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学生時代、『よく患者さんの話を聞くこと』といわれました。
一般に“話を聞くこと”は、受身な行為だと思われています。
しかし医師が患者さんの話を聞く場合は、受身であってはいけません。
受身で黙って話を聞いているだけでは、
患者さんは必要なことをなかなか話してくれないからです。
自分の知識や経験、何よりも想像力をフル稼働させて、こちらからあれこれ質問し、
積極的に聞き出さねばなりません。
“話を聞く”だけでは十分でなく、“会話をする”ことが重要です。
(これは別に、医師だけに限ったことではないでしょう。)
※ ※ ※
診察する上でこのような“会話をする”ことを、問診(もんしん)と呼んでいます。
問診は診療の基本ですが、最近は“診療の究極”とまで思うようになりました。
昔は、『問診をして、検査をして、診断をつける』と考えていました。
今は、『問診でおおよその診断をつける。検査はその確認作業。』
という流れが最上の診療だと考えています。
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もっとも実際は、このようにスムーズにいくことは多くありません。
その数少ない“たいへんスムーズに運んだ診察の一例”を紹介してみます。
患者さんは60歳代の男性。初診の方です。
あらかじめ書いて頂いた問診票には『風邪をひいた』と書いてあります。
しかしこの場合の“風邪”は“自己診断”といって、判断の邪魔になるので
“無視”しなくてはなりません。
ただそれを指摘すると、怒る患者さんもいらっしゃるので口には出しません。
私からの最初の質問は、次のようなものです。
『“風邪”といっても色々あります。どのような“風邪”ですか?』
咳・発熱・鼻水…という答えを予想していたのですが、意外な答えが返ってきました。
『坂道を上る時など息切れがする。』
というのです。しかも、症状は数ヶ月も前から続いているとのこと。
もはや“風邪”でないことは明らかで、心臓か肺に問題があるのだろうかと考えます。
胸部を聴診すると、心音・呼吸音に異常はありません。
しかし脈拍は30回/分と極端に遅く、血圧は190/110mmHgと極端に高い。
ここまでの問診・聴診で、『完全房室ブロックかな?』と“仮診断”をします。
そして胸部X線写真と心電図を撮影し、『完全房室ブロック』という“診断”を得ます。
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このように一回の診察・最小限の検査で診断がついたとしても、
患者さんはすぐに納得し喜んでくれるとは限りません。
ご自身では『風邪が長引いているのだ』と数ヶ月信じてきたのです。
それを突然、初対面の、自分よりはるかに若い医者に、
『心臓に問題がある』とか『放っておくと失神発作を起こすかも…』とか言われて、
面白いはずはないし、すぐに納得できるはずもありません。
一般内科の私の仕事は、だいたいここまでです。
戸惑う患者さんをなだめながら、循環器科宛に紹介状を書きます。
あとはその分野の専門医にバトンタッチします。
ここまで要した時間は、心電図などの検査を除いて30分くらいでした。
少し時間が掛かりすぎたかも知れません。
※ ※ ※
診察する上で、『患者さんの話を聞かない』のは勿論いけません。
それと同じくらい『患者さんの話を鵜呑(うの)みにする』のも慎まなくてはなりません。
上の例で患者さんの話(風邪をひいた)を鵜呑みにしてしまうと、
重大な見落としに繋がりかねないことがわかると思います。
ですから“会話”が大切なのです。
そのことが、最近ようやく実感できるようになってきました。
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