作家を目指しつつ、リーマンに・・・

我流ではありますが、作家を目指して行きたいと思います。

小説:新・夜の学び舎

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砂原編 疑心

端から分かってはいたが、もうとやかく悩んでいる場合では無くなってしまった。
目の前に居るのはリューセーでありリューセーではない誰かだ。
此処では常識なんて通用しない。
実際に起こっている事が全て。
俺は皆と逸れ、形だけが同じのこの校舎に閉じ込められている。

「改めて自己紹介だ。俺は流星太。シンが知っているリューセーも名前は同じなのか?」
「漢字は同じで、区切る場所が違う。俺の知っているリューセーは星太って名前だ。リューセー、歩きながらで良いから、状況を教えてくれ。俺は・・・」

ひとしきり互いの情報を交換しながら、2階の探索を行っていく。
リューセーが言うには、リューセー達も夜中に学校に忍び込んだところ、突然この校舎に来てしまったらしい。
忍び込んだ理由はユータを生き返らせる為。
此処までは俺達と同じだった。
異なっているのはその次だ。
リューセー達はユータを除く全員が揃ってこの校舎に居たが、倉庫を出た所で髪の長い女に襲われた。
凶器は鋏で、運悪く捕まってしまったモミジは殺され、パニックになり逃げ出してしまったナナとシンを探してリューセーは1人さ迷っていたと言う。

「俺達は此処に来た時点で全員と逸れちまっていた。なあ、リューセー?その女に襲われたと言うのは何時の話だ?」
「まだ1時間も経ってない筈だぜ。その後校舎を探したんだが、見付からなくてさ。もしかして倉庫に隠れたのかと体育館に戻ろうとしても何故か扉が開けられなくなってんだよ。それで、仕方なく1階を探していた時にシンに会った」
「なるほど。まだ殺人鬼が居るかも知れないのか」

嘘をついている、までは言わない。
言わないが、俺が見たあの死体は少なくても1時間前なんて最近のものじゃなかった。
体育館の扉は俺も最初は開けられなかったりと確かに疑問は残る。
1階で会った時の怒鳴ったり、そうかと思えば笑いかけて来たりは、焦りと恐怖の余り逃げたらしいもう1人の俺を安心させる為か。
とにかく、俺自身が殺人鬼の女を見た訳ではない。
このリューセーが俺の知っているリューセーではない以上、信じ切る事は出来ない。

「2階には何も無いな」
「そうだな。実は2階はお前と会う前に俺も調べてたんだ。リューセー、1階はどうだ?」
「1階も何も無かったぜ。残すは3階だけだな」

何も無いとはおかしい。
守衛室に行けば誰かが居るのが正常で、仮に居なくてもこの暗闇で役立つライトはある筈だ。
 誰も居ない、ライトも無いと言うのは、異常じゃないのか。
職員室はどうだ。
職員室には各教室の鍵がある。
本来なら施錠されているだろうが、調べたのだろうか。
一言で済ませたのは、俺に1階に行って欲しくないから、では。

「いや、1階をもっと調べよう」
「時間の無駄になる。3階だ」

ああ、そうか。
このリューセーの目的は、とにかく逸れた仲間との合流だった。
各部屋も人が居るかどうかしか見ていないのだろう。
無鉄砲な部分があるのは、どのリューセーも同じらしい。
折角出会えた友人を疑うなんて、俺も焦り過ぎているかな。

「分かった。でも、気を付けていくぞ。1階にも2階にも居ないなら、3階には殺人鬼も居るかも知れないぜ」
「そん時はぶっ飛ばしてやる。コイツでな」

リューセーはズボンのポケットを漁り、何か光を反射する物を取り出した。
刃物だ。
余り大きくはない、15cmもない刃渡りの刃物。
携帯のライトでは光が強すぎて反射してしまい、それが何かハッキリ分からない。

