小説「竜の爪 竜の牙 ぼくらの冒険」

ふうわりとあたたかくてきゅんとしたらさいこう。

最終章 出発

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〜108話 故郷〜

キリエは教会の前に立っていた。
そして、あの日を思い出していた。

部屋着のまま、素足のまま一人で泣いていたあの日を。
微笑んだセーラが、優しく声をかけてくれたあの時。。。
とても神父に見えないジョシュが入れてくれた、温かいミルクの味。

わけもわからず、一人ぼっちになってしまったあの朝。
何が怖いのかもわからないままの、ただひたすらの恐怖。。。

キリエは、もう一度教会を見つめた。

はがれた壁や塀。
板で適当に直された正面扉。
初めて来た時よりも、ずいぶん壊れてしまってるけれど、
それもきっと、グランとトマスがあっという間に直してしまうんだろう。

ロイを怒鳴る、ジョシュの声が聞こえる。
それをからかうヤンリーの優しい笑い声も聞こえる。

「キリエ」

壊れた扉を、面倒くさそうに開けて、セーラが顔を出した。
「ミルク、冷めちゃうわよ!早くいらっしゃい」
笑っている。
「何やってんだよ!みんな待ってんだぞー!」
ジョシュがいつものように、意地悪く言ってる。

自分の故郷、ウラの村に帰ろうと思っていた。
ひとりで・・・。
でも、あたしの家族はウラの村には、もう誰もいない。

故郷はここ。
楽しくて、厳しくて、強くて・・・そして、とびきり優しい。
大切な家族がいるこの村が、この教会が、あたしの故郷。

キリエは、扉の方へ走り出した。。
「待ってよー」

                                おわり

〜107話 懐中時計〜

ヒースは、リリスの言葉通り、待っているはずの家族のところへ帰ることにした。

「普通の家庭で、幸せになれよ!」
ジョシュが偉そうに言い、ヒースはチッと舌打ちをしたが、すぐに小さく頷いた。
そして、キリエを見つめた。
しかし、それきり言葉が出てこない。何を言うべきか迷っているようだった。

「幸せになれよ!」
キリエが言った。
さっきのジョシュのマネをして、胸を張って偉そうに。そして、大きく笑って見せた。
ヒースは嬉しそうだった。
「お前になにかあれば、いつでも飛んでいく。いつでも力になるからな」
そういうと、ヒースは一足早く、ガーディンの屋敷を後にした。


グランは、リリスと話をしていた。
「教会に来ないか?」
・・・とは、まだ言えずにいたが、酔った勢いで、自分の過去の剣士としての話を自慢していた。
グランは、リリスを前にすると、いつの間にかテンションが上がっていた。
それは、はたから見れば、バレバレの態度だったが、グラン本人だけが気づいていなかった。

グランをからかおうと、ジョシュとガーディンが近づいた。
ジョシュは、セーラへの告白の時、さんざんグランとヤンリーにからかわれ、その仕返しだった。
しかしそこでジョシュは、リリスの懐中時計に目を留めた。

ジョシュが、忘れることのなかった少年の日の出来事。
突然いなくなった友人が、母の形見として・・・そして、殺したいほど憎い相手の印として持っていた、懐中時計。
美しい女性の彫刻が施された、金の懐中時計。

ジョシュは思わず、リリスの手からそれを奪い取ると、じっと見つめた。
「これどうした!?」
呆気にとられ驚いていたリリスは、それでもあまりに真剣なジョシュに、
「これは・・・以前親しくしていた人から預かったものよ。 大切なものだから、大事にしてくれって。いつか返してもらいに行くって言ってたわ」
「そ、それは恋人ってこと・・・ですか?」
グランが、ショックを受けたように呟いたが、ジョシュはグランの声は聞いていなかった。

「名前は?その人の名前・・・。今、どこにいるか、わかるか?!」
「今の居場所は、知らないわ。前手紙が来たのは、もう何年も前だもの。 名前は、ナイル。ナイルよ。」
何の話かわからずにいたガーディンも、その名前を聞くと顔色を変えた。
「ナイル!? ナイルを知ってるの!?・・・ジョシュ」

