作家を目指しつつ、リーマンに・・・

我流ではありますが、作家を目指して行きたいと思います。

練習小説集

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−ある日の事だ。
−誰も知らぬ北の小国で、1匹の獣が生まれた。

−ある日の事だ。
−名も無き国で多くの慟哭が血と共に消えた。

−そして、ある日の事だ。
−命と言う存在から、その価値が消えた。


「よお、アンタも獣狩りかい?」

馴れ馴れしい男だ。
見た所、この男も狩人らしい。
狩人とは、狩られる者。
或いは、狩られた者か。

「止めときな。この先にはイカレた獣しか居ないぜ。俺も少しは名の知れた騎士だったんだが、オツムの壊れた獣の前じゃこの様さ」

誇りある騎士ならば決して失いはしない剣の鞘だけを見せ、男は笑う。
イカレたとは妙な例えだ。
同類だろうに。

「オイオイ、俺の話を聞いていなかったのか?アンタ、騎士ですら無いだろう?命は1つだぜ」

何を言っている。
命は1つだが、大切な物じゃない。
パンの代わりだ。
家畜を育てるより楽で、しかも腐る程ある。
そう、此処にも。

「な!?アンタ、俺とヤろうってのか!?冗談だろ!?俺はもうこの盾しかない、無力な敗北者なんだ!」

男は俺より上等な盾を持っている。
腹も減った。
理由としては十二分だ。

「チキショウ!アンタもイカレてるのか!?」

簡単だ。
切っ先を向ける。
刺す。
パンの出来上がりだ。

「クソッ、盾が・・・盾が使えれば・・・」

盾を構える腕すら失った狩人。
感謝して欲しい。
俺に出会えなければ、この男は最期の時まで追われながら生きねばならなかったのだから。

「これ、じゃ・・・まるで・・・」

まるで本当の獣、か。
人が獣ではないと思っていた。
間抜けな死因だ。

「・・・」

物言わぬ獣は肉でしかない。
喰らう。
啜る。
殺し、死ぬ。
他には何もない。

−ある日の事だ。
−名を失った果ての血で、また1匹の獣が生まれた。






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ワイルドガール

 その日は雪が降っていた。
 灰色の空から舞い降りる灰色の雪が辺りを静寂で包み込む。
 そんな日だった。

「話がある」

 夜中の2時。
 非常識極まる真夜中に私を起こしたのは、そんな一言を言い放った電話だった。
 表示されている相手の名はタケル。
 それまで話したこともなかったのに、偶然にも小学校、中学、高校と同じだった事で仲良くなった男の子だ。
 ぶっきらぼうと言うか、不器用と言うか、どことなく可愛い奴ではある。

「断る!」
 
 私はそれを断った。
 眠かったのだから仕方がない。

「いやちょっと待て!ここはとりあえず聞いてみるのが流れってもんだろ!?」
「知るか!私は眠いんだ!寝る!」
「待て待て!この小説が終わっちまうだろ!」
「知るか!私は眠いんだ!寝る!」
「せめてセリフを変えろ!とにかく寝るな!」

 私は電話を切って、ついでに携帯の電源も切った。
 眠いものは眠い。
 そもそもこんな時間に電話をしてくる方が悪いと思う。
 寝る子は育つのだ。
 私の胸は、こんな所で止まられては困る。
 それに、こんな寒い季節だ。
 ピンク色が可愛い布団ちゃんに捕らえられた私は、白馬に乗った王子様にも助け出せないだろう。

「おーい!」

 まどろみの中、私は夢を見た。
 白馬に乗ったタケルが、私を布団から出そうと襲いかかってくる夢だ。
 私はそれに必死に抵抗したけれど、最後には布団を引き剥がされてしまう。
 憎きタケルはそれだけでは飽き足らず、窓を開け、深夜の冷気を私に。
 
「うわー!悪夢だー!」
「うわあああ!びっくりしたああああ!」

 飛び起きた私の声に驚いたのか、私の布団のすぐ横に立っていた人影が尻餅をついた。
 こんな時間に私の部屋に人影。
 泥棒だ。
 間違いない。

「きゃあああああああ!」
「え、そんな驚く事!?」
「出てってドロボー!」

 私は手当たり次第に泥棒に向かって物を投げつけた。
 目覚まし時計、携帯電話、ぬいぐるみ、漫画、国語辞典、カバン、手裏剣、クレイモア、とにかく近くにあった物は全部投げて気がする。

