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ニューヨークでも、日本のテレビ番組を観ることが出来る。
殆どがNHKのプログラム。
幾らか教育放送や民放の番組も混じっている。
24/7(24時間7日間 つまり休み無し)。
勿論幼児向けから老人向けまであるから、全て観る人はいないだろう。
今、日に2回「ゲゲゲの女房」という15分ドラマをやっている。
「連続テレビ小説」という奴。
何十年続いているのか。
「紅白歌合戦」と言い、この「テレビ小説」と言い、NHKはちょっと当たると中々止めない。
もうとっくに使命を終えている、と思うのだが。
で、この「ゲゲゲの女房」という番組。
漫画家の「水木しげる」夫婦の実話に基づいているらしい。
私はこの番組に関心がある訳では無いが、モデルには若干の思いがある。
と言って、「水木しげる」の漫画の愛好者ではない。
彼が書き続けて来た漫画が「貸本や」向けだった、というところにある。
私には、3度「貸本や」と係わった時期がある。
初めは昭和29年頃。
「巡回貸本や」が、週に1回(若しくは10日に1回)自宅にやって来る。
6冊の本を置いて行く。
殆ど雑誌。
二人の姉たちは「スクリーン」という映画雑誌だったか。
私は、母にねだって「相撲」という月刊誌を借りていた。
隅から隅まで読んで、相撲の知識を詰め込んでいた。
この「巡回貸本や」がどれくらい続いたか、あまり記憶が無い。
私の相撲熱がどの程度続いたかも、定かではない。
いつの間にか、消えていったようだ。
少年雑誌を友達と廻し読みする方が、話題を共有出来る。
「貸本や」の本は、人に貸すことは出来ない。
第一、「相撲」なんて雑誌を読みたがる少年はそんなにはいない。
そんなもろもろの理由があったかも知れない。
第2次「貸本や」時代は、高校1年ごろだったか。
きっかけは思い出せないが、吉川英治の「三国志」にはまった。
12巻くらいの長編を、3日で読み終えた。
纏めて4冊くらい借りて来て、殆ど徹夜で読んだ。
今思い出しても、面白い小説だった。
吉川英治の文章は巧みとはいえなかったが、構成力は抜群だったような記憶がある。
不思議なことに、それ以外読んだ本を殆ど覚えていない。
あと二つ三つは読んだはずだが、記憶に無い。
それくらい「三国志」の印象が強かった、ということかも知れないが。
第3次は、舞台は大阪に移る。
会社に勤め、大阪に転勤する。
豊中市の「庄内」という町に一間を借りた。
無闇と単身者用のアパートが多い町で、便利ではあった。
とは言え、テレビさえ無い独身暮らし。
無聊を持て余して、「貸本や」に足を踏み入れた。
ここで、白土三平を知る。
「カムイ外伝」である。
勿論それ以外の本も読んだと思うが、記憶が無い。
面白さが群を抜いていたのだろう、と思う。
ちょいちょい顔を出していたから、それ以外の本も借りたはずだ。
「ガロ」という漫画雑誌を借りた覚えがある。
その雑誌には、白土三平も書いていたが、他の作家の作品もある。
「梅図かずお」「つげ義春」などと一緒に、「水木しげる」の名もあった。
小説も借りた。
面白いことに、こういう「貸本や」に置いてある本にはある傾向がある。
所謂、「高尚な小説」は無い。
川口松太郎、山手樹一郎、海音寺潮五郎あたりの大衆小説。
さもなければ、清水正二郎などの官能小説。
そういう本も読んだ覚えがある。
一体幾ら払ったかは、全く覚えていない。
安月給だったから、それでも払える程度のものだったのだろう。
大阪での1年半、それが「貸本や」との係わりの最後。
今でも「貸本や」なる商売はあるのだろうか。
たまに帰国しても、そういう商いを見た覚えは無い。
わざわざ探す時間も、勿論情熱も無い。
そして40年近い年月が流れる。
今私は「ニューヨークの貸本や」を時々訪れる。
「ニューヨークで貸本や?」
そう聞かれると、ちょっと返事に困る。
正確に言えば、「貸本や」とは言えない。
「Public Library (公立図書館)」
市立の図書館は、市内に数多い。
当然英語の本が主体だが、外国語の本も結構ある。
「日本語」セクションは、ごく一部。
殆どを寄贈に頼っている。
仔細に見てみると、なかなか面白い。
私家版、つまり個人が発行した歌集なども混じっている。
誰が贈ったのか、企業の「社史」なんかも置いてある。
寄贈を受けた方は、中身は分からないが立派な本だと見たのだろう。
宗教団体が発行したものもある。
そういうものもあるが、ちゃんとした本も勿論ある。
発行されたばかりのベストセラーなどは無いが、関心が無いから別に構わない。
夏目漱石、森鴎外などは、結構ある。
随分古い本も混じる。
ちょっと読んでみたいが、買ってまで読む気がしない。
そういう本を見つけることが出来れば上々。
今、菊池寛を読んでいる。
随分昔に読んだ覚えがあるが、今読み返すと結構面白い。
「藤十郎の恋」 「恩讐の彼方に」 「入れ札」 「仇討ち禁止令」
早々と作家としての力量に見切りをつけて、菊池寛は「文芸春秋」の経営に専念した。
芥川賞、直木賞を設けたのも、菊池寛。
フラッシングの「公立図書館」で借りた本は、何処の図書館に返しても良い。
それで、勿論無料。
無料の「貸本や」で、私の第4次「貸本や」時代が始まりそうだ。
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