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日本人は世界に冠たる、「雑食民族」だ。
「中国人は、親以外の2本足は全部食べる」
と、中国人の雑食も有名だが、今や日本人の比ではない。
古来の食事は勿論、イタリアン、フレンチ、中華、韓国、全て日本風にアレンジ。
西に珍味あれば飛んで行き、東に美味あれば取り寄せてしまう。
「過ぎたるは、何とやら」と言うが、終わりを知らない勢い。
「レバーの刺身」を食べるのは、日本人とアフリカの猛獣だけではないか。
かたや、アメリカは天下に知られた「食の砂漠」。
美味を期待して訪れる観光客は、先ずいない。
何処へ行っても、ハンバーガーとフライドチキン。
噛み切れないステーキと、食べきれない付け合せのポテト。
辛うじて大都市には、世界の食べ物がやって来る。
しかし、ニューヨークでも旨い寿司ダネは、築地直送。
「アメリカ人は、一体何を食っているんだろう?」
私が来た30数年前のアメリカは、確かに「食の不毛地帯」だった。
だがしかし、アメリカにも「おや?」という食べ物はある。
対日本0勝15敗、という訳でもない。
辛うじて一矢を報いる「秘密の食材」もあるのだ。
と言うか、「何故日本人がこれを食べなかったのか?」という食品。
逆に言えば、「何故アメリカ人がそんなものを?」と訝る品々。
私がアメリカに来て、初めて知ったのは、アメリカ人はホーレン草を生で食べること。
子供の時から、茹でるか炒めるか、しか知らなかったから驚いた。
「Spinach salad」と言えば、すぐに生のホーレン草にカリカリベーコンの皿が来る。
その上にドレッシングをかけて食べると、実に旨い。
「ホーレン草のサラダなら日本にもあります」
そう反論する人もいるかも知れないが、それはアメリカから渡来したもの。
夏、海岸地帯に行くと、シーフードレストランが軒を連ねている。
何と言っても「ロブスター」が一番人気だが、その前に食べるのが「アペタイザー」。
「生牡蠣」なら珍しくもないが、アメリカには「生ハマグリ」がある。
その場で蓋を開けた「ハマグリ」にレモンを搾って、口に放り込む。
心地よい歯応えと、潮の香りが応えられない。
グランドセントラルステーションの、「オイスターバー」のメニューにもちゃんと載っている。
この「ハマグリ」、日本では決して生では食べない。
「生ハマグリなんて食べたら、腹をこわします」
まあそういうことで食べなかったのだと思うが、今の日本人を考えるといささか不思議だ。
「ハマグリ」だって、綺麗な海水に隔離して2,3日おけば菌は消える。
つまるところ、「食わず嫌い」の類だったのではないだろうか。
「青柳」や「鳥貝」などは、生で寿司ダネになっているのだから、なおさら不思議。
日本から移植した「浅蜊」は、こちらでは「マニラクラム」と命名されて生食も盛ん。
これまた日本では、「深川飯」であれ「味噌汁」であれ、加熱するのが普通。
アメリカの東海岸からメキシコ湾にかけて、ブルークラブという蟹が多量に捕れる。
小型だが、日本の渡り蟹の近似種。
面倒だが突つき出せば、身肉はなかなかの美味。
4月の声を聞くと、この蟹たちが脱皮を始める。
これから9月にかけて5,6回は脱皮するという。
この脱皮直後の蟹が、メリーランド州辺りの名物になっている。
まだ殻が柔らかい蟹を、油で揚げてかぶりつく。
レモンをちょっと搾れば、なお良い。
蟹自体にある塩味で、調味料なしで充分。
「活け」が良いが、冷凍でも充分旨い。
サイズは5段階くらいあるが、小さい方が食べ易い。
アメリカでは「素揚げ」がほとんどだが、「天麩羅」にしても最高。
殻ごと食べるから、身肉の味と揚げられた殻の味が渾然一体となって不思議な味を造りだす。
この味覚が、日本にはなかった。
恐らく捕れた「柔蟹」は、海に返されたのだと思う。
何となく、禁忌のように扱われていたのかも知れない。
逆にアメリカでそれが捕獲される、ということの方が「らしくない」ように思われる。
脱皮中の「ロブスター」は禁猟扱いなのに、だ。
だがそのお陰で、この珍味があるのも巡り合わせと言うものか。
日本から、お客が来る。
「何か召し上がりたいものがありますか?」
夕刻ともなれば、そういう質問があちこちで交わされるだろう。
「寿司が食べたい」
私が一番嫌いな答え。
世界で一番旨い「寿司」が食べられるのは、日本しかない。
「天麩羅」だって「蕎麦」だって、同じこと。
折角アメリカはニューヨークに来たのだから、此処でしか食べられないものを食べて欲しい。
勿論、大したものはありません。
でも、少なくとも「ほうれん草のサラダ」と「生ハマグリ」と「ソフトシェルクラブ」は、日本より旨いと思うのだが。
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