」
 シェラ・ドーネの両手がマテアスの綺麗な双丘を掴んでやさしく愛撫した。

「やっ・・・あっ・・・」

 シェラ・ドーネの指先がいつのまにかマテアスの双丘の中に滑り込んで隠れた蕾を弄りだした。濡れた指先がマテアスの蕾を抉じ開けて中に侵入していた。マテアスは逃げようと腰を引いたが、シェラ・ドーネに腰を抱かれて自由を奪われていた。
「狭いな・・・そんなに強張らせて・・・」
「やだ・・・入れないで・・・」
「何を怖がっている?マテアスはこれが好きなのだろう?いつも私の指を咥えて善がっていたくせに・・・」
「ちがっ・・・僕はそんなこと・・・」
「おや、もう忘れたのか?いけない子だね。もっとお利口さんだと思っていたが・・・私の思い過ごしだったのかな?」
 マテアスは涙を零しながら首を横に振った。それは思い出したくもない恥ずかしい過去だった。シェラ・ドーネがまだ両性体だった頃、マテアスは欲求の捌け口としてよくシェラ・ドーネに弄ばれていたのだ。
 マテアスはシェラ・ドーネとシェリークの二人の兄にからかわれたり苛められたりして可愛がられていた。だがさすがにシェラ・ドーネに躯を玩具にされて遊ばれていることは誰にも言えなかった。いつもならどんな小さなことでも姉のアデリースに話していたマテアスであったが、そのことだけは恥ずかしくてアデリースに相談することも出来なかった。

「あっ・・・あっ・・・」
「ほら・・・気持ちいいだろう?素直に言ってごらん。」
 シェラ・ドーネの指がマテアスの中を掻き乱していた。蠢く指がマテアスを悦楽に導こうとしていた。
「いや・・・お願いだから・・・もう・・・」
「そんな可愛い顔をして・・・私にはもっとしてほしいって言っているように聞こえるよ。」
「・・・?」
「もう二本も私の指を咥えて、物欲しそうにひくつかせているのに・・・」
「ああっ・・・」
 シェラ・ドーネの指がマテアスの弱い部分に触れていた。途端に痺れるような甘い疼きが全身を駆け巡った。足の先まで震えだしたマテアスは思わずシェラ・ドーネにしがみついた。
「ふふっ・・・そんなに気持ちいい?もう立っていられない?」
 そう言うとシェラ・ドーネはマテアスの躯を抱き締めた。マテアスのまだ華奢な背中をシェラ・ドーネは愛しそうに撫でていた。








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 銀の森の王城にもラザ王妃アデリースが懐妊したという知らせが届いていた。
「アデリースが・・・懐妊・・・?」
 知らせを聞いた王妃クラウディスは思わず目に涙を浮かべた。まさかこんなに早くアデリースが身籠るとは思ってもいないことであった。
「ふっ・・・思ったよりも随分早かったな。さすがはアデリース・・・どうやらラザ王とは上手くやっているようだな。」
 父である銀の森の王テリドレアーネも複雑な表情を浮かべていた。つい最近アデリースを城から見送ったばかりと思っていたテリドレアーネであった。テリドレアーネも驚かずにはいられなかった。
「そなた、何を泣いている?」
 涙を流している妻のクラウディスを見て、テリドレアーネは眉を顰めた。クラウディスは慌てて涙を拭った。
「これは嬉し泣きです。アデリースに子が出来たのですよ。こんな喜ばしいことはありませぬ。」
「喜ぶのはまだ早い。アデリースが無事に出産出来るとも限らぬ。」
「王・・・?」
 テリドレアーネの言葉にクラウディスもふと不安になった。
 アデリースは幼い頃からあまり身体が丈夫な方ではなかった。そのことをよく知る母親のクラウディスもそのことが一番気がかりであった。
「アデリースは昔から体が弱かった。何事もなければよいのですが・・・」
 心配そうな顔をしたクラスディスに、テリドレアーネはそっと近付いてきた。
「大丈夫だ。アデリースはそなたに似て意志の強い子だ。きっとよい子を産むであろう。」
 クラウディスはいつのまにかテリドレアーネに背中を抱き締められていた。テリドレアーネのやさしくて何処か力強い腕に抱かれて、クラウディスは少し安心を覚えた。こんなふうにテリドレアーネに触れられるのが久しぶりだったクラウディスは、胸が高鳴り頬を仄かに赤く染めた。
「はい・・・そうあってほしいと私も願います。」
「クラウディス・・・」
 テリドレアーネも心の中では遠くラジールに嫁いでしまった娘のことが心配でならなかった。遠く離れて暮らしていても、アデリースがいつまでも可愛い娘であることに変わりはなかった。


