† THEATER OF MOON †

つきこの創作小説劇場◆愛と幻想・・・妖しくも美しい禁断の物語へようこそ!更新遅れてすみません。

序章 王都

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序章 王都

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 王都ラジール。大陸のほぼ中央に位置する広大にして豊かな領土を治める国。
 古より星の守護神フロネ・シスの子孫と語り継がれてきたラザ王が代々統治するこの都は、今も色褪せることのない華やかな権勢を誇り、隣国との均衡を保ちながら栄え続けてきた強大な王国であった。
 過去に幾度と戦火を潜り抜けてきたラジールであったが、ラザ王クーディア一世が多くの属国を従え統一国家を築き上げてからは敵対する国も少なくなった。和平を結んだ国々はお互い交流を深め、長く穏やかな時代が続いていた。人々はいつしか平和に慣れ、戦いのない世の中に酔い痴れていた。

 時はクーディア二世の時代。

 “神の降りたもう国ラジール”古来よりそのように呼ばれてきた大国ラジールであったが、かつての勢いは次第に陰りを見せ始めていた。
 先代のクーディア一世セラフィスが他国を畏れさせるほどの絶対的権威で支配していたのに対し、跡を継いだ息子のクーディア二世ラセスは戦争を好まぬ平和主義者であった。その為かつての属国もラジールに迫らんと力を伸ばし始め、先代が築き上げてきた国家も徐々に衰退の影が押し寄せていた。

 だがそんな政治的不安を消し去るかのように、風の穏やかな季節“花の月”を迎え、ラジールの都は何処も美しい花々の香りで溢れかえっていた。城下には市が立ち並び、まるで祭のような賑わいであった。

 その都の中心にラザの王城はあった。

 龍の腹の中に迷い込んだような・・・誰がそう言ったのか王城はまるで巨大迷路のように複雑な構造を成している。森の奥深くに眠るように佇む王城は、幾度もの戦いで外界から護る為に造られた幾層もの城壁で遮られ、まさに王の都を象徴するに相応しい様相を見せている。城壁の中は巨大な鳥が翼を広げたように幾つもの王宮を長い回廊で繋ぎ、荘厳な景観を放っていた。

 その回廊を城の奥に向かって颯爽と通り過ぎて行く一人の男がいた。

「おい、あれ・・・」

「ああ、オル・ザハトだ。すごい威厳だよな。皆が憧れる存在だっていうのに、あの近寄りがたい空気といったら・・・」

「フロネ・ラ・リカエルの唯一の親友にして第一の側近。我々みたいな下級役人には遠い存在だよ。」

 王宮の中を行き交う若い役人たちの視線は一斉にその男に注がれていた。

 オル・ザハト・ナタルス。珍しい緑火石の瞳を持つ長身痩躯のこの男は、漆黒の長い髪を美しく束ねて背中に垂らし、遠くからでもその異国的な容貌で目を引いた。静かな物腰で決して派手な振る舞いなどしなかったが、リカエル王子の信頼厚い側近というだけで城中知らぬ者などいなかった。

「殿下のお気に入りって言うだけでここじゃ特権なのに、あの男は後宮にまで出入り自由って言うじゃないか。いくらエル・ラザの名門貴族だからって、王の重臣達からは不平の声も挙がっている。」

「皆噂している。殿下が王になればオル・ザハトは宰相になるって。」

「切れ者だろ?なにしろラザの王立学院では毎年首席だったっていうほどの秀才。学院の博士方を幼少の頃より唸らせていた天才の殿下が認めるくらいだ。」

「頭脳明晰、品行方正、おまけにあの容姿だ。殿下が放っておくわけがない。」

「全く、羨ましい話だ。ラジールに留学中だったオル・ザハトが殿下に気に入られて学友として城に出入り自由になったって話も、当時はすごい騒ぎだったじゃないか。」

「しっ・・・」

「なんだ?あの集団・・・」

 役人の一人が相手の言葉を遮った。その指の先には、腰に剣を携えた華やかな一団がどこからともなく現われ、回廊を行き交う役人達は皆一斉に道を開けていた。

「殿下の親衛隊だ。滅多なことを言うな。命が惜しければ口を慎め。」

「あれも殿下のお気に入りってわけか。それにしても随分と派手な連中だな。」

「貴族の子弟の中から腕の立つ若い士官ばかりを集めたって話だ。」

「なるほど、物好きな殿下のしそうなことだ。我々みたいな役人とは所詮住む世界が違う。」

 退屈な日常で暇を持て余している人々の間で噂話ほど楽しいものはない。
 中でも王子リカエルに関する噂話ほど人々の興味を引くものはなかった。それだけリカエルの言動は常に世間の関心を集めた。

 この世に生を受けたときから王子リカエルは特別な存在であった。神の力を持つ者としてフロネ・シスの再来、あるいはフロネ・シスの生まれ変わりだという者もいた。生まれながらにして特異な力を持ち、博士方をも驚嘆させる天才的な才能、加えてその稀有な美貌と相まって誰もが畏れ平伏した。神の子リカエル・・・人は皆王子リカエルのことを、敬意を込めて「フロネ・ラ・リカエル」と呼ぶ。
 花のように美しいと謳われ、女子よりも美しいと絶賛されるその姿を、誰もが一目見たいと城に集う人々は後を絶たない。

