作家を目指しつつ、リーマンに・・・

我流ではありますが、作家を目指して行きたいと思います。

JU

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JU 13

「嘘だろ!?」
「吾波根君は可愛いままで良いのよ!だって私が一生愛してあ・・・」
「こんな、こんな残酷な話があるか!」

 俺の成長期が第三者によって阻害されていたなんて。
 身長は半ば諦めていたけど、何時までも毛が生えて来ないのはおかしいと思っていたんだ。
 こんな変態のせいで俺は大切なものを失ってしまった。
 虎宵に身長を抜かれた時のあの悲しみは、まだ俺の枕に染みとなって残っているぞ。

「テメエだけは許さない!」
「私が気付けなかったなんて・・・。それにしても、流石に酷いね。やり過ぎだ」
「おまじない・・・?ち、ちょっと状況良くわかんないんだけど、アンタのせいで吾波根はお子様なの?それって、酷くない?」

 この怒りをどうしようか。
 殴るだけじゃとてもじゃないが足りない。
 殺してやりたい。

「ぶっ殺してやる!」
「そんなに怒らないでよ!私はただ・・・」
「テメエだけはぶっ殺してやるってんだクソヤロウ!」
「吾波根!?」
「まずい、吾波根君の感情が暴走してる!?」

 殺してやる。
 許せない。
 俺の一生が狂わされたんだ。
 アイツの人生も狂わせてやる。

「暴走ってなんですか!?」
「虎宵君には言ってなかったのね。吾波根君は今呪われているのよ。女の子にモテる代わりに寿命が縮む呪いよ」
「呪い?」
「そう。他に、私がその呪いを相殺する為に反対の呪いを掛けたお守りも持っているわ。呪いって言うのは掛けられた側の感情や考え方に敏感なの。そして、呪われていることで感情が敏感になる可能性も0じゃないわ」
「信じられないけど、な、何だか身体が・・・」
「吾波根君は怒りで我を忘れているわ。もう私にも止められない。吾波根君に掛けられた呪いの力も、吾波根君の感情に乗って暴走し始めている・・・」

 許さない。
 許さない。
 許さない。
 許さない。

「あ、吾波根・・・」
「吾波根君・・・ごめん・・・」
「テメエは殺す!俺が殺してやる!」
「な、何!?鈴蘭ちゃんと虎宵ちゃんは何で服を脱いでるの!?」

 変態の言葉に2人の方を見ると、2人は何故か服を脱ぎ出していた。
 魅殺の効果がまた出たのかも知れない。
 そうだ、あの変態は俺以外にもこうして迷惑を掛けている。
 やっぱりアイツは居ない方が良いんだ。
 俺がアイツを殺せば良いんだ。

「おい、此処に居たか!学校中の女の子がお前の名前を呟きながら服を脱ぎだすお祭り状態だぞ!」

 俺の拳が変態を捉えるその直前、1人の男が間に飛び込んで来た。
 目と目が合う、俺と幸路。
 そして近付く2つの唇。

「うわああああ!」
「うわああああ!?」

 変態への怒りも何処へやら、俺は幸路のそれと重なった唇を雷よりも早く離し、様々な感情と共に昼に急いで食べたカツサンドをリバースした。
 幸路は突然の事態に呆然としている。
 辞めろ、モジモジするな。
 赤くなる位なら幸路も吐いてくれ。

「ま、負けたわ・・・」

 そして、何故か膝を折る変態。
 何なんだこれは。

「貴方達がそんなに熱い仲だったなんて・・・。私の負けよ。吾波根君の呪いは解くわ・・・。吾波根君には私より似合う人が居たのね・・・」
「ち、ちが・・・」
「でも!最後に私にも思い出を頂戴!せめて、吾波根君の温もりだけでも!」

 迫る変態。
 俺は、精神的なダメージからまだ立ち直れていなかった。
 ダメだ、間に合いそうにない。

「!ああ!これが吾波根君の温もりなのね!これが最初で最後の吾波根君の温もりだなんて!でも良いの!私は吾波根君を愛しているから!吾波根君が幸せになれるなら、私は吾波根君の恋を応援するわ!」
「・・・」

