還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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「還暦スイマー」はこのところ水泳に励んでいる。
週5日か6日、毎回大体1000程度を泳いでジャクジーに入りシャワーを浴びて帰宅。
ロッカールームは設置されているが、ジムを出る時に荷物を置いておくことは出来ない。
已む無く毎朝、バッグに細々した小物を入れてジムに向かう。
着替えの下着、耳栓、ゴーグル、シャンプー、リンス、ローション、クリーム、剃刀、結構ある。
面倒臭いが、これがひとつでも欠けると様々な支障が生まれて来るのだ。
過去にも幾度か、水着や帽子を忘れて部屋まで戻った覚えがあった。
帽子や耳栓などは無くても泳げるのだが、プールの規則で着用が定められている。
見ていると、頭髪がすっかりなくなっている人に帽子は不要らしい。
だが私は未だ一応それらしいものが頭頂部に存在しているので、プールでは帽子を着用しなければならない。
プールでしばしば泳がれる人は気づいているかも知れないが、この水泳の小物という奴は、実にちゃちに出来ていて、その不具合に腹が立つこともしばしば。
特に気に入らないのは、ゴーグルという代物。
曇り止めを塗ってしっかりと顔に押し付ければ良いはずなのだが、すぐに水が浸入して来る。
色々調節してみるが、なかなかぴしゃりと嵌らない。
泳ぎながら手足を動かすので、各処に隙間が出来てしまうようだ。

だが考えてみると、マイケル フェルプスのような一流スイマーがゴーグルを装着してかなりの高さから飛び込んでも、外れたりとか、ずれて水が入ったなどというトラブルは聞いたことがない。
やはり然るべき価格を支払えば、丈夫なゴーグルが手に入るのではないのだろうか。
ウェブなどでスポーツ用品メーカーのサイトを覗いて見ると、ゴーグルといっても実に種類が多い。
10ドル程度の安物から数十ドルのものまで紹介されているが、何処にも性能に関しては言及していない。
「安いから水が入りやすい」とか、「飛び込んでも問題ないような頑丈な製品は、それなりの価格」とかちゃんと説明があれば、こちらもある程度の覚悟をしてそれなりの品を注文するに吝かでない。
適当なものを買い込んでは使えない、ということを繰り返しているから不良品が溜まる一方だ。
ならば思い切って最高価格の品を買ってみれば良いようなものだが、それだって必ず満足出来る保証はない。
水着とか耳栓、帽子などにはさしたる不満はないのだから、全てはゴーグルにかかっていることになる。
ジムのプールで泳いでいる連中を見ていると、彼らのゴーグルに不備がありそうな気配は見たことがない。
まさかとは思うが、アメリカで売っているゴーグルは彼らのようなコーカソイド(白人種)の骨格に合わせて設計されている、という可能性がありはしないだろうか。
脚だけ見ても彼らの足は細長く指も長く、ちょっと見は類人猿タイプだ。
つまり彼ら西欧人種と我々モンゴロイドは、枝葉末節のところで作りが異なっているのではなかろうか。
遠く離れた大陸で長い年月を過ごしてくれば、体型や生活慣習が異なって来ても不思議はない。

私が水泳を始めた頃、誰もゴーグルなどは装着していなかった。
記憶が確かではないが、東京オリンピックの時のドン ショランダーやマレー ローズ、そして我が山中毅だってゴーグルの類は持っていなかったような気がする。
大体、当時ゴーグルなどという言葉はなく、我々は「水中眼鏡」と呼んでいたはずだ。
でもそれはプールで泳ぐためではなく、海や川で小魚や蟹などを観察する目的だった気がする。
だから考えてみると、私が水泳部に入った時必要だったのは「水着」だけということだろう。
運動部は幾つかあったはずだが、水泳部くらい何も要らないクラブは無かったようだ。
陸上部は靴が必要だったろうし、野球部はグラブやバット、テニス部や卓球部はラケット、バスケットボール部だって専用の靴は必須だったはずだ。
言ってみれば、水泳部は最もお金のかからない運動クラブだったことになる。
そしてそれは今でもあまり変わっていないのではなかろうか。
スポーツ用品メーカーから見ると、水泳選手は最も開発努力が生かされない対象なのかも知れない。
水着以外どれをとっても、研究費を注ぎ込む余地はなさそうだ。
その水着も、ひと頃騒がれたハイテクタイプがあったが、今ではさっぱり聞かない。
オーストラリアのイアン ソープ選手が着ていた全身がすっぽり入るような水着も、後に続くものもなくそれっきり。
結局現在の形に戻っているところを見ると、迂遠な無駄骨だったということか。

ゴーグルの他に身につけるものには耳栓があるが、それ以外に鼻栓という器具もあった。
1964年の東京オリムピックの男子平泳ぎ200mで3位になったアメリカのチェット ジャストレムスキーがいつもつけていて話題にはなったが、真似をする選手はあまりいなかったようだ。
それから50年以上経った今でも、鼻栓をした泳者をみることは滅多にない。
第一、普通に呼吸していれば吸った空気を鼻と口の両方から吐くのだから、鼻栓は不要だ。
ジャストレムスキーは全ての呼気を口からのみ吐いていたわけだから、結構大変だっただろう。
また彼に続く選手をほとんど見なかったことは、鼻栓があまり役に立たなかったということではないか。
それ故か、スポーツ用品店でも鼻栓を置いている店は少ない、というかほとんどない。
まあ、水泳用品は例年春ごろ出て来て秋前に姿を消すのが普通。
スポーツ用品と銘打ったからには置かないわけには行かないが、あまり場所を取られたくないのだろう。
日本はそれでも一応セクションを設けていたりするが、アメリカでは「No」でばっさりということも多い。
鼻栓くらいなら痛痒は感じないが、「曇り止め」や「耳栓」などは無ければ困る。
高校時代は水着さえあれば問題はなかったのに、今では様々な器具が欠かせなくなってしまった。
これもスポーツ器具産業の商魂ゆえ、と考えても良いのではないだろうか。

ここまで書いて来て気づいたことがある。
それは水泳選手には怪我や故障がほとんどない、ということ。
スポーツ選手に怪我はつきもの、と考えるのが今では当たり前。
走れば転び、跳べば落ち、関節を捻ったりは日常茶飯事。
だが水泳選手にはそういう故障は滅多にない。
それが理由で水泳選手になるわけではないだろうが、一流のスイマーが怪我をしたことは記憶にない。
数多くのスポーツがある中で、これは稀有のことではないだろうか。
もっとも、超一流ともなるといささか事情は異なって来て、錬習過多で腰を痛めることはあるらしい。
だがそれは我々からすれば、他の星の話のようなもの。
少なくとも、私がいた水泳部ではそんなトラブルは一度もなかったと断言出来る。
器具は要らず怪我もなく、言うなれば理想的なスポーツだった。

それが、スポーツという部分に限られるところが少々残念だが…。


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