コーヒーを挽きながら〜岸本静江のひとり言〜

ラテンアメリカのコーヒー農園村を舞台にした小説「コーヒーを挽きながら」の著者が描く『静江ワールド』

世界史講座を頼まれまして…

 
 今年早々だったか、日頃懇意にしている南総公民館事務室の平野さんから突然電話。
「世界史講座お願いします。時代は「幕末」です!」
えっ、世界史で幕末? そんなぁ、私の研究フィールドじゃないよ。
 
 そうは言っても平野さんには色々お世話になっている。私が属する文学同人会「槇」の紹介講座やその主宰者だった作家の故遠山あき先生の追悼講座も開催して頂いた。また私の研究フィールドの「大航海時代」講座を実施、御宿バス旅行まで実現して下さった。そんな恩義のある平野さんだし、こんな機会でもなければ、怠け者の私、幕末時代の世界史を自分から勉強するなんてありえない、というわけで、いつものオッチョコチョイ、「ハイ、ハイ」と引き受けてしまった。
 
 講座は4月に2回、5月に1回。各講座2時間。よく考えると結構大変だ。

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(3回の講座を何とか終えて)
 
 幕末というと、尊王攘夷、開国、ペリー来航、井伊直弼、新選組、西郷隆盛、勝海舟、と今年が維新から150年の節目の年というので、NHKの大河ドラマ「西郷どん」始め毎日のように取り上げられているけど、よ〜く考えてみると、それはみんな、世界から日本への働きかけとそれに対する日本側の受動的な動きばっかり。
 
 なぜこの時代ペリーが太平洋を越えてはるばる日本まで開国要求に来た? なぜプチャーチンが同じくロシアから遠路、函館開港要求に来た? なぜイギリス・フランスが、泰平の眠りをむさぼる日本にまで押し寄せて大混乱を引き起こした? 
 
 これらの疑問には、この時代の世界の潮流を考えなければ答えは出ない。即ち世界史と日本史を別々に分けることはできないのだ。そう考えると、「世界史から見た江戸末期」というタイトルは言い得て妙だ。
 平野さん、凄い!
 
 だがそうなるとテーマの幅が広すぎて、にわか勉強ではどこからどう取り上げてよいやら。
 
 あっちこっち手持ちの資料をひっくり返し、手当たり次第読みちらし、幕末19世紀初頭どころか16世紀まで世界の歴史に遡り、辿り着いたのが自分の研究フィールド、「大航海時代」だ。
 
 1588年のスペインの無敵艦隊がイギリス・オランダ連合軍に敗れ、それまで世界の海を支配していたスペイン・ポルトガルに代わってイギリス・オランダ・フランスが台頭。1718世紀前半のイギリスに始まる産業革命、市民革命、絶対王政、植民地主義、独立戦争、など政治体制、経済体制、市民の意識、文明の進歩などが、人々のそれ以前の狭い地域内での交流、戦争などを世界規模のものに変えて行った。
 
 特に産業革命はそれまでは各地域の交流を隔てていた海や大陸という障害を、むしろ一大流通経路に変えて行った。蒸気船、蒸気機関車、家内工業から大規模工場へ、大規模大陸間貿易へ、文明先進地域から後進地域への搾取・植民地化、それへの後進地域の反発・叛乱・独立戦争、それを支援する先進地域の労働者階級の社会主義運動…
 
 そのような要素を全て投げ込んでかきまぜた「ごった煮鍋」の具があふれ出し、それまでそのような世界情勢は「見たくない、聞きたくない」とばかり堅い殻の中に頑なに閉じこもっていた鎖国日本にアツアツのまま流れ込んだのだ。
 
 ただ、その殻の中でも時を同じくして、そろそろとヒナが孵化し始めていた。いよいよ殻を破り外に飛び出す段階にまで発育していたのだ。
 
鎖国250年の間に社会の上層部にいた非生産階級である武士階級は経済的にひっ迫し、武士階級を束ねていた強固な幕藩体制も揺らぎ始め、一方、階層的には最下層と言われる商人達は富を蓄え、国内の流通網を整え、武士階級をその富で実質的に制圧しようとしていた。
 
 また武士たちも、特に各藩の下層武士たちは、この固定した封建社会の中で自分たちの将来に閉塞感を抱き、変革しようとの志に燃え始めていた。その変革には進んだ思想や技術を持つ外国の助けを借りよう、それには鎖国という殻を破り開国だ、自分たちも海外に渡航するのだ、の気運が盛り上がり始めた。
 
 孵化直前の雛が、内側から破ろう、と殻をつつく。これを「啐」(そつ)という。その時同時に母鶏が外側から殻をつつき孵化を促す。これが「啄」(たく)だ。こうして「啐啄(そったく)」が同時に行われてこそ雛は誕生するのだ。
 
 そう、私の講座はこの「啐啄」を核にしよう。外国からの「開け、ゴマ」と「ホイキタ、今開けるよ」という内側からの声を。
 
で、第1回講座ではその世界潮流の主流として、真っ先に産業革命を起こし、世界中に「開け、ゴマ」と言って回ったイギリスの歴史にしよう。
 
 そう決めれば事は早い、と思ったのは早計。イギリスに絞ったとはいえ、産業革命、ビクトリア女王治政化の政治の流れ、重商主義・植民地主義下のインドと中国とイギリスの三角貿易、フランス革命の影響、アメリカ合衆国の独立、etc.etc… ああ、なんて範囲が広いんだ。
 
 ようやく以下のレジュメ完成、第1回講座(いや、お笑いの高座かな?)
の始まり、始まりぃ〜
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レジュメは、
1819世紀の世界年表を見る

1819世紀の世界的な動向=帝国主義、産業革命、自由主義、植民地主義③イギリスの東洋進出への機運の動機

④アヘン戦争・アロー戦争の原因と結果

⑤日本への影響


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 第2回講座は「開け、ゴマ」と「ホイキタ!」のタイミングよい応答。

①幕末に来日した外国人達

(特に博物学者シーボルトと写真家フェリーチェ・ベアト)

②幕末に海難事故等で海外に漂流し、帰国した日本人(ジョン・萬次郎他)

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 最後の第3回講座は、外からの呼び声に呼応し飛び出したヒナ達の旅立ち。
①幕末の遣欧・遣米使節団(万延元年遣米使節団とパリ万博派遣使節団)
②幕末に渡航し帰国後維新前後に活躍した日本人(勝海舟、徳川昭武他)

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 しかしこんな硬い話、しかも2時間の長丁場、受験勉強中の高校生じゃあるまいし、A4版資料と講師の長口説、みなさんウンザリしてしまうだろう。みなさんの興味をつないでいくにはどうしたらいい?
 
そうだ、パワーポイント画面でやってみよう、と思いついた。前から思っていたので、Webの指示通りに初挑戦。やってみると意外に簡単。しめしめ。これを使って説明すれば、受講生のみなさんも退屈せず楽しんで話を聞いてくれるだろう。
 
実際やってみると、この「プレゼン」、威力を発揮、おかげで50名以上の参加者のみなさん、実によく話に耳を傾け、画面を注視して下さった。毎回質問して下さる方、私の間違いを指摘して下さる方、中には「来年は大航海時代をお願いします」と早くも来年のリクエストをなさり、にわか講師の自尊心をくすぐる方まで。
 
ともあれ平野さんの好リードで始まり、同じく公民館職員の本吉氏のパワーポイント技術に助けられ、高レベルの受講生に恵まれたこの世界史講座、終わってみれば一番得難い経験をしたのはこの私でしたぁ。皆様ありがとうございました!


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