「どうしたんだよ、それ」
「工作に使ったのを、何かあった時の為に持ってきたんだ。例えば、人型が暴れだしたりした時にな」
「ああ、ユータを復活させる方法か。そっちでも人型を使ったんだな」
「変な本にそう書いてあったんだ。今思えば、あんな本を見付けなければ良かったんだな」
「あの本か。そういえば、そっちでは読めたか?俺達は達筆過ぎて読めなかったんだ」
「いや、こっちも読めなかった。読ませる気ないだろ、あんな目茶苦茶な文字」

まさか同じ本まであったとは。
これもパラレルワールドって事なのか。
気付けば、携帯のバッテリーが後1つになっている。
とにかく、早くお互いの仲間と合流しなければ。

「こっからは緊急時以外ライトを切るぞ。もうバッテリーが無い」
「おう。俺の携帯が使えれば良いんだが、家に忘れちまってな。そうだ、ここは電波はあるのか?」
「あるけど繋がらない。少なくても俺の仲間とは、な」

俺から皆に連絡を取ろうとはしていないが、この場では無理に連絡をし続ける可きではない。
理由は、残り少ないバッテリーにある。
明かりが無い暗闇の中を、殺人鬼と出会うなんて冗談じゃない。
それに、誰からも連絡が来ないと言う事は、俺の言葉もあながちただの憶測では無い筈だ。
己の安全確保が最優先である以上、先ず自分を守る手段の確保が大切になる。

「そうか・・・考えてみれば、俺アドレス帳見ないと連絡先分かんなかったわ」
「明かりは俺が持っているとして、武器を持っているのはリューセーだけなんだ。頼りにしているぜ」
「ああ、任せとけ。見付けたら必ず殺してやるからよ」

背中を冷たい汗が伝ったのは、リューセーの言葉が余りに物騒だったからか。
それとも、リューセーが手にした刃物が工作に使う代物、つまり鋏かも知れないと気付いたからか。
その冷汗が俺を冷静にさせた時には既にライトは消した後。
 辺りを闇と静寂が包み込んでいた。





応援よろしくお願いします!
『ねえ、モミジ?モミジが彼の事好きって聞いたんだけど・・・嘘だよね?そんな筈ないよね?』
『・・・本当。私、彼の事、好き』
『アタシが彼を好きって、モミジ知ってるよね!?何で!?アタシ達、友達でしょ!?』
『・・・』
『酷いよ!アタシ、モミジの事信じてたのに!応援してくれるって!ずっと隠して、アタシの気持ちをオモチャにして!影で笑ってたんだ!』
「そんな事!」
『嘘つき!モミジなんてもう友達じゃない!』

何年か前の事だ。
よく有る話かも知れないけど、私は友達を1人失った。
いや、1人じゃない、かな。
 譲ったんだ、私は。
 友達と彼が仲良くなる様に頑張ったつもりだった。
でも、友達だと思っていた子も、私の友達と仲が良かった大勢の子も、皆私から離れて行った。
私にはそんなつもりは無かった事まで広められたから。

「リューセーが気になる」

ナナは確かにそう言った。
私もリューセーを気にしている。
シンとナナをくっつけようとしてたのは、私の何処かにナナとリューセーを遠ざけたかったからかも知れない。
もし、ナナがリューセーに注目するとしたら、私はどうする可きだろう。
もうあの時と同じ目には遭いたくない。

「コーヨー?」
「ん、何?」
「何か話してよお!だんまりは怖い!」
「ちょっと考え事してたし。とにかく、上の階に行くし!」
「はーい!」

そうだ、とにかくシンとリューセーを見付けないと。
ナナの言葉は気になるけど、今はそれよりもここから帰るのが先だ。
メモにはリューセーの文字で3階に行くとあった。
シンが一緒かはさておき、リューセーは上に居る筈だ。

「リューセー!」
「リューセー!出てくるし!」

階段を昇り、3階に着くと同時にリューセーの名を叫ぶ。
ライトが無ければ何も見えそうにないこの暗い廊下に、きっとリューセーは居る。
居てくれると信じている。

「リューセー!」
「返事、ないね・・・」
「どこかに居るし。メモだけ残して居なくなる奴じゃないし」
「コーヨーってさ、リューセーと仲良いよね?」
「気が合うだけ、だし」

