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保安隊日乗 低殺傷兵器 5

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「カリカリするなよ」 

 吉田はそう言うとにんまり笑う。その表情にあわせるようにシャムそして小夏が笑みを浮かべる。

「なんで笑ってるんだよ」 

 そう言いながら要は刺身に一番に手をつけた。うまそうに頬張りまた酒を口に流し込む。

「捜査の基本は・・・餅は餅屋だ。真摯にお巡りさん達に教わればいいだろ?なんなら茜警視正からラーナでも借りれば良いじゃないか」 

 吉田の一言はまるで天啓のように一同を驚かせた。

「そう言えばいたわね。影の薄い捜査官が」 

「今頃くしゃみでもしてるんじゃないか?」 

 アイシャとカウラが笑顔で顔を見合わせる。誠はようやく明るい兆しが見えてきたのでおいしく見えた白身魚の刺身に箸を伸ばした。

「何事も一人で解決するのはなかなか難しいぞ・・・まあ俺も隊長と出会うまでは一人で何でもできる気でいたからな」 

「吉田少佐にもそんな時期があったんですか?」 

 口に刺身を入れたまま誠がつぶやいた言葉に仕方がないというように頷きながら烏龍茶を飲む吉田。

「そうよ。相談すれば知恵も出てくるものよ。だから皆さん元気出してね」 

「ガンバレー!」 

 春子と小夏の言葉になんとなく癒されながら誠はビールに手を伸ばす。

「善は急げだ。とりあえずメールくらいはいいだろう」 

 そう言いながらカウラは端末に手を伸ばす。

「忙しくなりそうね。なんなら私も運行部の非番のメンバーにも招集かけるわよ」 

「サラ・・・それは勘弁な」 

 要はそう言うと笑顔で酒を呷った。

「それじゃあ・・・決まったわけだから行こうじゃねえか」 

 要はそう言うと東都警察の紺色のジャンバーを肩に突っかけるようにして立ち上がる。とりあえず誠達が始めたこと。それは新規の住民登録を行なった人物をすべて見て回ると言う地道な行動だった。

「しかし・・・本当にお巡りさんは大変よね。拳銃とショットガンだけ?」 

「ゴム弾入りの非殺傷弾入りだ。しかも一発撃ったら始末書一枚だそうだ」 

 アイシャもカウラも顔色は冴えない。保安隊の丙種装備よりも落ちる装備に不満を言いたい気持ちは誠にもよく分かった。

「でも停戦協定違反の警備じゃないんですから・・・実弾は・・・」 

「オメエは租界で撃ちまくらなかったか?」 

「撃ちまくるのは誠ちゃんじゃなくて要ちゃんでしょ?誠ちゃんの下手な鉄砲を撃ちまくられたら私も困るわよ」 

 入り口に立ってニヤニヤ笑っている要を押しのけるようにしてアイシャはそのままドアを出た。そしてそこで何かとぶつかってよろめく。

「ごめんなさい・・・ああ、ラーナちゃん」 

 大柄なアイシャはよろめく程度で済んだが走ってきた小柄なラーナは廊下に倒れてぶつけたひじをさすっていた。

「あまり廊下は走るものじゃないな・・・」 

「すみません!ベルガー大尉!」 

 カウラを見つけてすぐに立ち上がって敬礼をするラーナ。さすがに司法局法術特捜本部の捜査官と言うこともあって警察の制服はしっかり板についている彼女を誠はまじまじと見つめた。

「神前曹長・・・」 

「ああ、こいつは巡査部長だそうだ」 

「そうなんですか?」 

 ニヤニヤ笑っている要から話を聞いてラーナは少しばかり得意げに誠を見上げていた。

「失礼して・・・」 

 そう言うと慣れた手つきで中央のテーブルに腰をかけたラーナは手持ちの端末の立体画像表示システムを起動した。すぐに近隣の交番のデータがオープンになり、その近辺のアパートの状況を表示する画面が移る。