 父のクーディア一世は病気がちで、人前に出ることをあまり好まぬ真面目で地味な性格であったが、王城ではそんな王の気持ちなどお構いなしに舞踏会や園遊会、夜会などの様々な宴が日毎夜毎繰り広げられていた。
 もちろん紳士淑女たちのお目当ては王子リカエルであり、リカエルに会えることが王侯貴族たちの間で持て囃された。気紛れな王子は時々にしか人々の前には現れなかったが、その偶然に出会ったもの達は皆一様に狂喜乱舞し、辺り一面が騒然となるのであった。
 
 回廊を歩いていたオル・ザハトは、鳥が翼を広げたかのような王宮の先端に向かっていた。
 幾つもの回廊を渡り、辿り着いた先には白壁の美しい宮殿の入り口があった。オル・ザハトは物々しい重い扉を勢いよく開け、臆することもなく奥の部屋へと突き進んで行った。

「あっ、お待ちを!オル・ザハト。そちらは・・・」

「殿下は中にいらっしゃるのであろう?通るぞ。」

「・・・!」

 慌てふためく小姓たちを振り切り、オル・ザハトは奥の扉を開けた。

 一歩足を踏み入れた途端、部屋の中から馨しい香りが漂ってきた。焚き染められた金樹の香が何を意味するのか、オル・ザハトにわからぬはずはなかった。その強い香りに一瞬噎せ返りそうになりながら、広い部屋の奥にオル・ザハトは向かって行った。

「何だ?オル・ザハト、無粋だな。私の寝所に勝手に入って来るとは・・・」

 オル・ザハトが辿り着くより先に、天蓋の中から不機嫌そうな声が聞こえてきた。寝台の傍まで行かずに足を止めたオル・ザハトから大きな溜息が漏れた。

「殿下、今日も会議にお出でにならなかったと先程大臣らがお怒りでしたが。」

「いつものことではないか。そんな顔をするな。あんな連中の顔を見ているだけで気分が悪くなる。」

「だからといってあなたが色子と戯れている道理がわかりませぬ。私が留守にしている間にまさかと思ってはおりましたが・・・」

 白い天蓋の下で物憂い顔をしたリカエルが細い肢体を動かし、ゆっくりとオル・ザハトに視線を向けた。金虹彩の妖しい光を放つ美しい瞳が無表情なままのオル・ザハトを捉えた。

「そなた、私の楽しみを邪魔する気か?」

 肩を流れ落ちる金色の髪を煩そうに指で掻き揚げながら、リカエルはもう片方の腕で脇にいた華奢な少年を抱き寄せた。女と見紛うばかりの可憐な姿をしたその少年は、リカエルに応えるように抱き寄せられた白い胸元に唇を這わせた。
 一瞬オル・ザハトの怜悧な瞳が曇ったように見えたが、いつもの冷静さは崩していなかった。

「また新しい色子ですか?」

「ふふっ・・・そうだ。なかなか綺麗な子であろう?イシュトは稀にみる逸材だ。仕込むには丁度いい。そなたも試してみるか?」

 イシュトと呼ばれた少年の細い頤を指で摘み揚げると、リカエルは横目でオル・ザハトを眺めながら花のような唇を啄ばんだ。リカエルが唇を離した瞬間、イシュトの唇から甘い吐息が漏れた。すかさずイシュトの唇を塞ぎ、背中を抱きしめ自由を奪うと、オル・ザハトを挑発するかのように艶かしい笑みを浮かべた。

「反省なさる様子はないのですね。」

 冷ややかにオル・ザハトはリカエルを見据えた。

「冷たいな、そなた・・・そんなに淋しいなら傍に色子でも置かれたらどうかと、私に言ったのは他ならぬそなたではないか。よもや忘れたとは言わせぬぞ。」

「殿下、ではあなたが会議にお出でにならないのは私のせいだとおっしゃりたいのですか?」

「違うのか?そなたが私にもっと優しくしてくれれば私だって・・・」

 透き通るような白い肌がほの暗い天蓋の下で美しく浮かび上がり、俯いた横顔がどこか悲しげに泣いているように見えた。

「殿下・・・今日のことは大目に見ましょう。しかし今後このようなことがございますれば・・・」

「オル・ザハト・・・何が言いたい?」

「いえ・・・私はこれで失礼致します。どうかお戯れはほどほどになさいますよう。」

 そう言い残すと踵を返し、オル・ザハトは振り返ることもなく王子の寝所を後にした。

「・・・」

 リカエルは立ち去るオル・ザハトの後姿を目で追っていた。

「殿下・・・?」

「ああっ、そなたは気にするな。悪かったな。邪魔が入って・・・」

 イシュトは気にしていないと首を横に振ってみせた。

「いい子だ。イシュト・・・そなたは私のものだ。これから先もずっと私の為に生きるがいい。その身も心も全て私に捧げよ。さすれば私はそなたに至福の時を与えよう。」

 リカエルに抱きしめられて喘ぐイシュトの唇を深く何度も吸い寄せると、踠くようにリカエルの背中にその細い腕を絡ませた。そのまま静かに躯を沈めると、リカエルの優しい愛撫はやがて激しく変わり、イシュトの躯を熱く蕩けさせた。


「あっ、殿下、あぁっ・・・」


 イシュトの煙るように艶やかな細い黒髪が、リカエルの腕の中で美しく乱れてみせた。高貴なる金樹の香りの中で、また一つ妖しく咲き乱れる花が散った。




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