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「だがそなたを嫌いにはなれぬ・・・嫌いになどなれないのだ。」 「・・・!」 オル・ザハトの唇を塞ぐようにリカエルは深く唇を重ねた。自由を奪われそのままオル・ザハトはリカエルを抱きかかえるような形で押し倒された。リカエルの貪るような接吻が容赦なくオル・ザハトを襲った。 リカエルの指先はオル・ザハトの躯を確かめるように弄っていた。オル・ザハトはそんなリカエルに抗うこともせず、リカエルの激しい愛撫を受け入れていた。 リカエルの躯の一体どこにそんな力があるのかと思うくらい強く、オル・ザハトは息が詰まりそうなほど抱き締められた。 やがてリカエルも力尽きたのか、オル・ザハトの躯に重なるように倒れ伏した。リカエルの荒い息遣いがオル・ザハトの胸をくすぐった。 「ああっ・・・はあっ・・・」 「殿下・・・?」 「もう動けぬ・・・」 その言葉にオル・ザハトも躯の力が抜けてしまった。 しばらく何も召し上がっていないのならそれも道理だ。動けないのも致し方ない。おそらく気力だけで今まで持ち堪えていらしたのだろう。だがそれももう限界らしい。 「ご無理をなさるからです。寝台でお休みになられますか?それとも何かお召し上がりになられますか?」 オル・ザハトはリカエルをやさしく抱き起こすと、まるで子供をあやすかのように言ってみせた。 「子供のように扱うな。」 「今のあなたは充分に子供ですよ。お一人では動くことも出来ない。」 リカエルはむっとした顔でオル・ザハトを睨みつけた。 「ほら、そのお顔が駄々をこねた子供のようですよ。」 「・・・」 リカエルは拗ねた顔で黙り込んでしまった。 「オル・ザハト・・・」 「はい、わかっております。すぐにお食事の用意をさせますのでお待ちになってください。」 「・・・?」 リカエルは訝しげにオル・ザハトを見つめた。 「どうしてわかった?今私は何も言わなかったぞ。そなた私の心を読んだのか・・・?」 「まさかそのような・・・あなたのお顔を見たらお腹が空いたとおっしゃっているような気がしただけです。」 「・・・」 リカエルは顔を赤らめた。自分がそんな簡単に他人に表情を読まれるなど思いもよらなかった。 そんなリカエルをオル・ザハトはすかさず抱き上げた。リカエルは突然自分の躯が宙に浮いたのを見て驚いた。 オル・ザハトも思った以上にリカエルを軽々と持ち上げたことに驚いていた。まるで羽が生えた生き物のように軽かった。 「一体何の真似だ?」 リカエルは恥ずかしそうに呟いた。 「お一人では歩くことも出来ないでしょう?寝台までお運びいたしますので、お食事の支度が整うまでしばらくお休みなさいませ。」 リカエルは顔を仄かに赤らめると素直にオル・ザハトに従った。 寝台に下ろされたリカエルは横になるよう促された。リカエルは寝台から離れようとするオル・ザハトの服の裾を引っ張った。 「何か・・・?」 弱々しかったが引っ張られる感触に気付いてオル・ザハトは振り返った。リカエルは横になったままオル・ザハトを見据えた。 リカエルの瞳は穏やかな光を放っていた。 「そなたは聞かぬのか・・・?」 「・・・?」 何のことかわからずオル・ザハトは立ち止まったままだった。 「私とレターラのこと・・・そなたは聞かぬのか・・・?」 オル・ザハトは一瞬胸の鼓動が早まるのを感じたが、静かに首を横に振ってみせた。 「何故・・・?知りたくはないのか?レターラと何があったのか・・・」 オル・ザハトはそっとリカエルの手を握った。 「私には必要のないことです。」 リカエルの顔が翳った。 「そなた・・・知っていたのか・・・?」 「・・・」 「知っていたのだな・・・私とレターラのことを・・・」 「いいえ・・・私は何も・・・ですから殿下も早くお忘れになることです。あなたとレターラさまは何の関係もございませぬ。」 「オル・ザハト・・・」 リカエルは何か言いたげにオル・ザハトを見つめたが、オル・ザハトはそれを遮るようにリカエルの躯に布を掛けた。 「さあ、お疲れでしょう?ゆっくりお休みなさいませ。嫌なことは何もかもお忘れになることです。あなたは悪い夢を見ていただけですから・・・」 「・・・」 「目が覚めればまた元のあなたにお戻りになる・・・悪い夢はお忘れなさいませ。」 オル・ザハトはリカエルの額にやさしく口づけを落とした。それはまるで何かの呪文のようにリカエルを安心させた。 いつのまにか瞼を閉じたリカエルは深い眠りに落ちていった。 小さな子供のように純真であどけない寝顔を見て、オル・ザハトはほっと息をついた。 本当に子供のような方だ。手がかかって仕方がない。まるで子供のお守りをしているようだ。 オル・ザハトに笑みがこぼれた。 殿下に初めてお会いしてから一体どれだけの歳月が流れたのだろう。 オル・ザハトは眠っているリカエルを見て、初めてリカエルに会った頃のことを思い出していた。 あの頃はまだ殿下も今よりも華奢で、まるで少女のようだった。笑うと本当に無邪気で可愛らしくて、あの笑顔をずっと見ていたいと思ったのだ。それなのに私は殿下を苦しめてばかりで・・・殿下の涙ばかり見ていたように思う。 殿下はずいぶん気にしていらしたが・・・ レターラ妃のことはあれからオル・ザハトも気になって探っていた。まさかとは思っていたのだ。 リカエルの側近として正式に認められ、城に上がったときに侍従長はオル・ザハトにリカエルのこともいろいろと教えてくれた。