 エメリア伯爵からアデリースが懐妊したと聞いて、シェラ・ドーネは思わず苦笑いをした。
「我が妹ながら驚異的だな。ラザ王はつまらぬ男だと聞いていたが、どうやらアデリースの虜らしい。」
「それならばよろしいのですが・・・」
「なんだ・・・?エメリア伯・・・何か言いたそうな顔だな。」
 エメリア伯爵は複雑な表情を浮かべていた。
「シェラ・ドーネさまもそろそろご自身のことをお考えいただかなくてはなりませぬ。」
「・・・?」
「白の谷の王女とのご結婚が正式に決定いたしましたゆえ、王女を迎え入れる準備をしなくてはなりませぬ。」
「そのことならエメリア伯、そなたに全て任せたと言ったはずだ。」
「あ・・・お待ちを・・・まだ話は終わってはおりませぬ。」
 シェラ・ドーネはまたエメリア伯爵から小言を聞かされるのかと思うと急に不機嫌になって部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ・・・また逃げられてしまったか。」
 部屋に取り残されたエメリア伯爵は深い溜息を吐いた。エメリア伯爵はシェラ・ドーネのことが心配でならなかった。シェラ・ドーネを白の谷の王女と無事に結婚させることがエメリア伯爵の大事な使命でもあった。だが結婚にあまり乗り気でないシェラ・ドーネのことを考えると気が重くてならなかった。


「とんだとばっちりだ。アデリースに子が出来たからといって、こっちはいい迷惑だ。顔を合わせればいつも説教ばかり・・・もううんざりだ。」
 最近エメリア伯爵が結婚の話ばかりするので、シェラ・ドーネは正直話を聞くのも嫌気が差していた。ミーシャの部屋に行こうかと思っていたが、それもなんだか急に行く気が削がれた。
 シェラ・ドーネはふと何かを思い出したかのように足を止めると、笑みを浮かべた。
「そうだ。気分解消にちょっとからかいに行くか・・・」
 シェラ・ドーネが向かった先は末の弟のマテアスの部屋だった。シェラ・ドーネがマテアスに会いに行くのは久しぶりだった。
「マテアス・・・」
 突然声をかけられて、マテアスは驚いて振り返った。いつのまにかシェラ・ドーネが部屋に入ってきたのを見て、マテアスは目を丸くした。
「兄上・・・?何・・・急に・・・」
「おまえの顔が見たくなったんだよ。元気にしているか?」
 シェラ・ドーネに微笑まれて、マテアスは思わず顔を赤く染めた。マテアスは父に似て美しいシェラ・ドーネが何処か苦手であった。いつもシェラ・ドーネにからかわれてばかりで、マテアスは兄弟でありながら何を考えているのかわからなかった。
 シェラ・ドーネはマテアスに近付くと肩に手を回して顔を摺り寄せた。
「マテアス・・・おまえが寂しがって泣いているんじゃないかと思って・・・」
「何言って・・・」
「おまえも聞いたんだろう?アデリースが身籠った話を・・・」
「・・・」
 アデリースのことを言われてマテアスの顔が突然曇った。それは触れられたくない話題であった。
「だから何?そんな話をしにわざわざここに来たの?」
「随分だな。せっかくやさしい兄が可愛い弟を慰めに来てやったというのに・・・」
「僕はそんなこと頼んでいない。」
 マテアスはシェラ・ドーネの腕を思い切り振り払った。いつもなら抵抗もしなかったマテアスの強い態度に、シェラ・ドーネは怪訝そうに顔を顰めた。
「おや・・・今日は冷たいんだね。よほどアデリースのことが衝撃だったのかな?」
「煩い。向こうに行ってて。」
 アデリースの懐妊は少なからず弟のマテアスにとって衝撃的であった。姉であるアデリースのことがずっと好きだったマテアスにとってそれは複雑な想いであった。シェラ・ドーネに指摘されたことも嘘ではなかった。
「私にそんな口を利くなんて、一体いつからそんないけない子になったんだい?」
 振り払ったはずのシェラ・ドーネの腕がいつのまにかマテアスの腕を掴んでいた。マテアスは驚いてシェラ・ドーネの顔を見上げた。それは恐ろしいまでに冷たくも美しい容貌だった。
「離して・・・痛い・・・」
「ふっ・・・私は今日は機嫌が悪いんだ。私を怒らせてただで済むとでも思っていたのか?」
 シェラ・ドーネに腕を捩じり上げられて、マテアスは身動きできなかった。マテアスの腕にきりりと痛みが走って、途端に恐怖のようなものに襲われた。
「いや・・・ごめんなさい。許して・・・」
「ふふっ・・・私を怒らせた罰だ。マテアス・・・お仕置きだよ。」
 マテアスの背中に冷たい戦慄が走った。シェラ・ドーネの銀色の瞳が刃のように妖しく煌いたのを見て、マテアスの顔は恐怖に怯えた。
「今日はたっぷり可愛がってあげるから・・・」
 シェラ・ドーネは笑みを浮かべながらマテアスの耳元でそっと囁いた。








