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保安隊日乗 低殺傷兵器 4

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 得意げな要。それとは対照的に誠もカウラ、そしてアイシャもぽかんと彼女の笑顔を見つめた。

「要ちゃん・・・出て行くのね・・・。うるうる」 

「勘違いするんじゃねえ!賃貸契約の全容を把握するんだ」 

 要はそう言うと今度はポケットからコードを取り出し自分の後頭部のジャックに差し込んで端末とつながる。意識が途切れたように首が折られるがそのまま画面には検索モードの様子が映っていた。そしてそれを見てカウラが手を叩いた。

「そうか。法術師が部屋を借りれば足が付くか」 

「そう?検査なんて東和は任意じゃないの。法術適正を受けている人間が犯人と決まったわけじゃないでしょ?」 

 アイシャは半分期待はしていないと言う感じだが、その視線は明らかに要の検索の模様を眺めているものだった。

「法術適正を理解している人間の犯行だと僕は思いますよ。人の能力を横取りして発動させるんですから。法術に興味のない人物の犯行だとはとても思えないですから」

「でも最近東都の都心からこちらに引っ越してきた人間なんて山ほどいるじゃない。いちいち調べるの?」 

「しかたねえだろ・・・235世帯か・・・所帯持ちは外しても156件」 

 要の言葉にうんざりしたと言うような顔のアイシャ。だが彼女の肩をカウラが叩いた。

「何万人と言う豊川市の人口から比べればわずかなものだ。四人で見回れない数じゃない」 

「でもその中に犯人がいると言う保障はあるの?そもそも法術適正検査は匿名で行なわれてるのよ。その156人だって一人も法術師がいないかもしれないじゃない。いたとしても嘘をつかれれば・・・」 

 そんな言葉を吐くアイシャをケーブルを首から外した要が哀れむような目で見上げる。

「なによ・・・要ちゃん」 

「お前。馬鹿だろ」 

「馬鹿は要ちゃんでしょ?」 

 いつもの挑発合戦にうんざりした顔でカウラと誠は見詰め合った。

「アタシ等はこの豊川に犯人が来ていたときに意味があるから出向してきたんだ」 

「そうよ。当然じゃないの」 

「はー・・・」 

 アイシャはまだ分からないと言うような表情をしていたがその曖昧な顔が突然ゆがんだ。明らかにアイシャも要の言いたいことがよく分かったようだが彼女が要に頭を下げるつもりがないことは誠にもよく分かる。

「犯人を捕まえなきゃ意味がないんじゃないの?」 

「そこまでは私達の仕事の範疇じゃ・・・」 

「カウラちゃんは黙っていて!」 

 八つ当たりを食らったカウラが口をつぐむ。誠は噴出しそうになりながらいらいらしているアイシャを眺めていた。

「なんだよ。別に戸別訪問をしようというわけじゃないんだ。すべての転居に関わった不動産屋を訪ねて回る。簡単なことが分からねえかなあ」 

「そんな・・・一応不動産業者も個人のプライバシーに関することについては・・・」 

 そう言いながらアイシャは頭を掻いた。元々そう言う任意の捜査においてはかなり高圧的に対応して結果を残すのが得意な要である。プライバシーとか守秘義務などという一般社会の常識は要の捜査にはありえなかった。

「おう、抗議するんだろ?さっさと言えよ」 

「むー・・・」 

 膨れるアイシャだが、カウラの携帯端末が着信を注げたことで誠達の興味はそちらに移った。

「はい、ベルガー大尉ですが・・・」 

 端末に出たカウラ。要は卓上の画面を操作して相手の画面を映し出す。そこには先日この部屋に誠達を押し込めた杉田という警視の顔があった。

「・・・今度はパイロキネシス暴走です。場所は・・・」 

 誠達はすでに自分達が後手を踏んでいることにようやく気が付くことになった。

「怪我人も無し。いいことじゃねえか」 

 全焼した廃屋を見上げながら要がつぶやいた。すでに能力暴走を起こしてパニック状態に陥ったパイロキネシス能力者の豊川商業高校の女子生徒は警察署へ向かうパトカーに乗せられて消えていた。

 あたりは消防隊員と鑑識のメンバーが焼け焦げた木造住宅の梁を見上げて作業を続けていた。

「これでもう例の犯人は豊川市に拠点を移したと考えるべきかな・・・」 

「カウラちゃんが珍しいわね。意外とそういうところで結論を急ぐ癖があったじゃないの」 

「まあ私も『近藤事件』以降は考え方も変わったからな」 

 黄色いテープを持ち上げて現場に入るカウラ。アイシャや要、誠もその後に続く。焦げ臭い香りが辺りにに漂っていた。現場の鑑識の責任者らしい髭面の捜査官がカウラに敬礼をした。カウラ達も敬礼をしながら辺りを見回した。

