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日本人は、旅行好きだ。
今は海外旅行が喧伝され過ぎている気配があるが、国内旅行だってそれなりに人気がある。
北は北海道から南は沖縄まで、何処へ行っても観光客が溢れているようだ。
こちらで放送されているNHKのドキュメンタリー番組でも、国内の紹介が多くなっている。
NHKの場合、視聴率の低い番組のてこ入れの趣もあるが、一応見るに耐えるものが多い。
民放だって負けずに、タレントの食べ歩き番組を飽きもせず繰り返している。
各社で放送するから、二番煎じ三番煎じが多くなるのは当然だろう。
登場する観光地の人たちが、放送ずれしているのが良く分かる。
観ている方も、
「また此処か」とか、「またこの小母さんか」
などと言う風に、なってしまわないか。
アメリカ人は、旅行が嫌いではないが、そう頻繁には出かけない。
理由は幾つかある。
先ず、交通手段が限られていること。
鉄道網が貧弱だから、頼るのは航空機と車。
遠距離であれば飛行機で飛び、現地でレンタカーを使用する。
ニューヨークからボストン程度なら、ほとんど自分の車で行く。
家族が多ければ、その方が遥かに割安になる。
パパとママが運転し、子供は後部座席。
よく見かけるコマーシャルのパターン。
泊まるのは、大体モーテル。
1部屋幾らという料金だから、これも大勢ならぐんと安くなる。
とは言うものの、そういうドライブ旅行はそうしょっちゅうは行かれない。
2,3年に1回、というペースではないか。
アメリカ人の旅行には、「味覚」という項目がない。
食べるのは、「マクドナルド」「ケンタッキー」「デニーズ」「ピザハット」、たまに中華のテイクアウト。
折角遠隔の地に旅して、そこの名物を食べてみないのだろうか。
日本人なら、恐らくそういう疑問を持つだろう。
日本なら、探さなくても何処にでも「名物」と銘打った食い物がずらりと並ぶ。
海岸であれば「新鮮な魚料理」「活魚会席」「さざえあわび」「海老蟹食べ放題」。
山へ行けば、「山菜料理」「きのこづくし」「いのしし料理」「川魚料理」。
とにかく腹一杯にさせよう、と手ぐすね引いて待ち構えている。
だが、アメリカにはそういう名物が滅多にない。
と言うか、アメリカ人にはそういう興味が、ほとんどないようなのだ。
「美しい景色を家族と楽しむ」「子供と川下りに挑戦する」「家族だけの時間を持つ」
だいたい、そういう目的が主だから、「食い物」は何でも良いことになる。
アメリカは、地方色の薄いところ。
「一つのニューヨーク、一つのニューオルリーンズ、一つのサンフランシスコ、無数のクリーブランド」
この文句は、「何処へ行っても変わり映えしない」と言っているに等しい。
勿論港町へ行けば、「シーフード」の看板は幾つか見る。
しかし、その「シーフード」は、何処の港町でもほとんど変わらないものばかり。
「クラムチャウダー」を頼んだ店の裏口には、「クラムチャウダー」缶詰の箱が積んであった。
まあ、何処へ行ってもそんなものと、考えた方が良いだろう。
だから家族連れの旅行では、食事は何時もと変わらないのが理解出来るわけだ。
私は36年以上アメリカに住んでいるが、旅行で行った処は数えるほど。
バージニア州のウイリアムスバーグ、ニューヨーク州の「野球の殿堂」、フロリダ州のマイアミビーチ、
ナイアガラの滝、グランドキャニヨン渓谷、ニューオルリーンズのフレンチクオーターくらいか。
そのどれもが、もう一度行きたいとは思わないから不思議。
強いて言えばニューオルリーンズだが、その理由は「ケイジュン料理」が結構口に合ったから。
情けないが、私もやっぱり「旅は食い物」なのだ。
だがニューヨークの近辺に、「旨い」食べ物を供する町は、あまりない。
「あまりない」と書いたのは、若干の遠慮。
メイン州の「ロブスター」は、供する店は他州に多い。
メリーランド州クリスフィールドは、良く知られた「ソフトシェルクラブ」の産地。
此処のレストランでは、「ソフトシェルクラブサンドイッチ」を看板にしている。
揚げおきの冷えた、「ソフトシェル」をパンに挟んだ代物。
一度食べれば、二度と御免の味。
日本風に天麩羅にすれば、最上の美味なのだが。
ずっと下ってマイアミまで行くと、「ストーンクラブクロウ」が有名だ。
甲羅の硬い、「ストーンクラブ」という蟹の爪を茹でたもの。
二つある爪のうち、漁師は一つしか獲ってはいけない。
一つは残して海に返す。
「蟹が海中で生きて行くため」であって、「生きていれば又爪は再生する」からだそうだ。
理屈にあっているような、何処か矛盾しているような。
食してみたが、正直感激するほどの珍味とは思えなかった。
「海亀のステーキ」に至っては、「金をとるの?」と聞きたいほど。
けなしてばかりいるようだが、ようは考え方の問題。
「旅は未知の土地で、美しい景色や珍しい奇観を楽しむもの」
という目的であれば、「食物」は二の次三の次で不思議はない。
食に拘る日本人の方が可笑しいことになる。
とは言え、日本国内旅行で毎晩ハンバーグやカレーライスを食べさせられれば、腹も立つだろう。
旅情、風景、美味が一体になっているのが、日本式旅行なのだから。
言い換えれば、全方位多目的型ということ。
アメリカの旅行で唯一、全方位多目的型らしく見えるものがある。
「クルーズ」という奴。
船で寝起きして、観光地を廻ったり、島巡りをしたり。
手ごろなところでは、カリブ海に人気があるらしい。
船内にはカジノがあり、専属バンドでダンスをし、3度の飯を食う。
聞いていれば夢のような生活だが、現実はそうでもないらしい。
「飯が不味い」「何でもチップ」「やることがなくて退屈」「毎日同じ顔を見るだけ」
日本人が参加すると、だいたいそういう不満を聞くことになる。
せせこましいツアーに慣れている日本人には、何もしない7日間の旅は耐え難いものなのかもしれない。
やはり旅は、いつも急かされているせわしない日程が、日本人には合っているようだ。
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