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保安隊日乗 低殺傷兵器 6

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「ついに死人か・・・」 

 要の顔が緊張する。

 保安隊豊川基地。そのコンピュータルームに着いた誠達はそのニュースに眉をひそめた。

「いつかは出ると思っていたけど・・・早かったわね」 

「そういう問題じゃないだろ・・・西園寺。そのまま普通に東都警察警備部機動隊第三中隊にアクセスしろ」 

 アイシャの緩んだ笑いもカウラの緊張した言葉に吹き飛んだ。ラーナと誠が見守る中、要はそのまま端末の前に腰掛けると首筋のジャックにコードを挿して端末を起動させる。

「普通にそのままログインすればいいんだな?」 

「安心しろ、エルマも多少はサポートしてくれるはずだ」 

 そんなカウラの言葉ににやけた笑みを浮かべる要。その目の前の端末がとても追えない速度で切り替わり始める。

「機動隊・・・第三中隊っと」 

 要のつぶやきと同時に飾り気の無い画面が映し出される。

「そのまま右下の空欄に・・・」 

「8954356か?アタシでもパスワードが拾えるんだからかなり楽勝なんだな」 

「そう言いながら枝は残さないでよ」 

 アイシャに茶化されたのも気にせず要は本庁の資料室にアクセスした。

「法術系の・・・アストラルゲージ・・・」 

「ずいぶんと数だけはあるのね」 

 東都一円を示した地図には満遍なく設置されたアストラルゲージの位置が示しだされた。それはほとんど一つの町内に一個と言う数のものだった。

「これだけ設置して犯人が捕まらないのか?職務怠慢だろ、東都警察は」 

「法術適正がある人が通ればある程度反応しますから。同じパターンのすり合わせなどの技術は同盟司法局もとうと警察には教えていないので・・・」 

「縦割り行政の弊害って奴か?」 

 ラーナの言葉に苦笑いを浮かべながらこれまで演操術による法術暴走が起きた場所近くのアストラルゲージのパターンを読み込み始めた。


「かなりノイズがあるんじゃないのか?」 

 要もまた同じくデータの照合を行なっていた。証拠になるのは昨日の殺人と変わった法術暴走事件。そこでの被害者の法術発動の際に引き起こされた波動を取り去って演操術者のアストラルパターンはすでに採取済みだった。

「神前曹長やナンバルゲニア中尉クラスならすぐに分かりますが・・・」 

「急ぐことは無いだろ。慎重に進めてくれ」 

 カウラはそう言うとそのままドアに向かう。

「カウラちゃん?」 

「ああ、コーヒーでもいれてこようと思ってな」 

 その言葉に目を点にするアイシャ。だが次の瞬間には満面の笑みといつもの流し目が顔に浮かんでいた。

「進歩したのね、カウラちゃん」 

「馬鹿にしてるのか?」 

 捨て台詞を置いてカウラが出て行く。要とラーナはそれぞれデータの照合作業を続けていた。

「やっぱりノイズが多すぎるな・・・本当に法術師の発生割合は2パーセントなのか?」 

「一般人でも感情の起伏によってアストラルパターンの異常は起こりますから。どうしてもそういうものまで拾っちゃうんですよ」 

 要の泣き言に付き合うラーナ。誠とアイシャはただ次々と流れていくアストラルゲージを眺めているだけだった。

「でか・・・」 

 突然の要の言葉にラーナの手が止まる。そしてすぐに要が検索した四件目の放火事件の現場のパターンに目をやった。

「これは・・・でも大きすぎますよ・・・嵯峨大佐でもいたんですかね」

「アタシに聞くなよ」 

 誠も目にしたパターン。それはアストラルゲージが完全に振り切れるほどの反応を見せていた。

「それは別件でしょ。次に行って頂戴よ」 

 投げやりにそう言ったアイシャに要はにらむような表情で見つめ返した。

「いいのか?」 

「良いも悪いも私はその法術適正者には関心が無いもの」 

「関心が無いって・・・」 

「止めておけ」 

 憤る要。マイペースのアイシャ。二人の間に立ってカウラは苦笑いで隣で作業中のラーナに目をやった。

「私達の任務はすべての法術適正者を監視下に置くことじゃありませんから」 

「そ・・・そうだな」 

 要の視線が誠に向かう。誠はただ頭を掻きながら作業を続けるラーナを見つめていた。

「演操術系のパターンは特徴的ですから・・・」 

 それだけ言うとそのまま作業を続けるラーナ。要も仕方なくアストラルゲージを眺め始めた。

「共通項って・・・どうやったら分かるの?」 

「β波が特徴的ですね。一般人の約一万倍の強さで出ますから。パイロキネシストや領域把握系の法術ではほとんど見れませんが空間干渉系の法術発動時にはそれなりに出ます」 

「ふうん・・・それって法術発動時以外にも出るの?」 

「他の法術と違って意識しないでもある程度発していますから・・・出た!」 

 ラーナの叫びに視線が彼女に集中した。

「港南区の放火未遂事件。ちゃんと出てますよ」 

 そう言うとラーナは画面を事件直後の映像に切り替える。ごみの山が半分ほど焦げた状態の現場と結局は不起訴になった容疑者の顔写真が映し出される。明らかに悪人と言うような表情の頬に傷のある男。思わず誠は苦笑いを浮かべた。

