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私は、魚の「干物」が好物だ。
ひょっとすると、一番好きな食べ物かも知れない。
刺身も良いし煮魚も悪くないが、上手く干された小魚は惹きつける魔力がある。
大袈裟に言えば、「潮のミネラルが育んだ味を、太陽の光が凝縮させた」ような食感。
勿論これは前浜(目の前の海)で獲れた魚を、屋外の風と光で乾かさなければならない。
ひと口に「干物」と言うが、種類は結構ある。
「一夜干し」も旨いし、「乾き切った」干物も捨て難い。
順位をつけるのは難しいが、あえてつければ一番は「カマス」だろう。
水気の多い魚だが、その水気を干すことによって飛ばせば、残るのは深い玄妙な味だけ。
難を言えば、少々高い。
だが値段は、決して裏切らないだろう。
二番手は、「むろ鯵」と行きたい。
この魚は、刺身では勿論煮ても旨くない。
それが、干すと一変する。
「干されるために泳いでいる魚」、と言っても過言ではない。
昔釣りに行った伊豆半島の子浦の民宿に、弁当を注文した。
翌朝渡されたのは、2個の握り飯と丸ごと焼いた「むろ鯵」の干物。
古い新聞紙に包まれていた。
随分粗末な弁当に、ちょっと面白くない。
が、釣り場で食って驚嘆した。
この不細工な魚の何処に、この美味が隠れているのか。
握り飯を食いながら、しみじみ「一杯の冷酒」が欲しいと思った。
この「むろ鯵」、「クサヤ」としてもお馴染み。
三番手は、「真鯵」だろう。
今日本に流通しているのは、ヨーロッパで獲れた「鯵」を日本で解凍加工したもの。
勿論、電気の乾燥機を使っている。
製造後再び冷凍するから、2度の冷凍で味は飛んでしまっている。
やはり、少し高くても手造りの「前浜干物」にしたい。
伊豆の高級旅館の朝飯には、炭火のコンロと鯵の干物が出て来ると言う。
そりゃ旨いだろうが、高いだろうな。
四番手は「小甘鯛」。
これも決して安くない。
「甘鯛」は水揚げが多くない高級魚だから、必然的に高価になる。
「干物」と思えば高いが、「Grilled fish precooked by sunshine(太陽で下拵えした魚のグリル)」
と考えればどうだろう。
「舌びらめのムニエル」なんかより、遥かに満足できるはず。
五番は、「秋刀魚」。
大衆魚ではあるが、純粋な天然魚。
海中のプランクトンを食べているから、人工餌では育てられない。
塩焼も季節の風物詩として捨て難いが、「干物」もなかなかのもの。
「開き」も良いが、「丸干し」が一桁上。
丸ごと「強火の遠火」で炙れば、飯によし酒によし。
「味醂干し」は敬遠したい。
六番手は、「飛魚」。
味から言えばもっと上位だと思うが、入手が難しいのが玉に瑕。
贅沢を言えば、佐賀県の「呼子」まで行って求めたい。
岸壁のテントがけの小屋で買うのが、一番旨い。
呼び込んでいる小母さんは、値切ればどんどんまけてくれる。
ここの「飛魚」は「あご」と呼ばれる小型魚の生干し。
腹も入っているから、長くはもたない。
だが、旨いのはこの「はらわた」。
「さんま」「いわし」と並んで、「三大はらわた」と名づけたい。
こう書いて来たが、どれ一つとしてニューヨークでは手に入らないものばかり。
「絵に描いた餅」では、腹の足しにもならない。
それで私は、スーパーに行くと魚売り場をじっくり見て歩く。
中国系や韓国系スーパーは扱いが悪いから、魚臭い。
その臭さに負けないように、目を見開く必要がある。
幾ら目を大きく開いても、何もない日が多い。
だが稀に、「これは」と思う魚に出会う時もある。
彼らだって、望んで古い魚を買って来るわけではない。
安い魚を探していると、古いものにぶつかるのだ。
それでもたまには「新しくてかつ安い」魚に、巡り合うことがある。
それが店に並んだ時、運が良ければ私も遭遇出来る。
昨日、いつもは覗かない小さな店に入ってみた。
正面も平台には、何時もながらの古臭い大型魚が並べられている。
だが、その横の小さな台に、「ちかっ」と目を射るものがある。
近づいてみると、かなり大型の「バターフィッシュ」。
日本では「えぼ鯛」とも「しず」とも呼ぶ。
徳島県では「ボーゼ」と呼んで、その新子を寿司だねとして珍重している。
煮ても焼いても、南蛮漬けにしても旨い。
それに、これはかなり大型だ。
私は、手近な奴のエラ蓋を開けてエラの鮮度を確かめる。
期待した通り、真っ赤。
2,30尾積んである中から、大きそうな奴を4尾引っ張り出す。
「XXXX XXXX XXXX」
売り子が中国語で文句を言っているようだが、分からないから無視。
用意してあるビニール袋に放り込んで、奴に差し出す。
ぶつぶつ言っているが、それでも秤に持って行って計算している。
受け取って、「サンキュー」、と大きな声で言う。
持ち帰って、先ずエラを外して内臓を除去する。
とりあえず、2尾を腹から開いて塩水につけた。
濃度は10%程度。
10分ほど経ち、塩水から上げて水分を拭き取る。
腹を上にして、「干し籠」の中に入れた。
「干し籠」と言うが、実は日本の100円ショップで買った「洗濯物干し」。
それをテラスに紐をはり、それに架ける。
昼頃干して、夕方取り込む。
細工は粒々仕上げをごろうじろ、とは古い言葉。
そう呟きたくなるほど、綺麗に仕上がっている。
煙は立てられないから、オーブントースターを先ず熱してから干物を入れる。
「海腹川背」、昔から言われている魚焼きの訓。
先ず腹を上にして、5分というところか。
その間に、レモンを搾って醤油と合わせる。
干物や焼き魚は、レモン醤油若しくは橙醤油が一番合う。
身が薄めの魚だから、焼き過ぎは禁物。
およそ5分で返し、背側を焼く。
取って置きの吟醸酒を、コップになみなみと注ぐ。
後は焼き上がりを待つだけ。
実はこの時間が本当の至福の時、と言えるのではないだろうか。
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