 感動で言葉が出ない。
 のではなく、抱き締めると言うよりベアハッグに近い強烈な締め付けに、俺は息が出来なくなっていた。
 苦しい。
 あ、ああ、天使が、俺を迎えに来た可愛い天使が2人見える。

「吾波根のバカア!」
「吾波根君の変態!」

 2人の天使、もとい虎と先輩の強烈な平手打ちが俺の両頬を挟み込む。
 そして、限界を迎えた俺は意識を失った。



「ホラホラ、ね?生えて来たのよ!」
「1本だけひょろっと・・・プププ」
「笑っちゃ可哀相だよ虎宵君」
「鈴蘭もにやけてるじゃない!ね?抜いちゃおっか?」

 あれから1ヶ月。
 変態の変態により変態ハグにより肋骨を骨折した俺は、相変わらずな毎日を送っていた。
 ただ、日常は小さく変化していくものだ。
 鈴蘭先輩は虎宵や姉ちゃんと仲良くなり、今では俺を弄る立場に居るし、変態が転校したおかげで俺はお子様ではなりつつある。

「や、止めなよお!吾波根が可哀相だよ?」
「幸路君、涎出てるよ」
「今は幸子ですよ、先輩!だって、美味しそうなんだもん・・・」

 幸路はアレから何かに目覚め、今では変態二世として毎日元気に絡んで来る。
 噂では、元祖変態を師匠として、今だに連絡を取り合っているらしい。
 虎宵は相変わらずだけど、流石に竹刀を持ち歩くのは止めた。
 代わりに剣道の腕はメキメキ上がり、先日の大会ではブッチギリの成績を残している。

「食べちゃえ!」
「い、良いの!?」

 そうそう、鈴蘭先輩はキャラが毒されて、時々今みたいに目茶苦茶言うようになった。
 原因が姉ちゃんと虎宵なのは言うまでもない。
 姉ちゃんは相変わらず狼で、先日も我が家に遊びに来たイケメンの兄ちゃんが涙目で帰るなんて事件があった。
 ただ、本人は隠しているけど顔はゴリラで心は仏なんて言われている人が気になっているとか。

「もがー!もががー!」

 そして俺。
 俺の変化と言えば、鈴蘭先輩に告白して砕け散った事だ。
 でも、虎宵と姉ちゃんの情報によると満更でもなかったらしいので、諦めてはいない。
 問題は、今またサランラップです巻きにされた挙げ句、猿轡までされている事だ。
 もはや鈴蘭先輩までノリノリで、やっと生えてきた俺の大人の証が抜かれようとしている。
 もう見られる事には慣れたよ。

「えい!」

 プッと音を立てて、俺の大人たる部分が抜き取られた。
 まだまだ俺の苦労は終わりそうにないらしい。

「ぷ、くくっ、こ、子供、あはは、子供ちんち・・・」

「フンガー!」

 言わせない。
 例え鈴蘭先輩が相手でも、俺はその先を言わせない為に今後も戦い続ける。

「あー、面白かった!」
「酷いですよ、鈴蘭先輩・・・」
「あら、良いじゃない。私は好きよ?可愛い吾波根君」
「え!?」
「嘘よ。私は、私を守ってくれそうな頼りになる人がタイプなの」
「そんな・・・」
「フフフ・・・。呪術師は嘘つきなのよ。気をつけなさい」

 俺の戦いが終わる日は果して来るのだろうか・・・。


〜完〜




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JU 12

「鈴蘭先輩!?アレ、なんかヤバいんですか!?」
「かなりね。ありえないよ・・・」
「そんなにヤバい呪いを!?」

 俺は呪いの掛け方なんてさっぱり分からないけど、鈴蘭先輩の表情から察するに、かなり危険な事をしようとしているのだろう。
 あの変態め、何をするつもりだ。
 頼むから、せめて俺が鈴蘭先輩を守れるレベルの呪いにしてくれ。

