還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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我が家では、自分が食べたいものは自分で作るのが不文律になっている。
勿論、作れなければ買って来ても構わない。
2人の住まいだが、それでも好みはかなり分かれているから協調するのはそれほど簡単ではない。
食料が豊かでない時代が少年期だった私は、食べられないものはほとんど無い。
勿論それでも旨い不味いはあったはずだから、給食などはどちらかと言えばいやいや食べていただろう。
家庭ではどうだったか、好みを主張出来た時代ではないから、文句を言わずに食べていたようだ。
兄や姉たちにも多少の好き嫌いはあっただろうが、正面切って母に文句は言えるはずも無い。
戦後数年の空気は、「食べられるだけでありがたい」といった辺りだったのではないか。
では何時も不味いものを我慢して食べていたのか、と考えてみるとそうでもなさそうだ。
「コシヒカリ」だとか「アキタコマチ」なんていうブランド米が出てくる数十年前の話。
米は全て配給の時代。
この「配給」を知る人もマイノリティになってしまっただろう。
「米穀通帳」なるものを役所から貰い、それに対して近所の米屋が米を届けて来るのだが、それがどこの米なのか、旨いのか不味いのか、配給されて炊いてみて食べてみるまで分らない。
まあそれでも、付き合いの長い米屋はそれなりに良さそうな米を届けて来たようだし、何処からか入って来た米を小声で届けて来たこともあったような記憶がある。
そんな手順でやって来る米だが、成長期には充分旨かったように思う。

この配給なるものが何時終わったのか、実はおぼえていない人の方が多いようだ。
気がついたら米屋から来る米は、最早配給ではなく「自主流通米」と称する自由販売のものに変わっていた。
そこら辺りから「何処其処の米は旨い」とか、「何処其処でもその中のナントカ村の米が最高だ」とか言う噂が流れ始め、またもや米屋が囁くような声で届けて来ていたような気がする。
無くてはならないはずだった「米穀通帳」は何処へ行ったのか、人々は気にも留めていなかっただろう。
もうその頃からスーパーでも米を売り始め、一気呵成にブランド米の販売競争が始まったということらしい。
私はそれほど米の出自に関心はなかったが、家庭の主婦はそうは行かない。
「ヒガシにコシヒカリがあると聞けば、持てるだけ買い込み」「ニシでアキタコマチが安いと聞けば友と連れ立って出かけ」るのが当たり前になり、「炊き立ての味」の最新式電気釜を張り込む。
私が日本を出たのは今から43年前になるが、初めての海外生活を送ったのは南米のエクアドルだった。
日本人家庭に同居したから生活様式は日本と変わらないのだが、寝起きするところは標高2800mの街。
富士山の8合目くらいの高さだから、高度に慣れるまでは暫くかかった。
走れば息切れがするし、酒を呑めば酔いの廻りは素晴らしく早い。
主食は知り合いの日本人から米を買っていたらしいが、気圧の関係で普通の釜では生煮えになってしまう。
圧力釜で炊いていたのだが、それでも何処となく生っぽい。
現地のエクアドル人も米を食べるのだが、調理方法が異なっていたようだ。
所謂「Long grain ロンググレイン(長粒)」を熱湯に放り込んで調理するらしいが、煮えた米を炒めて主食に添えて野菜の一種と看做しているらしい。
「Arroz con leche アロスコンレッチェ(米の牛乳添え)」や「Arroz con pollo アロスコンポリョ(米と若鶏)」などの一般的な料理にもしばしば米が使われている。
だが、やはり日本の米のような「Short grain ショートグレイン(短粒)」とは味わいが違い、口に馴染まない。
それでも面白いもので、レストランなどでメインに肉や魚に添える野菜類を訊ねられると、「ジャガイモ」や「トウモロコシ」などより、「Arroz アロス(米)」を選んでしまうから可笑しい。
とことん「米食民族」の血が流れていることを再確認してしまう。

「米食民族」と言えばその多くがアジアに住んでいるのだが、共通しているのは「醤油」やそれに近い調味料の類を日常的に使っていることだろう。
「醤油」は中国や韓国、ベトナムなどの漢字圏に浸透しているが、それ以外のベトナムやタイ、カンボジアなどには水産物などを塩漬けにした調味料が一般的だ。
ベトナムの「ニョクマム」はタイの「ナムプラー」とほとんど同じ小魚の'塩漬けを絞ったものだし、それは日本の裏日本地帯にある「い汁」や「しょっつる」などと同種類と考えても間違いではない。
起源は明らかではないにせよ、南アジアの海岸地帯から派生して来たことは確かなようだ。