「殺す気か!?俺を!殺す気なんだな!?」
「あ、なんだ、タケルか。びっくりさせないでよ」

 明かりのスイッチに繋がってるいる紐を引くと、紙一重で投げたものを避けてガクガク膝を震わせているタケルが立っていた。
 泥棒じゃなかったようで、一安心だね。
 
「びっくりしたのは俺だあ!大体な、暖房も何もないリビングに縛り付けてそのまま放置か!?凍え死ぬかと思ったぞ!?」
「あー・・・」

 寝る前にお風呂に入った時にすっかり忘れてしまっていた。
 今日はタケルが家に泊まりに来ていたんだ。
 タケルのお母さんとお父さんが旅行に行ったとかで、今日だけ家でご飯を食べさせてあげようと思ったら、なんやかんやで泊まる事になった挙句、それを提案した私のお母さんとお父さんもお酒を飲みに行ってしまったので、念の為タケルの事をリビングに縛り付けたんだっけ。
 うっかりしてた。

「でもホラ、私みたいな可愛い女の子と同じ屋根の下だと、縛ってないと不安じゃない?」
「手裏剣やら馬鹿でかい剣やらを枕元に置いてる奴を襲うか!」
「でもホラ、男は狼って言うし?」
「じゃあお前は虎か!?それともライオンか!?明らかに俺より強いよな!?」

 今時、普通の子なら護身具の1つや2つ持っていると言うのに、大げさな。
 
「とにかく、私は眠いの。お休み」
「せめて俺にも布団を貸してくれよ!寒いんだよ!もしくはおばさんが何故か洗濯機にぶち込んだ俺のズボンを返して!そうしたら帰るから!」

 タケルはタケル自身が言った状況の為、現在パンツも履かずにお父さんのコートを来ている。
 確かに、このまま外に出たら完全にヤバイ人だ。
 と言うより、そんな姿の男の子と2人きりと言うこの状況も女の子の私からすればかなりヤバイ。
 身の危険を感じる。

「ね、もう1回縛って良い?やっぱ怖いしさ」
「ふざけんな!しかも滅茶苦茶複雑な結び方しやがって!たまたまロープが痛んでて切れたから良かったけど、下手すりゃ明日の朝まで俺はド変態御用達の格好で放置だったんだぞ!?」
「まあまあ、そう言わずに」

 偶然にも枕元に落ちていたロープを片手に問答無用でカケルを縛り上げる。
 昔お母さんの持っていた本で見た、確か亀甲縛りとか言う縛り方だ。
 さすがお母さん、これだけ頑丈に縛れば脱出は愚か身動きも難しいだろう。
 
「ちょ、まっ、どこでこんな縛り方!?」
「あー、ちょっと待って。確かこうやって口も塞いで・・・」

 必死に思い出した本の中身では、猿轡と目隠しもして完全に主導権を握っていた、筈。
 そうだ、そうすれば、カケルを私の布団に入れてあげても大丈夫じゃないだろうか。
 すっかり冷え切った布団も暖かくなるし、私の身の安全は守れるし、一石二鳥だ。
 それに、何だかドキドキする思い出になりそうだし。

「むがー!」
「ハイハイ、暴れないの。ホラ、布団に入れてあげるから。ね?」

 押し倒す形でカケルを布団に入れ、その隣に私も寝転ぶ。
 思った通り、すぐに暖かくなって来た。
 快適だ。

「じゃあ、オヤスミー」
「むががー!」

 次の日の朝、一晩中ムガムガ言っていたカケルは何故かお父さんに連れられてお父さんの部屋に消えていき、戻った時には両目一杯に涙を蓄えながら、私に土下座をしてきた。
 それ以降、今まで通り親しくしながらも、私が私の家族の事を口にすると何故かタケルから汗が止まらなくなる不思議な現象が続いている。




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 この世界には2つの顔があった。
 1つは、ヒトと呼ばれる種族が生きるト界。
 1つは、魔族と呼ばれる種族が生きるマ界。
 2つの世界はコインの表と裏の様にそれぞれに異なる絵柄、すなわち性質を持っていた。
 しかし、どれほど絵柄に差異があろうと表も裏も1枚のコインである事に変わりはなく、極めて近くに存在する2つが混ざり合い、やがてトーマと呼ばれる1つの世界へと変化したのは、コインで例えるならば当然の事なのだろう。
 さて、そんな世界の片隅に1人の男が居る。
 男はヒトと魔族の間に生まれ、ヒトの身体を持ちながらその内に魔族の血を流し、ヒトの世界に居ながら魔族の誇りと共に生きていた。
 男の名はフーロン
 この物語とは何の関係もない人物である。
 
