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2019.08.31
つるりん
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2019年08月31日
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アストレ・オーディトリアムからモンマルトルまで、車ならそれほど時間はかからない。
コンマスに就任して数年間は車を所有していなかったので不便を感じたこともあったが、今では時間を気にしなくても済むようになっている。 目的地へ向かって速度を上げながら、ディーンはラジオから流れてくる声に耳を傾けた。 ちょうどアストレミュージックで、アストレ放送管の今後の予定を案内しているところだった。 『…それでは詳しい曲目をご紹介していきましょう』 番組内で語られているのは、半月後に迫ったニューイヤーコンサートの曲目だった。その解説を聞きながら、ディーンは自らチケットを贈った相手を思い浮かべた。 シャルルとは先週の定演で会ったが、あれから上手く気持ちを切り替えて練習に励んでいるだろうか。 別れ際には一応元に戻っていたので大丈夫だとは思っているが、シャルルが友人の言葉にかなり悩んでいたのは事実である。 (演奏会まであと3日…か) 来週の火曜日はいよいよ企画演奏会当日である。 技術的には問題ないだろうが、シャルル本来の音の美しさ、音楽の喜びを表現出来るまでに気持ちを高めているだろうか。先月末に練習を見た時には試行錯誤していたが、その後の出来栄えが気になるところである。 そんなことを考えているうちに目的地に到着したディーンは、車を降りると空を見上げた。冬の夜空は暗い雲に覆われ、頬を掠める風も身を切るように冷たい。 白い息を吐いたディーンはヴァイオリン・ケースを片手に、見慣れた扉を叩いた。 ミカエルとはいつもと同じように過ごしたつもりだったが、ディーンは帰り際にこう言われた。 「何か気になることでもあるの?」 「?」 問われている意味が飲み込めずにいたディーンに、バスローブ姿のミカエルはフッと笑った。 「ごめん、何でもないよ。ただ、あまり眠れていなかったようだし、いつもより早く帰るから…」 「ああ…」 ディーンはまだ夜明けには間があることに気づいた。 ここに泊まった時は明け方には帰宅することが多いのだが、それにしても今朝は随分早めに目が覚めてしまった。というよりも、本番の迫ったシャルルのことを考えたら、そのことが頭から離れず、気もそぞろで過ごしてしまったのが実情だった。 「悪かったな」 それなりに相手をしたつもりだが、ミカエルは普段とは違うものを感じたようだった。 ミカエルは静かに首を振った。 「ううん、いいよ。貴方にもいろいろあるだろうから…」 その言葉の意味をどう捉えるべきか考えつつ、ディーンはミカエルの元を去った。ドアを開ける直前、背中に抱き付いてきたミカエルに触れるだけの口づけを返してから。 車に乗り込むと交通量の少ない道路を走らせながら、ミカエルのところにいても気になっていたことに意識を向けた。 まっすぐ帰宅して着替えを済ませると、まだ早い時刻だから…と、まとまった考えを一旦意識の端に追いやる。数時間後、軽めの朝食を食べてから、ようやくディーンはスマホを手に取った。直接話をした方が時間の無駄がないと考え、通話を選ぶ。 今日は日曜日なので自宅にいる可能性が高いが、もしかしたらまだベッドで休んでいるかもしれん。 いや、もうとっくに起き出して、練習のために音楽院かブリリアント・ホールへ向かおうとメトロに乗っているかもしれない。 あるいは、すでにアパルトマンで練習を始めていて、コール音に気付かないでいるかも。 …そんなことを考えていると、電話は数コールの後に繋がった。 『ムッシュウ!?』 驚いたような声に、ディーンは苦笑した。確かに突然の電話にはシャルルも驚いただろう。 ディーン自身、自分でも珍しいことをしている自覚はあった。 『おはようございます。どうされたんですか?』 「あれからどうしたかと思ってな。もうすぐ本番だが、気持ちは落ち着いているか?」 『心配して下さってたんですね!』 シャルルの声からは嬉しそうな様子が伝わってきた。ディーンが気にかけていると知って、喜んだようだった。 『もうすっかり元通りです。ムッシュウのアドバイスのおかげです。今日はこれからミサに行って、そのあと実家で練習しようと思って』 「俺は今日1日空いているから、演奏会の曲を見てやってもいいぞ」 『えっ!?』 弾かれたような驚きの声は、ディーンがこう誘うと、すぐに勢いのある返事に変わった。 「俺の家でよければ、だが」 『行きます!伺います!』 ディーンは頷きながら、待ち合わせの指示をした。 「ラ・デファンスの駅に着いたら連絡しろ。すぐに迎えに行くから」 『ありがとうございます。じゃあミサが終わったら、すぐに1号線に乗りますね』 “気を付けて来い”と言って通話を切ったディーンは、防音室に入ると、ピアノの蓋を開けて鍵盤を鳴らした。 調律師が来たのは先月の始めだったので、音は良かった。 (これならボーヤも心置きなく弾けるだろう) ディーンは椅子に座るとスケールを弾きながら、この後どうするかを考えた。 続く |
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