ドキっとした。
さっきまであんなに怖がっていたのに、この子には緊張感が無いのだろうか。
ある意味私も救われているけれど、今は誰が気になるとか話をしている場合じゃないのに。
こんな所でこんな気持ちのままずっと閉じ込められるなんて、冗談じゃない。

「そうなの?付き合ってると思ってたのに」
「・・・」
「じゃあさ、私がリューセー貰っても良い?」
「そんなの私が決める事じゃないし」
「ふうん?」

何が言いたいのだろう。
普段はともかく、今のナナからは悪意を感じる。
こんな時にこんな話をして、私を困らせたいって気持ちが伝わって来る。
怖がりすぎておかしくなっちゃったのだろうか。
どこと無く、ほんの少しだけだけど、ナナらしくない。
それとも、そう思ってしまうのは、私自身のせいか。

「良いんだ?」
「私は関係ない話だよ」
「そう。じゃあさ、私とシンをくっつけよーとしてたのは何故?」
「シンの反応が面白かったから、だし」
「私は無関係に?」
「嫌だったら謝る。ごめん」
「謝らなくて良いよ。ただ、嘘を付かないで欲しいなあ」

嘘なんて別に付いていない。
リューセーがどうなろうと、現状で付き合っている訳でも無い私には関係ない話だ。
仮にナナがリューセーと付き合う事になったとしても、私がそれをとやかく言う権利なんてない。
私の悪戯だって、本当にシンの照れてる顔が面白かったから始めただけ。
それだけなのに。

「嘘なんて付いてないし。ナナが嫌な想いをしてたなら、謝るし」
「本当に嘘付いてない?自分は悪くないって、思ってないかな?」
「・・・」
「自分はこうしてあげたのに。あの子があんな事しなければ。そーやって逃げてない?」
「何それ?ナナ、何が言いたいの?」

違う。
正当化なんてしていない。
私は裏切られたんだ。
悪いのは、私を裏切った子だ。

「思い出して欲しいなあ。本当は誰が誰を裏切ったのか」
「ナナ、アンタ・・・本当にナナなの?」

思い出したくなんてない。
私は応援したのに。
あの子がフラれたのはあの子自身のせいでしょ。
私は関係ない。
邪魔なんてしてないし、変な噂も流してない。
私は友達を裏切った酷い奴なんかじゃない。

「コーヨーってさ、たまに何とかだしーって言わなくなるよね?何で?」
「ナナには関係ないでしょ」
「関係ないとかさ、寂しい言葉だよね。友達じゃん、私とコーヨー」
「・・・」

友達なら人の心に土足で入って来るのか。
不快だ。
一緒に居て嫌な気持ちになる子を友達だって言わなきゃいけないのだろうか。

「うん、そうだね。ごめん」
「謝らないでよ。別に悪いことしてないでしょー?」
「・・・ねえ、ナナ?此処からは分かれて行動しない?2人掛かりの方が効率良いよ」
「ふうん。良いよ、そうしよっか。どう分かれたい?」
「私はまた2階を探すから、ナナは3階を探してみて」
「分かったよー」

少し1人になりたかった。
3階ならリューセーが居る可能性が高いし、2階は始めに見ているからとりあえず安全だと思う。
1人になるのは嫌だけど、今のナナと一緒に居るのはもっと嫌だから。
ううん、アレはきっとナナじゃない。
偽物に決まっている。

「残念だったなあ」

背中で何か聞こえたけれど、リューセーかシンの声以外、今の私は聞く気も無かった。


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リューセー編 孤独

「ユータ!大丈夫か!?」

まるで俺とユータを引き裂く様に溢れ出た闇にたじろぎながら、俺は友人の名を力の限り叫んだ。
返事が返って来ない。
ユータはこの闇を危険だと言っていた。
それは言われるまでもないとして、いくら闇が間にあると言ってもこれだけ叫んで聞こえない筈はない。
校内に居る筈のユータを除く3人にもだ。