「・・・なんだこれ?」
「さぁの。トーマとなりて幾年、ヒトも魔も可笑しな者が表に出ても不思議ではなかろ」
「そういうもんか」
「そういうものじゃ」

 改めて、ここに2人の男女が居る。
 男の名はカケル。
 女の名はシノ。
 ヒトであるカケルはまだ若く、幼さが残る顔立ちとその背丈から、ともすれば子供にも見える風貌である。
 対して魔族であるシノは大人の色を匂わせる雰囲気と引き締まった褐色の身体に反するかのように膨らんだ胸から、カケルの姉、若しくは母と間違われる事もある。
 実際、1000年は優に超える年月を生きて来たシノにとって、カケルはませた子供に見えていた。
 ヒトと魔族が結ばれる事は少なくないが、魔族と言っても多種多様、悠久と共に生きる者も有れば7つの夜を越えられぬ者も居る。
 カケルにとってはそれが何だと言った所だが、それはシノにとって辛いジレンマであった。

「さて、童よ。そろそろ参ろうかの」
「誰が童だ!俺の事はカケル先生と・・・」
「小童を童と呼んでいるのだ。小が無いだけ嬉しく思え、小童が」
「今、小付けたよな!?」
「やれやれ。カケル、いい加減に参ろうぞ。東の地へ行くのだろう?」
「後で覚えとけよ・・・」

 捨て台詞もそこそこに、カケルは指を口元へ運びそれを強く吹いた。
 高い音が空高く響き渡り、やがて何処からとも無く黒い影が2人を覆う。

「鴉や、そっと頼むぞ。主の爪はちと痛いでな」
「不死の黒姫が何言ってる」
「不死と言えども痛みは怖い。恐怖無きは狂者の証となる。この身は、それを望まん」
「あ・・・すまん」
「なに、童の戯言を気にはしない」
「く、シノ!」
「鴉よ、飛んでたもう。目指すは東、我等を待つ者の地へ」

 2人を掴み、鴉が大きな翼を広げる。
 彼等の二つ名は療魔師。
 余りに多岐に渡るその種族から、同じ魔族ですら不可能とされる魔族の治療を行う者達である。





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「じゃあ、名取はこの子の親友みたいなもんなんだ?」
「はい。私達の出会いは、私がこちらに越して来たばかりの頃に、最初に親しくしてくれた方がお嬢様だった、と言う訳なのです」
「私的には、名取の方がお嬢様っぽいけどね。こんな恰好のまま寝ちゃうしさ」
「お嬢様は、温かくて甘いものを飲むと、眠くなってしまうんですよ」
「・・・名取、ひょっとして、最初からそのつもりで紅茶出した?」
「ふふふ、内緒です」

 話の途中で真が寝始め、名取と選手交代するなんてアクシデントもあったが、私は思っていたよりも充実した時間を送っていた。
 ここまでの話をまとめると、まず、名取は雇われのメイドではなく、小学生の時に地方からこちらに来た時からの親友である真と同棲はしているだけで、メイドとしての振る舞いは名取の趣味との事だった。
 それから、このアパートの住民は、皆ある共通点を持っていて、全員女の子らしい。
 部屋番号が特殊なのは、その部屋に住んでいる女の子が自由に番号を決めているからとの事だった。
と、ここまでは向こうから話してきたほんの挨拶程度のお話だ。
 本題は、これからになる。

「何て言うか、既にツッコミどころが大漁なんだけどさ、そろそろ・・・本題、良いかな?」
「畏まりました。どうぞ」
「まず、なんで名取達が私の母さんを知ってるの?」
「私達は、去年まで、裕子さんと同じ仕事をしていたのです。私達はそれを今も続けていますが、裕子さんは去年の3月に、突然居なくなってしまったのです」

 話を聞いて、それが理不尽であると分かってはいるものの、私は名取にムッとした顔を見せてしまった。
 私が物心付いた頃、母さんは既に家には居なかった。
 私には全く存在していない母さんとの時間を、赤の他人であるこの2人は持っている。
 それで怒るなんてお門違いなのは分かるけど、納得なんて出来ない。

