還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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私の家から歩いて7,8分のところに高校がある。
「Bayside High (ベイサイド ハイ)」、と呼ばれる公立高校。
9年生から12年生、年齢で言えば15歳から18歳くらいの生徒が通う。
時折り朝方、その近くを通りかかると生徒の登校時にぶつかる。
身なりを見るに、これがもう実に様々。
制服がないせいか、各人好き勝手な格好なのだろう。
春だからジーンズとセーター姿が多いが、その色合いは千差万別。
一応学校の規則があるのかどうか分からないが、それほど素っ頓狂なのは見かけない。
それでも胸元を大きく開けていたり、臍がのぞいていたり。
男子にも、ズボンをずり下げているのも幾人か見かける。
それが一斉に、バスから降りて来る。

この高校もひと昔前は、なかなかの優良校だったそうだ。
「ベイサイド ハイ」に子供を入れるために、移り住んだ家族もいたという。
だが10数年前、かなり南にある高校が廃校になった。
そしてそこの生徒が大挙して、この高校に転校して来る。
一度に大勢のアフリカ系やラテン系の生徒が、混ざり込んで来たわけだ。
それ以来学校の近くの親は、子供を私立に入れるようになる。
スポーツは強くなったが、学業では落ち込んでしまったとか。

ニューヨークの公立高校は、住んでいる地域で決められている。
それが嫌なら、私立か区域を決めていない公立校に行くわけだ。
公立は授業料が無料だが、私立は授業料が高く、誰でもは行けない。
区域制のない高校は、その代わり入学試験がある。
「スタイバソン(マンハッタン)」、「ブルックリン テック(ブルックリン)」、「ブロンクス サイエンス(ブロンクス)」。
この3校が所謂公立「ご三家」と呼ばれ、有名大学への進学率が高い。
ノーベル賞受賞者を、この3校だけで14人輩出しているという。
ところが、最近はアジア系の入学者が多くなり、ちょっとした問題になりつつある。
試験で高得点を取るが、それ以外の能力に疑問符がつく。
現在の試験対応能力より、将来の可能性を見極めて入学させよう、という動き。
ハーバート大学などの有名大学にも、同じような傾向が現れて来ている。
バイオリニストの五島龍も、学問以外の分野での活動が好感されて入学許可になったという。
「学問だけでなく、人間として何をしたか」
それを問う傾向が、今後も強くなっていくのではないか。

アメリカでは、高校までは授業料なしで行くことが出来る。
だが、大学となると少々話が変わってくるようだ。
勿論、授業料の安い公立大学は多い。
しかしそれ以上を目指すとなると、私立ということになってしまう。
だがかかる経費は、まさに親泣かせ。
誰もが憧れるアイビーリーグ校なら、年4,5万ドルを覚悟しなければならない。
普通のサラリーマン家庭では、到底不可能な数字だ。
已む無く、「Student loan 学生融資」を受けることになる。
昔のアメリカなら、それなりの企業に就職して返済することも可能だった。
だが時代は、4年終了の「学士」からさらに「修士」を要求しだす。
特に経済学の分野では、「MBA Master of business administration (経営学修士)」が必須に近い。
すると企業に働きながら大学に通う、という道をとることになる。
融資の返済は、どんどん遅れて来る。
そして不況。
今、一流大学の修士コースを終えた秀才たちが、仕事にあぶれかけているという。
有為転変は世の常だが、戸惑っている人が如何に多いことか。

夕方、「ベイサイド ハイ」の近くを走ると、下校時の学生がバスを待っている。
長々とキスを続けるカップルもいれば、携帯の画面の見入っている学生も多い。
屈託ない日常に見えるが、内心はどうなのだろう。
自分の行く末に、想いを致すこともあるだろう。
そういうところは、何処の国の高校生でも同じようなものだ。
勿論、謳歌する青春であることには間違いはない。

アメリカと日本の大学制度には、大きな違いがある。
日本では8年以内に卒業出来なければ、それで終了になる規則。
アメリカには、年限の規制は全くない。
10年かかろうが20年かかろうが、お構いなし。
大学2年で就職し、数年後に3年に編入することも出来る。
終了した単位を持って、他の大学に行くことも珍しくない。
タイガー.ウッズは、スタンフォード大学2年終了でプロになった。
何時の日か、3年生としてキャンパスに現れる可能性も充分ある。
だがどの大学でも、入学は比較的容易だが卒業は難しい。
そこが実は、日本との最大の違いかも知れない。
だから大学生は、勉強しなければならない。
アルバイトや交遊に、うつつを抜かしている暇はないことになる。

アメリカでは、大抵の大学は郊外に大きなキャンパスを持っている。
そして寮があり、学生はそこに入るシステム。
アルバイトはゼロではないが、田舎町のこと、そんなに多くはない。
つまり4年間、みっちり勉強出来る環境が用意されているわけだ。
勿論、成績は就職に大いに影響するから、彼らも必死。
5点満点で、3.5を下回ると良い会社への就職は厳しいそうだ。
スポーツ選手でも、試験の点数が低いと試合に出られなくなるケースもある。
仕方なく、試験が易しい大学に転校するというケースも多い。

良い大学を良い成績で出て、一流企業に入れた。
と言って、その先には何の保証もない。
仕事で振るわなければ、待っているのは「Pink slip ピンクスリップ(解雇通知)」。
雇われる側でも、常により良い仕事のチャンスを窺う態勢になっている。
常時アンテナを張り巡らし、強い権限と高い給与をくれる企業を探す。
解雇されたって、落ち込んでいる時間はない。
精力的に動き回り、自分を売り込む機会を見つけなければならない。
昨日までのライバル企業に、明日から働く。
そういう話は、ゴマンとある。

今目の前を歩いている高校生たちも、5,6年後にはそういう世界に飛び込んで行く。
タフな社会に順応出来る、タフな肉体と精神が要求されている。
我々日本人から見ると、厳しい環境だと思う。
だが、彼らはそれが当たり前と考えて育って来ている。
とすれば、そういう場面に遭遇してたじろぐことはないだろう。
そう考えると、一心に携帯の画面を見ている顔が、ちょっと頼もしく見えてくるから不思議。

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