「リューセー?何してるの?」
「口だけで何もしないんだね。ホントはユータの事、どーだって良いって思ってるの?」

ナナとコーヨーの声が、俺とユータの間に割って入った闇の中から聞こえた。
違う、これは本物の2人じゃない。
だからこそ、早くユータを助けなければ。

「違う!俺はユータを!」
「じゃあ、おいでよ。ユータは向こう側だよ」
「さっきの事は許してあげるから、おいで」

言われるまでもなく、今すぐにでもユータの下へ向かいたい。
向かいたいが、ライトを向けても何も映し出されない闇の中に入るのはもう御免だ。
闇自体に直接の害はないのは先の更衣室で分かっているが、中にユータで言う闇の化身が居るのだから、危険極まりない。
俺自身が死んでしまう。

「待ってろユータ!すぐ行くから!」

闇に背を向け、階段を駆け上がる。
この校舎に階段は2つ。
もう1つの階段から1階に向かおう。

「行っちゃった」
「行っちゃったね」
「友達を見捨てた」
「見捨てたね」
「お仕置きだね」
「お仕置きだね」

2階を駆け、手摺りを乗り越えて1階に飛び降りに近い形で降り立つ。
軽く足首が痺れたが、そんな事を気にしている場合ではない。
急がなければ。

「ユータ!」
「リューセー」

1階の暗い廊下を駆け抜け、先程の階段へ。
そこで待っていたのは、ユータではなかった。

「相棒!無事だったか!」
「ああ。そっちは?」
「俺は無事だがユータがやばいんだ!ユータを見なかったか!?」
「ユータを?いや、見てないな」

相棒が居た。
無事で居てくれた。
闇の中じゃなく、こうして生身の相棒が。
良かった。
本物に良かった。

「ナナとコーヨーは?」
「分からねー・・・そうだ!闇に気をつけてくれ!」
「闇?」
「ユータが名付けたんだ!黒い煙見たいな、とにかく嫌な感じのヤツさ。で、その中からナナとコーヨーの声がするんだが、本物じゃないんだ!闇の化身なんだよ!」
「落ち着けよ。意味がわからねーぞ」
「言った通りの事が本物に起きたんだよ!とにかく、実物を見るまでは気を付けた方が良い!」
「そうか。他には何かあったか?」

心なしか不機嫌そうな相棒に一通り状況を説明し、まずは守衛室に戻る事にした。
相棒も守衛室を見たらしいが、ライトなど無かったと言ったからだ。
ライトは別に鍵が掛かっている訳でもないロッカーにまだ残っている筈だし、ナナかコーヨーが持って行ったならメモに気付くだろう。
あの2人、少なくてもコーヨーは、俺とユータのメモを見付けながら無視するなんて真似はしない。
何らかの形でメッセージを残しているかも知れない。

「ユータ!ナナ!コーヨー!」

守衛室の戸を開けながら、3人の名を呼ぶ。
しかし、こういう事だけは良く当たるもので、守衛室は先程と何ら変わらずもぬけの殻だった。
机に置いたメモも、念の為ライトが入っているロッカーに挟んでおいたメモを見る様に書いたメモにも、何か弄られた形跡はない。
そう、ロッカーに挟んでおいたメモにも、だ。

「相棒。1つ聞いていいか?」
「何だ」
「俺が親と喧嘩した時にこの部屋でおっちゃん達の世話になっているのは前に話したな」
「ああ」
「前に学校に忍び込んだ時、ライトが入っているロッカーがどれかも話したよな」
「そうだな」
「お前、何処を見てライトが無いって思った?」

思えば最初からおかしかった。
相棒が立っていたのは闇の前だ。
いくら今の諸悪の根源が俺だからって、相棒の態度は明らかに普段と違っていたじゃないか。
まるで、そう、俺の事なんて知らないと言わんばかりに。

「一番左のロッカーだろ?」
「右だ。他は開けなかったのか?」
「開かなかったからな」
「そうか・・・」

嘘だ。
一番右のロッカーは俺がさっき開けたし、このロッカーの鍵は紛失している。
紛失させた俺が言うのだから間違いない。
折っちまったから捨てたのだから。

「相棒、お前、名前何だっけ?」
「何言ってんだ。俺は・・・」

疑いが核心に変わっていた俺は、相棒の答えを待たずにその脇を摺り抜けた。
どうやら誰も信じてはいけない様だ。
もしかしたら、あのユータも。
暗い校舎の中、俺は自分が孤独なのだと痛感した。