「神代さん、そんな顔をしないで下さい。裕子さんは毎日譫言の様に言っていたのですよ、香穂里と言う子に、ごめんなさいと」
「・・・」
「でも、まさか裕子さんの娘さんの名前だなんて、知りませんでした。だって、裕子さんは、25歳なんですよ?香穂里さんは、今私と同じ歳ですよね?」
「え?今、何て?」
「裕子さんは、ご自分の事を25歳だとおっしゃっていました。なのに、16歳になる娘さんが居る。これがどれ程不可解な状態か、お分かりになりますよね?」

 それは、不可解などと言う一言で済むな代物ではない。
 そういえば、以前、一度だけ、父から聞いたことがある。
 あの日、酔った父が私を犯そうとしたあの時、父は確かに「あの女と同じで、お前ももう来ているんだろ?」と聞いてきた。
 あの時、確か私はまだ小学生だった。
 当時は分からなかった「来ている」とは、そういう意味だったのか。

「あ、ああ・・・」

 言葉が出なかった。
 名取の話が嘘だとは思えないが、だとしたら、私は母さんがまだ小学生の頃に産まれたと言う事になる。

「神代さん!」

 人の家である事なんてお構い無しに、私は胃の中の物を吐き出していた。
 私は、私が育った環境を、特殊な物だと思っていた。
 周りの子は選ばれず、私は選ばれたのだと、虚しいだけの誇りを持とうと努めてきた。
 でも、そんな物は、私を産んだ人に比べれば、ただのやせ我慢意外の何でも無い。
 小学生のまだまだ幼い体に私を身篭って、私のタトゥーに向けられるそれ以上の悪意のない冷たい眼差しを向けられて、母さんは一体何を思っていた?
 父は、そこまで知っていたのか?

「大丈夫ですか?ごめんなさい、私・・・」
「いい・・・へ、平気・・・ちょっと、ショックだった、だけ・・・だから・・・こっちこそ、ごめんなさい・・・汚しちゃった・・・」
「気にしないで下さい。お水、いかがですか?」
「ありがと・・・」

 冷たい水を飲み込んで、私は溜息を付いた。
 それと同時に、私の中で、この先私がすべき事の答えが出た。
 恐らく、これも名取が想定していた通りの事なのだろう。

「名取・・・名取達の仕事、私に紹介して?メイドでも何でもやるから、母さんに近づきたい」
「ふふふ、その言葉をお待ちしていました。今お話したことは全て真実ですが、このお話をしても香穂里さんがそのお言葉を言ってくれなかったら、と心配していたんですよ」
「私は、母さんの事を知りたい。母さんに会ってみたい!だからお願い!私にそのチャンスを頂戴!」
「チャンスって言うのは、貰うものじゃなくて、作る物だよ?だから、チャンスが欲しいなら、戦わなくちゃね!」

 いつの間に起きたのか、真が私に抱き着いてきた。
 それも、何故か服を脱いで、全裸でだ。
 そこで、私は初めて気が付いた。

「真?それ・・・」
「人口肛門だよ。カホちゃん、お母さんの事知りたいなら、カホちゃんも、戦わなくちゃいけないんだよ」

 真は、お腹の左側から突き出たピンク色の物体を指で弾きながら、にっこりと笑った。




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「そんなに睨まないで欲しいなぁ」
「私のお母さんを知ってて、首にそんな痣があって、この家のメイドって言ってる人が、怪しくないわけないと思わない?」
「まぁね。それはカホちゃんの言う通りかな!」
「なーんかさ、変に軽いよね、名取って」
「これでも家では使用人として、恥ずかしくない立ち振る舞いを心掛けてますから!帰るまでは、ハメ外さないとね!」
「ふーん。それにさ、なんとなく、騙されてるって言うか、躍らされてる気がするんだよねー」
「あは、鋭いね、カホちゃん」
「はぁ、ま、良いけどね」

 結局、名取の計画通りに、私は彼女が働く家まで来てしまった。
 私の名取に対する警戒心は、道中のお喋りの中で徐々に薄れていき、いつの間にか彼女からはニックネームで、私は名字を呼び捨てで呼び合う程度の仲になっていた。
 ただし、今、私の前にあるのは、ちょっと叩けば壊れそうな、ハッキリ言えば、ボロボロのアパートだ。
 とてもじゃないが、メイドを雇える人が住んでいるとは思えない。