ジョシュは大きく深呼吸し心を静めてから、リリスに時計を返した。
「生きてるなら、それでいいんだ・・・とりあえず。
 ナイルから、また手紙は来るのか?リリス、お前行くところがないなら教会に来いよ。オレ、どうしてもナイルに用があるんだ」

グランが、言いたくて言えなかったセリフは、ジョシュによって簡単にリリスに告げられた。
それは、新しい冒険の幕開けでもあった。。。

キリエは驚いていた。
あれほど強いグランが、どうして剣をやめてしまうのか。
剣を譲る相手が、どうして右京なのか。
いつも一緒にいたトマスの方が、ずっと相応しいのに・・・と。
そして、隣にいたセーラとジョシュの表情を盗み見たが、二人共いつもと同じだった。

キリエは小声でセーラに聞いた。
「どうして驚かないの? どうして右京なの?」
「そうねぇ。決めるのはグランだし、もう決めてしまったようだから、誰にも止められないわ。
 剣は、そうねぇ・・・。。
 グランの剣はきっと、戦うための剣だから、今のトマスには似合わないと思ったんじゃないかしら?
 気になるなら、あとで直接グランに聞いてごらんなさいよ」

セーラは、そっと微笑みながらそう説明してくれた。2人はもしかしたら、知っていたのかもしれないと思った。

右京は、わずかに戸惑った顔をしたが、
「あんたがいいなら、そりゃあオレは光栄だよ!」
と答えた。するとジョシュが、何か言いかけたトマスを無視し立ち上がった。

「じゃあもういいな。 乾杯しよう!
 キリエの自由と、それから・・・ヒースとリリスとグランと・・・・・・まぁいいか!
 とにかく、乾杯!!」
高々とグラスを持ち上げ、ヤンリーとセーラが明るい声で続いた。
納得できない様子だったトマスも、「仕方ないなぁ」と呟き笑うと、グランと酒を飲み始めた。

宴は、みんなの心からの笑顔に溢れた。
豪華な料理に、上等な酒。なにより、戦いの勝利が、そのすべてを幸福に包み込んだ。


しばらくしてジョシュは、酒瓶をもつと、賑やかな席を離れ、広いテラスにでた。
酔った体に風が心地いい。
遠くに、ミレンの町の灯りが、キラキラと見えた。

後ろから、ヤンリーが、グラスを片手にやって来て、同じように町を見つめ聞いた。
「もし竜を倒せなかったら、どうなっていたんでしょうね?」

「・・・何も変わらないさ。
 ミレンには大きな軍隊もあるし、他の誰かが竜を倒す。 あれくらいじゃあ、世界は何も変わりゃあしねえよ。 オレたちが、生きてるか死んでるかの違いだけさ。」
ジョシュは、明るく笑った。
「それもそうですね。 それよりジョシュ・・・あなた、家に寄らなくていいんですか?」
ヤンリーの問いに、ジョシュは急に眉間に皺を寄せた。
「嫌なこというなよ、気分良く飲んでる時に!
 ・・・・・・いいんだよ。 死んでなきゃ、どこかで生きてるって思ってるさ」
「そういうものですかねぇ」
「そういうもんさ」


キリエは、初めて食べる豪華な料理をほお張りながら、ふとみんなを見た。

幸せそうだった。 そして同時に不思議だとも思った。
全く知らない土地に、たった一人で飛ばされてきた自分を、本気で受け入れてくれた教会の人たち。
自分のルーツを調べてくれて、危険を承知で一緒に戦ってくれた人たち。
家族になってくれた人たち。
命を懸けて守ってくれてた人たち。
どうしてだろう? どうしてあの教会に自分は着いたんだろう・・・。
キリエは不思議で、最後に見たお母さんとおばあちゃんを思い出した。

そして、服の上からそっと石の入った袋に触れた。
「ありがとう」
誰にも聞こえない小さな声で、キリエは呟いた。
「ありがとう、みんな。」

「すごーーーい!」
ガーディンの家の別宅に到着するや否や、キリエが叫んだ。

ガーディンは、父親も軍人で、代々王家に仕えている由緒正しい家柄だった。
ミレンにあるその別宅は、ガーディンの祖父が建てたもので、金や宝石、凝ったデザインの家具など派手なものはなかったが、ピカピカに磨かれた大理石の床や、シンプルながら質の良い調度品が、隅々まできちんと手入れされ、そして品良く配置された、落ち着いた屋敷だった。
そして、何より広かった。。。
キリエは、まるで自分の家ほどもあろうかという玄関で、思わず立ち止まり悲鳴にも似た声を上げたのだった。