「ふう・・・血が下がってきたわ・・・」
「は?」
「頭に血が上った時は、下に血を集めるに限るわね!吾波根君、ごめんなさい。私、カッとなり易いのよ」

 えっと、つまり、どういう事だ。
 まさか、血を集めるって、あそこにか。

「吾波根君、帰って良いかな?」
「すみません、鈴蘭先輩・・・あれと2人きりは勘弁して下さい」
「人前であんな事が出来るなんて、考えられない。ありえないわ」

 ありえない程危ない呪いではなく、行動そのものがありえないって訳か。
 いや、ある意味で、呪いよりも余程危険な行動だけどさ。
 この人、かなりレベルが高いぞ。

「他人が気にしている事を指摘するなんて、最低よね・・・でも、安心して頂戴!私なら吾波根君の全てを愛してあげるから!」

 両手を広げ、抱き着いて来なさいと言わんばかりだ。
 あの中に飛び込んでしまったら、100%助からないだろう。
 まるで熊の威嚇に見えるぜ。

「緊張なんてしなくて良いわよ?さあ、おいで!吾波根君の悩みや苦しみも、私は全て抱き締められるから!」
「遠慮します・・・」
「遠慮は要らないわ!来てくれないならこちらから行くわよ!」
「うわっ!来るな!来るならせめて手を洗え!」

 逃げ場がないじゃないか。
 人に勧める好かれるのが嫌だと思ったのは初めてだ。
 なんて面倒臭い。

「とにかく!俺を呪ったのはアンタだな!?早くこの呪いを解け!」
「私の魅力に気付いてくれるまでは嫌よ!吾波根君には、女なんて要らないし!」
「要るよ!俺にとってはスゲー大事だよ!俺にとっては、俺の周りに居る人は皆大事なんだよ!擦れ違ったり、無視されたり、名前も知らない様な人でも、俺の周りに居てくれれば俺にとっては大事なんだ!それを訳の分からない呪いで崩されちゃ堪んないぜ!」

 決まった。
 我ながらカッコイイじゃないか。

「良い事言うね」
「先週見たドラマの台詞なんですけどね」
「やっぱり。それ、私も見たわ」
「私もあのドラマ見たわよ!私達、趣味も合いそうね!」

 ああ、墓穴だったか。
 良い台詞を使う割にあんまり人気ないドラマだから、何時かホントに使ってもバレないと思っていたのに。
 平均視聴率3%のドラマの話が出来る人が知り合いに居るとは思わなかった。

「私達、お似合いじゃない!先ずは男女の中から始めましょ!?初めてでも優しく愛してあげるわ!」
「冗談じゃない!俺は男と付き合うなんて嫌だ!」
「昨日はホモだと言ったよ。もう、付き合っちゃえば良いじゃない」
「鈴蘭先輩!?」

 洒落にならない台詞をサラリと言わないでくれ。
 それに、昨日のは咄嗟に付いた嘘だと気付いてくれたんじゃなかったんですか。

「昼休みが終わってしまうわ。早くケリを付けなさい」

 あ、一向に進展しない話にイラついていたんですか。
 確かに、もうグダグダ話している時間はなさそうだ。

「呪いを解け!悪いけど、どうやってもアンタと付き合うつもりはない!」
「そう・・・分かったわ・・・」

 なんだ、思ったより素直じゃないか。
 いや、既に何度も俺の無視した上で、だけどさ。
 何て言うか、最終的には拳で語るしかないと思っていたのに。

「まだ女に未練があるのね!?分かったわ!吾波根君をホントに心から愛せるのは私だけだって分からせてあげるわよ!」
「何ですと!?」
「鈴蘭ちゃんが守ってるみたいだけど、そんな子供騙しなやり方じゃ意味ないわよ!私が本気になったらね!」
「呪いは掛ける側の想いが強い程強力になるわ。彼くらい思い込みが強いと・・・私もこれ以上吾波根君を守る余裕は無いかも知れない」

 くそう、前言撤回だ。
 やっぱり、戦うしかない。
 言葉で通じる相手じゃなかったか。

「話は聞かせて貰ったわ!吾波根は私が貰うんだから!」

 昼休みが終わるまで後3分。
 俺達の間に、1匹の虎も現れた。
 もうグチャグチャだ。
 血が流れるのは避けられそうにない。

「いきなり何よ!誰アンタ!?」
「樹御虎宵!吾波根の彼女よ!」
「虎宵ー嘘付いちゃダメだぞー」
「彼女ですって!?吾波根君の彼女は私よ!」
「お前の場合は彼氏だろー嫌だけどなー」
「ふふん!私は昔からの付き合いだもんね!吾波根を子供ち・・・」
「もうそのネタは辞めて!俺の傷口をそれ以上広げないで!」