「で?どれが名取の部屋なの?」
「家と言うより職場ね。家みたいなもんだけど、そこはキッチリ分けないとね!」
「意外にその辺はちゃんとしてるんだ?」
「公私混同の半端な気持ちじゃ勤まらないからね!あ、102号室だよ。ご主人様は、高い所が嫌いだから、1階なんですよー」

 含みのある笑い方をしながら、名取が手でサッと指したのは、1階に並ぶ3部屋の内、左側にあるドアだった。
 指を差さない辺りは、プロなのかも知れない。
 それにしても、3部屋あって102号室が左端と言う配置は、今まで見たことがなかった。
 それどころか、102号室の隣は105号室、上は223号室と、目茶苦茶だ。
 さらに、223号室には、部屋番号の横に『惜しい』と書いてある。
 と、このアパートの摩訶不思議な部屋番号を1部屋ずつ見ていると、不意に、金属が擦れる様音と共に、102号室のドアが開いた。

「誰が高いところが怖いって言ったー!!!」

 開かれたドアから飛び出して来たのは、私の肩くらいまでの身長の、くせ毛なのか、外にはねた毛が揺れる、ショートカットの女の子だった。
 私も背が高い方ではないが、彼女は着ている隣町の高校の制服が無ければ、絶対に高校生には見えないだろう。
 ついでに、スカートが無ければ、男の子に見えてもおかしくない。

「申し訳ございません、お嬢様」
「あ、また!私とユキは家族でしょ?お嬢様は禁止!」
「しかし、私は・・・」
「禁止!そんな寂しい話し方、しないでよ・・・」

 どうやら、名取がメイドで、俯いている彼女がそのご主人様であると言うのは、本当らしい。
 さっきまでは柔らかだった名取の表情も、彼女の前ではどこか固く、端から見れば、話し掛け辛い感じさえする。
 ただし、彼女はそれが嫌みたいだが。

「ん?あ、ひょっとして、香穂里さん!?」

 ここで、ようやく私も話に入ることが許された様だ。
 それにしても、何故私の名前を?

「そうだけど、アナタは?」
「私は如月真!裕子さん率いるチーム・ケロベロスの1人だよ!」
「改めて、私も自己紹介を。名取雪姫です。裕子さん率いるチーム・ケロベロスの1人です」
「チーム・ケロベロス?」「そ!まぁ、こんな所で話せる話じゃないんだけど・・・とりあえず、家に入らない?着替えとかもしたいんだけど?」
「そうですね。神代さん、どうぞ」


「ただいま」と入る2人に続いて、私も「お邪魔します」と102号室に足を踏み入れた。

 本当に、なんの変哲もない部屋だ。
 しかし、6畳の和室が1つあるだけの部屋は綺麗に片付けられ、アパートの外見からは予想も出来ない程上品に見える。

「いらっしゃいませ、神代さん。今、お茶を入れますね」
「あ、その前に、トイレ貸してくれる?」
「はい、お手洗いは、そこのドアを開けて右です」

 名取が手で促した先、玄関から入ってすぐ右側にあるドアを開けると、左手に浴室、右手にトイレがある、脱衣所の様な場所に出た。
 ひとまずトイレのドアを開け、明かりを点けてから、和式の便器に腰を下ろす。
 この時、浴室のスモークガラスの戸に浮かぶ、天井からぶら下がる輪っかの影が見えたのは、きっと気のせいに違いない。
 勿論、水道を借りて手を洗っている時の、鏡に映るそれもだ。

「香穂里さん、ここ!私の隣!」

 ハンカチで手を吹きながら部屋に戻ると、ピンク色の座布団をポンポン叩きながら、彼女が私を呼んだ。
 促されるままに彼女の隣に座ると、名取が用意してくれた紅茶の香りが鼻をくすぐる。

「すみません、今、お茶菓子を焼いていますので、もう少々お待ちください」
「ありがとう、名取。・・・色々と聞きたいんだけど、聞いて良いんだよね?」
「良いよ!バッチこーい!」

 彼女は紅茶にドボドボ砂糖入れてながら、志穂に負けずとも劣らない胸をドンと叩いた。
 彼女では頼りないし、出来れば名取と話をしたかったんだが、こうもやる気満々な所を見せられると無下には断れない。

「じゃあ、まずは、なんでそんな恰好に着替えたのかから、聞いて良いかな?」

 彼女は、何故そんな事を聞くのかと言わんばかりの不思議そうな顔だ。
 私がスポーツブラとショーツだけの姿の彼女から、本当に聞きたい事の答えを聞けるのは、まだまだ先になりそうだ。




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