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砂原編 友達

 一切振り返る事なく2階に上がり、適当な教室に逃げ込む。
教室は引き戸が2ヶ所にあり、場合によってはどちらかから逃げれば良い。
悪くはない逃げ場の筈だ。
何者かが足音もなく俺にピッタリと着いて来た訳じゃなければ、俺がどの教室に居るかは分からないだろう。
引き戸を開けた際の音で大まかな場所は読まれてしまうかも知れないが、それならそれで向こうが教室に入って来た音で俺も向こうに気付ける。
この暗さだ、下手に机の下に潜ったりせず、引き戸と引き戸の中間に居るのがベスト。
自信を持てる程じゃなくても、俺の足は遅くはない。

「何だよ、シン?どうかしたのか?」

改めて聞くと、全く知らない輩の声だ。
やはり音で検討を付けられているのか、俺が隠れている教室の直ぐ前を声だけが通過する。
落ち着け。
冷静なら、最初から声で気付けていた。
言い方は悪いが、浮かれていては彼女の二の舞だ。
このタイミングで出会ってしまった第三者なんて、お近づきにならない方が良い輩と相場は決まっている。

「出て来いよ!何時までも怖がっている場合じゃないだろ?ナナを探すんだ!」

今、ナナと言ったか。
何故ナナの名前を知っている。
手帳にはナナの名前は無かった筈だが。
いや、血で読めなくなったページにはナナの名前があったのか。
それとも、まさか彼女が。
仮にそうだとして、アイツがナナを探すとはおかしな話だ。
彼女に鋏を突き立てた犯人は別に居ると言うのか。

「シン!怖がっていても始まらないだろう?モミジが殺されたんだぞ!?早くナナを見付けないと・・・ナナが危ないんだ!」

ますます訳が分からない。
モミジ、コーヨーの事か。
殺されたって、誰にだ。
彼女は誰で、コイツは何者で、今俺は何処に居て、何が起こっている。
何を信じれば良い。
クソ、俺はどうする可きなんだ。

「シン!ビビってる場合じゃ・・・」
「クソ!訳分かんねー!お前は何者だよ!お前が殺人鬼だろーが!」

叫んだ。
叫んでしまった。
もうヤケクソだ。
畜生、刃物対素手の優劣が常に刃物に傾くと思うなよ。
世の中には、刃物を持った人間を取り押さえるプロの息子が居るって事を分からせてやる。

「何言ってんだ!?殺人鬼はあのイかれた糞女だろうが!モミジが鋏でめった刺しにされたの、2人で見ただろ!?1人だけパニクって逃げやがって!モミジはまだ生きてたんだぞ!?最期までお前に、俺が、目の前に居たのに・・・・お前に助けてって言ってたんだぞ!?出て来い!ナナだけは守るんだよ!」
「見た!?見たのか!?女なんだな!?」
「おい、頼むぜシン・・・怖くて動けなかった俺が逃げたお前をどうこう言う権利はねーけどよ、消えちまったナナも見捨てるなんて出来ねーんだよ!頼むから、手を貸してくれ!」

流・星太が流星・太だったり、声が違っていたり、コーヨーがモミジと呼ばれていたり、俺の知っている皆と異なる部分があるのは何故だ。
パラレル・ワールドとか言うやつか。
同時に存在している無限の可能性の世界。
ユータのSF映画も真面目に見て置けば良かった。
俺には、意味が分からないものは意味が分からないとしか思えない。
ユータ、俺に一歩踏み出す勇気をくれ。

「俺は砂原慎だ」
「・・・んなの分かってるよ!」

一瞬間があったのは、俺が慎じゃない可能性をアイツも感じていたからだろう。
信じる可きか、信じない可きか。
会話までしてしまったからには、何時までも疑いの段階に居る訳にもいかない。

