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ハロウイーン」は、毎年10月31日と決まっている。
と言っても、祝日でもないし公式行事もない。
キリスト教のとも関連は薄いから、教会も何もしないという。
その割りに、結構な大騒ぎになっている。
私の住むアパートでも、妙な仮装をした大人がうろついていた。
当日になれば、例によって大勢の子供たちがドアをノックするだろう。
「Trick or treat (何かくれなきゃ、悪戯するぞ)」、というおふざけだが、来られる方は少々鬱陶しい。
隣のピーターは、毎年外のドアノブに菓子が入った袋をぶら下げる。
「どうぞお好きに持って行って」ということらしい。
菓子などの買い置きがない我が家は、音を立てずじっとして通り過ぎるのを待つだけ。
この「ハロウイーン」という風習は、結構歴史があるもののようだ。
ヨーロッパの「ケルト民族」から起こった、という説が有力。
ケルト人は、イギリスやアイルランド周辺に多い。
10月31日は、彼らの収穫祭。
この晩に精霊や魔女たちが訪れるという伝説が、広く言われていた。
その魑魅魍魎に対抗するために、人々は仮面を被ったり焚き火をして「魔よけ」としたそうだ。
そして子供たちはその魔女や精霊の扮装をし、各家庭を訪ねて菓子などを貰う。
これとても、起こりは諸説ある。
当初は貧しい人たちが食料を分けてもらっていた、という地域もあった。
また、菓子以外に小銭を渡すこともあった、という。
だが次第に「子供たちに菓子をあげる」、というパターンに収斂されていったらしい。
今は日本でも、「ハロウイーン」が祝われていると聞く。
一体どういう理由で始まったかは、誰にも分からないらしい。
「アメリカで、何だか面白そうなことをやっている」
そこら辺が理由だと思う。
まあ、ニューヨークだって若い人たちが本来の意味に関係なく、馬鹿騒ぎをしている。
不景気風が吹くご時勢、何かで発散させたい気持ちは分からないでもない。
仮装した仲間と呑んで踊って、明日への活力を養うといったところか。
だが、日本人にとって「ハロウイーン」は、忘れることが出来ない事件を想起させる。
20年前の、「留学高校生射殺事件」。
ルイジアナ州バトン.ルージュの住宅街。
ハロウイーンの集まりに出かけた16歳の留学生、服部剛丈君が撃ち殺された。
ことの起こりは、呆気ないほど単純だ。
家を間違えた服部君が、ロドニー.ピアスの家に迷い込んだ。
彼は仮装として、大きな白い布をすっぽりと被っていた。
家の主人、ピアスが銃を構えて戸口に現れる。
間違いに気づかない服部君は、近づいて行く。
「パーティに来ました」、ということを言ったらしい。
「Freeze フリーズ(停まれ)」、とピアスは言ったそうだ。
それを服部君が、「Please プリーズ(どうぞ)」と聞き間違えたのかどうか。
同行していた服部君の友人が、ピアスの構えた銃に気づいた。
「やめろ」
言うより早く、ピアスが44口径の引き金を引く。
警察が到着する間、ピアスは家に篭っていたという。
「何故撃ったの?」
彼の妻が尋ねた、とピアスの娘が証言している。
病院に運ばれる途中で、服部君は死亡した。
ピアスは、第2級殺人罪で起訴される。
「2級」とは、故意ではなかったということ。
日本の「過失致死」に相当する。
ピアスの弁護人は、「無罪」を主張。
白人10名黒人2名の陪審員の表決は、「無罪」だった。
だが、その理由は公表されていない。
正当防衛が適用されたかどうか、さえ分からない。
ルイジアナの州法では、家の中に侵入した場合は発砲が許される。
だが、服部君は明らかに家の外にいた。
又彼は、全く威嚇するような行動はとっていない。
此処に、裁判中のピアスの証言がある。
― 「You are safe and secure, weren’t you?(貴方は安全で、危険はなかった、そうですね?)」
検事は、陪審員の前に出たピアスに尋ねた。
「But, you didn’t call police, did you? (だが、貴方は警察を呼ばなかった、そうですか?)」
「No, sir (いいえ、呼んでいません)」、ピアスは答えた。
「Did you hear anyone trying to break in the front door? (誰かが、ドアを壊そうとしましたか?」
「No, sir (いいえ)」
「Did you hear anyone trying to break in the carport door?(誰かが、車庫のドアを壊そうとしましたか)」
「No, sir(いいえ)」
「And you were standing right there at the door, weren’t you – with a big gun? (そして貴方は
ドアのところに立っていたんですね、大きな銃を構えて?」
ピアスは、頷いた。
「I know you’re sorry you killed him. You are sorry, aren’t you? (貴方は、彼を殺したことを
済まないと思っていますか?)」
「Yes, sir (はい、思っています)」
「But you did kill him, didn’t you? (でも貴方は彼を殺した、そうですね?)」
「Yes, sir (はい、そうです)」
Peairs testified in a flat, toneless drawl, breaking into tears several times.
(ピアスは、抑揚のない物憂げな低い声で証言し、幾度か泣いた)
A police detective testified that Peairs had said to him,
(取り調べた刑事は、ピアスの言葉をこう語った)
「Boy, I messed up; I made a mistake. (ああ、何もかも滅茶苦茶だ。俺は間違えた。)」 ―
刑事訴訟で無罪になったが、服部君の両親はピアスに「民事訴訟」を起こす。
奇妙なことに、この民事訴訟でピアスは破れ、65万ドルの支払い命令を受けた。
結局、ピアスは家を売った10万ドルを支払い、破産した。
服部君の両親が手にしたのは、弁護費用を差し引いた5万5千ドルだけ。
彼らはそれを基金として、アメリカの銃規制に取り組む団体に寄付を続けているという。
とは言え、アメリカの「銃規制」の歩みは遅々として進んでいない。
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