踊り場でティータイム

河惣益巳先生作「ツーリング・エクスプレス」の私設ファンサイトです。二次創作小説等を掲載しています。

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『真夏の差し入れ』

※パラレル『音楽の捧げもの 4』は20話目まで更新しましたがここで1回お休みしまして、もう少し先のふたりをお目にかけるとしましょう。
ふたりで演奏活動をするようになって最初の夏…の設定です。
つるりんから皆さまに『真夏の差し入れ』です(^o^)



「コンニチハ」
「あ、オージェさん、リーガルさん。こんにちは。かなり暑かったでしょう?大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
シャルルとディーンがやって来たのは、東京都内の小規模ホールの事務室。明日、マチネとソワレでデュオ・コンサートを開催するので、ホールでのリハーサルのためにやって来たのである。
シャルルは楽譜が入った鞄を、ディーンはヴァイオリン・ケースを手に事務室に入ったところ、挨拶の直後に事務員からこう告げられた。
「おふたり宛てにホール気付で荷物が届いています」
そう言って事務員が持ってきたものは、青いPPバンドで梱包された幅50cmほどの段ボール箱である。箱にイラストが描いてあったので、中身は容易に想像できた。
「山梨県の果樹園から発送されていますが“ファン一同より”となっています。このままお持ちになりますか?」
シャルルとディーンは顔を見合わせた。中身は生ものだろうし、それをホテルに持って帰ってもふたりでは日本滞在中に食べきれるかどうか微妙である。
「開けてみてくれ」
ディーンがそう言うと事務員はハサミをもってきてPPバンドを切り、段ボールのふたを外した。箱の中には白い薄紙で包まれた塊がキッチリと詰められている。
「ずいぶん丁寧に梱包してあるな。ボーヤ、開けてみろ」
そう言われたシャルルは鞄を下ろすと箱の中から包みをひとつ取り出した。
「ムッシュウ、これ何て書いてあるんですか?」
薄紙には文字が印刷された小さなシールが貼られている。
「品種名だな。“ピオーネ”だそうだ」
ディーンが見てみると、それぞれの包みに別々の品種名のシールが貼られていた。同じ品種なら一包み持って帰ればいいと思っていたが、ひとつずつ違うとなるとどうしたものか。
シャルルはカサカサと薄紙をほどいていった。
「うわあ!」
シャルルが歓声を上げた。薄紙の中から大きな粒の黒ブドウが現れたからだ。
「すっごい大粒のブドウだ〜!」
ヴァイオリン・ケースを置いたディーンと事務員も手伝って包みをすべて開けてみると、黒ブドウ、赤ブドウ、緑ブドウがそれぞれ2房ずつあった。
「わぁ、これ、どれも食べてみたい〜」
シャルルであれば当然の反応だろうな…とディーンは思ったが、ホテルに持ち帰ったとしてもまさか6房ものブドウをふたりで(と言いつつ主に食べるのはシャルルだが)食べ切れるはずもない。
どうしたものか…と考え込んだディーンに事務員が言った。
「全部の房から少しずつ切り分けて、控室にお持ちしましょうか?」
「そうだな、そうしてもらえると助かる。残りはそちらで食べてもらって構わない」


ホールでのリハーサル後、シャルルとディーンが控室に戻ってくると、テーブルには色とりどりのブドウが載せられた皿が置かれていた。
「さっきのブドウ!美味しそう〜」
シャルルがソファに腰を下ろして見てみると、皿の周囲に付箋が張り付けてあり、そこに品種名が書かれていた。気を利かせた事務員が日本語と英語で品種名を記入していたので、シャルルはひとつずつ品種名を読んでいった。
「いちばん粒が大きいのが“キョホウ”で、艶やかなのが“シャインマスカット”、小さめの粒が“カイジ”、それから“ピオーネ”、“ロザリオ・ビアンコ”、粒の形がいびつなのが“マイハート”だね」
リハーサル中に洗って冷やしておいてくれたのだろう、水滴のついたブドウの粒はどれも美味しそうだった。
「じゃあ、いただきます」
そう言ってシャルルが最初に手を付けたのはシャインマスカットである。小分けにしてある房から一粒もぎ取ると口に入れる。
「ん〜!」
サクサクとした噛み心地に果汁の甘さ、そして鼻に抜けるマスカットの香りに、シャルルは笑みを浮かべた。
「ムッシュウ、これ、すっごく美味しいです♪」
シャルルの表情を確かめたディーンは、シャルルと同じくシャインマスカットに手を伸ばした。
「ほう」
溢れる果汁のさわやかな甘さにディーンが声を上げた。
「確かに美味いな。それにおまえ好みだ。日本のファンはおまえの好みを熟知しているようだな」
ディーンの言葉に頬を染めたシャルルがこう言った。
「貴方以上に知ってる人はいないよ」
その言葉にディーンはフッと笑った。そんな可愛いことを言うシャルルが愛おしくてならなかった。
「え、これって…」
赤ブドウを摘まんだシャルルが驚きの声を上げた。
「ムッシュウ!ホラ、見て下さい。この粒、ハートの形してる!」
そう言ってシャルルが見せた粒は、確かにハートのような形をしている。
「“マイハート”と言う名前はだからか。ぴったりだな」
感心したディーンも同じ房から粒をもぎ取った。それを口に入れようとしたところ、シャルルの手がそれを阻んだ。
「?」
不思議に思ったディーンがシャルルに視線を向けると、シャルルは自分がつまんでいる粒をディーンに差し出しながら言った。
「僕の“マイハート”をあげる♡」
一瞬意外そうな顔をしたディーンは、シャルルの手を掴んで引き寄せるとそのブドウを食べて…そして言った。
「ハートだけじゃなくて、おまえのすべてが欲しいんだが」
その言葉に驚いたシャルルは手を振りほどくと、赤くなりながらこう答えた。
「え…演奏会が終わったら、ね!」
「それは残念。ならばそれまでは、こっちで我慢するか」
そう言うとディーンは手にしていたマイハートの粒を口に入れたのだった。



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