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大国ラジールより遥か東の樹海の果てにその国はあった。 河を越え山を越え、暗く深い夜の森の向こう側に広がる樹海を突き進むとそこには、突如として美しい銀樹の森が視界に現れる。 リカエルの母アデリースの生まれ故郷である銀の森の王国は、その名の通り領土の大半が銀樹の森林で覆われた森と湖の美しい国であった。 古来より変わることのない山河に囲まれた恵まれた地形が他国からの侵略を阻み、永く繁栄を築き上げてきた。度重なる戦争にも屈せず、独自の文化と社会の中で生きてきた銀の森は、水の一族と呼ばれる古の種族が王国を築いたのが始まりとされている。 創世神話によると、創造主フロネ・シスが銀樹の精と交わり生まれた両性体の子が水辺に住み着き子孫を繁栄させたとある。 水の一族はこの両性体を貴重な種として崇めてきた。両性体は遺伝性のものであった為、より強い力を持つ者が両性体として生まれると信じられていた。その為両性体として生まれた王子のみが王位を継承することが出来た。 その特異な血を守らんが為、繰り返される血族結婚が王族の寿命を縮め、短命な種族へと成らざるを得なかった。両性体は優れた繁殖能力を持ってはいたが、虚弱体質で生まれることも多く、水の一族としての力が強ければ強いほど長くは生きられなかった。 王族に度々現れる両性体は長子である第一子に色濃く受け継がれ、第二子、第三子と進むに従いその因子は薄れていく。稀に例外も認められるが、そうした古来よりの習性が両性体の王子を大事に守り育ててきた。 両性体として生まれた子供は成長の早いものであれば十二、三歳で単性の完全体として変化を終えるが、遅くとも十五、六歳で完全体になるといわれている。極稀に成長期に変化出来ないものもあり、完全体になれなかったものは一生両性体のまま結婚も出来ず子供も作ることが出来ず、聖職者となるのが運命であった。その代わり寿命は長く、百年以上生きられるともいわれている。 銀の森の王族は皆特有の銀の髪と銀の瞳を持って生まれてくる。その美しい姿こそが水の一族の誇りであり証でもあった。 リカエルの母アデリースもまたラザの王女である母を持ちながら、父王である銀の森の王の血を濃く受け継いでいた。アデリースは父のテリドレアーネ王と同じ見事な銀の髪と銀の瞳の持ち主であった。 テリドレアーネ王は銀の森の歴代君主の中でもとりわけ稀有な存在としてその名を馳せた。 幼い頃より文武に秀で、王となるべく期待を一身に集めていた。だが父王が急な病で亡くなり、他に跡を継ぐべき王子がいなかった為に、まだ元服前のテリドレアーネは両性体のまま王の玉座に就き異例の即位を遂げたのである。そのときテリドレアーネは弱冠九歳であった。成人するまでは母親の王太妃が後見を務めるという条件付きであったが、誰もテリドレアーネが王になることに反対はしなかった。テリドレアーネ王は両性体であることが一目でわかる美しい容貌で、臣下たちからも人気が高かった。その為王族間の争いごとも起きなかった。 そして成長し完全体として変化を遂げ成人したテリドレアーネは無事元服を迎えた。 美しい若者に成長したテリドレアーネ王の噂は銀の森だけでなく、他国の王侯貴族にまで知れ渡るほどで、早くもテリドレアーネ王と婚姻を結びたいと求婚者が後を絶たなかった。 しかしまだ若く美しい王は結婚の話には興味を持たなかった。 |
外伝 銀の森 序章
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