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「ダイエット」
これはもうブームではない。
かれこれ30年にわたって、あらゆる試行錯誤がなされている。
どちらかと言えば、信仰に近いように思う。
出版された本の数は、誰にも分からない。
効果があった、と言われるもの。
インチキ、と姿を消したもの。
御殿を建てた人。
臭い飯を食っている人。
「ダイエット」と言う言葉が人口に膾炙する前から、女性には「痩せたい」願望があった。
男の私から見て、ガリガリに見えるプロポーションが羨まれる。
「ほっそり」とか、
「すっきり」は、最高の賛辞であるらしい。
「ぽっちゃり」や、
「むっちり」は、侮蔑に近い。
「ぼってり」なんて言えば、殺されかねない。
勿論、アメリカはダイエットの本場。
野球とかゴルフの本場、なら多少は誇らしいが、ことは「ダイエット」である。
常に新しいダイエット法が話題になっている。
多いのが、
「…さえ食べなければ、後は何でもどうぞ」という奴。
何でも、炭水化物さえ食べなければ、脂肪でもたんぱく質でも食べたい放題。
「そんな馬鹿な…。」
と言いたいが、
「効いた。」
という人が結構いるらしい。
アメリカの肥満体は、通常のそれではない。
日本のデブなど、相撲で言えば序の口程度。
200kg、300kgはざらにいる。
それ以上になって動けなくなった、なんて人も現われる。
病院に運ぶのに、壁を壊してフォークリフトを使用した、とある。
この男は400kgを超えていた。
小錦顔負け。
何故、そんなに肥るのか。
私には、ダイエットよりその方に興味がある。
私の行くジムには、ビジネスマンが多い。
現役だけあって、皆すっきりした体型。
ところが、たった一人異常な肥満体がいる。
みたところ250kg、足首まで太い。
痩せたい気持ちはあるらしく、専属のトレーナーを連れて来ている。
この男が、プールに来る。
泳ぐことは負担が大き過ぎるらしく、中で体操をしているだけ。
動くたびに、水が大きく揺れる。
歩いたり、手を動かしたり。
結構愉しそうにやっている。
もう1年以上続いているが、一向に効果が見えない。
まことに不思議だ。
1年間、本気で取り組めば250kgが200位にはなるだろう。
直接効くのも憚られるので、トレーナーが一人の時尋ねてみた。
「彼は、随分一所懸命みたいだけど、効果はどう?」
「駄目だね。」
たった一言。
「どうして? 頑張ってるじゃないか。」
「此処ではね。」
トレーナーは、ちょっと悲しそうな顔をした。
「食べる方を止められないんだ。エクササイズの後はもっと食べる。」
ニューヨークでは、子供の肥満が社会問題になっている。
朝から、甘いドーナツとコーラ。
昼は、ピザとコーラ。
夜は、ハンバーガーとコーラ。
あの身体は、ファーストフードとコーラで出来ている訳だ。
「私は、ちっとも食べないのに肥っちゃうの。」
私は、中学時代に習ったはずの「質量不変の法則」を説明する。
「あのね、地球上の物質は形を変えているだけで、総量は変わらないの。」
「へぇ。」
「だから、100g食べなければ、100g以上肥ることはあり得ないの。」
「でも、全然食べてないのに、2kgも肥ったのよ。」
で、私は匙を投げる。
こういう人は、絶食しても肥るんだろうな。
脂肪と糖分が肥満の元、ということはかなり知られている。
だが、ほとんどの人は、甘くて脂っこいものが好きだ。
だから、この2つを禁じるダイエットは人気が無い。
で、研究者はあの手この手、喜ばれるダイエット法をひねり出す。
なんせ、確実で楽なダイエット法は、億万長者への近道だ。
曰く、
「寝ているだけで痩せる」とか、
「1日3分、楽々ダイエット」とか。
太平洋戦争以前の日本人は、痩せた人が多かったと聞く。
その食事内容を聞けば、いかにもと頷ける。
「飯、味噌汁、野菜の煮物、魚の塩焼き、香の物」
代表的な戦前の夕食だが、脂肪は少ない。
糖分もそれほどではない。
ただ、塩分が多い。
高血圧症の人が戦前には多かった所以だろう。
私は、それ程肥満に悩んではいない。
ただ、やはり肥りたくはない。
皮下脂肪が増えれば、成人病の危険が増す。
医者に色々なものを禁止されたり、制限されたり。
それも嫌だ。
だから、食べ過ぎないよう、呑み過ぎないよう。
心構えだけは、ちゃんと持っている。
心構えだけは。
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