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日本人は、「三大XX」というのが大好きのようだ。
探せば山ほどある。
「三大名山(富士、立山、白山)」とか「三景(松島、天の橋立、宮島)なんかは、序の口。
「三大奇祭(御柱祭、なまはげ、吉田の火祭り)」とか、「三大うどん(水沢、稲庭、讃岐)」とか。
「三大仇討ち(忠臣蔵、荒木又衛門、曽我兄弟)」などは、誰が決めたのだろう。
果ては、「三大がっかり(播磨屋橋、札幌時計台、長崎オランダ坂)」なども言われている。
とにかく「三つ」集めるのが大好きだから、世界にだって手を伸ばす。
「世界三大夜景」は、「ナポリ」「香港に「函館」とはちょっと苦しくないか。
「世界三美人」に「クレオパトラ」「楊貴妃」は分かるが、「小野小町」を入れるのは、少し図々しい。
「世界三大大帝(アレキサンダー、ナポレオン、明治天皇)」となると、何をかいわんやという気持ち。
「日本三大珍味」というのがある。
「越前の塩うに」「尾張のこのわた」「長崎のカラスミ」という説は、実は江戸時代に始まったと言う。
今では、滅多にお目にかかれない代物。
散々美味を味わい尽くした連中が、最後に辿りつくもののようでもある。
どれをとっても、塩分が濃いかコレステロールが高いか、のどちらか。
「旨いが、沢山食うものではない」ものばかり。
この三つの中で、「カラスミ」は実は色々なところで作られていると聞く。
「カラスミ」とは、「ぼら」という魚の卵ということは良く知られている。
つまり、「ぼら」が獲れる地域なら「カラスミ」の原材料が手に入るわけだ。
そして、この「ぼら」という魚は世界中何処にでもいる。
私は何処の国へ行っても、時間があれば「魚市場」に出向く。
「築地」のような魚市場は、世界中何処にもないが、単なる「魚市場」はある。
テントがけの10数軒、という小規模の市場もコロンビアにあった。
渡し舟から見たイタリアのベニスの魚市場も、こぢんまりとした可愛い店が並んでいた。
チリのサンチャゴの魚市場は、ドーム球場のような建物に、魚の匂いが溢れていた。
そして、何処の魚市場にも「ぼら」がいた。
何処でも、価格は安い。
だが、その卵から作る「カラスミ」は高級品だ。
私は20年以上前、日本の某有名「カラスミ」店のオーナーの訪問を受けた。
アメリカで「カラスミ」の原料を買いたい、という申し出。
1トン単位で買うということで、私もその気になった。
前もって調べていたこともあり、すぐにニューオリーンズへ飛んだ。
此処に、大手の「ぼらの卵」集積業者がいるという情報。
1トンという話なら、向こうから飛びついて来るだろう。
はっきり言うと、多寡を括っていた。
「捕らぬ狸の…」も確かにあった、と思う。
探し当てた業者は、極端に言えば歯牙にもかけてくれなかった。
「1トンですか、ちょっと単位が小さいですね」
「台湾のお客さんは、20フィートコンテナ1本オーダーして来ています」
それも2,3社だと言う。
20フィートコンテナ1本ということは、15トン近い重量。
そして、私の要求する製造方法にも難色を示す。
私は「カラスミ」業者から、「卵を切り取る箇所」について厳密な指示を受けていた。
卵だけを切り取らず、ちょっと上の部分で切り取ること。
確かに日本の「カラスミ」には、風船の結び目のような突起状のものが付いている。
「台湾の注文は卵だけを切り取るというものですから、1トンのために方式は変えられません」
粘ってみたが、結局は手ぶらでニューヨークに戻る結果になった。
長崎に断りのファックスを送り、この計画は消えた。
台湾の「カラスミ」も、歴史は古い。
そもそも長崎で揚がる「ぼら」は、台湾島をすり抜けて北上して来る。
人呼んで、「ぼら海道」。
道中、徐々に大きくなって卵も充実して来る。
最高の状態で捕獲するから、長崎の名物になったわけだ。
だが、手前の台湾が多量に「ぼら」を捕ることで、長崎に来る魚が減少して来た。
と言って、文句を言うわけには行かない。
台湾でも「カラスミ」は、人気のある食品。
日本では薄く切った小さな切身を二つ三つ、大事そうにちびちび食べる。
だが台湾ではもっと厚く切って、それを炭火で炙ると言う。
焼いた「カラスミ」2枚で、大根やにんにくを挟んでむしゃむしゃと食べるそうだ。
数が捕れるから、そういう食べ方も出来るということなのだろう。
だがその台湾でも、「ぼら」が捕れなくなって来ているらしい。
1軒の製造業者が15トンものオーダーを入れるのだから、他の業者を考えれば膨大な量になる。
長崎の「カラスミ」産業も、前途はあまり明るくないな。
縁が切れたから、そんな勝手なことを考えていた。
それから暫くして、私はブラジルに行った。
多少の仕事絡みもあったが、半分は観光気分。
サンパウロのガルボンブエノ。
日本人の店が、軒を連ねている。
圧倒的に土産物屋が多い。
はっきり言って、大して魅力のあるものはない。
ガラナ入りの飲料や、「椰子の身肉」、お決まりのTシャツに蝶の羽根の飾り物。
アマゾンの猛魚「ピラーニャ」の剥製は、乾燥が良くないのですぐ腐ると聞いた。
精々、地酒「ピンガ」か喉の薬「プロポリス」程度に気が動くだけ。
と、なんだか見覚えのある物が並んでいる。
どう見ても、「カラスミ」。
それも大きい。
日本なら、1枚が1万円くらいする。
だが此処では、2千円程度。
「如何ですか?」
ちょっとアクセントの可笑しい売り子が寄って来る。
二世か三世か。
「これ、『カラスミ』と言って、日本では高級品です」
それはよーく分かっているんだけど。
見た目はあまり良くないが、間違いなく「カラスミ」。
此処にもあるんだ、と何だかがっかりした記憶がある。
先日思い出して、その長崎の「カラスミ」店を検索してみた。
もうなくなったかと思ったが、どうしてどうして。
ちゃんと世代が代わって、店を張っているようだ。
価格は、と見るとやはり1枚1万円程度。
麗々しく、桐の箱に収まっている。
安い「カラスミ」が氾濫しても、こういう高級品も生き延びているんだ。
原料はどうしているのか。
ホームページには「国産」と書いてあるが。
そこら辺は、少々「眉唾」ということで…。
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