「薄々気付いているだろ。俺はお前の知っているシンじゃない。お前も、俺の知っているリューセーじゃない」
「・・・」
「俺の友達にもナナと、俺達はコーヨーと呼んでるが、モミジが居る。もしかして何だが、ユータって奴も知らないか?」
「クソ、訳分かんね・・・」
「俺もだ畜生。いっそお前が殺人鬼なら、俺の中で対策も練れたんだよ。でも、お前はリューセーだ。俺が知っているリューセーとは別人でも、お前はリューセーなんだよ畜生。俺を信じる信じないはお前の自由だ。でも、俺はお前をリューセーと呼ぶ。友達だから、あだ名で呼ぶんだよ、リューセー!お前はどうなんだ!?」

こんな10人居たら10人が訳が分からないと答えるであろう状況で、無惨な死体まで見てしまい、ようやく出会えた人間は俺の知っている名を名乗る知らない人物だった。
別にアイツが殺人鬼だって構わない。
俺は皆を探す。
こんな所に隠れている時間は無い。
どんな結果でも何とかするから、早く結論を出させてくれ。

「・・・分かった。分かんねーけど、分かった。信じるからな!お前がシンじゃなくても、お前をシンと呼ぶからな!」
「決まりだ。そこに居てくれ。今、出る」

廊下に出て、声を目安にアイツが居る筈の場所に足元からライトの明かりを向ける。
アイツが飛び道具を持っていたり、俺の背後に回っていたら、終わりだ。
そうでないなら、足さえ見えれば初撃を躱す自信はある。
油断はしていない。
信じたいが、信じきってもいない。
俺はユータじゃない、映画は非日常だから面白いのであって、映画の様な体験なんてしたくもない。
何がパラレルワールドだ。
リューセーが何人も居て堪るか。

「・・・リューセー」
「おう、よろしくな。シン」

 しかし、俺の思惑とは裏腹に、明かりが照らし出したのは、少なくても見た目だけはリューセーそのものだった。




応援よろしくお願いします!
 守衛室までの長くはない廊下を歩きながら、私とナナは馬鹿2人への呼び掛けを続けた。
 廊下に反響する程の声で、何度も、何度も、誰も返事をしてくれない絶望を忘れる為に、叫ぶ度に声を大きくしながら。

「居ないのかな?」
「みたいだし・・・」

 生徒の一部、具体的には、過去に同じ様に学校に忍び込もうとして捕まった事がある馬鹿共ならば、この学校の守衛がどのような警備体制を取っているか嫌と言う程知っている。
 常時2人勤務で、1人は巡回中の守衛の緊急時に応援に向かえる様に守衛室に待機。
 それがこの学校の守衛達の鉄則だ。
 勤務態度はともかく、この点では真面目に働いている守衛が誰も居そうにないと言う状況は、この学校には私達2人しか居ないか、もしくは何か緊急事態が起こっている最中としか考えられない。
 それも、後者だとしたら話を通してある私達の件以外での事件なのだろう。
 前者だとしたら、なんて、考えたくもない。

「コーヨーもやっぱり怖いの?さっきから時々元気が無くなるね。何なら、ナナお姉さんに甘えても良いよ?」
「・・・震えながら言っても説得力ないし。ナナはお姉さんってキャラじゃないし!」

 ナナなりの気遣いなのだろう、懸命な強がりが張り詰めて破裂しそうな私を慰めてくれた。
 この子だけでも助けたい。
 助けないといけない。
 ナナの一言が、動きの一つ一つが、私にそう決意させる。

「守衛さん、やっぱり居ないね・・・」
「どっかでサボってるかもだし。リューセーに買収される様な人達だし・・・」

 守衛室の戸を開けると、中は悪い意味で予想通りがらんとして誰も居なかった。
 誰か居たのに私達を無視していたらそれはそれで問題だけど、それでも誰かに居て欲しかった。