 ああ、神様。
 俺の傷は時が癒してくれるのでしょうか。
 どんなに忘れようとしても、俺のトラウマを弄り回す虎や狼、変態の魔の手から逃げられない気がします。

「吾波根君のが可愛いのは知ってるわ!私は今の吾波根君のスタイルが好きなのよ!だから、ずっと成長しちゃわない様にお呪いしてたんだから!」
「・・・え?」

 身長163cm、自己紹介の時は165cmと言う俺に、衝撃の事実が告げられた。



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JU 11

鈴蘭先輩特製の味の無い味噌汁と黒焦げの目玉焼きを頂き、いよいよ決戦の朝がやって来た。
 昨晩、鈴蘭先輩が教えてくれたとある人物。
 俺も会った事があるその人物は、過去に好きだった人を振り向かせようとした結果、本人は1週間の停学処分、相手は転校した後の行方が分からなくなったなんて事件を起こしたらしい。
 何をやったのかまでは教えてくれなかったけど、鈴蘭先輩曰く、それは呪術的な要素もある行動だったとか。
 呪術の心得がある可能性があり、尚且つ俺に背格好が似ていた男が好きだった人物。
 今日、俺はそんな怪しさ満点の人物に立ち向かう。

「あの人が犯人っていう証拠はないわ。でも、あの人以外に狙った人物に呪いを掛けるなんて真似が出来る人が居るとも思えない」
「怪しさ全開じゃないですか!何でもっと早く教えてくれなかったんですか?」
「証拠が無かったからよ。それに、色んな意味で理由も分からなかったから」

 問題は、鈴蘭先輩が言葉を濁した色んな意味の部分だ。
 鈴蘭先輩が言うには、俺の言葉で確信を持てたのだとか。
 恋愛感情と言う部分で引っ掛かっていて、言い出すに言い出せなかったらしい。

「今日の昼休み、私が屋上に連れていく。吾波根君は、そこで直接呪いを解く様に訴えなさい。本人が言わないと、恐らく効果は薄いから」
「分かりました。でも、また鈴蘭先輩に迷惑掛けちゃいますね・・・」
「吾波根君が3年の教室に来たら、昨日の様な事が起こるわ。私はそっちの方が困るのよ」
「すみません・・・」
「謝る事はないわ。最初に言ったけど、私は私の身を守る為に吾波根君を守りたいの。それに・・・」
「それに?」
「嫌いな人にファーストキスをあげたりしないわ」

 相手が何者だろうがかかって来い。
 朝から真っ赤な顔で目を伏せながら鈴蘭先輩にあんな事を言われた俺は、今幸路以上に不死身だぜ。
 プロレスラーだってぶん殴って見せらあ。
 でも、虎宵の竹刀だけは勘弁な。

「待たせたね。連れて来たよ」

 こうして訪れた昼休み。
 当然何時も以上に授業が頭に入らなかったのはさて置き、いよいよご対面だ。
 さあ、誰が出て来る。
 鈴蘭先輩の口ぶりからすると、3年生で俺の事を好きだと思ってくれている人が出て来る筈だ。
 モテる男は辛いね。

「まさか貴方の方から私を呼び出してくれるなんて!嬉しいわ!」

 鈴蘭先輩に続いて現れた、今回の騒動の諸悪の根源。
 それは、確かに俺も面識のある人物だった。
 いや、面識があると言うには微妙なところか。

「あの時私の事を見ていてくれたのね!良いわ、準備は出来てるから!さあ、言って頂戴!私と付き合いたいって!」
「鈴蘭先輩・・・マジですか?」
「こう言う人なのよ。吾波根君もそうなんでしょ?」

 何が問題って、呪いを使ってまで俺に振り向いて欲しかったらしいこの人は男である事だ。
 昨日、俺が3年生の教室に言った時に俺を可愛いとか言ってたあの人が、何を勘違いしたのか俺からの愛の告白を待っている。
 もう何処から突っ込めば良いのか分からないよ。

