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「Who, you?(誰だ?)」
「Bond, James Bond. (ボンド、ジェームスボンドだ)」
このセリフが、「007シリーズ」の定番のオープニングだった。
そしてボンドが歩いて来て、銃声が響き、画面に真っ赤な血潮が流れる。
1作目の「Dr. No (ドクターノー、 邦題は『007は殺しの番号』)」以来50年近い。
24作品が封切られているから、大体2年で1作のペース。
ボンド役者も、初代のショーン.コネリーを入れて6代目。
当然だが、秘書のマネーペニーやボスの「M」の俳優も世代交代している。
ボンドが対峙する敵役も、東西の雪融けの後は、全て架空の組織。
辛うじて「北朝鮮」を模した国家が、「ダイ アナザーデイ」に出てくるくらい。
原作者のイアン.フレミングは、そのずっと以前の1964年に死んでいる。
原作者が世を去ると、原作から乖離した作風になるのは何処でも同じ。
イアンフレミングの書いた本は、長編12冊、短編が2冊。
その全てを使い尽くして、今は別の作者がアイデアを捻っている。
私がこの映画を観たのは、多分1963年。
第2作の、「007危機一発(原題 ロシアより愛をこめて)」だったと思う。
その面白さに、早速1作目の「007は殺しの番号」を2番館に観に行った。
それ以来40数年、見逃した作品はない。
面白かったものもあれば、凡庸としか言いようのない作品もある。
ボンド役も、初代のショーン.コネリーの印象が強すぎて、2代目も3代目も貫目不足に見えてしまう。
それでもフレミング原作の間は、まだ良かった。
彼の原作が尽きてから、話はどんどん荒唐無稽になって行く。
だがそういう不満を、傍を固める達者な俳優たちがカバーする。
製作者は、好んでイギリスの舞台俳優を用いたようだ。
勿論、ボンドは英国情報部員なのだから、その英語はイギリス風。
必然的に、同じ情報部の部員たちも、英国アクセントが喋れなくてはならない。
映画産業が小さい英国では、俳優はほとんど舞台から来ている。
名優ローレンス.オリヴィエ、リチャード.バートン、ジェレミー.アイアンズ以下多士済々。
現在「M」を演じている女優ジュディ.デンチも、もともとは舞台の人。
「ジェームス.ボンド」の印象は、強烈だった。
「グレンチェックのサイドベンツスーツに黒の編みタイ、黒のアタッシュケース」。
「タバコは『シニアサーヴィス』、砲金製のシガレットケース」。
「カクテルは、『ウオッカマティーニをシェイクで、レモンスクイーズ』」。
愛車は、「アストンマーチン」の特別仕様車。
理解出来ない部分は多かったが、何となく憧れたのだと思う。
とは言っても、当時の日本で手に入るものはほとんどない。
精々「編みタイ」程度でお茶を濁すことになる。
私は、それ以後イアン.フレミングの「007シリーズ」を全巻読み通した。
小説は、映画よりもさらに面白かった。
結構緻密に組み立てられていて、作者の技巧が漂う。
映画では全く語られないが、ジェームス.ボンドの生い立ちは一応設定されている。
スコットランド人の父とスイス人の母。
二人はジェームスが11歳の時、フレンチアルプス登山中に事故で死んでしまう。
それ以降彼は叔母に育てられ、海軍生活を経て情報局に入る。
現在の階級は、海軍中佐。
医者の診断では、尿酸値過多、肝疾患、リウマチ、高血圧、頭痛などが持病で
「長生きは難しい」と言われたというあたりは、笑ってしまう。
彼は任務中に一存で容疑者を殺す許可を得ており、それを登録番号の「00」が意味している。
「00を持つ7番目の男」が「007」という訳だ。
まあ、これは全くのフィクションらしい。
「そういう部門もないし、そんなライセンスも存在しない」
これがイギリスの公式見解のようだが、国際スパイ合戦ともなれば何でもあり、なのではないか。
日本にも長寿のシリーズ物は、幾つかある。
となれば真っ先に出て来るのな、「男はつらいよ」。
だが、私はこの映画をほとんど観ていない。
金を払ったのは、1度あるかないか。
日本に帰る飛行機の中か、テレビで放映される時がほとんど。
48作というから、「007シリーズ」の倍という計算。
少し遅れてスタートしたはずだから、製作ペースは倍以上だ。
松竹のドル箱と言われていたから、会社は必死で作らせたのだろう。
「007」と異なり、「寅さんシリーズ」のストーリーそのものはごく単純。
違うのは共演女優だけ、と言っても過言ではない。
正直のところ、何処が面白いのか私には分からない。
だが私の釣りの弟子、K君はこの全巻のDVDを持っているほどのファン。
ちょっとでも「寅さん」をくさすと、むきになって弁護する。
頑固だから、決して自説を曲げることをしない。
「あれは、日本の男のロマンなんですよ」
台湾人の彼にそう言われても、いささか釈然としない。
だがそれ以来、彼の前では「寅さん」の悪口は、言わないことにしている。
「寅さん」映画は好きではないが、観る人の気持ちは何となく理解出来る。
テレビの「水戸黄門」と、何処か相通ずるところがあるようだ。
結果がだいたい分かっているから、安心して観ていられる。
話が単純だから、あらすじを見誤ることはない。
思った通りにドラマが運ぶ、心地よさ。
周囲の人間も同じように考えているから、話も合う。
新作でも旧作でも、異なる映画を観ていても、会話は食い違わない。
「007」では、そうは行かない。
似ているのは、共演女優が毎作変わるところくらい。
アクションあり、世界各地のロケあり、ボンドガールとの濡れ場あり。
油断すると、あらすじが不明になることもある。
時に最近作は、IT技術を駆使しているから、一層複雑化している。
アメリカで見ればスーパーもないから、不明な単語はすっ飛ばすしかない。
観終わってから辻褄を合わせることも、しばしば。
若干の疲労感さえある。
NHKテレビで、「水戸黄門」をやっている。
いや、間違いではない。
こちらのNHKは、民放の人気番組を買って流すこともする。
「家政婦のミタ」や「相棒」も放送された。
家人が観ている「水戸黄門」は、相も変らぬ「印籠ご披露」で終る。
観るともなく観ていると、肩の力が抜けて行く。
なるほどなあ。
これがこういうテレビドラマの、持ち味なんだろう。
2番出しの番茶、とでも言おうか。
「007」のような、エスプレッソコーヒーのような濃い味も良い。
だがたまには、「水戸黄門」や「寅さん」のような薄い日本茶も、良いのかも知れない。
まあ先ずは、近々封切られる「007」の新作「スカイフォール」を観てから考えようか。
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初めまして。
原作を読んだことがあるのですか!
細かな設定もあるのですね。いつか読みたいと思っていましたが
その想いが強くなりました。
2012/12/15(土) 午前 2:46
こんにちは。 是非原作を読んでみて下さい。 イアン.フレミングという作家の趣向を凝らした物語に惹きこまれること請け合いです。
ベストワンは「私を愛したスパイ」でしょうね。
アクションシーンは少ないけれど、007には珍しいエロティシズムもあり、読後感は最高でした。お薦めです。
2012/12/15(土) 午前 4:26 [ Master swimmer ]