話を聞くうちにオル・ザハトはとんでもなく凄い方にお仕えするのだということを改めて思い知らされた。 「昔は本当に大人しくてお利口で素直な可愛らしい好いお子じゃった。それがどうしたことかあんなふうにお育ちになられて・・・ああ、言うも嘆かわしい・・・既に噂でお聞き及びかとは存ずるが、殿下はあのお年で・・・元服前にはご乱行の日々だったのです。」 「侍従長は殿下のことを幼い頃よりご存知なのですね。殿下はいつからそんなふうに・・・」 「いつだったか・・・お変わりになられたのは母君のアデリース王妃が急な病でお亡くなりになられてからでございます。殿下は、それはもう母君のことを慕っておいででしたから、その悲しみを思うとまことに不憫でございました。ですがしばらくすると、殿下はまるで人が変わられたようにご婦人方との日毎夜毎の享楽三昧に耽るようになられたのでございます。」 殿下は母君を亡くされて・・・やはり殿下も人の子なのだ。神の子と呼ばれても、悲しい想いは我々と同じなのだ。 オル・ザハトは侍従長の話を聞いて胸が痛むのを感じた。 「最初は手近な後宮の女官たちを相手になさっておいででした。母君を亡くされた寂しさゆえと我々は大目に見ておりましたが・・・やがて女官だけでは物足りなくなったのでしょう。噂を聞きつけて城に集まる貴婦人方もお誘いになるように・・・ラジール中の女性を虜になさるのかと我々も心配しておりましたが、殿下は決して本気ではなく恋愛ごっこを楽しんでいらしたので、未婚の姫君には手をお出しにならず、夫のある身の名のある貴族の夫人や未亡人ばかりを退屈しのぎのお相手になさって・・・今思えばそれは殿下なりの賢い選択であったのでしょう。本気になどなられて間違ってお子など出来てしまっては王家の名に傷がついてしまうところでござった。」 「それはどういうことですか?傷がつくとは・・・?」 オル・ザハトは侍従長の言っている意味がよく理解出来ないでいた。 「生まれた子供を殿下のお子と認めてしまえば何かと面倒であろう。王位継承にも関わってくる。由々しき問題じゃ。」 まさか殿下はそこまで考えて相手を選んでいたというのか? オル・ザハトにはそのときリカエルのことがまだよくわかっていなかった。 「そのうち女子にも飽きてしまわれたのか今度は若い青年貴族ばかりをお相手になさり・・・頭を痛めておりました。そんな折、あなた様が現れたのです。これは天の助けかと・・・なにしろあなた様が城にお出でになられてから、それまでの殿下のご乱行がまるで嘘のように無くなってしまったのですから。我々はどれだけ安堵したことか・・・皆あなたには驚いておりました。一体どのような魔法を殿下におかけになられたのかと・・・」 「私は何も・・・ただ殿下が私を・・・何故だかお気に召されただけです。」 オル・ザハトは何故リカエルが自分を選んだのか自分でもわかっていなかったのだ。侍従長は苦笑いをしていた。 「あのように我儘な殿下ではございますが、どうか殿下を見捨てずにお傍についていてくだされ。私からもくれぐれもお願い申し上げます。」 年老いた侍従長が私に深々と頭を下げて、涙ながらに語ったことを今でも覚えている。 思えば初めてお会いしたときから殿下には度肝を抜かれるようなことばかり・・・さすがに元服前の年端もゆかぬ若い王子が享楽の日々をお過ごしだったと聞いて私も面食らったが・・・ そう・・・寂しさゆえに人肌も恋しくおなりになったのであろう。 そして殿下は思い余って禁忌を犯された。 レターラ妃への道ならぬ恋を・・・おそらく殿下は本気でレターラ妃を愛してしまったのだろう。 あのときの回廊でのただならぬお二人のご様子は・・・普通ではなかった。 あれから偶然にもレターラ妃がお産みになったテリウス王子をお見かけした。母君に似た薄茶の髪と菫色の瞳が美しい王子であったが・・・一目見て確信した。あれは陛下ではなく殿下のお子なのだと・・・ 陛下はテリウス王子を大層可愛がっておいでだという。母親が違うとはいえご兄弟なら似ていらしても何の不思議があるだろう。誰も信じて疑うことなどない。だがあの王子に流れる血は・・・ 殿下はずっとそのことで苦しんでいらしたのだ。誰にも話すことも出来ず・・・ずっと胸に仕舞い込んだままお一人で・・・ もっと早く気付いていれば・・・こんなにも殿下を苦しめることはなかっただろうに・・・ ふとオル・ザハトは眠っているリカエルを見た。 このお方はこんな細い腕で、これから先この大国ラジールを背負っていくというのか・・・ 生まれたときからの宿命とはいえ、それはあまりにも酷に思えた。 「フロネ・ラ・リカエル」としての重圧に、このあまりにも純粋で無垢な魂は耐えられるのだろうか。 オル・ザハトは自分の責任の重大さを感じて、これから迫り来る運命の波に恐怖を抱かずにはいられなかった。 ※「第二章 ウルリカ」をご愛読いただきましてありがとうございました。 この続きは第三章へと引き継がれますが、誠に勝手ながら本編はしばらく休止させていただきます。 この後は「外伝 銀の森」でお楽しみくださいませ。 ■ブログランキング参加中 |
第二章 ウルリカ