「違いますってば!俺は女の子が好きなんです!」
「もう!そんな嘘付かなくて良いのよ!吾波根君は私が一生守ってあげる!」
「人の事呪っといて何抜かしてんだアンタ!?」
「吾波根と私の間に女なんて要らないのよ!もう女なんて嫌いになったでしょ?皆ガツガツして、はしたない!」

 ああ、なるほど。
 魅殺の効果で積極的になり過ぎた女の子を見て、俺が女の子を嫌いになると思っていたのか。
 俺、こんな人に呪われていたのか。
 自分の事だけど、馬鹿らしくなってきた。

「鈴蘭ちゃんだって、ちょっと変な力があるなんて言って、吾波根君にチューしてたわね!?なんてはしたないの!結局、鈴蘭ちゃんも吾波根君を狙ってたんでしょ!」
「違うわ。そういうつもりじゃない」
「嘘よ!私を此処に呼び出したのも、本当は吾波根君と鈴蘭ちゃんでイチャイチャしているのを私に見せ付けたかっただけなんでしょ!?」

 なんとなく、この人がなんで停学を食らったのか分かった気がする。
 被害妄想が酷いと言うか、勝手に暴走する癖があると言うか。
 自分でこうだと思ったら、それは検討違いも甚だしいのに信じて曲げないタイプなんだ。
 凄まじく面倒臭い人だな。

「もう良いわ!吾波根君は私のものよ!誰にも渡したりしないわ!吾波根君の素敵な唇も!吾波根君の格好良い胸板も!」
「吾波根君、こう言う人なのよ。あしらい方、分かる?」
「ここまでぶっ飛んだ人のあしらい方なんて・・・」
「吾波根君の逞しい腹筋も!吾波根君の可愛らしい子供ちん・・・」
「言わせるかド変態が!」

 虎宵や姉ちゃんならまだしも、絶賛暴走中の馬鹿にだけは死んでも言われたくない言葉を言われる前に、思わず助走を付けてボディーブローを放ってしまった。
 いや、これは仕方ないよな。
 こんな奴にまで知られたなんて、俺もうこいつと一緒に此処から飛び降りたい気分だよ。

「正解」
「え?」
「馬鹿は殴られなきゃ治らないわ」

 鈴蘭先輩、ちょっと怒ってたんですね。
 あんな言われ方したのに、全く表情を崩さなかったのは流石の一言です。
 俺の良く知る他の女の子達なら、今頃鮮血が屋上を染めてましたよ。

「吾波根まで私を裏切るのね・・・こんなに好きなのに!もう知らないわ!吾波根君も、鈴蘭ちゃんも、皆居なくなってしまいなさい!」

 物騒窮まりない台詞を吐きながら、歪んだ愛の伝導師は何故かズボンに手を突っ込んで股間の辺りをまさぐり始めた。
 こんなところで何をしているんだこの人は。
 しかし、ただ呆れるだけの俺とは違い、鈴蘭先輩の顔は青ざめていた。




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JU 10

「鈴蘭先輩!?落ち着いて下さい!」
「私は冷静よ。女が好きな男とお風呂に入りたいのは、そんなに変かしら」
「なら仕方な・・・くないです!鈴蘭先輩!それ、多分!きっと!もしかしたら!ひょっとしてですけど!鈴蘭先輩の本心じゃありません!」

 いや、もしかして鈴蘭先輩は本当に俺の事が。
 いやいやそんな筈はない。
 これは魅殺のせいだ。
 でも、もしかして。

「吾波根君には優香って呼んで欲しいな」

 どうする。
 男としてはこのまま流されるのもありなんじゃないか。
 いやいや、それは男らしくない。
 いくら鈴蘭先輩がストライクゾーンど真ん中でも、これは良くない。
 しかし、これは据え膳だ。
 食わなきゃ一生後悔する。
 でも、いやしかし、落ち着け、それでも、待て待て、良いから行け。
 ダメだ、心の中で天使と悪魔が熾烈な戦いを繰り広げている。

「吾波根君は私の事、嫌い?」
「大好きです!」

 落ち着け、俺。
 これは魅殺の影響なんだ。
 いくら人生で次があるか分からない位のチャンスでも、ここで流されちゃダメだ。
 男を、俺の中の漢らしさを総動員して堪えろ。

