小説「竜の爪 竜の牙 ぼくらの冒険」

ふうわりとあたたかくてきゅんとしたらさいこう。

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小説を書かれている麻耶さんのブログ「時の破片パズル」で、
「指とま文学賞」という企画をやってます。そのために考えてみました。
つばきは普段、自分の長編小説以外を書くことがないので、かーなーりメチャクチャなお話…。
どうか気にせず読んでください。




「花びらの中で」




 心地よいリズムで、小鳥のさえずりが聞こえる。近くに豊かな森があるのだ。
その脇を小川が流れていた。小川に沿って歩いてくると、腰掛けるのにちょうどいい大きさの切り株を見つけた。
ひと休みのつもりで落ち着いたのだけれど、気づけばもうずいぶんとこうしている。
ゆるやかに風が髪を揺らし、花の甘い香りと若草の匂いを運んでくる。
空は、限りなく白に近い虹色をしており、ポカポカと心の芯まで暖まるようだ。

 「その琵琶は、弾くためのものではないのですか?」

突然、背後から声がした。驚いて振り返ると、凛々しい目をした若者が立っていた。
彼は、目を見開いたままの私を見下ろし、フッと小さく笑った。
自分がどんな間抜けな顔をしていたのかと思い、一気に頬が熱くなる。
「そ、そんなことはありません!ただ、琵琶の音がこの景色の邪魔になるのではないかと思い……」
私は気を取り直すと、脇に置いていた琵琶を膝に乗せた。

「今は、私たち以外誰もおりませぬ。それとも、私の為だけに弾くのは、お嫌ですか?」
若者はそう言うが早いか、私の正面にまわり、地面に胡坐(あぐら)をかいて座った。
私が弾くと決め付けているのだ。
彼のあまりに不躾な態度に、どうしたものかと思案していたが、じっと私を見上げる瞳が、まるでお話を待つ子供のようで、
「構いませんよ」
そう返事をしていた。
 
撥(ばち)を握りなおし、もう一度若者の顔を見た。光を湛えた瞳の中に自分の姿。私は姿勢を正し、ゆっくりと呼吸を整えた。
 小鳥のさえずりや風のささやきは、刹那私の中から消える。けれどそれらは次第に、琵琶の音と混ざり合い、私自身さえも呑み込んでいく。やがて形をなくした私は、どこまでも遠く広がって舞い散るのだ。


 「素晴らしい演奏でした!これほど心に沁みる琵琶の音を、私は今まで聴いたことがない!」
力強い若者の声で、私は現実に引き戻された。若者は立ち上がり、大げさ過ぎるほど興奮した様子でこちらを見ている。
「ありがとうございます。喜んでもらえて光栄です。
ですが、あなたなら、今までにいくらでも素晴らしい琵琶奏者にめぐり合えたのではありませんか?」
「そんなことはない!あなたほど美しい琵琶奏者は、この世には居りますまい。それだけは断言できます」
彼は真顔でそう言った。必死ささえうかがえた。

 「美しいと言えば、女は誰でも喜ぶとお思いですか?」
それは、自分でも驚くほど低い声だった。若者は一瞬表情を変えた。しかし、すぐに笑顔に戻った。

「男は女を美しいと褒め称え、女は照れながらも喜んでみせる。それが礼儀ではありませぬか。
あなたが言うと嫌味に聞こえます。嫌っているのは美しさそのものではありますまい。それに群がる男たちか、それとも自分自身か」
若者の目は、恐ろしいほど相手の心を射抜き見透かしていた。
怖くなった私は、思わず視線を逸らした。

「あなたは、随分と血なまぐさいことがお好きなのでしょう?」
ひどく嫌な言い方だと思った。そっと彼を見上げると、
「それは偏見というものですよ」
と、たいして気にしたふうもなく、愉快そうに笑っていた。
「本当の私は、風流を好み平穏を愛する人間なのです」