私がニューヨークに住み始めて40数年、最初に住んだのが日本食料品店ビルの5階だったこともあり、日本食品に不自由したことはなかったし、味はともかく日本レストランも近くに幾つもあった。
日本料理とひと口に言うが、要は米と醤油があればそれらしい料理が出来るから不思議だ。
だが、食事の最後のひと口に「漬物」が無くては様にならない。
で、私は昔母に手伝わされた「漬物」をマンハッタンで作ることになった。
夏は胡瓜や大根を塩で浅漬けにし、冬は白菜を漬けた。
大家である日本食料品店にも漬物は色々売ってはいる。
だが商品に貼られたラベルを読めば、日本や西海岸から送られて来た物がほとんど。
ご多分に漏れず防腐剤や添加物がどっさりと使われている。
それでいて価格は日本以上なのだから食べる気も起こらない。

夏場の漬物は気温の関係もあって簡単ではないが、冬場は楽だ。
中華系のスーパーへ行けば白菜は山ほど売っていて、しかも安い。
6つに割って塩をまぶし、バケツに隙間無く詰めて上から重石をかければ良い。
一晩で塩気が廻り、水が上がってくればそれでほとんど完成に近い。
水気を減らして塩を足し、さらに一晩くらい軽めにした重石を置いておく。
もうそこら辺で食べられるのだが、もう2日くらい置けば旨味が増して来るはず。
この白菜漬けはニューヨークに住んだ40年間、ほとんど毎年漬けていたような覚えがある。

2年ほど前肺炎に罹って以後、暫く漬物から遠ざかっていた。
食欲が無くなったこともあったが、病人が漬物でもないだろうという気が働いたこともある。
だが白飯を喰えば、どうしても最後にちょっと漬物が欲しくなってしまう。
日本スーパーで沢庵を買ったり高菜漬を買ったりするが、どれをとってもそれほど旨くない。
さらに当然ではあるが、様々な添加物がくっついて来る。
やはりここは自分で漬けるしかないだろう、と思うようになった。
久しぶりに中華スーパーで小ぶりな白菜を買い込んだ。
帰宅して4つ割にしてテラスで日光に干す。
朝j干して夕方塩をまぶしバケツに詰めて上から重石をかける。
この重石は随分昔に道端で拾ったものだが、年月を経て丸みを帯びて風格さえ感じるようだ。
重みが足りない分は、昔買ったが使っていないバーベルを2本足しておく。
ひと晩漬けて置くと、翌朝には水が上がって来ている。
水を減らし塩を少し足して、重石を軽くしてもうひと晩。

2日目の朝には、白菜はどっぷりと水に使っているようだ。
内側のほの黄色い葉を摘んで口に入れると、すでに一丁前の漬物の味を伝えてくる。
少年時代は、飯とこの漬物があれば丼2,3杯は喰えた。
今は流石にそんな乱暴なことは出来ないが、茶碗の最後のひと口に合わせるにはこれが最高だ。
その場合、飯は炊き立てである必要はない。
というか、むしろ多少冷めている方が米の味がじっくり味わえる。
「炊き立て」というフレーズは電器釜の販売競争の副産物だろう。
日本酒の「燗」と同じで、熱過ぎても冷め過ぎても米本来の味は出て来ない。
高級料亭の最後の白飯は決して炊き立てではないはずだ。
炊き上げてお櫃で適度な温度に保持された飯が、板前自慢の香の物にぴったりと合う。
熱い飯は卵かけか丼物でこそ本領が発揮出来る。

ニューヨークでもカリフォルニアの新米が出盛っている。
「田牧米」「かがやき」などが人気ブランドだが、いまや決して安いものではない。
15ポンド(6.8kg)で30ドル以上するから、日本との差はどんどん詰まって来ている。
とは言え、「ロンググレイン」のタイ米や中華米の価格はその半値以下だ。
しかし中国人や韓国人でも、米にうるさい人は日本米を買っているらしい。
そのうち、彼らに旨い米を買い占められる日が来るかも知れない。
工夫が上手な日本人のことだから、安い「ロンググレイン米」を美味しく食べる方法を考えつくのではないか。
今までだって、そうやって生き延びて来たのだから。


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