「鈴蘭先輩!やっぱりダメです!」
「何故?」
「お、俺は・・・」

 考えろ。
 いや、考えている時間なんてない。
 スモークガラスから向こうの様子を察するに、鈴蘭先輩は既に制服を脱ぎ終えている。
 考えるな、感じろ。

「俺は鈴蘭先輩が大好きです!でも、実は、俺は・・・」

 ええい、こうなりゃ自棄だ。
 もうどうにでもなれ。
 失敗したって良い思いをした後に呪い殺されるだけじゃないか。

「俺は性的には男じゃなきゃダメなんです!俺、ホモなんです!」
「え・・・?」

 言っちまったぜ。
 さあ、どう来る。
 もはや俺に怖いものなんて何もないぜ。
 あれ、なんだろう、涙が出て来た。

「そう、だったの・・・分かったわ。私は夕食の準備に戻るわね・・・」
「はい・・・お願いします・・・」
「吾波根君?声が震えているけど」
「気にしないで下さい・・・」

 念の為に言っておくが、これは嘘だ。
 断じて嘘だ。
 俺は鈴蘭先輩の貞操を守る為、捨ててはいけなかった俺の中の何かを捨てた。
 俺の決断を笑わば笑え。
 頼むから、誰か笑ってくれ。
 今、穴があったら入りたい気持ちで一杯だ。
 穴を掘るのも掘られるのも御免だけど。

「お風呂、頂きました・・・」

 途中から湯加減なんて全く分からなかった風呂から上がり、味噌汁と焼き魚の良い匂いがする台所に向かうと、鈴蘭先輩は涼しい顔でお椀にご飯を装っていた。
 良かった、再びお守りを身に付けたおかげか、鈴蘭先輩も元に戻ってくれたらしい。

「吾波根君、さっきはごめんなさい。取り乱してしまったわ」
「いえ、気にしないで下さい」
「ありがとう。安心して、誰にも言ったりしないから」

 鈴蘭先輩が元に戻ったのは良かったけど、何があったかは忘れてくれていなかった。
 いかん、また泣きそうだ。

「違うんです!アレは咄嗟に付いた嘘で!」
「うん、分かったから。それにしても、念の為に防呪を強めたのに。全く意味がなかったわ」
「本当なんです!俺は本当にホモじゃないんです!我慢するのに必死だったんです!もういっそやっちゃおうかとか、悩みに悩んだんです!」
「誰にも言わないってば。恥ずかしがる事じゃないわ」

 ああ、否定すればする程誤解が深くなってしまう。
 違うんです鈴蘭先輩。
 俺は、鈴蘭先輩の為に覚悟を決めたんですよ。

「こんな事なら悪魔に従えば良かった・・・」
「冗談よ。今日だけで、吾波根君がどんな男の子かは大体分かったもの」
「えーと、つまり?」
「本当に同性愛者なら、お湯を入れ替えただけであんなにショックを受けたりしないでしょ」
「すみません・・・」

 鈴蘭先輩、ちょっと気にしていたんですね。
 まあ、確かに我ながら気持ち悪いな。
 次からは気をつけよう。

「咄嗟の機転としたら良かったわ。おかげで私も助かったし」
「やっぱりショッキングな台詞でした?」
「そうね。でも、多分他の子には通じないわ。私はあの時、吾波根君が大好きになった。だから、吾波根君が私とするのが嫌なら、手を引こうと思えたの。私の謙虚さに感謝なさい」

 フフフと微笑む鈴蘭先輩を見て、逆に俺が鈴蘭先輩にキュンとしてしまった。
 見ず知らずだった俺の為にここまで頑張ってくれている鈴蘭先輩。
 身体まで張ってくれた鈴蘭先輩。
 正直、惚れそうです

「虎宵だったら問答無用ですね、きっと」
「かも知れないわね。でも、ごめんなさい。さっき分かったのだけど、これ以上吾波根君を守り切れる自信は私にはないわ」
「十分ですよ!これ以上鈴蘭先輩に迷惑は掛けません!」
「そうしてくれると助かるわ。でも、私の占いでも犯人が分からないの。魅殺の呪いは相手を死に至らしめる呪いよ。吾波根君、本当に誰かに怨まれるような覚えはないの?」
「無いですね。強いて言うなら、散々迷惑を掛けた鈴蘭先輩くらいです」
「私が吾波根君を憎いと思ったら、魅殺なんかより強烈な呪いを掛けるわ」