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一人になったオル・ザハトは気が付けばリカエルのことばかり考えている自分に気づいた。何か大事なものを失ってしまった・・・そんな気分であった。 これでもう・・・殿下は私のことなど嫌っておいでであろうな・・・ 私のようなものに今まで目をかけてくださったこと自体が不思議であったのだ。何を今更悔やむことがあろう。殿下と一緒に過ごせただけで私は幸せではなかったか・・・ リカエルと過ごした日々を思い起こすと、何故だか涙がこみ上げてきた。リカエルのあの眩しい笑顔を思い出す度にオル・ザハトは胸が苦しくてどうしようもなかった。 そうして数日が過ぎた。 オル・ザハトはまだ迷っていた。 リカエルに会いたい・・・だがそんな気持ちなど今となっては許されることではないのは充分わかっていた。 だがこのままでいいのだろうか・・・殿下に拒絶されたまま私は・・・二度とお会いすることもなく・・・殿下の笑顔を見ることも出来ず・・・ 私は何を躊躇っているのだろう・・・?このままでいいわけがないではないか。せめて一目なりとも殿下にお会いしたい。たとえ嫌われようとも私は・・・ オル・ザハトは奮い立った。急いでリカエルの下に向かった。 ラザの王城の奥に位置するリカエルが住む白亜の宮殿・・・もう何度も通い慣れた道であるというのに、オル・ザハトには今日はとても遠い道程のように思えた。 リカエルに少しずつ近づいていると思うと足が竦んだ。ようやくリカエルの宮殿の前まで辿り着いたが、中に入るのが躊躇われた。 入り口で戸惑っていると、見慣れた侍従が傍を通りかかった。 「オル・ザハトどの・・・?」 突然侍従に声をかけられオル・ザハトは振り返った。 「ああ・・・よかった。オル・ザハトどのを呼びに行こうかと思っていたところです。」 「・・・?」 侍従はほっとした顔でオル・ザハトを見たが、すぐにそれは不安を帯びた表情に変わった。 「何故もっと早くお出でにならなかったのです?あなたがいなくてもう大変でございました。殿下はずっとお部屋に篭られたままで一歩もお出でにならない。お食事もほとんど口にされず・・・このままでは衰弱されて・・・」 オル・ザハトは侍従の言葉に驚愕した。 「一体いつからです・・・?殿下がそのような・・・」 「ウルリカから戻られてからずっと様子は変でした。元々食の細い方でしたから最初はいつものこととあまり気にも留めませんでしたが・・・なにやらいつもとは違うことに気付いたときにはもう遅く・・・まるで断食でもなさっているかのように・・・」 オル・ザハトは血の気が引いた。 ウルリカから戻ってずっと・・・?では私がお会いしていたときにはすでに何も召し上がってなかったのか・・・?私は何故そんなことに気付かなかった?あのとき殿下のお体のことをもっと気遣っていれば・・・ 「オル・ザハトどの・・・一体殿下に何があったのですか?殿下は我々には何もお話になってはくださらない。いつもご一緒のあなたしか殿下のことをおわかりになる方はいらっしゃらないのです。どうか助けてください。殿下の身にもしものことがあれば我々はお咎めを受けるだけでは済みませぬ。」 侍従は悲痛な面持ちでオル・ザハトに訴えた。 オル・ザハトに嫌な予感が走った。慌ててリカエルの部屋に向かった。 リカエルの居室はどこも静かであった。人のいる気配はまるでなかった。オル・ザハトはリカエルの寝所の前で立ち止まり大きく深呼吸をした。そして扉の前で中に向かって声を出した。 「殿下、そこにいらっしゃるのでしょう?オル・ザハトです。無礼を承知で参りました。中に入ってもよろしいですか?」 「・・・」 中からは返事がなかった。しばらく待ってみるが起きている気配はなかった。 眠っていらっしゃるのならよいが・・・まさか・・・ 「殿下、勝手に入ることをお許しください。」 そういうとオル・ザハトは扉を開けた。鍵はかけられてなかったのですんなりと扉は開いた。 中はやはり窓も閉ざされ明かりも遮断され薄暗かった。 静寂に包まれた部屋の中は主がいないかのようであった。 「殿下・・・?眠っていらっしゃるのですか?」 オル・ザハトは暗がりの中、奥へと足を進めた。 すると部屋の奥から何かが倒れるような音が聞こえた。 「殿下・・・?」 慌てて音がした方に駆け寄ると、全身を映す大きな鏡の前で蹲るような形で倒れているリカエルの姿があった。オル・ザハトは驚いてリカエルの前に跪き、躯を起こして抱きかかえた。 「殿下、一体どうなされたのです?」 オル・ザハトは力なく気を失っているように見えたリカエルの頬を軽く叩いた。 「うっ・・・んっ・・・」 リカエルは気がついたのか顔をしかめた。 「フロネ・シス・・・」 リカエルは囈のように口走った。 「何処だ・・・フロネ・シス・・・私から離れて何処へ行った・・・」 「殿下・・・何をおっしゃって・・・」 「フロネ・シスがいない・・・」 オル・ザハトはリカエルが何を言っているのかわからず、幻でも見ているのかと不思議そうに見つめることしか出来なかった。 「オル・ザハト・・・?」 「気がつかれましたか?」 まるで夢でも見ていたかのようにリカエルは空ろな目をしていた。 「フロネ・シスが・・・私の前から消えた・・・」 オル・ザハトはリカエルが幻覚でも見ていたのかと不安になった。 「いないのだ・・・いつもいたのに・・・鏡を見ればいつも現れて・・・なのに呼んでも出てきてくれない・・・」 リカエルの美しい顔は恐怖で蒼ざめていた。 「フロネ・シスは私を見捨てた・・・あれのせいだ・・・あれの・・・」 「何のことです?しっかりなさってください。殿下・・・」 オル・ザハトは思わずリカエルの細い肩を揺すぶった。リカエルははっとして我に返った。 「そなた・・・そこで何をしている?」 リカエルが不思議そうにオル・ザハトを見つめた。