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「アデリースは無事なのか?アデリースに一体何が・・・」
「落ち着かれませ。陛下・・・王妃さまは貧血でお倒れになられただけです。お腹のお子も順調に育っております。あまり声を荒げられては・・・」
 アデリースが目の前で倒れて、ラセスは気が動転していた。診察をした侍医はラセスの慌てた様子に眉を顰めた。
「陛下の方がお顔の色が優れぬようですが・・・陛下も少しお休みになられてはいかがですか?」
「こんなときに休んでなど・・・アデリースが・・・私のせいで・・・」
 ラセスの方が今にも倒れてしまいそうな様子であった。そんな王を見かねて侍医は言葉を紡いだ。
「王妃さまはご無事でございますからどうか悲嘆なさいませぬよう・・・陛下がご心配なさるのも無理はございませぬ。今が一番大事なときでございます。くれぐれもご注意を・・・」
 ラセスは自分を責めずにはいられなかった。

 どうして自分はアデリースを追い詰めるようなことを言ってしまったのか?アデリースの懐妊を何故心から喜んで受け入れることが出来なかったのか?素直に自分の子だと認めるべきではなかったのか?

 ラセスは後悔で胸が押し潰されそうだった。

 そう・・・たとえ生まれてくるのが私の本当の子でなくとも、私はアデリースをもっと信じるべきだったのだ。そうすればこんなに悩むことも苦しむこともなかったのだ。

 ラセスはこんなときに悩みを打ち明ける相手もいなかった。誰にも相談出来ずに一人で苦しむことしか出来なかった。


 ラザ王妃アデリースが懐妊したという噂は瞬く間にラジール全土に広がった。それはラザ王就任と結婚以来のおめでたい話題であった。ラジールの城下では早くもお祭騒ぎで沸きあがっていた。
「やれやれ・・・ラジールはすっかり王妃懐妊の話で賑やかなことだ。」
「まさかこんなに早くお子が出来るとは・・・あの王も大人しそうな顔をしてやるときはしっかりと・・・」
「おい、口を慎め。いくらなんでも首が飛ぶぞ。」
「ふふ・・・どうせ皆同じことを考えているんだろう?ぼんくらな王でも子作りにかけては才能があったらしい。」
「なるほど・・・あの王妃の色香にすっかり溺れていると聞いたが、どうやら本当らしいな。」
「はは・・・それも聞かれちゃまずいだろう。」
 王城内でも臣下たちのそうした噂は絶えなかった。
 日頃王として臣下たちからあまり期待などされていなかったラセスであった。王妃の懐妊が知れ渡ったことで、思わぬ注目を浴びてしまったことがラセスとしては不本意であった。
「陛下はまだお若いですからな。美しい王妃の虜となっても仕方あるまい。この調子で子作りに励んでいただいた方がお国の為にもよいと思うが・・・」
「ほっほっ・・・王家の子種は貴重な宝・・・国中が王子誕生を待ち望んでおる。あの王も少しは国の役に立ってくれねば我々も困るではないか。」
「元からあの王には政治的な期待など寄せてはおらぬ。所詮はお飾りのラザ王だ。」
「これは手痛い。陛下がお聞きになられたらさぞやお嘆きに・・・」
「はっはっはっ・・・」
 重臣たちからそんな陰口を叩かれていることも知らないでいるラセスであった。
 ラセスは気が重かった。アデリースと顔を合わせることすら出来ずにいた。
 どんな顔をしてアデリースに会えばいいのかもわからなかった。会って何を話せばいいのかもわからなかった。会えばきっと自分はまたアデリースのことを苦しめるのではないか・・・自分はもうアデリースに嫌われているのではないか・・・そう思わずにはいられなかった。
 

「王妃さま、今日も陛下から素敵なお花が・・・」
 侍女が嬉しそうに白い大輪の花束を腕に抱えて現れた。アデリースはそれを見て小さな溜息を吐いた。
「とてもよい香りがします。こちらの花瓶に生けますね。」
 何故か一日おきにラセスからアデリースに花が贈られていた。だがラセスは一向にアデリースに会いに来ることはなかった。
 アデリースの懐妊がわかってからラセスはアデリースと褥を共にすることもなくなった。アデリースの躯に障ってはいけないと、ただそれだけの理由で寝所を別にした。
 そんなラセスの気遣いがかえってアデリースの心を不安にさせていた。