「ああ、保安隊さんからの出向している方たちですか」 

「よくご存知で」 

「まあ・・・うちは狭いですから・・・それに噂はかねがね」 

 含むところがあるというような笑みにカウラもあわせて乾いた笑顔を浮かべた。

「連れていかれた女の子が関わっているんですか?」 

 誠の言葉に頷きながら責任者らしい巡査部長は誠の階級章を見ながら頭を掻く。

「この道路から見える壁が一気に発火したって言う証言がありましてね。物理的にそう言う燃やし方をすれば出る科学物質の反応もないですから・・・まず間違いなく彼女のパイロキネシス能力が利用されてこの建物が燃えたのは事実だと・・・」 

「で、その餓鬼が何か言ってたのか?」 

 警部の階級章の要に見つめられると頬を緊張させながら巡査部長が頭を掻く。

「自転車でこの道に入ってしばらくしたら意識が朦朧として気が付いたらこの廃屋が燃えていたと・・・」 

「気が付いたら?放火の意図があったかどうかは確かめて無いんですか?」 

 やけに丁寧に口を挟む要にむっとした表情を浮かべる鑑識の責任者の巡査部長に誠はいつの間にか同情していた。

「ですがこれは都内で昨年から続いている・・・」 

「んなこと聞いてんじゃねえんだよ!」 

 口答えをする相手に要が切れた。突然の行動にあんぐりと口を開く鑑識の隊長の顔にアイシャが噴出す。

「あの餓鬼が嘘ついているとか考えたことがねえのか?あ?」 

「しかし・・・それじゃああなた達はただの無駄飯食い・・・」 

 思わず本音が出て口をつぐむ鑑識の隊長。要はそれを見て満足げに頷く。

「要ちゃん。いじめはいけないのよ」 

「いいだろ?合法的なストレス解消法だぜ」 

「まったく趣味が悪いな」 

 いつものことなのでアイシャもカウラもニヤニヤと笑っていた。その様子が薄気味悪いと言うように鑑識の隊長は部下達の所へと足早に決めた。

「間違いなくこっちに来たんだな。人の褌で相撲をとる馬鹿が」 

 要のその言葉に一瞬で真顔に戻ったカウラとアイシャが頷く。誠はただいつものように彼女達が暴走しないように見張っていた。

「でも・・・放火魔ってこう言う野次馬の中にいることが多いんですよね」 

 誠は話題を変えようと野次馬達に目を向けた。住宅街のお化け屋敷が延焼したことで野次馬達もなにやら不安げに東都警察の制服を来ている誠達を眺めていた。

「そりゃ実際に火をつけた人間の話だろ?この事件の主犯は火をつけるんじゃなくて火をつけさせるんだから心理も違うんじゃねえのか・・・なあ、アイシャ」 

「私に聞かないでよ」 

 迷惑そうに要に向かって言うアイシャ。誠はただ訳もなく野次馬達が増えていく様を眺めていた。

「ともかく例の不動産屋めぐりを始めねえとな。いつ人死にがでるかわからねえ」 

 要の言葉に誠達の顔に緊張が走った。法術関連の事件は誠がその存在を示して見せた半年前の『近藤事件』以来、増加の一途を辿っていた。好奇心で受けた法術適性検査で突然自分に力が宿っていることを告げられた人物が暴走する話はその手の話を一番知っている法術特捜の首席捜査官の茜から嫌と言うほど聞かされていた。

 ほんのちょっとした好奇心でそれは始まる。それがいつの間にか人を傷つけるようになり、さらに重大な事件を起こすことになる。そんな典型的な法術関連事件。今回は趣が違うが確かにその様子を呈してきた。

 カウラのスポーツカーに要に押し込まれて狭い後部座席に座らされてもその思いは誠を走り抜けていた。

「愉快犯ですかね」 

 誠の一言ににんまりと笑う要。そして次の瞬間誠の足は要のチタン合金の骨格を持った右足に踏みしめられた。

「痛いですよ!西園寺さん!」 

「当たり前だ。痛くしてるんだからな」 

 要のそんな言葉に振り向いたアイシャが苦笑いを浮かべている。

「まだまだ小手調べ程度の気分だろ。この前の婆さんを標的にした時は珍しく空間制御で時間軸をいじると言う大技を使ったがまだ空間制御系の法術を借りて何かをするって所までは考え付いていないみたいだからな。アタシなら次は干渉空間展開能力のある奴を見つけて宝飾品店に忍び込んで・・・」 

「ずいぶんリアルね。やる気?」 

 アイシャが茶々を入れたので身を乗り出そうとした要だが、カウラはうんざりしたと言うように車を急発進させた。

「おい!ベルガー!」 

 後頭部を座席にしたたかぶつけた要が叫ぶ。だがカウラは振り向くこともしない。

「お前さんがさっき作ってたハイキング表の通りに行くつもりだがいいか?」 

「カウラちゃんはクールねえ。上官命令、それでいきましょう」 

 要は複雑な表情で頷く以外にすることは特になかった。


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