腕の中のリカエルはいつもの表情に戻っていた。 「私は殿下のことが心配で・・・来てみれば殿下が倒れていらしたのでこうして・・・」 オル・ザハトはリカエルがじっと自分の顔を見つめているので、何か気恥ずかしく顔を赤らめてしまった。 「私は倒れていた・・・?」 「覚えていらっしゃらないのですか?」 「・・・」 オル・ザハトは溜息をついた。 「私は何か言っていたか?」 「フロネ・シスがいないと・・・何度も囈のように・・・」 そのときオル・ザハトは何か不思議な感覚を覚えた。 この方はフロネ・シスが見えるのか?フロネ・シスはこの星の守護神として古代より崇められてはいたが・・・我々はその姿を見ることなど出来るのだろうか?神がそう簡単に姿を見せるなど考えられない・・・しかしこの方には見えるのだ。我々には目に見ることが出来ないものをその目に・・・ そう・・・何を今更驚く・・・なにゆえ皆が「神の子」と呼んでいるのか・・・人とは違ったその神の力を持っているからではなかったか・・・私はそのことを忘れていた。ずっと傍にいながら私は・・・今まで殿下の何を見ていたのだろう・・・ 「オル・ザハト・・・」 か細い声が響いてきた。それはとても弱々しく胸が痛くなるようなリカエルの声であった。 「私が心配なら何故もっと早く来ない・・・」 リカエルの言葉にオル・ザハトは胸の鼓動が高まった。 「そなたはいつもそうだ。私をいつも一人で待たせてばかりだ。」 気のせいだろうか・・・小さな子供のように拗ねたお顔をなさったのは・・・ ああ・・・そうだった。何故気付かなかったのだろう。 いつもそうだったのだ。このお方は口では拒否なさるようなことを言いながら、心の底ではいつでも私を待っていてくださったのではなかったか・・・?それなのに自分はそんなこともわからず、殿下に寂しい想いをさせてきたのだ。 殿下は一人で過ごすのが耐えられないほど寂しい方だというのに・・・ 「申し訳ございませぬ。殿下のお心にも気付かず私は・・・」 「そなたはそうやっていつも私に謝ってばかりいる。私はそなたにそんな謝罪の言葉など望んではおらぬ。」 「殿下・・・?」 リカエルが少しはにかみながら顔を背けた。さっきまで蒼ざめていた頬が薄く薔薇色に色づいていた。 「私はそなたが傍にいるだけでいいと・・・そう言わなかったか・・・」 「はい・・・おっしゃいました。危うく忘れるところでございました。」 苦笑いをするオル・ザハトに、リカエルは細い腕を伸ばして首に絡めてきた。そしてオル・ザハトの顔を躯ごと自分に引き寄せた。 「憎い・・・そなたが憎い・・・」 リカエルはオル・ザハトの唇に噛み付くような接吻をした。 |
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翌日、オル・ザハトはリカエルに謝罪をしに行く決意をした。 リカエルの機嫌を損ねたのは自分が全て悪いのだと・・・このままでは二度と会うことすら赦されない。 だが部屋を訪れたオル・ザハトにリカエルは会おうともせず寝所に閉じこもったままであった。オル・ザハトは諦めるわけにはいかなかった。リカエルの赦しを得るまで帰るわけにはいかなかった。 そのうち殿下もお腹が空けばご寝所から出ていらっしゃるだろう。それまで部屋で待たせていただくことにしよう。 そう思ってオル・ザハトは辛抱強く待つことにした。 そしてどれだけ時間が過ぎたことであろう。さすがに昨夜一睡もしていなかったオル・ザハトは疲労困憊したのか、椅子にもたれたままうとうとと寝入ってしまっていた。 物音が聞こえてオル・ザハトは目を覚まして飛び起きた。 目の前には寝所から出てきたリカエルが立っていた。 「出て行けと言ったはずだ。まだそこにいたのか?」 リカエルは不機嫌な顔を露にした。 「申し訳ございませぬ。昨日のご無礼をお許し願いたく・・・どうかこの通りにございます。お赦しいただけぬというならこのオル・ザハト何でもいたしますゆえ・・・」 リカエルの顔が歪められた。 「何でもすると申したか・・・?」 「はい・・・償いはどんなことでもいたしますゆえ・・・」 「・・・」 返事のないリカエルに頭を下げたままオル・ザハトはただひたすら平伏すしかなかった。 「そこまで言うのであれば、何故昨日私を抱かなかった?私にはそなたがわからぬ。」 「昨日の私はどうかしておりました。あのようなことをどうして言ってしまったのか自分でもよくわからないのです。どうかあれは戯言と思ってお忘れいただけませぬか?」 「戯言・・・?そんなことで私が赦すとでも思っているのか?」 「お怒りはごもっともにございます。」 リカエルは鼻で笑うと平伏したままのオル・ザハトに近づいてきた。リカエルはオル・ザハトの艶やかな黒髪を掴んで後ろに引っ張り顔を上げさせた。オル・ザハトの端正な顔が苦痛に耐えていた。 「オル・ザハト・・・私に抱かれてみるというのはどうだ?」 「・・・!?」 「嫌か・・・?そなたが私に犯されるというのなら赦してやってもいい。」 オル・ザハトは目を見開いた。まさかリカエルがそんなことを言うとは思ってもいなかった。いや、そう言われても仕方のないことであったのだ。 「どうした・・・?何でもするのではなかったのか?そなたでも怖気づくことがあるのか?」 「いいえ・・・あなたがそうしたいとおっしゃるのなら・・・どうぞお好きなように・・・」 オル・ザハトはリカエルを真っ直ぐに見つめた。その美しい緑火石の瞳は今までリカエルに嘘偽りなど言ったことがなかった。