還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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このところブログが途切れがちだが、それはひとえに私の怠慢による。
11月半ばに私が日本から帰って来て、入れ替わりに家人が帰国した。
今年の3月にこういう状況下で私は肺炎に罹り、生涯初めての気管支の病で2週間入院した。
この時充分身に滲みて懲りたから、今回は「義理欠け、転ぶな、風邪ひくな」を金科玉条として健康な独身生活を過ごそうと決意を新たにしたのである。
家人は2週間で帰って来て、私も一応健康な留守番生活を送った。
だが、それから何処となく可笑しくなり、プールに行けば寒気がし、寝間着の裾辺りが薄ら寒い。
朝一番のプールが良くないようだ、と気づいた時は既に遅し、だったようだ。
「風邪は引かないようにお願いしますよ」と言われ、「心得ています」と力強く答えて高々ひと月程度だから、かかりつけの医師に合わせる顔も無いようなものだが、そうも言っていられない。
タイツにタートルネック、分厚いコーデュロイのズボン、カシミアのマフラーという重装備で医師のオフィスへ。
先ず看護師が来て、血圧、体温などを計り、そして毎度お馴染みの口頭試問が幾つか。
これは常に予約した時間に間に合うように行われる。

「予約時間までに何らかのコンタクトがありましたか?」
診療後にオフィスから送られてくる設問事項には、必ずこの1問が含まれている。
診療に訪れた患者に何の手当てもせずに放置するのが、アメリカ医療界では最悪と評価しているらしい。
何処かの国の大学病院などは、その最悪ランクがずらりと並びそうだが、アメリカではこのところ各医療グループ同士の患者の取り合いが激しいらしく、その患者への最重要なアプローチが素早いコンタクトらしいのだ。
私の主治医はこの診療所の責任者でもあるそうで、時々経営の苦しさを零したりする。
日本でも最高と言われる大学の医学部を出ているそうだが、何故アメリカくんだりまでやって来たのか、きけば奥さんも医師としてニューヨークで働いているという。
日本でも難しい国家試験をパスし、さらにアメリカの国家試験の難関を突破しているということだけでも充分尊敬に値するし、その優秀な頭脳が何故に敢えて一段の高みを目指すのか。
聞くところによれば、日本の大学内の学閥や師弟関係などに嫌気が指して国外脱出を図る医学や科学、物理学関係の頭脳は決して少なくないのだそうだ。
そう言われてみれば、日本の大学からアメリカの研究所に移籍してノーベル賞を取った研究者も少なくない。
逆に海外から日本の大学に来て世界的な業績を残した、という話は残念ながら皆無のようだ。
そもそも日本の大学の研究室に研鑽の場を求めようとして、扉を叩く学生がいるのだろうか。
日本へ留学と言えば、今では近隣国の若者の体のいいアルバイトを意味するのではないか。
大学に籍だけ置いて、日夜時間給稼ぎに没頭する若者とその労働力を充てにする日本の中小企業。
さらに出入国管理事務所の職員に追いかけられる留学生では、まるで噴飯物ではないか。
出と入のバランスは全然取れていない。

看護師が来てから約2,30分。
私の担当医がやや疲れた表情であらわれた。
考えてみれば、今年彼に会うのは10回ではきかないはずだし、その度に結構密度の高い会話を交わして来た。
「前のような感覚はありますか?」
8ヶ月前の肺炎のことを訊ねている。
「いえ、咳もそんなに頻繁ではありませんし、熱もそれほどではないようです」
確かに、熱は高くても38Cくらいだし、解熱剤で素早く平熱に戻って行く。
思い出したくもないが、8ヶ月前の症状はこんなものではなかった。
高熱と寒気との狭間で、思考力もほとんど無く、薄ぼんやりと眼を開けて天井に映る幻視のようなものを見るとも無く見、機械的に巡回して来る看護師たちの採血や口に押し込まれる錠剤の幾つかを飲み下していた。
そして、嫌でもやって来る3度の食事。
最初の1週間は、ほとんど喉を通らなかったし、胃が受け付けてくれない。
「食べないと体力がつかないし、社会復帰がどんどん遅れてしまうんですよ」
頭では理解しても甘ったるいソースやバターの香りが鼻先に来ると、反射的に喉が閉ざされてしまう。
私はこの2週間を「地獄の2週間」と自ら命名した。
この時期のことを思い出せば、大抵のことは我慢出来るし、ほとんどの食べ物は咀嚼出来る。

「じゃあ、今回は即効性で行きましょう」
医師は彼のPCを操作して、にやっと笑った。
「帰りがけにこの薬をピックアップして、今晩2錠、明日から4日間1錠づつ、呑んで下さい」
「抗生物質ですか?」
私は1年半ばかりステロイド錠剤を服用しており、このステロイドと抗生物質は決して仲良しではない。
抗生物質はステロイドの効果を漸減させるし、ステロイドは抗生物質の抗菌性を弱める、
恐らく医師は強めの抗生物質を短期間投与し、ステロイドの効能が弱くなる前に決着をつけようという算段なのだろう、とこれは私の素人判断。
まあ全く根拠の無い判断ではなく、この春の入院時期にステロイドは中断しないまま、強い抗生物質を数日間点滴で流し込まれた覚えがあるのだ。
結構荒っぽい治療法だったようで、私の腕は点滴の針の痕が無数に残された。
医師は頷きながら、
「恐らくこれ一発で決着がつくと思いますがね」
医師の指示通り、帰路に行きつけの薬局に立ち寄って、既にメールで処方箋が入っている抗生物質を6錠受け取り、帰宅後直ちにそのうちの2錠を服用した。
実のところ、祈るような気持ちもあったことは否めない。
医師とは冗句を交わしたりしているが、この春の経験は1度で充分だと思っている。

抗生物質が効いたのか、熱は急激に下がった。
薬を2錠服用して寝た晩に、全身に多量の汗をかいたのが良かったのだろう。
寝間着が汗まみれになったほどだから、如何に体内から多くの水分を放出したか想像出来る。
後は徐々に熱を下げ、又栄養のあるものを摂取するだけだ。
言うは易いが、実際にそれを間違いなく実行するのは至難に近い。
それが出来るくらいなら、マフラーを首にぐるぐるに巻いてタイツを穿き、カシミアのセーターを着て汗をかきながら歩くような羽目には陥らない、はずなのだが。

まあ後1,2回こういう経験を繰り返すと、ひとは利巧になるのだろうけれど…。


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