 本当に出来そうで怖い。
 余り鈴蘭先輩を怒らせないようにしよう。

「そう言えば、私が魅殺について説明した時に、吾波根君は私の考えとは違う事を言っていたわね」
「相手に気付いて貰えないから、魅殺を使って結ばれようとした。って言いました」

 まあ、これは俺の願望だったんだけど。
 殺したい程俺を好きだと思っている子が居るとしたら。
 ヤンデレは恐ろしいけど、男としては女の子にそこまで好かれているって言うのは悪い気分じゃないよな。

「・・・ちょっと心当たりがあるわ」
「え!?本当ですか!?」
「ええ。私達3年生の間では有名な話なんだけど、1人居るのよ。吾波根君に好意を寄せているかも知れない人が」
「誰ですか!?」
「その前に、そろそろ食事にしましょう。冷めてしまうわ。男の子に料理を振る舞うなんて初めてだから、これでも頑張ったのよ」

 最高の調味料が料理に降り懸かったところで、一先ずは鈴蘭先輩の手料理を食べる事となった。
 今日食べた鈴蘭先輩の手料理の味を俺は忘れないだろう。
 最高だった。
 最高に美味しい、生焼けの焼き魚だった。
 ありがとう、鈴蘭先輩。
 実は料理は苦手とか、最高の萌えポイントを確かに頂きましたよ。

「・・・次はもっと頑張るから、また食べに来なさい」

 食事の後に鈴蘭先輩がポツリとが呟いた言葉に、俺は完全に鈴蘭先輩に惚れた。






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JU 9

鈴蘭先輩の案内に従い辿り着いた先は、俺もよく使う駅から自転車で40分程の、寂れた住宅地だった。
 余りの嬉しさに車やバイクを抜き去りながらの40分だ。
 普通なら倍以上の時間が掛かると思う。
 鈴蘭先輩がどうやって毎日登校しているのか疑問だね。

「鈴蘭先輩!」

 無数に立ち並ぶ平屋の内、他より目立つ家のチャイムを鳴らす。
 鈴蘭と表札に書かれたこの家は、周りの家より綺麗なのだ。
他がボロボロで年季どころか歴史を感じさせるのに対し、鈴蘭先輩の家は造りは周りと大差なくとも壁や塀、屋根がマメに整備されているのが窺える。
 鈴蘭先輩は綺麗好きなのだろうか。
ああ、ダメだ。
余りにも嬉しくて、今なら道端に咲いたタンポポについてだけで小一時間話が出来る気がする。

「いらっしゃい」

出迎えてくれた鈴蘭先輩は、まだ制服のままだった。
私服の鈴蘭先輩が見れずガッカリしたけど、もしかしたら着替えを覗けるかも知れないと思い付いた途端に色々と膨らんで来た。
あれだけの事をされていても女の子が気になってしまうのが男の悲しい性ってやつさ。

「どうぞ。散らかっているけどね」
「お邪魔します!」

整理整頓された、と言うより、目に見える範囲では通学用のローファー、サンダル、運動靴の3足しか履物がない玄関を抜け、案内されるままに廊下を歩く。
途中に見えた台所には包丁、プラスチックのまな板、フライパン以外の調理器具は見当たら無かった。
これで散らかっているなんて、女の子はどうして自分を卑下た台詞を言ってしまうのだろう。
散らかす方が難しいであろう物の無さなんだけど。

「この部屋を自由に使って。私は隣の部屋に居るから」

 案内されたのは、廊下の突き当たりにある和室だった。
普段何に使っているのか想像出来ない、畳以外何もない和室だ。
それにしても、鈴蘭先輩は確か一人暮らしと言っていた。
それにしては家が広い。
玄関から真っ直ぐに伸びる廊下の突き当たりであるこの部屋に着くまでの間に台所を除いても4つの部屋らしい襖があったのだが。