いつもリカエルを見ていてくれた穏やかな瞳であった。 「そなたには自尊心がないのか?誇りはどこに捨ててきた?」 リカエルはオル・ザハトの真摯な瞳を見返すことが出来なくなっていた。 堪えられなくなったリカエルは掴んでいたオル・ザハトの髪を放した。 「そんなそなたなど抱く気も起きぬ・・・」 リカエルの声は怒りに震えていた。 「出て行け。」 「殿下・・・」 オル・ザハトはその場を立ち去ろうとはしなかった。 「行かぬのか?そなたが行かぬなら私が出て行く。」 リカエルはオル・ザハトの前を通り過ぎ出口に向かった。 「お待ちを・・・殿下。」 オル・ザハトはリカエルを止めようとしたが、振り返ることもなく部屋を出て行った。オル・ザハトは慌てて後を追いかけた。 リカエルはあっという間に宮殿を出て回廊を渡っていた。オル・ザハトはなんとか追いつこうと必死であった。 「お待ちを・・・殿下。お話はまだ・・・」 リカエルは全く振り返ろうとはしなかった。だが勢いよく歩いていたリカエルが突然足を止めた。オル・ザハトは驚いた。 向こう側から誰かが来るのを察したようだったが、目の前に現れたのは侍女を二人伴ったレターラ妃であった。 レターラはラザ王の寵妃で、その美しい容貌と控えめな性格が王に気に入られ、王妃アデリース亡き後は王の寵愛を一身に受けていた。 リカエルはじっとレターラがやってくるのを見つめていた。レターラはリカエルの視線に気付くと一瞬躯を強張らせたが、すぐさま回廊の端に寄り、リカエルが通り過ぎるのを待とうと会釈をした。 そんなレターラの様子を見てリカエルは前に進み、レターらの傍に近づいた。近づいている足音にレターラは頭を下げたまま息を潜めた。 「ごきげんよう、レターラ。」 思ったより落ち着いた・・・だが美しく響くその静かな声に、レターラはびくっと躯を震わせた。レターラは恐る恐る顔を上げリカエルを見た。 「殿下もお元気そうで何よりでございます。ウルリカにご留学されていらしたとお聞きしましたが、しばらくお目にかからぬうちに随分とご立派におなりに・・・」 あれからリカエルは背も伸び、レターラをすっかり見下ろせるほどに成長していた。だがその美しさは決して損なわれることもなく、以前にも増して艶やかに咲き誇っていた。しばらくぶりの対面でレターラが驚くのも無理はなかった。 「あなたも相変わらずお美しい。レターラ・・・」 手を伸ばそうとしたリカエルをレターラが慌てて遮った。 「ふふっ・・・つれないのも相変わらずなのですね。レターラ・・・あなたは少しも変わっていない。」 リカエルも蒼ざめていた。震える躯を抑えようと堪えているかのようであった。 その二人の様子を黙って後ろで伺っていたオル・ザハトであったが、何か違和感を覚え自分はそこにいてはいけないような気まずさを感じていた。 「御用がなければ私はこれにて失礼いたします。」 レターラは急いでリカエルの横を通り過ぎようとした。 「待て・・・レターラ・・・私から逃げる気か?」 「・・・」 リカエルの声に驚いて一瞬足を止めたレターラだったが、すぐその場を立ち去った。 レターラの後姿を見つめるリカエルの手は強く胸元を握り締め、怒りに震えていた。 その様子を訝しげに見ていたオル・ザハトが恐る恐るリカエルに声をかけた。 「殿下・・・いかがなさいました・・・?」 「うっ・・・なんでもない。私にかまうな!」 リカエルは足早にオル・ザハトを置いて立ち去った。 オル・ザハトはなぜか追いかけようとはしなかった。リカエルを追ってはいけないような気がしたのだ。 まるで泣いているかのような悲しげな背中を見るのが辛かったのだ。 レターラ妃は確か陛下の・・・あまり公の場にはお出でにならない方なのでお顔を見ることもあまりなかったが・・・あの方は何故殿下を避けるような余所余所しい態度をおとりになるのだろう・・・殿下も平静を装っていらしたが明らかに可笑しな様子であった。二人の間に一体何が・・・? オル・ザハトは何か見てはいけないようなものを覗き見てしまったような後ろめたいものを感じ、そんな自分が浅ましく思えて恥じた。 リカエルが隠している秘密・・・それが何なのかまだオル・ザハトは知らなかった。 |
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*R18*ご注意ください 「あっ!」 リカエルがオル・ザハトの指先を感じて、白い首筋を仰け反らせた。握り込まれたリカエルの塊はすでに熱く形を変えていた。その感触にオル・ザハトは己の躯も熱くなっているのに気付いた。 「オル・ザハト・・・」 リカエルは身悶えた。オル・ザハトのしなやかな指がリカエルを掴んで離さなかった。躯中が熱くなるのを抑えようと、オル・ザハトを抱き寄せ唇を重ねた。リカエルは深く何度もオル・ザハトの唇を吸った。喉の奥まで溶かしてしまいそうなほど熱い舌がオル・ザハトの口腔を舐め尽した。オル・ザハトもそんなリカエルに応えようと舌を絡めてリカエルを味わった。 リカエルの熱を帯びた塊はオル・ザハトの掌の中で蜜を滴らせ、もう我慢できないと言いたげに苦しんでいた。だがオル・ザハトはそれを握り込んだままリカエルを開放してはくれなかった。 「うっ・・・ああっ・・・もう・・・放せ・・・苦しい・・・あっ・・・」 リカエルは苦痛を訴えながらも、歓喜に震えているかのようだった。すでに絶頂を迎えながら開放出来ないもどかしさで、リカエルの下肢は痺れ、腰の震えが止まらなかった。 