強い風が吹き、花びらをあたり一面舞い上がらせた。
遠くまで散り散りになる色とりどりの花吹雪を、二人は黙って見送った。
「もっとも」
若者が言った。
「このような場所では、血なまぐさい考えなど浮かびようもありません」
彼のそばに蝶が飛んできて、差し出された手のひらに止まった。
私は、時折恐ろしい光を放つ、若者のいまは穏やかな横顔を見つめた。

 「美しいといわれる事を、嫌っているわけではありません」
私の言葉に彼が振り返り、手の上の蝶が飛び去った。
「ただ、その先に何があったのかと、ふと考えてしまうのです。
 皆が羨む美貌があったとして、欲しいものを何でも手に入れられたとして。はたして他人(ひと)は、私の人生を生きたいと思うでしょうか。いえ、思わないでしょうね」

不思議だった。どうして、出会ったばかりの彼に、こんな話をしているのか。

「悔やんでいるのですか?それとも恨んで?」
彼が聞いた。
「さあ。わかりませんわ。あなたは?裏切られて恨んでいらっしゃるでしょう?ここでお会いになった?」
下品だとも思ったが、今さら気を使う必要もないと感じた。何より聞いてみたかった。
彼はニヤリと目を細めた。
「まさか!恨みなどありませぬ。誰もがみな同じ。
 むろん彼には会いました。私を裏切っておきながら天下を獲らぬとは何事か!と叱ってやりました」
彼は心底楽しそうに笑った。
「憎み憎まれ恨み恨まれ、それも一時のこと。
 さぁ、小難しい話はまた今度にしませぬか?時間はうんざりするほど、いくらでもあるのですから」
若者は大きくを伸びをすると、空を仰ぎ見た。

 そうだった。ここには、私を縛るものは何一つないのだ。
権力も一族の血も愛も欲望も、時間さえも。
すべては、とうの昔に終わっている。
ここでは、自分が望む若さでいられる。だからこそ今の私は、すべてがはじまる前を生きている。
……生きているという表現は、少々滑稽だろうか。

 「そういえば、あなたのことは何とお呼びすれば?」
若者の力ある瞳が、真っ直ぐ私を捉えていた。熱い予感に、胸がわずかに高鳴った。何年ぶり…いや何百年ぶりだろう。

「玉環です。楊玉環(ようぎょくかん)と申します」
若者は私を見つめていた。
「“貴妃”というのは、位なのです。ここでは、身分など必要ないでしょう?」
彼は納得したように微笑んだ。
「もちろんです。ここには、傾く国もありませぬ」
私は思わず笑った。
「私の名は織田信長、信長とお呼びください」
若者が言った。彼も、ここで何かを得たのだろうか。

「琵琶、もう一曲、聴かせてはもらえませぬか?」
信長はそう言って、再び私の前に座ると、キラキラと目を輝かせた。
「ええ、喜んで」

遠くで誰かの声がした。しかしそれは、争いの声ではない。
二人の間をすり抜けた風が、花びらとともに琵琶の音を、どこまでも遠くに運んでいった。

(終わり)

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わー、ファンタジーですね!
出会うはずのない二人ですが、ここは天界なのでしょうか、
こういう世界で語られる「歴史的人物」もいいものですねぇ。
傑作☆

2008/11/16(日) 午前 7:36 麻耶

わ!早速ありがとうございます☆はい、一応天国なつもりです。
歴史の人物でのリアルは、知識がついていかず書けそうもないので、思い切り(お空に)とんだお話にしてみました。

2008/11/16(日) 午前 7:41 [ つばき ]

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美貌に興味があります

2008/11/16(日) 午後 6:42 マミイ

おおっ!
天国といって良いのでしようか。
その場所ならではの出会いですね^^
琵琶の音が、ここへも風に乗って聴こえてきそうでした(*^-^*)

2008/11/19(水) 午後 2:43 [ 月花 ]

つきかさん・・ありがとうございます☆
はい、のどかな天国でのひとこまです。
年代の差が大きいですが、この際気にせず。。

2008/11/20(木) 午後 2:04 [ つばき ]