「まあ、一番早い方法はこれですね。各交番にアパートやマンションを訪問する指示を出します」 

「良いのかよ・・・簡単に言うけど」 

「ええ、防災関係の書類を持たせて訪問させる形をとりますから」 

 要の不安そうな顔に淡々と答えるラーナの顔が面白くて誠が噴出しそうになる。それに殴るポーズをする要。それを無視してラーナは端末の画面を切り替えた。

「現在15万件分のアパートやマンションが対象になりますが、星が法術適正のある人物と仮定した場合、正直あまりいい物件には出会わないでしょうから・・・」 

 そう言うとすぐに画面が検索中のものに切り替わる。そして豊川市内の地図に赤い点と青い点が点滅する画面へと切り替わった。

「この赤い点がかつて警察が捜査のために入ったことのあるアパートやマンションです。一方青いのが捜査を受けていないマンション」 

「あれか・・・あまり入居者を選ばない物件の方が当たりを引く可能性が高いということか?」 

「ベルガー大尉。さすがですね。悲しいですが入居条件の緩いところのほうが犯罪発生率は高いですから。そこでこの赤い物件に関しては直接私達が訪問します」 

 ラーナはそう言うと今度は地図から表へと画面を切り替える。

「おい、ラーナ。ずいぶん簡単に言うけど・・・」 

「西園寺大尉も心配性ですね。この前の同盟厚生局の事件に比べたら調べる範囲は半分以下ですよ」 

 思わず笑いを漏らしているラーナ。アイシャも納得がいったように腕組みをしながら頷いている。

「当然分かれての捜査になるな」 

 カウラはそう言うと誠達を見回した。

「西園寺と神前。それにカルビナで回ってくれ。私とアイシャで行動することにする」 

「えー!なんで私とカウラちゃんなの?」 

「お前はサボるからな、ほっとくと」 

 そう言ってカウラは端末にラーナの情報をダウンロードしていた。

「これで何件目・・・」 

「カウラさん始めたばかりじゃないですか」 

 いつもの運転席に乗り込むカウラの顔は疲れていた。

 初日。すぐに動き出したカウラ、誠、ラーナ。とりあえず防犯の呼びかけのポスターを手に五件のマンションを回ったが、捜査よりも戦闘のために作られた人造人間であるカウラの忍耐力はすでに限界を迎えていた。

「午前中はこんなもんでしょう。これからお昼。いかがですか?」 

 後部座席で腕組みをしているラーナは静かにそう言うと幼くも見えるようなおかっぱの髪を掻き上げた。

「午前中・・・か・・・」 

 カウラの声がかすれるのも無理は無かった。すでに三時を過ぎようとしている。住宅街の食べ物屋は多くが準備中になっている時間帯。

「訪問がこんなに疲れるものだとは・・・」 

 そう言いながらカウラは赤いスポーツカーを動かす。狭い路地を縫うようにして車は進んだ。

「まあ・・・こういう地道な積み重ねが大事ですから。それと市民と向かい合う時はいつも笑顔で。ベルガー大尉はまだ今ひとつですね」 

「はあ」 

 ラーナに駄目だしされて少しばかりカウラは肩を落としながら狭い道を進む。両脇に続く家並みはすべて平屋。二十年前の第二次遼州大戦の時の特需以前の貧しさを感じるような家々が続く。

「でも・・・もしかしたら僕達が回った家の中にすでに犯人の家もあるんじゃないですか?」 

 思わず誠はそう言っていた。不機嫌になるだろうと振り向いた誠をまっすぐにラーナは見つめている。

「それで良いんですよ」 

「良いのか?」 

 カウラはようやく大通りに出る入り口の信号で車を止めながら驚いたように静かにつぶやいた。

「もし私達が警戒していると分かればそれだけで犯罪に対する抑止力になります。確かに犯人逮捕も大事ですがこうして未然に犯罪を防ぐことも任務の一つですから」 

 そう言って笑顔を向けるラーナ。いつも茜の助手として付いて回っていると言う印象しかない誠には非常に新鮮に見えた。カウラも頷きながら大通りに車を走らせる。

「それは分かった。じゃあ西園寺とアイシャは・・・」 

『おいおい、特殊部隊上がりを馬鹿にすんじゃねえぞ』 

 車の固定端末のスピーカーから響くのは要の声だった。

「聞いていたのか・・・悪趣味だな」 

『陰口を言おうとしていた奴に言われたくねえよ!』 

 そう言うと要とアイシャが並んで寿司を食っている場面が映し出される。

「寿司か・・・回転寿司とは考えたな」 

『まあしかたねえだろ?今の時間は開いている店が限られるんだから』 

「そうだな。カルビナ、寿司でいいか?」 

「できれば安いところが良いんですけど・・・」
 
 いつもの控えめなラーナに戻る姿が滑稽で誠は思わず噴出した。

「じゃあ・・・この近くならハンバーガーの店があったろ?」 

「そこで良いですよ」 

 カウラは誠が頷くのを見ると笑みを浮かべてアクセルを吹かした。

「そう言えば・・・西園寺はラーナが何をするか知っていたのか?」 

 そんなカウラの質問にウニを頬張りながらタレ目の要は大きく頷いた。

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