「もう我慢できませぬか・・・?まだ放しはいたしませぬ。どうか堪えて・・・その顔をもっと私に見せて・・・」 「あっ・・・いや・・・ああっ・・・オル・ザハト・・・放して・・・」 善がったリカエルの顔が流れる汗で美しく煌いていた。紅潮した頬は薔薇色に光り輝いていた。オル・ザハトはその顔を満足そうに眺めると、リカエルを握っていた指を緩めた。 その瞬間リカエルの上体が跳ね上がり、聖水が溢れ出した。全身の力が抜けて倒れそうになったリカエルを、オル・ザハトは素早く抱きかかえた。 リカエルは放心していた。オル・ザハトはリカエルの唇にそっと口づけをした。 「うっ・・・んん・・・」 オル・ザハトの口づけはそのまま頤を通り、首から胸へと滑り落ち、下腹に到達した。 リカエルの放ったもので濡れた肌を、オル・ザハトは丁寧に舌でなぞるように舐めた。その舌の感触にリカエルは驚いた。 「ああっ・・・オル・ザハト・・・いや・・・」 オル・ザハトは舐めるのを止めてリカエルを見上げた。 「お嫌ですか・・・?」 「あっ・・・そうじゃない。私にもさせて・・・オル・ザハトが欲しい・・・」 そう言うとリカエルは躯を起こし、オル・ザハトに腕を伸ばした。リカエルの手がオル・ザハトの前方を寛げた。オル・ザハトは思わず身を引いたが、リカエルはすかさず中に手を入れオル・ザハトの熱くなったものを掴んだ。 「ああっ・・・」 オル・ザハトが逃げる間もなく、リカエルはオル・ザハトを口に咥えた。リカエルは上目遣いでオル・ザハトを妖しく見つめると、舌を這わせながらオル・ザハトの楔を舐め回した。 オル・ザハトは感じていた。リカエルの舌の動きに陶酔していた。どんどんと昂ぶりを増すオル・ザハトにリカエルは尚も責め立てた。オル・ザハトの楔の先端から滴ったものをリカエルはすぐさま吸い上げた。 「うっ・・・」 あまりの刺激にオル・ザハトは身を捩った。 「ふふっ・・・素敵だ・・・オル・ザハト・・・もっとそなたが欲しい。」 リカエルは美味しそうにオル・ザハトを咥えると喉の奥まで深く迎え入れた。 「ああっ・・・くっ・・・」 リカエルの口の中で溶けてしまいそうな感覚に襲われオル・ザハトは悶えた。だがリカエルは許そうとはしなかった。何度も口で扱かれオル・ザハトはもう耐え切れないほど熱くなっていた。あまりの気持ちよさにどうしていいのかわからないほどオル・ザハトは困惑した。 「オル・ザハト・・・遠慮しないで・・・」 リカエルが口の中で何度も強くオル・ザハトを吸い上げると、途端にオル・ザハトは達して熱を放った。 リカエルはそれを零さないように受け止め一滴残らず飲み干した。 「あっ・・・はあっ・・・」 オル・ザハトの息が乱れていた。 「美味しい・・・」 リカエルは満足そうにオル・ザハトに微笑んだ。濡れた紅い唇を舐るその艶かしさにオル・ザハトは魅入られたかのように身動き出来なかった。 そんなオル・ザハトを愛おしそうに見つめると・リカエルはオル・ザハトの躯に自分を重ねた。 「まだだよ・・・オル・ザハト・・・まだひとつになっていない。」 リカエルの妖艶な眼差しがオル・ザハトを捉えて離さなかった。オル・ザハトはリカエルが求めているのが何なのか気付き戸惑った。 「私が欲しくないのか・・・?私はそなたが欲しい・・・もっと感じさせて・・・」 リカエルは躯に纏わり付いていた夜着を剥がすように脱ぎ捨てた。眩しいくらいの白く透き通った肌が惜しげもなくオル・ザハトの前に曝け出された。 それはあまりにも美しく扇情的だった。この姿を見て欲情せぬ者など誰もいないだろう。そう思わずにはいられないほどリカエルの美しい肉体は完璧なまでに整っていた。 何も言わないオル・ザハトに更に挑発するようにリカエルは足を開いて見せた。 「さあ・・・来て・・・」 リカエルの誘いにオル・ザハトは引き寄せられた。 魔性だ・・・そう思わずにはいられなかった。聖なる姿で全てのものを誘惑する・・・リカエルは美しい魔性なのだ。 リカエルはオル・ザハトに手をかけ着ている服を剥いでいった。自分と同じ何も着けていないオル・ザハトの姿を見て微笑んだ。 オル・ザハトは痩身であったが、決して痩せすぎているわけではなく無駄のない筋肉が均整のとれた美しい肉体を形成して、それは思わず見蕩れてしまうほどであった。 リカエルはオル・ザハトを抱きかかえるように躯を摺り寄せた。肌と肌が合わさり不思議な感覚を覚えた。 リカエルの呼吸が、リカエルの鼓動がすぐ傍で感じられた。それはどこか懐かしいような・・・自分は以前にもその肌を知っていたような・・・そんな想いがオル・ザハトを襲った。オル・ザハトの躯が震えた。 私はこの躯を知っている・・・?何故そんなことを思うのだ。リカエルとこんなふうに抱き合ったのは今日が初めてだというのに・・・何故・・・? オル・ザハトは混乱した。 今この腕に抱いているのは紛れもなくリカエルだ。なのに・・・ オル・ザハトは不安になった。 抱き合ったまま何もしないオル・ザハトにリカエルは気付き、訝しげに顔を見た。 「どうした・・・?オル・ザハト・・・私を抱くのが怖い・・・?」 「・・・」 何も答えないオル・ザハトにリカエルは不安を覚えた。 「オル・ザハト・・・?」 名を呼ばれてオル・ザハトは我に返り、咄嗟にリカエルの躯から身を離した。 リカエルはオル・ザハトの様子に驚いた。オル・ザハトの躯は震えていた。 「あなたは誰なのです・・・?あなたは・・・何者なのですか・・?」 オル・ザハトの言葉にリカエルのほうが動揺した。 