還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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税は自己申告

アメリカでは、所得税の類は、全て自己申告制になっている。
会社で天引き、というシステムは無い。
だから、4月15日の締め切り寸前は、どこの郵便局も混雑している。
当日消印まで有効。
これを逃すと、還付金の返りがぐっと遅くなるし、納付の場合は罰金がつく。

この申告には、収入の源泉になった処からの、源泉徴収表が必要になる。
仕事が1つであれば、話は簡単だが、2つ3つと掛持ちの場合は、結構ややこしい。
普通そういう場合は、専門の業者に依頼する。
「H&R Block」と言えば、名の通った老舗だ。
1月末から4月15日まで、この手の会社や、会計士事務所は掻き入れ時だ。

誰でも「納付」になることは嬉しくない。
幾らでもいいから、「還付金」が欲しい。
それには、ベテランの会計業者が必要だ。
「あの事務所は、結構返って来るわよ。」
とか、
「あそこに頼んだら、がっぽり納付させられたよ。」
こういう評判は、口コミで広がる。

会計事務所の方も、客を呼ぶため大幅に経費を水増しし、還付金を多くすることもある。
上手く審査をすり抜ければ、客は喜ぶ。
翌年は、噂を聞いて集まる客で大忙し。
逆に堅い一方で、客の要望も一顧だにしない業者は、間違いは無いが人気も無い。
客が色々と持ち込んで来る領収書を、どんどん却下する。
勿論理由も無く却下するのではなく、審査にかかれば先ず無理なものばかり。
そういう危険を避ける、というタイプの会計士もいる。

私は、以前かなりの還付を受けた。
私用の車を、ビジネスで使ったことにして、ガソリン代から修理代、全て必要経費。
お陰で、にんまりするほどの小切手が、税務署から還って来た。
申請書を作ってくれた会計事務所にも感謝、感謝。

半年後、一通の封書が舞い込んで来た。
「税務審査に出頭されたし」
とある。
慌てふためいて、会計事務所に駆け込んだ。
「では、この車の使用状況を、克明に記録したものを用意して下さい。」
「ガソリン代、修理代の領収書も忘れずに。」

そんなものがあるわけは無い。
仕方なく2年分の車の使用記録をでっち上げた。
某月某日、仕事に関連してボストンまでドライブ。
某月某日、仕事の客を連れて、ワシントンまでドライブ。
某月某日、車の修理。
領収書のあるものは添付し、無いものは、「紛失」。

多分1週間以上かかったと思う。
どうにかこうにか、怪し気な記録を拵えた。
会計事務所に行って、私の担当者と打ち合わせ。
彼女はこういう事態には慣れているらしく、泰然としている。
まあ、それはそうだろう。
結果的に罰金でも、払うのは私、なのだから。

その当日。
「Internal Revenue Service(国税事務所)」の門をくぐる。
待つことしばし。
「Come in」と呼ばれて室内へ。
どんなおっさんかと思っていたら、あにはからんや、若い男。
「How are you?]
挨拶も、結構友好的だ。
これなら、簡単に済むかも知れない。
と思ったのは、無知ゆえの浅はかさ。

いきなり、
「貴方の仕事に、こういう経費は認められない。」
と来た。
見ると、車のことではない。
大丈夫と多寡を括っていた、別のビジネスの経費である。
新しい仕事の為に、日本に行ったり、電話をかけたり。
「まだ始まってもいない仕事に、経費の先取りは出来ない。」

私の担当者も、時々専門用語で渡り合っているが、機先を制された形で旗色は悪い。
折角拵えた車の使用記録など、見ようともしない。
来るだろう、と待ち構えているところには来ない、というやり方のようだ。
そう思い当たったのはずっと後のこと。

「これは不問にするが、これとこれは不当。xxxドルを払い込んで貰います。」
最終通告のようだ。
結構な金額を取られる、いや返還させられることになる。
これは痛い。
もうちょっと、何とかならないだろうか。

渋っている私に、
「貴方が、この裁定に不服ならば、」
と言って上を見上げる。
「この上の審査に、行って貰うことになる。」
そして、にやっと笑って、
「そこは、僕のように優しくないよ。」

「ここら辺が、手の打ち所かも知れないわね。」
わたしの担当者は、審査官が席を外した時にそう囁いた。
「彼は、随分ましな方だと思うわ。」
そう言われては、じたばたしても仕方が無い。
まあ、それでも幾らかは浮いている。

「わかりました。」
席に戻った彼にそう伝えると、
「ベリー グッド。」
といって私に手を伸ばして来た。
ああ、こういう握手もあるんだな、
試合に負けた、ボクサーのような気持ち。

「どうもありがとう。」
別れ際、そう担当者に言って、用意していた200ドルをそっと渡す。
「サンキュウ。でも良かった方だと思うわ。」
彼女は、思わぬ臨時収入をハンドバッグに入れ、手を振って去って行った。
負けたボクサーは、じっとその後姿を見送っていた。

それ以降、私は審査にかかったことは、一度も無い。
その代わり、還付にほくそ笑むことも、勿論無い。

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