 ラセスさま・・・もう二度と抱いてほしいとは言いませんから・・・せめてお傍にだけでも・・・お顔だけでも見せてください。でなければ私は・・・

 アデリースは毎晩一人で泣いていた。広い寝台の中で一人で過ごす夜が怖くてならなかった。

 お願いだから・・・そっとラセスさまの温かい手に触れるだけでもいいのです。だから私を一人にしないで・・・

 ラセスはそんなアデリースの気持ちにも気付かずにいた。


 王妃アデリース懐妊の知らせは当然の如く西の地にも届いていた。
「王妃が懐妊・・・?」
「はい。今ラジールではその話題で持ちきりだと・・・」
 従者のヘテカの報告に、西王エテ・ファーレは眩暈を覚えて躯をよろめかせた。
「西王さま・・・?」
「・・・」
 ヘテカが倒れそうになったエテ・ファーレの躯を咄嗟に支えていた。ヘテカは心配そうにエテ・ファーレの顔を覗き込んだ。エテ・ファーレの白皙の美貌が瞬くうちに蒼白く血の気が引いていくのがわかった。
「すまない・・・大丈夫だ・・・」
「お顔の色が真っ青ですよ。こちらで休まれては・・・」
 ヘテカに背中を押されながらエテ・ファーレは傍にあった長椅子に座らされていた。
「どうぞ横になってください。今お水をお持ちいたします。」
 エテ・ファーレは一瞬頭の中が真っ白になって何も考えられなかった。
 今ヘテカは何と言った・・・?王妃が・・・懐妊・・・?
 エテ・ファーレの頭の中をラセスとアデリースの幸せそうな姿が過ぎった。
「西王さま、どうぞ・・・」
 ヘテカに冷たい水を差し出されて、エテ・ファーレは一気に水を飲み干していた。エテ・ファーレは水で濡れた口元を手で拭うと大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか?西王さま・・・」
 いつもとは様子の違うエテ・ファーレを見て、ヘテカは一瞬動揺した。何か怖いような殺気のようなものをエテ・ファーレから感じていた。
「そなた・・・何と申したのだ?王妃がどうしたと・・・」
 エテ・ファーレの硝子を持つ手がぶるぶると震えていた。
「あっ・・・アデリース王妃さまがご懐妊なさったと・・・」
 その瞬間、エテ・ファーレが握っていた硝子の水飲みが音を立てて飛び散っていた。
「西王さま?!」
 エテ・ファーレの白い手からは紅い血が流れ落ちていた。
 慌ててヘテカは手拭きの布を服から取り出して、エテ・ファーレの手首に縛りつけた。
「そのまま動かないでください。」
 ヘテカはエテ・ファーレの手を開いて硝子の破片を丁寧に取り除いた。思ったほど硝子で受けた切り傷は少なかった。
「大丈夫です。深い傷ではないようです。とりあえず止血をして手当てをしておきましたが、念の為侍医を呼んで診ていただいたほうが・・・」
「・・・」
 エテ・ファーレの躯はまだ震えていた。華奢な肩が震えているのを見て、ヘテカはエテ・ファーレを見ているのが辛くなった。
「西王さま・・・我慢なさらずともよいのですよ。西王さまの痛みや苦しみをこのヘテカが代わりに受けることが出来るのなら・・・」
「・・・」
 エテ・ファーレは堪えきれなくなったのか金色の瞳から涙を零した。
「ラセスどのは・・・義兄上は・・・幸せに暮らしているのだな。アデリースどのと仲睦まじく・・・」
 エテ・ファーレは何故自分が泣いているのかもわからなかった。二人に子が出来たことは喜ばなくてはならないことだった。義弟として笑顔でお祝いすべきことであった。だがエテ・ファーレにはそんな言葉が出てこなかった。ただ涙が溢れ出して止まらなかった。
 いつかこんな日が訪れるであろうことは覚悟していたことであった。だがこんなにも突然やってきて、エテ・ファーレはまだ心の準備が出来ていなかった。心から素直に喜ぶことが出来なかった。
「ご無理をなさいませんよう・・・」
 そう言ってヘテカはエテ・ファーレの躯を静かに長椅子に横たわらせた。エテ・ファーレは涙で濡れた顔を隠すように横を向いた。
「ヘテカ・・・私は嫌な義弟だな・・・気の利いたお祝いの言葉一つさえも出てこない。」
「西王さま・・・」
「こんなときは義兄上に何と言ってお祝いをすべきなのかな?」
 ヘテカは上手く答えることが出来なかった。エテ・ファーレがまだ両性体のままで一向に変化が訪れないことを気に病んでいるのかと思うと何も言えなかった。
 不完全な両性体の躯では子供を儲けるどころか結婚することすら出来なかった。そのことでエテ・ファーレが卑屈な思いをしているのかと思うと哀れでならなかった。








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