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保安隊日乗 低殺傷兵器 10

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「じゃあ食堂で」 

 そう言うと要は居座る気が満々のアイシャを引っ張って部屋の外に消えた。

「なんだかなあ・・・」 

 寒さに震えながら着替える誠。そして先日の事件を思い出しながら着替えをした。

 水島勉による連続違法法術発動事件は複雑な様相を呈し始めていた。東都でも保守系の野党が国民全員の法術適正検査の義務化の法案を提出。世論に押されて与党もその法案に対する対案として年齢を設定しての義務化の法案を検討していることがニュースの中心として取り上げられることになった。他にも法術適正者の氏名発表を望む意見や遺伝子検査で地球人以外のDNAが検出された人間の排斥を訴える月刊誌まで現れて世間は騒然としていた。

 誠は着替えを済ませるとそんな世の中の動きと関係なく静かな冬の寮の廊下を歩き階段を下りる。なぜか食堂には多数の人の気配があって彼を驚かせた。

「西園寺さん・・・なんで俺達まで」 

 入り口でジャージ姿で突っ立っている島田。隣の菰田もめんどくさそうにあくびをこらえていた。

「鍛え方が足りねえから鍛えてやろうってんだ。感謝しろよ」 

 二人を眺めながら食堂の椅子にどっかりと腰を下ろしている要。奥からは早すぎる食事を作る音さえ聞こえてきていた。

「なんですか・・・寮の全員ですか?」 

「これから忙しくなった時を考えたら当然だろ?法術がらみとなれば茜の法術特捜や東都警察の法術部隊じゃ遅すぎることは分かったんだから」 

「でも要ちゃん。それと私達の早朝強制ランニングと何か関係があるわけ?」 

 アイシャは相変わらず不満そうにつぶやく。隣のカウラは要がマメに非番の隊員までたたき起こしたことに呆れるように静かに番茶を啜っていた。

「なんでもそうだが体力が重要だぞ。今回の事件で分かったろ?」 

「誰かはかませ犬になって蜂の巣にされたもんね」 

「アイシャ・・・死にたいか?そんなに・・・」 

「苦しいわよ!要ちゃん!」 

 口答えをするアイシャの首を握って振り回す要。その様子に苦笑いを浮かべながら厨房からこれもまたジャージ姿のヨハンが顔を覗かせた。

「簡単なものしかありませんけど。豆のスープと黒パン。そしてベーコン」 

「それだけありゃ十分だ。とっとと食うぞ」 

 要はそう言うと先頭に立って朝食を乗せるトレーに手を伸ばした。


「朝食!」 

 さっと飛び上がりアイシャが要からトレーを奪う。そして何事も無かったようにお玉を手にしたヨハンの前に立った。

「テメエ・・・」 

「ぼんやりしているからでしょ?この前だって簡単に片腕斬られて腹に銃弾を受けて・・・」 

「オメエなら大丈夫とでも言うつもりか?」 

「そこまで言うつもりは無いわよ・・・でも今現にこうしてトレーを奪われたわけだし」 

 アイシャの言葉に言葉をのむ要。その様子を見ながら笑顔のカウラが一番早くヨハン達から朝食をトレーに受けて一番手前のテーブルに着いた。

「カウラちゃん・・・」 

「早く食べろ。ランニングをするなら食べてしばらくは動かない方が良いんだろ?」 

 平然と食を進めるカウラに要とアイシャは顔を見合わせると並んでいた島田達整備班員ににらみを利かせてそのまま割り込む。

「神前!オメエも早く食え」 

 要の言葉に苦笑いを浮かべると誠はそのまま列に並ばされた。

「でも・・・ランニングから帰ってから食事の方が良いんじゃないの、ホントは」 

 アイシャの何気ない言葉に要の頬がぴくりと震えた。

「考えてなかったみたいだな・・・」 

「一応俺達は生身なんで・・・食べてすぐに運動すると腹痛を起こすかも知れませんよ」 

 カウラと島田の言葉が呆然と立ち尽くす要に止めを刺した。

「うるせえ!それだとヨハンが食べ過ぎるだろ?」

「何で私のせいなんですか!」 

 責任を擦り付けられたヨハンが叫ぶ。それを見ながらアイシャは何事も無かったかのようにカウラの隣に座って食べ始める。

「早くしなさいよ。冷めちゃうわよ」 

 アイシャのちゃっかりした態度に切れそうになる要を見ながら誠も彼女の正面に座ってスープをすすることになった。


「予想通り・・・」 

 要の気まぐれに付き合わされた寮の住人はランニングから戻ると我慢していた腹痛に襲われて食堂に突っ伏していた。不死身の島田も顔色を青くしてテーブルに突っ伏せている。

「気合が足りねえな」 

「気合の問題?」 

 平然として周りを見渡している要にアイシャが青い顔で突っ込みを入れた。

「単に自分の義体の慣らしに全員をつき合わせたかっただけだろ」 

 カウラの一言に少々焦りながら頭を掻く要を見ながら誠も苦笑いを浮かべていた。

「それより・・・面白い話があるんだが・・・」 

「なによ要ちゃん。これ以上何か変なことがしたいわけ?」 

 面倒なことだと言うように顔をしかめるアイシャ。要は仕方が無いと言うように腕の端末を起動させ画面を表示させた。

