還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

全体表示

[ リスト ]

釜と炊飯器

我が家の台所に、小さな釜がある。
アルミ製の飯炊き釜。
日本製で、年齢は不詳。
少なくとも40年は経っている。
蓋のつまみは幾度か補修したが、それ以外は変わらず。
飽きもせず飯を炊いてくれる。

私がニューヨークに住み始めた時、何も持っていなかった。
伝手を頼りに入ったアパートの先住者は日本人。
急の帰国で、一切合財置いていってくれた。
だが、飯炊きの用具が無い。
ニュジャージーに住んでいた従姉が、自分が使っていた釜をくれた。
すでに彼女が10年以上使ったもの。
その日以来、ずっと私の為に飯を炊いている。

電気炊飯器(これも最早死語。ライスクッカーと言うらしい。)が当たり前の時代。
聞いた人は、一様に驚く。
「えーっ、なんで又?」
若い人などは、珍しい物を見る目になる。
「へぇ、こうなってるんだ。」
「これで、ご飯が炊けるんですねぇ。驚いた。」
おいおい、ほんの50年前までは、「へっつい」で炊いていたんだぜ。

「へっつい」とはかまどのこと。
下に薪をくべる。
鋳物の釜に、重い木のふた。
吹きこぼれを防ぐ為に、さらに重石を載せていた。
それで炊き上がった米は、実に旨かった。
と言いたいが、本当はは憶えていない。
米の味を云々するなんて、ずーっと後のこと。
配給の米を黙って食っていた。

我が家の釜は、5合炊きだ。
それにせいぜい2、3合の洗った米を入れる。
1割ほど多めの水加減。
ガスの火をつけて弱火にする。
4,5分もすると、コトコトと小さなリズミカルな音が聞こえて来る。
「はじめトロトロ」の頃。

火を大きくする。
すぐに蓋が踊りだす。
コトコトはカチカチに変り、約2、3分。
これが、「中パッパ」。
音が聞こえなくなったら、火を極小に落とす。
5分経ったら火を止めて、さらに5分。
蒸らしてやる。
これで、炊き上がり。

炊き上がった飯は、確かに旨い。
茶碗1杯しか食えない身が、残念でさえある。
5杯も食った中学生の頃とは言わないが、せめて2杯は行きたいところ。
だが、一向に減らない体重が、それを許さない。
「もっと食いたいところで止めるのが、物を一番旨く食う法」
とは、かの北大路魯山人の言葉、だったか。

炊きたての飯は確かに旨いが、私は冷や飯も好きだ。
と言っても、冷蔵庫に入れておいたのは駄目。
自然に冷えた飯。
これが、実に味わいがある。
焼いた干物、古漬けのたくあんなどと相性がいい。
朝炊いて、夕方が食べ頃。
考えてみれば、昔は飯は朝炊くものだった。
朝炊いて、朝飯、弁当、そして夕飯。
釜が大きいはずだ。

冷えてはいるが、冷え切ってはいない。
おひつがあれば、そう言う飯が食える。
まあ、今時おひつのある家の方が珍しいが。
なんせ、炊飯器に保温装置なるものが付いている。
冷めようがない。
「冷や飯」の旨さは、こうして忘れられて行く。

考えてみれば、炊きたての飯は、熱燗の酒のようなものではないか。
安い2級酒、合成酒を熱燗にする。
特級酒のような良い酒は、人肌かぬる燗、又は冷やで呑む。
それが、昔の常識。
ふーふー言って食えば、米の本当の味は分からない。
旨い米は、冷ましてこそ味がある。
握り飯が、いい例だ。

「でも、炊飯器は自動で炊いてくれるのよ。便利よね。」
敢えて反論はしない。
便利という言葉に勝つのは、容易ではない。
常に男は、この言葉に負けて来た。
これから先、勝てるときがあるとも、勿論思っていない。

閉じる コメント(2)

顔アイコン

う〜〜〜〜〜〜〜ん、おいしそう!!日本人は矢張り炊き立ての白いお米ですよね!!食べた〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!昨日に引き続き今日のブログもとても面白かったです。

2006/8/17(木) 午前 9:34 [ zunzun ]

顔アイコン

本当は、「冷や酒」に重点をおいてあるんですが…。

2006/8/18(金) 午前 4:42 [ Masterswimmer ]


よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事