「何を言っている・・・?オル・ザハト・・・私が誰なのかと・・・?」 私は今何を言った・・・?私は王子である殿下に失礼なことを言わなかったか? オル・ザハトは蒼ざめた。何故そんなことを言ってしまったのか・・・自分でもよくわからなかった。 リカエルの金色の瞳が怒りに染まっていくのがわかってオル・ザハトはリカエルを凝視することが出来なかった。 「そなたはまだこの私が抱けぬというのか。私の中に流れる血を嫌っているのか。あの姫と同じようにこの身が呪われているからそなたは抱いてはくれぬのか・・・?」 オル・ザハトは慄いた。リカエルが何故そのようなことを言うのかわからなかった。 「申し訳ありませぬ・・・どうかお赦しを・・・私は決してそのようなことは・・」 「もうよい!」 「殿下・・・?」 「私が愚かだった。そなたは私のことなど愛しておらぬ・・・そうであろう・・・?私はずっとそなたと結ばれることだけを夢見ていたのに・・・」 リカエルの目から涙が零れ落ちた。 ああ・・・こんなことは前にもあった。それなのに私はまた同じことをしている。私は王子の信頼を裏切るようなことをしてしまったのだ。 オル・ザハトはどうしていいのかわからなかった。 「私を抱かぬならもう何処へでも行くがよい。私の前から消え去るがいい。」 リカエルの声は喉の奥から必死で搾り出されたように掠れていた。 今はどう謝罪してもリカエルは決して赦してはくれないだろう。ここは私が退くしかないのだ。 オル・ザハトは脱いだ衣服を拾い上げるとリカエルに背中を向け急いで身に纏った。リカエルも寝台の上で背中を向けたままオル・ザハトを見ようとはしなかった。オル・ザハトは唇を噛み締めながら何も言わずに寝所を後にした。 オル・ザハトが閉じた扉の音が妙に物悲しく部屋中に静かに鳴り響いた。 「何故だ・・・オル・ザハト・・・何故私のものにならぬ・・・」 リカエルは寝台に顔を埋め、声を押し殺して泣いていた。リカエルの白い背中が寂しげに揺れていた。 リカエルの部屋を出たオル・ザハトは自己嫌悪に陥っていた。自分が言った言葉を思い出すだけで胸が苦しくなった。 何故あんなことを言ってしまったのか・・・あれは違う・・・自分が殿下を以前にも抱いたような気がしたのがそもそも間違いなのだ。そんなことがあろうはずもない。何故知っているなどと、とんでもない考えが頭を過ぎってしまったのか・・・誰なのかという問いは自分にこそ向けられるべきではなかったのか・・・? 歩きながらもオル・ザハトは後悔ばかりが先にたってリカエルの気持ちなど察する余裕すらなかった。リカエルの自分に対する気持ちを踏み躙ったことさえもオル・ザハトは気付いてやれなかった。 その晩オル・ザハトは一晩中眠れなかった。 目を閉じてもリカエルの悩ましい姿が頭に浮かんで離れない。あの美しいリカエルの裸体を見せられて忘れることなど出来るはずもない。 何故自分はリカエルを最期まで抱くことが出来なかったのだろう・・・ そう思うだけで胸が締め付けられた。 *ブログランキング参加中です。一日一回ポチッとお願いします。 |
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*R15*ご注意ください ウルリカからラジールに戻ったリカエルはしばらく気が塞いで誰とも会おうとせず、部屋に閉じこもったままであった。 そんなリカエルを放っておくことも出来ず、心配したオル・ザハトは部屋を訪れた。 「殿下・・・いらっしゃらないのですか?」 呼びかけるがリカエルの返事はなく、姿もなかった。 寝所でお休みなのかとオル・ザハトはそっと扉を開けてみた。 部屋の中は窓も閉め切られ薄暗かった。ふと奥の寝台から軋むような音が聞こえた。 「殿下・・・?」 リカエルが起きているのかと思い、オル・ザハトは寝台のほうに静かに近づいた。 天蓋の中で蠢く人影が見えた。 中から衣擦れのような音と共に喘ぐような声が響いてきた。 「はあっ・・・あぁっ・・・うっ・・・」 苦しそうな声がオル・ザハトの耳にもはっきりと聞こえてきた。リカエルの身に何かあったのかと慌てて寝台に駆け寄った。 「ああっ・・・くっ・・・オル・ザハト・・・」 自分の名前を呼ばれてオル・ザハトは胸が高鳴った。 そこで目にしたのは寝台の上で艶かしく躯をくねらせて悶えているリカエルの姿であった。肌蹴た夜着の間から白い肌が露になり、すらりと伸びた長い手足が敷布の上で妖しく乱れていた。リカエルの白くしなやかな手は開いた足の間を弄っていた。 「はあっ・・・あうっ・・・」 紅く濡れた唇から乱れた息が漏れた。 流れ落ちる金と銀の髪の間から覗く美しい横顔が喘ぐ度に艶かしい色を帯びた。この世のものとは思えないほどの凄まじい色香を全身から発するリカエルは余りにも美しすぎた。 オル・ザハトはそんなリカエルの姿から目が放せなくなっていた。まるで金縛りにあったかのように、その場から身動きが出来なくなっていた。 立ち尽くすオル・ザハトにリカエルはようやく気付き、息を荒げながら妖しく煌く金虹彩の瞳でオル・ザハトを見つめた。 「オル・ザハト・・・」 吐息混じりの甘く掠れた声が欲情を誘った。オル・ザハトは息を呑んだ。 「ふふっ・・・私を抱きに来たのか・・・やっとその気になったか・・・」 リカエルは頬を紅潮させて誘うように躯を捩ってみせた。しどけなく乱れた夜着から覗く、透けるように白い肌が眩しく、オル・ザハトの鼓動は更に高まっていくのが感じられた。 「どうした・・・?