「どうする?ここで皆を待つ?」
「ん、そうす・・・」

 同意しかけた所で、机にライトが置かれているのが目に留まった。
 ライトの下には何かプリントも置かれている。

「ナナ、ライトがあるし」

 廊下の埃で薄汚れているであろう靴下で畳を踏みながら、守衛室の真ん中にある机に並べられたライトを手に取る。
 柄が長くて、金属製で少し重いライトだ。
 ライトの下に置かれたプリントにはリューセーの文字で3階に行くとも書いてあった。
 良かった、皆と離れ離れになってしまった訳じゃないらしい。

「あ、これ!リューセーの字だよね!」
「この汚い字はリューセーだし。私達も3階に行くし」
「うん!」

 ライトは3本あり、私は自分用に1本と、ナナにもライトを渡した。
 後は、シンの分だ。

「ナナ、ペン持ってない?私達もメモ残さないと、シンが迷子になっちゃうし」
「それはそれで面白そうだけどね。ハイ、机の近くに落ちてたよ」
「今度そういう悪戯してみるし」

 ナナからボールペンを受け取って、リューセーのメモの下に私達も3階に向かうと書き足す。
 シンなら同じ様にメモを残すだろうし、リューセーがこんな気の利いた事が出来るとも思えないから、2人は一緒に居るのかも知れない。
 もし一緒に居たなら、女の子2人を置き去りにする様な奴等には後でお仕置きだ。

「メモも書いたし、早速行くし」
「ハイハーイ!」

 多少気持ちに余裕が持てたのか、ナナのテンションが更に上がった気がする。
 良い事だ。
 このままこれ以上何も起こらずに帰れれば、後で良い思い出にでもすれば良い。
 怖がるナナとか、お仕置きで泣き叫ぶリューセーとか、真っ赤な顔したシンとか、ネタには困らない。
 その為にも、私がしっかりしないと。

「ねえコーヨー?コーヨーってさ、どっちかって言うとシンに似てるよね」

 守衛室を出て早々、ナナの口から突拍子もない言葉が飛び出した。
 これは何の伏線なのか、私の乙女な部分が敏感に反応する様な台詞だ。

「そう?」
「うん。クールって言うか、周りを良く見てるって感じがする」
「シンは警察官の息子だし。冷静なのに馬鹿なとこもあるから憎めないし」
「そうだよね!私の事よく馬鹿にするけど、シンも馬鹿だよね!」
「でもナナはもっと馬鹿だし。ある意味バランス取れててお似合いだし」
「え!?お似合い、かなあ・・・そうかなあ?」

 何処となく嬉しそうだ。
 私とリューセーが長い間続けてきたシンとナナをくっつけよう計画の効果が少しずつ実り始めているらしい。
 真夜中の校舎に女の子が2人、か。
 まさかナナから振られると思わなかったけど、ガールズトークの場としては中々面白いかも知れない。

「でもね、私はリューセーが格好良いと思うんだ!ね、私とリューセーって、どうかなあ?」

 私の予想の遥かに斜め上を行ったナナに、一瞬体が強張る。
 ナナがリューセーに興味を持つなんて思っていなかった。
 リューセーは馬鹿だ。
 ナナも馬鹿だ。
 そうは見えないけど、りゅーセーは相手が馬鹿だとフォローも出来る奴だったりもする。
 似合わない、とは言えない。
 きっと、仲良く出来ると思う。

「リューセーもナナも馬鹿だから、何が起こるか分からないし!それはそれで見てみたいし!」
「むー!私は結構真剣なんだよぉ?」
「ナナが本気なら私は・・・応援、するし。ナナ次第だし!」

 何年か前にあった事を思い出し、少し詰まってしまいながらも、私はナナと向き合って笑って見せた。
 ナナがリューセーを好きと言うなら、私はそれを見守るだけだ。
 後の事は本人達が決める可きで、どちらかが本気なら私の出る幕じゃない。
 そうじゃないなら全力でからかうけれど。

「ありがと!コーヨーお姉様!」

 無邪気に笑いながら、ナナが私に手を伸ばす。
 私はその手を一瞬払いたくなった自分に嫌気がさしながら、ナナと手を繋ぎ、さっき降りて来た階段とは逆の階段へと歩き出した。





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