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「東京ローズ」
昔聞いた憶えがある人も、多い筈だ。
誰も詳しくは知らないが、何処か暗い響きを思い出す。
戦争犯罪の響き。
アイヴァ.郁子.戸栗.ダキノ。
これで、一人の女性の名前である。
1916年7月4日生まれの、日系2世。
つまり、アメリカ人だ。
だが、今はアメリカ人でもない。
彼女は、国籍を剥奪されている。
彼女は、カリフォルニア生まれ。
1941年、祖母の見舞いに日本に来て滞在中、太平洋戦争が開戦。
アメリカには帰れないまま、NHKで働き始める。
「ゼロアワー」という、アメリカ軍向けのプロパガンダ番組。
アナウンサーの女性は、米兵たちから「東京ローズ」と呼ばれる。
これが彼女の人生を一転させた。
終戦と同時に、戦犯として巣鴨プリズンに収容される。
1年後、証拠不十分で釈放。
彼女は、故国であるアメリカに帰国すべく準備中、本国で「反逆罪」で告訴される。
「誰が東京ローズだったのか?」
これは、複数説、別人説など、はっきりしない「謎」になっていた。
「それは、アイヴァ.戸栗です。」
かっての同僚が二人、そう証言して、それが決め手となった。
禁固10年、罰金1万ドル。
市民権剥奪も重なった。
公正な裁判ではなかった、と今では言われている。
だが、当時の日本は敗戦国。
彼女はアメリカ国籍であっても、両親は日本人。
世論は敵、と言っても過言ではない。
6年間の刑務所生活の後、出所。
国外追放の処置も執られかけたが、彼女は抵抗した。
「私はアメリカ人です。」
そして、無国籍のままシカゴに住む。
日本にいた時結婚した、フイリップ.ダキノとも離婚。
世間から隠れようとした、と言う。
1970年代、先の戦争後の裁判を、見直す機運が高まった。
「東京ローズ」に関しても、不公平さが囁かれる。
1977年、大統領ジェラルド.フォードが退任する。
アメリカの大統領は、職を退く際、恩赦を与える権限を持っている。
いろいろ批判もあるこの制度が、彼女を救う。
大統領恩赦で、彼女は名誉を回復出来た。
少なくとも表面上は。
時間の経過は、時として残酷でもある。
「反逆者」の呼称を消し去るには、遅きに失したのかも知れない。
彼女に冠せられた「東京ローズ」の刻印は、完全に消えてはいない。
そして、それを一番感じているのは、彼女自身だろう。
彼女は、いかなるインタビューも断り続けている。
今日は、彼女の90歳の誕生日、である。
「アメリカの反逆者」と言われた彼女の誕生日が、「アメリカの独立記念日」。
彼女の名誉は一応回復されたが、国籍は回復されていない。
その為の裁判すら、彼女は起こしていない。
第二次世界大戦では、多くの日本の軍人や民間人が裁かれた。
証拠不十分のまま判決を受けた人も、少なからずいたと言う。
敗戦国ゆえの悲劇、とも聞かされた。
そういう意味で、まだ戦後は終っていないのかも知れない。
不当に自分の故国に裁かれ、無国籍者として生き続けている、この女性にとっても。
サッカーの人気選手、中田英寿が引退すると言う。
まだ29歳。
少々早いかも知れない。
ある意味では、かなり早い、とも言える。
だからと言って、この大騒ぎは不可解の一言。
「辞めないで。」
「まだまだやれる。」
「サッカー界の大きな損失だ。」
喧々諤々、百家争鳴。
プロスポーツの選手は、何時かは引退する時が来る。
早いか、遅いか、見苦しいくらい遅いか、の違いだけ。
引退した後も、望まれて残るか、頼み込んでしがみつくか、の違い。
すっぱり辞める選手が少ないのを、私は疑問に思っていた。
たかだか30歳くらいで引退して、どうしてその世界に留まるのか。
他の世界は無いのだろうか。
サッカーだけではない。
野球でも、陸上競技でも、水泳でも。
コーチになるだけが、人生の残りをまっとうすることか。
アメリカのスケートの名選手、エリック.ハイデンは医者である。
フィギュアスケートの全米チャンピオン、デビー.トーマスも医者。
バスケットボールのビル.ブラッドリーは政治家になり、大統領候補を目指した。
野球では、200勝投手、ジム.バニングが上院議員。
枚挙にいとまが無い。
中田は、これから経営学を勉強すると言う。
素晴らしいではないか。
ハーバート大学で修士を目指す、とも言う。
例え果たせなくても、大したもんだ、と言いたい。
元プロサッカー選手のエクゼクティブを見てみたい。
マイクの前で、結果論を開陳する解説者は、もう沢山だ。
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