「私の家庭事情が気になるけど、言ってはいけない気がする」
「え?」
「顔に書いてあるよ」

鈴蘭先輩はクスクスと笑っている。
今日初めて会った人にこんな事を思うのは失礼かも知れないけど、鈴蘭先輩って笑えるんだ。
今日だけで色々あったけど、鈴蘭先輩は感情を顔には出さなかった。
ある意味では完璧に顔に出てたけど、笑ったり、怒ったりを表情には出さなかったんだ。
意外だった。
澄ましてる鈴蘭先輩は綺麗だけど、笑っている鈴蘭先輩は可愛いんだな。

「単純に両親がどちらも出張しているだけよ。母は大工、父は建築家としてね。母が無理矢理父を連れて行ったのだけど」
「ぱ、パワフルなお母さんですね・・・」

 良かった、深い理由はなかったみたいだ。
 感情を余りに表に出さなくて、一人暮らしと言ったら、ご両親に何かあったなんて流れが王道だし、無駄に心配した。
 無駄で良かった。

「とにかく、今日は疲れたでしょ?私はもう入ったから、お風呂に入って来なさい」
「鈴蘭先輩の残り湯ですか!?」
「残念ながら、お湯は入れ替えてあるわ」
「ああ、そうですか・・・そうですよね・・・」
「そんなにショックかしら?何だか私の方が申し訳なくなってくるわね」
「ショックですよ!」
「ご、ごめんなさい・・・」

 なんて事だ。
 俺の楽しみの1つが今音を立てて崩れ去ってしまった。
 是非、飲みたかったのに。

「あれ、そういえば、風呂入ったのに制服なんですか?」
「他に服がないのよ」
「くそっ!くそおおお!」

 ツッコミどころが色々あるけど、どうやら着替えも期待出来ないらしい。
 折角の鈴蘭先輩と2人きりのお泊りなのに。
 こうなったら、殺されるの覚悟で据え膳食ってしまおうか。

「そうそう、私を襲おうとしても無駄よ。今朝も言ったけど、護身術には自信があるの。一生使い物にならなくなっても良いなら来なさい」
「・・・遠慮します」
「懸命な判断ね。ほら、お風呂に入って来なさい。吾波根君の為に色々用意はしておいたから。晩御飯は食べたのかしら?まだなら、私もだから2人分用意するけど」
「まだです!」
「そう。あまり期待はしないでね」

 鈴蘭先輩の手作りご飯。
 来て良かった。
 少なくても1つは俺の願いが叶いそうだ。

「それじゃあ、お湯を頂きます」
「ごゆっくり。シャンプーとかボディーソープは好きなだけ使ってくれて構わないから」

 俺に貸してくれた部屋の向かいにある磨りガラスの扉を開け、脱衣所で脱いだ服を綺麗に出来る畳む。
 着のみ着のままだったから俺も制服のままだ。
 せめて替えの下着が欲しかったけど、贅沢は言えない。

「こ、これが鈴蘭先輩のお風呂!」

 風呂場は和風な家とは反対に白とピンクのタイルが可愛い女の子らしいものとなっており、沸かしておいてくれたのか、少なくても俺の家のそれより大きな浴槽のお湯からは湯気が上がっている。
 鈴蘭先輩、良いお嫁さんになるだろうなあ。
 俺のお嫁さんになってくれないかな。

「お湯加減はどうかしら?」
「最高ですよ!鈴蘭先輩!」
「そう。良かった」

 用意してくれていた新品のスポンジで身体を洗い、鈴蘭先輩と同じ匂いがするシャンプーで頭を洗い終えた頃、鈴蘭先輩が脱衣所で何か作業をしながら声を掛けてきた。
 ますます良いお嫁さんになるだろうと確信すると共に、最高の湯加減の湯舟に入っているのに何故か背筋に冷たい何かが走る。
 あの音は、作業をしている音ではない。

「私も入るわ」
「え!?」

 そうだ、俺は今入浴中、つまり全裸だ。
 鈴蘭先輩から貰ったお守りを今は持っていない。
 剣のキーホルダーを貰った後は鈴蘭先輩の力で何とかピンチを切り抜けたけど、その前、今朝初めて鈴蘭先輩と会った時は鈴蘭先輩の防呪も役に立たなかった。

「我慢出来ないの。私も一緒に入るわ」

 間違いない、あの音は鈴蘭先輩が服を脱いでいる音だ。
 今、俺の男としての器が試されようとしている。





応援よろしくお願いします!

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