「遼州同盟の人権機構?例の東和の法術師問題で何か動きがあったわけ?」 

 アイシャはよたよたと要の腕の上に展開された画面に目をやった。

「法術適正の強制化の件ですよね」 

「ああ、そんなことをやられたら遼南あたりは大激怒だと思ったが先に同盟本体が動き出したらしいや」 

 苦笑いの要。誠にとっても身近な問題だけに画面に目が行くのは自然な成り行きだった。

「なんですか・・・法術適性検査の強制化は著しい人権問題になるであろうと・・・」 

「何言ってるんですかね、遼北や西モスレムじゃ強制じゃないですか」 

「島田ちゃん。元々人権意識の薄い国の話をしてもむなしいだけよ」 

 島田の言葉に余裕のある突込みを入れるアイシャを見ながら誠の目は端末を起動させた要に向いた。

「で・・・どうなるんでしょうか?」 

「色々あるってことさ。たぶんオマエのお袋も今回は年貢の納め時だってことだ」 

「母が?なんで?」 

 ぼけっとしている誠に要は大きくため息をついた。

「誠ちゃんが明らかに進んだ法術師である以上、その両親が法術適正があると考えるのが普通でしょ?」 

「あ・・・」 

 アイシャに指摘されて誠はようやく要の意図に気づいた。

「身近にいると気になるよねえ」 

 アイシャの言葉に誠も頷く。恐らく母は法術適正がある。誠もなんとなくそう思えていた。

「国が割れる事態になれば・・・『官派の乱』の胡州の再現か?」 

「そうはならんだろ。東和は一応シビリアンコントロールができてる国だ。保守派が叫んでも軍は動かねえよ」 

 カウラと要。別の話題を口にしながらもその目は誠を見つめていた。

「どうなりますかね?」 

「私に振らないでよ」 

 誠の言葉にアイシャが苦笑いで答える。その様子がおかしいのか島田が噴出していた。

「はいはい!まもなく出勤の時間ですよ!」 

 叫んだのは食堂に闖入してきたサラだった。その隣にはため息をついているパーラがいる。

「アイシャさんに呼び出されたんですか?」 

「まあね。パーラに頼んで送ってきてもらったの」 

 サラの言葉にパーラが引きつった笑いで頷いた。恐らく早朝にアイシャからの電話で無理やり起こされてサラを家まで車で迎えに行ったパーラの苦労を想像すると誠も本当に彼女が不憫に思えてきた。

 突然の言葉だが寮の主である島田とつきあっているサラの言葉に腹痛に唸りながらも隊員達はそれぞれに出勤の準備の為に食堂を後にしていく。

「それにしても・・・なんだか浮かない顔じゃない」 

 サラは島田のジャージの襟をいじりながら誠達を眺めた。

「まあ・・・食後すぐに運動させた誰かさんのおかげでね」 

「しつこいぞ、アイシャ」 

 ばつが悪そうにつぶやく要にカウラが大きくため息をつく。

「それにしても・・・アイシャの頼みで吉田さんに調べてもらったんだけど・・・」 

 そう言うとサラが一枚のチップをポケットから取り出した。

「吉田に?何を?」 

 唖然とする要を横目に笑顔のアイシャはチップを受け取るとそのまま食堂の外へと消えた。


「隊長が動いているんじゃないか?」 

「叔父貴が?」 

 カウラの言葉に要は首をひねった。確かに法術師の存在が社会問題になることを一番恐れているのはその存在を知らしめる戦いをして見せた嵯峨その人なのは間違いなかった。そして今でも遼州帝国皇帝の地位の放棄を認められていない嵯峨の一言に大きな重みがあるのは事実だった。

「政治家に働きかけるとか・・・」 

「それならなんで吉田からデータをあの女が手に入れる必要があるんだ?」 

 要の言葉に誠は反論できなかった。確かに吉田は超人クラスのハッカーだった。だがそのデータが一巡洋艦の副長に過ぎないアイシャにもたらされる意味はまるで想像がつかなかった。

「とりあえず後でそれとなく聞いてみるか」 

 そう言うとカウラが立ち上がる。

「聞くんですか?」 

「着替えるだけだ」 

 誠の言葉にそっけなく答えるとカウラも食堂を出て行った。

「この寒さで汗もかかない癖にな・・・」 

 要はそう言うと伸びをしてそのまま食堂の出口に向かう。

「遅刻するぞ」 

「はい!」 

 振り返っての一言に誠も気がついてそのまま食堂を飛び出した。

「なんだか・・・大きな話になってきたな」 

 階段を駆け下りる隊員達とすれ違いながら誠はそのまま自分の部屋に飛び込んだ。すぐにジャージを脱いでTシャツとジーンズ、ジャンバーに身を包んで部屋を飛び出す。

 階段を駆け下りて玄関に向かうと誠の前にすでに着替えを済ませたカウラと要が立っていた。

「それじゃあ行くぞ」 

「え?アイシャさんは?」 

「アイツはパーラの車で先に出た」 

 それだけ言うと実に普通に靴を履くカウラ。要も気にならないというようにブーツに手を伸ばした。

「そうですか・・・」 

 釈然としない誠は彼女達に付き合うようにスニーカーを履いて立ち上がった。


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