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遥か太古の時、父なる神がこの地に降り立ち、天地をお創りになった。 世界はまだ闇に閉ざされ、静寂という名の魔が眠りについたままであった。 大地の裂け目からアスという名の神の子が生まれ、続いて大地を駆け巡る風の中からシスという名の神の子が生まれた。アスとシスは同じ星から生まれたので姿容もよく似ていた。 父なる神は兄弟神に告げた。 「この地は今よりお前達のもの。お前達でこの地を護り世界を創るのだ。我は宙よりお前達を見護る。よいか、兄弟仲良くこの地を育むのだ。」 父神はそう言うと遥か彼方に姿を消し去った。 残された兄弟は暗闇の中で怯え、そこから恐怖が生まれた。 アスが叫ぶと大地は震え、裂けた大地が隆起して火を噴き、山が出来、谷が生まれた。シスが泣くと風が雲を呼び、冷たい雨を降らせた。天より降りし雨はやがて河となり、大地を流れ、海を創った。 慄く兄弟の髪が天に昇り、雲を掻き分け、たちまち眩しい太陽が現れた。瞬く間に世界は明るく照らされ、光が優しく世界を包み込んだ。 アスが手を伸ばすと指の先から種が零れ落ち、大地から草木が芽を吹いた。シスが歌うと草木は花を咲かせ、実を結んだ。 アスが歩くと足元から虫が生まれ、シスが踊ると背中から鳥が生まれた。 アスが大地を叩くと、その割れ目から獣たちが次々に生まれた。シスが水辺に息を吹きかけると、水の中から魚たちが次々に生まれた。 兄弟はすっかり楽しくなり、野や山をずっと駆け回った。アスとシスが通り過ぎると、森が大地を覆い生命を育んだ。 兄弟が笑うと空は澄み渡り、鳥たちは美しい声を奏でた。 やがて疲れ果てた兄弟が眠りにつくと、太陽は沈み夕闇が辺りを襲った。何処からか蒼白い月が現れ、その美しい光で兄弟を静かに包み込んだ。 そして光と闇が生まれ、朝と夜が生まれた。そうしてどれだけ世界を廻したことだろう。 父神の言うとおりに世界を創り、仲良く暮らしていた兄弟であったが、世界は変わろうとしていた。アスはシスに告げた。 「私は新しい大地を求めて旅に出る。この地を全てお前に託そう。この星はお前が護るのだ。」 シスは嘆き悲しんだ。 「何故?一緒にいてはいけないの?アスと離れるのは嫌だ。ずっと何処までも一緒だ。置いていかないで。アスがいないのならこんな星要らない。」 「シスよ。我が愛しき弟よ。言うことをお聞き。この星はもうお前一人でも大丈夫だ。父も私にこの地を去るように言った。もう私の力は必要ない。」 「アス・・・私にはお前が必要だ。お願いだ。アス・・・」 たちまち雷鳴が轟き、天は張り裂け嵐が巻き起こった。シスの泣き叫ぶ悲鳴は天地を揺るがし、眠りから覚めた魔が歪みから顔を出した。 宙より見護りし父神が魔を退治し嵐を止めたが、シスの悲しみは深く涙は止まることを知らなかった。 アスはシスをなだめたが、シスの心は深く沈んでいくばかり。それでもアスの決意は固く、シスを残し宙の彼方に旅立った。 シスの流す涙は大地を濡らす雨となり、幾月も降り止まなかった。世界は薄闇に閉ざされ、静寂が全てを覆った。 心配した父神が白羽の精霊をシスの元に遣わし、白羽が音を奏で、歌を歌い舞い踊った。するとシスは泣き止み、一筋の光明が天より降り注いだ。シスが穹を仰ぐとたちまち雲は去り、太陽が眩しい光で世界を照らし出した。花々は美しく咲き乱れ、大地を鮮やかな色で染め上げた。 こうして季節が生まれ時は廻った。 シスはアスのいない淋しさを埋めるように、あらゆるものに魂を与え生命を吹き込んだ。 あるとき銀樹の森で水面に映った己の姿を見たシスは、それが自分だとは気づかずにアスだと思い恋い慕った。それを見て憐れに思った水の精がシスに告げた。 「それはあなたです。フロネ・シス・・・水鏡はあなたを映しているのです。あなたが私に魂を授けてくだされば、その水鏡のようにあなたによく似た子を産んでみせましょう。」 シスは思いがけない言葉に胸が打ち震えた。 そしてシスは水の精に魂をお与えになり交わった。生まれた子は銀色の髪と銀色の瞳で美しい姿をしていた。シスに姿容は似ていたが、その子はまだ性を分けてはおらず、男でもあり女でもあった。 シスはもっと子が欲しいと思い、金樹の精とも交わった。金樹の雄株からは精悍な男の子が生まれ、金樹の雌株からは花のような女の子が生まれた。どちらも金色の髪と金虹彩の瞳を持つ、シスによく似た美しい子であった。 それを聞いた精霊達がシスの元に集まり、魂を得る代わりにシスの子を産んだ。世界はたちまち子供達で溢れた。そうやって生まれたシスの子供達の子孫がやがて人となり、世界を治める王となった。 フロネ・シスはこうして世界を創っていった。これが世界の始まりである。 |
フロネ・シス創世神話
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