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(2)
「どこまでいくの?」
足元にじゃれつく子犬のようなキリエと、並んで歩き始めてから気づく。
「あ、俺、留守番頼まれてたんだった」
そのまま、グランが酔いつぶれているであろうシナコの店へと向かう。役に立つかわからないがグランに留守番を代わってもらわないといけない。もっとも、盗みに入るような奴はこの村はにはいないし、まして教会だ。なにより、あそこに盗られて困るような金目のものなど皆無だから、留守だろうが構わないのだが一応。
事情を話すと、シナコが留守番を引き受けてくれるという。
「グランがいくら強いっていっても……コレじゃあねぇ」
呆れた視線の先には、まだ昼だというのに酒瓶を手にいびきをかく剣豪の姿。いくら休日だからってこれはないだろ。しかも惚れてる女の前でさ。それからシナコは、キリエと俺の顔を交互に見てから、意味ありげに笑った。
「珍しいわね」
何がだ?からかうような口調にムッとして見返せば、
「だって本でしょ?やっぱり珍しいわよ」
「じゃあ教会とグランは頼んだぜ。夕方には戻るし、セーラたちも帰ってくるだろうから」
シナコの笑みの意味もわからないまま俺は店を出た。
天気もいいし、探していた本も手に入る気分のいい午後だ。ごちゃごちゃと余計なことを考えたくはない。
ふと隣りを見れば、キリエも俺を見ていた。
「来て良かった」
「え、そうか?」
「こんな風に出かけるの、子供の頃以来だもん」
言われてみればそうかもしれない。
まだ小さかったキリエと、よく手をつないで村を散歩した。もう十年も昔のことだ。
黒い影に怯えていたキリエをそうやって連れ出し、村の中を案内して歩きまわった。家々の温かな様子を目にするたび、失った家族を思い出すのか、ぎゅうっと握る手に力がこめられ、俺はいつだって胸が痛かったんだ。
それがいつの間にか背も伸びて、すっかり大人の顔をするようになった。
「ねぇジョシュ。手、つなごうよ」
おいおい、父親ってこんな気持ちなのか?
「……村を出たらな」
仕方なさそうに、あえて素っ気なく言う俺に、
「やった!それならすぐ行こ!!」
キリエは嬉しそうに笑い、一刻も早く村を出るべく走り出した。
本当、……参るよな。
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天使の塔〜☆〜
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〜(1) ジョシュ〜
目の前には橙色の髪が揺れていた。
「ジョシュ、起きてよ!」
誰かさんに似た強い口調でいきなり叩き起こされた。なんでこいつがここにいるんだ?と、考えてはみるものの、寝起きのぼんやりした頭では要領を得ない。しばらく目をこすったりあくびをしたりしていれば、今度は呆れたようなため息が聞こえた。
「外はすっごくいい天気だっていうのに、なんで寝てるのよ!もったいない!」
「……いい天気だから、昼寝してるんだよ」
キリエは腰に手をあて、こちらを見下ろしている。なんだよ、お母さんかそりゃ。
「それよりお前は、なんでいるんだ?」
ソファに座りなおし一度大きく伸びすると、肩のあたりがグキリと鳴った。
「……っだから」
「あ?」
「カイトたちにおいてかれたから」
キリエは唇を尖らせて不貞腐れたように小さな声で答えた。聞いたのは俺の方だが、その理由が恥ずかしいなら、まぁ別に言わなくてもいいんだけどな。
「しばらく帰らないのか?」
「知らない!」
カイトたちは賞金稼ぎで、盗賊なんかを追って大陸を駆け回っている。キリエを連れていくことも多いようだが、今回はそれほど危険なのか、長引く予想なのか。どちらにしても、黙って出かけたのだろう。言えばキリエは絶対ついていくからはずだから。にしても、
「だからって……丸一日以上かけてここまで来ること、なくないか?」
暇だから来た、という距離じゃないだろ。そうつっこんでみれば、キリエは的外れに照れてえへへと笑った。なんだかなぁ。まぁそういうところが……いやいや。
「そういえばセーラは?」
セーラの名前が出て、瞬間ギクリと肩を揺らした俺に気づかず、キリエは食堂を見回す。
「ゴホッ!えっと、セーラはメリルと買い物だよ。トマスとロイを引き連れて。ヤンリーはユーに誘われて隣町。グランはシナコの店だろうから、サワとでも会ってくればいいじゃないか?」
けれどキリエは、ぽすんとソファの隣りに座ると、何か期待いっぱいな瞳をキラキラさせながらこちらをじっと見つめてきた。
「?」
「ジョシュ、いちばん暇。出かけよ!あたしもデートしたい!」
……どうやら、ヤンリーとユーが二人で出かけたところに引っかかったらしい。
「えー、俺めんどう……」
そう言いかけてふと思い出す。そういえば手紙が来ていたんだ。探していたものが見つかったという知らせの手紙。
「俺が行きたいところにつき合うってんなら、出かけてもいいよ」
「行きたいところ?」
「本屋」
「うん!行く行く!場所はどこだっていいんだもん!」
立ち上がりながら考える。もう昼近いが、寄り道さえしなければ夕方には戻れるだろう。それに、見つかったというその本を早く見たかった。思い出した途端、今すぐにでも手にしたい欲求がふくれ上がる。キリエが「早くー!」とドアを開けて呼んでいるのに笑って応えた。
確かに外は、昼寝をしてはもったいないほどのいい天気、だった。
つづく
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〜ジョシュ〜
命の使い道。
何のために生まれてきたのか。 これは限られた時間。神に与えられた……いや、ただの借り物。
なにを成すも成さないも、なにを遺すも遺さないも。誰かの為か自分の為か。ただひたすら一生懸命、ただひたすらなげやりに。
酒に溺れるも女に溺れるも、勉学に励むも力を求めるも、欲望のまま振舞うも俯いて歩くも。すべて命あってこそ。 志ありながら病に倒れる者も、自由を奪われ抑圧される者も、力で他者を恐怖させる者も、ただ漠然と日々を流れる者も。すべては時間が許す限り。
命の使い道。
それならオレはこの命で、何ができるだろう。
たとえば誰かを救うことが?たとえば尊い何かを遺すことが?誰かを守り抜くことが? 笑い合えるだけでいい。感謝しあえるならもっといい。共に泣ければそれもいい。ときに本気でぶつかることもあるだろう。だけどそれこそが、あぁ、なんて幸福なんだろう。
命の使い道。
オレの命に意味を与えてくれた彼女を想う。
「絶対無駄に使いはしないから」
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