抱いてはくれないのか・・・?」 「殿下・・・」 振り絞るように出したオル・ザハトの声は震えていた。オル・ザハトは我に返り思わず顔を背けた。 「申し訳ございませぬ。私は・・・」 オル・ザハトは見てはいけないものを見てしまったことに取り繕うことも出来ず、その場を立ち去ろうとした。 「待て・・・まさかそなた行ってしまうのか・・・私から逃げようなどと許さぬ・・・」 オル・ザハトはいつもと違うリカエルの様子に戸惑った。 「わかっている・・・そなたは私を疎んじている・・・そうであろう・・・?」 「いいえ・・・決してそのような・・・」 オル・ザハトはリカエルを正視できなかった。 「ならばなぜ・・・抱いてくれぬ・・・私のこんな姿を見てもまだそなたは・・・」 リカエルは堪えられなかった。待てども抱いてくれぬオル・ザハトを想いながら自分を慰めることでしか己の欲望を抑えることが出来なかったのだ。 「私を助けてはくれないのか・・・私をそんなに苦しめたいのか・・・」 リカエルは唇を噛み締め、震える躯を抑えながら堪えていた。その瞳からは涙が零れ落ちていた。 「殿下・・・」 オル・ザハトはリカエルの傍らに腰を下ろした。リカエルの目は涙で潤んでいた。 「私はそなたが欲しいだけなのに・・・そなたは何故私を拒む・・・」 オル・ザハトは黙ってリカエルの肩を抱いた。 「あなたをお守りするのが私の役目ですから・・・どうかお赦しください。」 「私の頼みが聞けないのか?この前のようにはしてくれぬのか?」 オル・ザハトは躊躇った。リカエルをそのままにしておくことは出来ないのはわかっていた。だがしかし・・・自分がリカエルを抱いてしまっていいのか・・・ 「それはご命令でございますか・・・?」 リカエルは思いがけない言葉に目を見開いた。オル・ザハトが真面目に問うのでリカエルは恥ずかしそうに返した。 「そうだ。命令だ。私を抱け。オル・ザハト・・・」 「・・・」 しばらく黙ったままリカエルを見つめていたが、オル・ザハトは覚悟を決めて答えた。 「あなたのご命令とあらば・・・従いましょう。」 「オル・ザハト・・・」 オル・ザハトはリカエルを抱き寄せた。柔らかな肌の感触が躯に伝わってきた。リカエルの躯から仄かに花のような馨しい香りが漂ってきた。 リカエルは腕を伸ばしてオル・ザハトの首筋に絡めてきた。そのまま顔を引き寄せて唇を重ねてきた。リカエルの唇は柔らかく甘い蜜の味がした。 もっとその唇を味わいたいと思った。もっとその唇を舐めていたい。 そう思わずにはいられなかった。リカエルはそんなオル・ザハトを受け入れようと唇を開きオル・ザハトの舌を誘った。絡められる舌が熱く溶けるように口の中で蠢いた。 オル・ザハトが唇を離すとリカエルの開いた唇から甘い吐息がこぼれた。その色香にオル・ザハトは引き寄せられた。 確かめるようにオル・ザハトはリカエルの躯に手を伸ばした。吸い付くように滑らかな肌の感触がオル・ザハトの指をもっと奥へと誘い込んだ。それは触れずにはいられない肌触りでオル・ザハトを優しく導いた。 こんなふうにリカエルの肌の温もりを感じるのは初めてであった。胸の鼓動が聞こえるくらい肌を寄せ合っているのが、こんなにも穏やかな気持ちになれるなんてオル・ザハトは今まで知らなかった。リカエルの息遣いを傍で感じているだけでなぜか安らいだ気持ちになれた。 以前金樹の森でリカエルに求められたときは、苦しそうに悶えていたリカエルの姿を見ているのが堪えられなくて、なんとか熱を解放して熱い躯を鎮めてあげたいと・・・ただそれだけを思ってリカエルに触れた。だが今は・・・違う・・・リカエルをもっと感じていたい。その熱い肌にもっと触れていたい。オル・ザハトはそう思う自分に気づいて羞恥した。 だがもう躯は自分を偽ることなど出来なかった。 「ああっ・・・あっ・・・」 リカエルの敏感な肌は少しの刺激にも過敏に反応した。 オル・ザハトはリカエルの細い首筋から肩へと優しく口づけを落としていった。そして鎖骨から胸へと唇を這わすと、リカエルの躯がビクンと跳ねた。 「あっ・・・はあっ・・・」 リカエルは胸の突起を舐められただけで身を捩った。悶えるリカエルの顔が美しく歪んだ。 「その顔をもっと私に見せてください。」 オル・ザハトはリカエルに優しく囁くと、激しく愛撫をした。 「あっ・・・オル・ザハト・・・いい・・・もっと・・・ああっ・・・」 リカエルはオル・ザハトの愛撫を堪らなく感じていた。オル・ザハトの指で弄られ、唇で吸われ、舌で舐られる・・・それだけでリカエルの躯は熱く昂ぶった。 リカエルは息を乱しながらオル・ザハトにしがみついた。そのまま背中に腕を廻してオル・ザハトを抱き寄せた。 「オル・ザハト・・・もっとそなたを感じたい・・・もっとそなたに触れてほしい。」 いつのまにかオル・ザハトの胸元は開かれ、リカエルの細い指が滑り込むように進入して肌を弄っていた。 「殿下・・・?」 リカエルの指が止まった。 「違う・・・名を呼べ・・・私の名を・・・」 リカエルの潤んだ瞳が哀願した。オル・ザハトは静かな笑みを浮かべた。 「リカエル・・・」 「もっと・・・もっと呼んで・・・」 「リカエル・・・」 オル・ザハトはリカエルを抱き締め、唇を重ねた。 「リカエル・・・」 もう一度その名を呼んで口づけを落とした。 熱くなった躯が擦れ合うのを感じて、リカエルは一層淫らに喘いだ。 オル・ザハトは乱れた夜着の間から覗くリカエルの太股に手を這わせて中に滑り込ませた。 |