「おい、こいつが犯人じゃねえのか?」 

「違いますよ。意識をトレースした結果この人物にはこの場所で放火をする理由がありませんし・・・」 

「意識トレースか。実用になっているんだな」 

 法術の研究の急激過ぎる発展で得ることができた脳反応をトレースしての意識を読む技術。おかげで警察の取調べの手間はかなり少なくなったと誠も聞いていた。

「で・・・一箇所じゃ決まらないだろ?続けんぞ」 

 要は感心することも無くそのまま自分の端末に目を移して作業を開始した。

「・・・でデータ照合はできた。後は・・・」 

 すでに夕方だった。要は食事もとらずに検索を続け、ラーナは何とかパンをかじりながら端末で地味な照合作業を続けた。そして東都の一連の法術暴走事件が一人の法術師によって引き起こされたこと、その人物は豊川で死者を出す法術使用を行なったことがわかった。

「本人を見つければ簡単に話は済むがな・・・どうやって見つける?」 

 カウラの言葉に全員が呆然としていた。法術適正のある遼州人は全人口の一割程度。近隣の都市を含めれば対象となる人物の数はとても誠達では手がおえない。

「これは資料を豊川署の面子にたたきつけるのが精一杯か・・・」 

 そううなだれたカウラ。突然全員の端末のモニターが消えた。

『俺の仕事になりそうだな!』

 聞き慣れた叫び声がすべてのスピーカーから響いた。

「吉田の馬鹿か・・・」 

『馬鹿?それなら手を引くぜ俺は。豊川署の署長はそいつを有効に使ってくれるか・・・微妙なんだけどな・・・』 

「いえ!すみません!調子に乗っていました・・・馬鹿少佐」 

 相変わらずの減らず口の要。画面が戻るとそこには額タオルを巻いている姿の吉田俊平少佐が映っていた。

「農作業?」 

『仕方ないだろ?シャムがやるって聞かないんだから。今のうちに土と肥料をなじませないと来年の実りは保障されないんだそうな』 

 背後に耕運機のエンジン音が響く。思い切り脱力しながら誠達は画面を覗き込んだ。

「今更出てきて何するつもりだよ」 

 要の言葉は冷たい。確かに以前から何度と無く協力を頼んでは断られていただけに誠も吉田の真意が図りかねた。

『法術師のアストラルパターンデータにはうちはフリーパスで入れるからな。照合するデータの件数は俺クラスじゃないと扱えない規模になるだろうからな』 

「いつそんな特権ができたんだ?」 

『同盟厚生局とやりあったときに貸しを作ってくれたのはお前等だろ?そのとりたてとしてみれば安いものさ』

 要の問いに答えながら吉田はいい顔で額の泥をぬぐっていた。


「なるほどねえ・・・じゃあ後は頼むか」 

 要の声に吉田が嫌な顔を浮かべていた。

『まあ・・・さっさと帰れよ。俺が何とかして明日には結果を出せると思うから』 

 端末の画像が途切れる。カウラが大きくため息をついた。

「ベルガー大尉。所詮我々でのローラー作戦なんて無意味ですから」 

「分かっているが・・・なんだか気になってな」 

 カウラはそう言うと首のネクタイを緩める。

「何でも自分で背負い込むのは止めた方が良いわよ」 

「なんだよ、アイシャ。ずいぶんと知った風を気取るじゃねえか」 

 そんな要の言葉ににやりと笑うと端末を仕舞うアイシャ。カウラや誠も端末の終了作業を行なっている。

「で・・・簡単に分かるものなのか?」

 ネクタイを外したカウラの問いに苦笑いを浮かべるラーナ。

「証拠として採用できる範囲の情報があるかどうか・・・」 

「そうだよな。吉田のおっさんは犯人を見つけましたというかもしれないが証拠が無ければ逮捕と言うわけには行かないからな」 

「あら、要ちゃん。『疑わしきは罰せず』と言う刑法の基本も知ってるのね」

 再びチャカしたアイシャの細い目を要がたれ目でにらみつけている。

「お二人とも!とりあえず終わりにしましょうよ」 

 誠の言葉で二人は舌打ちしながら離れていく。気分が悪いと言うように要は終了した端末から首につながるコードを抜くとそのまま立ち上がり出て行った。

「単純!」 

 うれしそうに笑いながらアイシャはエラー画像が出た誠の端末を軽くいじって終了させてやっていた。


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