素晴らしく風流なる雰囲気を感じました。
出会った二人がまたおもしろく、彼らが語った言葉だと思うとまた違った感じのお話になりました。お見事です。

2008/11/22(土) 午前 3:41 タヌキ

短編らしいオチがいいですね。
まさか信長とは思いませんでした。
つばきさんらしくて、いいです。

2008/11/22(土) 午後 4:19 犬乃介

タヌキさま・・コメントありがとうございます☆
歴史が苦手なつばきが考え付いた二人ですので、歴史に詳しい方にはどう見えるかと不安もありますが、そう言ってもらえるととても嬉しいです♪

2008/11/24(月) 午後 4:19 [ つばき ]

犬乃介さん・・ありがとうございます!
短編は滅多に書かないので、公開するのも緊張しましたが、読んでもらえて嬉しいです。
有名人すぎて、どんな人か書きにくくもありました、信長って。

2008/11/24(月) 午後 4:22 [ つばき ]

面白いです!

時を隔て史実では、出会う事のない歴史上の人物が出会う。
冒頭からの流れもスムーズでテンポ良くオチと言う言葉がに合わない程、ラストも綺麗に纏まっていて素晴らしいと感じました。

流石、多くのキャラを使いこなせるつばきさんの筆力が短編に凝縮され文面に表れてると思います。

2008/11/24(月) 午後 9:08 ヴぃヴぁ

ヴぃヴぁさん・・そういってもらえると嬉しいです♪ありがとうございます!
「信長っぽくなくない?」と違和感もあるだろうなぁとは思ったのですが、すんなり読んでもらえたなら、良かったです。
筆力は……ぜんぜん足りてませんよー!何が必要で余計なのかを考えるのに、短編の練習って必要だなと思いました。

2008/11/26(水) 午後 9:30 [ つばき ]

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指とま読み忘れてましたあ。申し訳ありません。さっそくですが、天上界の雰囲気がとても素晴らしいですね。うっとりその世界にのめりこめます。特に気に入ったのは二人の会話です。とても洒落ていて何か達観した感じが大人のムードでよかったです。もう、ほとんど完璧ですね。特に直すところはないと思います。直すところは無いのですが、一つだけ、気になる部分を指摘しますね。
「構いませんよ」そう返事をしていた。と「素晴らしい演奏でした!これほど…」の間が唐突な気がしました。少し加えると雰囲気が出ると思いました。例えば……
私は琵琶を立てるとバチをあて弾き始める。
若者は静かに目を閉じる。
悠久という時が静かに流れてゆく。琵琶の音色に合わせて蝶が私と若者のまわりを舞っている。
やがて蝶は何処へともなく去り、私は琵琶を置いた。
などのような情景を入れてみてはどうでしょうか。適当に作ったので参考としては弱いですが、つばきさんふうのもっと素敵な描写にしてね。(笑)

2008/12/17(水) 午前 11:53 都環 咲耶子(とわさくやこ)

咲耶子さん・・ありがとうございます!!もったいないお言葉、嬉しいです☆
琵琶の演奏、恥ずかしながら音色をよく知らないまま書いたので、形容できずにこのような形に…。やはり不完全でダメですね。。
都環さんスゴい!音楽の美しさや響き、空気感というか、こうしても表現できるのですね!
参考にさせて頂き、加筆したいと思います☆

2008/12/17(水) 午後 2:32 [ つばき ]

都環さんに頂いたコメントから、少しだけ琵琶の演奏の部分を加筆しました。
でも、逆にへんてこになっていたら…。と思うと迷います。直しだしたらきりがありませんっ!!

2008/12/23(火) 午前 1:38 [ つばき ]

はじめまして。麻耶さんのところから来ました。
情緒溢れる良い作品ですね。最後に名を明かすのも粋です。

2008/12/31(水) 午後 5:00 はなみ

はなみさま・・読んで頂きありがとうございます!
みなさん、とても素晴らしい作品を書かれているので恥ずかしいのですが、そう言ってもらえると嬉しいです☆

2008/12/31(水) 午後 10:52 [ つばき ]

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