「本当に・・・すごいわねぇ」
セーラもキリエにつられて立ち止まり、吹き抜けになっている高い天井を見上げた。
「すっごいすっごい!! こんなスゴイお屋敷・・・玄関からちゃんと入ったの、僕はじめてーっ!」
ロイも目をキラキラさせながら言った。
キリエとロイは、キャーキャー騒ぎながら、そのあまりの広さに飛び回った。

「お前ら!恥ずかしいからやめろっ!」
呆れてジョシュが怒鳴った。
みんなを出迎えていたガーディンの家の使用人の女性たちが、クスクス笑っていたのだ。

「そりゃージョシュは、司教様の息子で、自分ちもこんなんだから、何とも思わないだろうけどさ〜。
 僕は違うもん!」
ロイが口を尖らせて文句を言ったので、キリエも一緒になって、
「そーだよーー!
 あたしなんて、義賊だってしてないから、窓からだって入ったことないもん!!」
ブーブー抗議した。
「・・・そんな事を大きな声ではっきり言うな!!!」
ジョシュが怒ったのを見た2人は、
「わー、司教の息子が怒ったー」
「司教の息子が怒ったー」
面白がって、そう言いながら逃げだした。

「はははは! 別にかまわないよ。
 父の許可もとってあるし、使用人はみな信用できる家の者だから、遠慮なく何でも言って、くつろいでよね」
ガーディンがにこやかにそういった。

絵画を見ていたセーラは、その言葉に振り返ると、
「それじゃあ私、お風呂に入りたいわ。。。ゆっくりとお風呂に。できれば、花びらのお風呂が」
「はいはい、すぐ用意させるよ。 グランたちも?」

やはり、その屋敷の広さに圧倒されていたグランも、急にガーディンに聞かれ少し慌てた。
「おぉ、そうだな。あとはやっぱり、うまい酒を!」
ガーディンのそばに、ジョシュから逃げたキリエが走ってきた。
「花びらのお風呂ってなあに?」
「それは、入ってからのお楽しみだよ。セーラとリリスと一緒に行っておいで。 美味しい夕食を用意しておくからね。」
とガーディンは笑った。




大広間のテーブルには、所狭しと豪華な料理が並べられ、キリエたちは嬉しくなった。
「こうして美味しい食事を食べられるって事は、本当に幸福なことなのね。。。」
セーラがしみじみと言った。
彼女からは、さっき入ったお風呂のせいで、花のいい香りが漂っていた。

ジョシュが乾杯をしようと立ち上がったとき、
「ちょっといいか?」
グランが言った。
「宴の前に一つだけいいか? 
 あー、オレのことで悪いんだが・・・・。 今日を限りに、剣士ってもんをやめることにしたんだ」

みんな、コップを持ったまましばらく沈黙した。
「剣士をやめる・・・?」
はじめに口を開いたのはトマスだった。

「どういうことだよ!? そりゃ右腕は使えなくなった・・・」
トマスは、そう言い、ロイとキリエの視線を感じ口ごもった。
「でも・・・でも左腕だって十分戦えるだろ!竜とだって。。。」
ずっとグランを目標としてきたトマスは、珍しく怒っていた。
右京も立ち上がった。
「オレもそう思う!あんたまだまだスゴイだろ?やめるって何だよ?!」

「自分でよくわかるのさ。竜とやり合ってよくわかったよ。。。
 義賊は辞めるつもりはない。 剣を持たないオレでも、使ってくれるか?ジョシュ。」
グランの静かな表情に、ジョシュは、落ち着いた声のまま答えた。あまり驚いていないようだった。
「そりゃあ、もちろん!義賊は殺しあう必要はないからな」
「ありがとよ。」

グランは納得のいっていない右京に向き直った。
「右京。 オレの剣を貰ってくれないか?」

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