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「ぐ・・・・」
一人用の病室のベッドで目を覚ました慎は小さく呻いた。薄く開いた瞳に清潔な白が映える。
「ここは・・・!!」
5分ほどボンヤリとした後、弾かれた様に身を起こした。おぼつかない足取りで窓まで歩いて行き、カーテンを勢いよく開く。視界一杯に差し込む真昼の日差しで思わず目を覆う。目が光に慣れるまで数秒待ち、慎はゆっくりと目を覆っていた手をどけた。そこにあったのはまったく見覚えの無い町並みだった。
頭がズキズキと痛み、視界が歪む。足に力が入らない。
ガチャ
扉の開く音が聞こえた。反射的にポケットに手を伸ばす。慎自信があるわけないと思った小型のナイフがそこにはあった。病室に入ってきた白衣の女性が看護婦だと理解するのに数秒かかり、その隙にナースは慎からナイフを取り上げ、ナースコールを押す。数分で白衣の男性とスーツの男が病室に入ってきた。白衣の男性は慎の脈や呼吸数、血圧などを一通り調べると数回うなずき、スーツの男達に促されるままに看護婦と共に病室を後にした。
「私達は警察の者だ。そう身構えないでもいい。体は大丈夫かい?」
看護婦が慎の診断をしている時にスーツの男達に見えないようにそっと返してくれていたナイフをベッドの中で構えていたことを見破られたようだ。ナイフを手に持ってから頭痛と目眩は無くなった。
「平気・・・です」
「君に幾つか聞きたいことが有るのだが・・・・先に君が質問してもいいよ。何でも聞いてくれ」
スーツの男は病室に備え付けられた椅子に腰掛けると鞄から束ねられた数十枚の書類を取り出した。慎はナイフの刃の部分を男が鞄に視線を向けると同時にしまった。子供といえどもナイフを持った者が自分に敵意を向けているのに意識を逸らせる。それは己の力に自信があるか向かうに敵意がないからだということを慎は悟った。
「ここはどこですか?」
「朝草町だよ。君の生まれ育った町だろう?まだ記憶が混乱しているのかな?」
「俺はなぜここにいるんです?」
「君は8月26日。今から約1ヶ月前に夜中の学校に忍び込み、屋上で突然倒れたんだよ君の友達が直ぐに救急車を呼んで・・・」
「友達・・・そうだ!!伽藍!伽藍達はどうしているんです!?」
慎はスーツの男に掴み掛かろうとしたが、体を起こしたところで中断した。男の視線がそれを許さなかった。蛇に睨まれた蛙の様に体を硬直させた慎に男はニッコリと微笑みながら手の動きで横になるように指示をした。
「救急車が学校についた時には君同様に倒れていたよ。君と違っていたところは皆死亡していた所だ。砂原君。君のそのナイフによる刺殺でね・・・」
男が書類をめくりながら穏やかに言った言葉が静かな病室に響いた。慎の額に汗の粒が滲む。
「う、嘘ですよね・・・・?」
「こんな悪趣味な嘘を病み上がりの君に言うわけ無いだろう?」
「・・・違う・・・」
慎が隠れて再びナイフの刃を出す。
「砂原慎が犯人ではないことはわかっている。君が倒れたという連絡が友達から入っているのが証拠だよ。一応話を聞きたかったんだけど・・・もういいや。いろいろとわかったから」
書類を鞄に戻している男から微かに血の臭いがした。
「ああああ!!!!」
この男をここで殺しておかなければいずれ自分が殺される。慎の力はそれを見抜いていた。男の首をナイフで刺し貫き、そのままナイフを斜め下に向かって引き抜く。男はゆっくりと顔を上げ慎を睨んだ。
「おめでとう。永久の輪廻は君を中心に回り始めた。君は無の力を手に入れたのだ・・・力は君の望むままに姿を変える。君がその力で何に使うか・・・それは君が決めるんだ」
1滴も血がついていない病室の床に微笑みながら男は倒れた。
「・・・・力、か・・・」
数十分後。紙袋を持った看護婦が再びやってきた。看護婦は慎に紙袋を渡し、中に入っていた服に着替えるように言いながら床に倒れている男の首、慎がナイフで刺した辺りをそっとなでた。傷が綺麗に無くなり、男がゆっくりと起き上がる。
「大丈夫よ。これは人形だから。同じようなの見たことあるでしょう?」
看護婦は将の家であった出来事を見ていたかのように言った。
「砂原君。君は永久の輪廻を廻す側のものになったよ。それは他の運命を変えることもできるほどの力を持てたということ。伽藍は貴方の手に入れた力で呪われた運命を全て断ち切ろうとしていた・・・砂原君。君はどうする?」
「決まっている・・・伽藍の意志を継ぎますよ。任せてください。伽藍翔子さん」
慎はナイフをポケットにねじ込み、病室を出て行った。伽藍の母が看護婦をやっていたというのは初耳だったが、彼女は全てを覚悟していたようだ。おそらく誰が生き残っても息子と同じ道を歩ませていただろう。たとえどんな手を使ったとしても。前回の永久の輪廻の生き残りであった彼女は自分の手で運命を断つことを考えたが、それは叶わなかった。それは彼女が無の力を人形を直したような復元の力にしたせいなのか麻薬のせいなのか・・・俺の無の力はまだ形を持たない。この力を運命を断つ力にすることが当面の目標となるだろう。見覚えの無い町並みのはずなのに自宅がどこにあるのか、通っている学校、よく行く遊び場、スーパーマーケットやコンビニに至るまで全て場所がわかる。これが俺がもともと持っていた力。直観力。
「ただいま」
家には誰もいなかった。父親は前回の永久の輪廻に弾かれ死んだ。母親は仕事に行っているのだろう。
慎は携帯で母に電話をした。全てを話すために・・・・
「ホコロビ」に続く・・・
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