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メジャーリーグが開幕して1ヶ月あまり経つ。
相変わらず桁違いの高給取りがスポーツ欄を賑わせ、期待の新人の爆発的な活躍にファンが沸く。
今や年収が2千万ドルを超えないと、スーパースターとは呼ばれない。
そのスーパースターを5人抱えるヤンキースは、やはり話題の中心だろう、と思われていた。
アレックス ロドリゲスの2千2百万、マーク テシエラが2千3百万、ジャコビー エルスベリーが2千百万、投手ではC.C サバシアの2千3百万、そして田中将大の2千2百万と、文字通り「綺羅星の如く」。
そして皮肉なことに、そのうち誰一人として、給料に見合った活躍をしていない。
サバシアは0勝5敗、田中は故障者リスト、A-ロッドは2割3部台、テシエラが10本塁打25打点でそこそこだが打率は2割1分程度。
辛うじてエルスベリーが3割4分台だが、1本塁打6打点では淋しい。
現在ヤンキースがディヴィジョンで1位なのは、中堅以下が活躍しているのが、大きな理由。
210万ドルのマイケル ピネダが5勝、50万ドルの中継ぎ投手、デリン ベタンセが17回投げて30三振に防御率は0.00、さらにクローザーのアンドリュー ミラーになると、15試合で13セーブ、防御率はこれまた0.00と驚異的。
年俸は9ミリオンとやや高いが、超高給取りに囲まれているから、お買い得に見えてしまう。
ディヴィジョンのライバル、ボストン レッドソックスとボルチモア オリオールズが出足で躓いたお陰という感もあって、このままでは長丁場を戦い抜くのは難しそうだ。
中でも A-ロッドが出場停止だった1年間のブランクを取り戻せるかどうか、が焦点になりそうだ。
間もなく40歳になるA-ロッドは、攻守走3拍子揃った「史上最高のプレーヤー」と評価されていた。
現在662本塁打だが、昨年のブランクが無ければ既に700本は打っていたはず。
複数回の薬物使用疑惑で「野球の殿堂」入りは難しいと言われ、バリー ボンズ、ロジャー クレメンスを並んで、「殿堂に入れないトップスリー」となるだろう、と巷間噂されている。
それでもヤンキースとの契約は今年も入れて3年あり、合計66ミリオンを手に出来るらしい。
誰もが悲観的な1年間の空白を、頭抜けた才能とセンスでカバー出来れば、ヤンキースにも朗報だろう。
ヤンキースの強味は、野球を理解している選手が多いこと。
さらに、「勝ち方」を知っている選手を優先的に獲得している気配が濃厚だ。
日本の「巨人」の全盛時代と、似通っていないでもない。
ベテランがバテる夏場まで今のペースを維持出来れば、最後は巧さでプレーオフに出て来るかも知れない。
勿論、田中の復活は必須だから、若しこの後彼が「手術」にでもなれば、全てはおじゃんだろう。
私は、今年のメジャーでは日本人投手の活躍が見ものだ、と考えていた。
田中、ダルビッシュ、岩隈の3人は、センセーションを巻き起こすのではないか、と期待もしていたのだ。
ひょっとすれば、3人のうち誰かが「サイ ヤング賞」を獲得する可能性だってあり得る、とも思っていた。
中でもダークホースは岩隈だろう、というのが私の予想。
田中とダルビッシュは、どちらもチームでのエース格。
相手チームから一番マークもされ、研究もされ尽くされる立場だ。
メジャーでは、トップクラスの投手と対戦した場合、打ち崩すことが難しいことは承知している。
だから先ず、彼に多くの球数を投げさせるべく試合を運ぼうとする。
臭い球はファウルにし、少なくともフルカウントに持ち込む。
目安は「6回までに、悪くても7回までに100球投げさせる」のが大命題。
100球投げれば、相手チームの監督は中継ぎを投入せざるを得ない。
今の野球は、この「中継ぎ」が鍵、と言っても良い。
彼が8回、場合によっては7,8回もってくれれば、9回には切り札の「守護神」を投入出来る。
逆に言えば、攻めるチームはこの「中継ぎ」攻略がすべてと言えるのではないか。
岩隈が所属するシアトル マリナーズには、フェリックス ヘルナンデスという絶対的なエースがいる。
29歳だが、既にプロ11年目。
昨年は15勝6敗、防御率2.14、三振248、WHIP (1回当りのヒットと四球数)0.92。
年俸も24ミリオンと、群を抜いている。
その彼が1番手にいることで、岩隈は随分楽になっているはずだ。
岩隈は球種が豊富だし、守備も良い。
そして、四球が少ないところが、彼の評価を高めているという。
岩隈の昨年および1昨年のWHIPは、1.01と1.05とかなり低い。
現在の彼の年俸は、7ミリオンと3人の中では1番低い。
これは彼がメジャーに来た段階での評価が、今ひとつだったことによるもの。
今年活躍すれば、今年のオフシーズンに14,5ミリオンも夢ではなかったはずだ。
この故障欠場は、悔やんでも悔やみきれないところ。
だが、未だ彼のシーズンは残っている。
復帰は6月初旬と目されているが、それ以降ローテーションを守って投げ抜ければ、他球団の注目も集まるはずだ。
残念ながら「Durability デュラビリティ (耐久性)」に於いて、多少のポイント減は免れないだろうが。
メジャーでは、ローテーションを守れる投手が一番価値があると言われる。
シーズン平均33回程度の先発で、投球回数が210以上、防御率3.00以下あたりが、エースの資格。
そういう視点で探してみると、有資格者が少ないことに驚かされる。
30球団で、たった9人。
あれだけ故障が無く投げていたヤンキースの黒田でも、投球回数は199だった。
如何に1シーズンを五体満足に投げ終えることが難しいか、それが物語っている。
勿論、1人の投手が如何に優れていても、勝星は保証されない。
先発が1試合を投げ切る「完投」は、既に昔話の範疇に入りつつある。
現在、各チームのスコアラーが重視しているのは、「Quality start クォリティスタート (価値あるスタート)」。
先発した試合で最低6回以上を投げ、自責点が3点以内に押さえることが要求される。
簡単なようだが、これが結構難しい。
6回を3点の自責点で終われば、防御率は4.50となり、3流投手並。
だが常にそれ以内で押さえるとなれば、平均では3点以内になるだろう。
そしてそれを何試合も続けるとなれば、やはり一流投手と呼べるのではないか。
要するに、「点は取られても、滅多打ちには遭わない技術」が無くてはならないということ。
昔一世を風靡した、稲尾という投手が西鉄ライオンズにいた。
日本シリーズで巨人を3年連続で破り、「神様、仏様、稲尾様」とまで言われたという。
この稲尾が、打たれても大量得点は与えない、という不思議な技術を持っていた。
つまり、要所要所はきっちり締める、という投法だったのだろう。
私の見るところ、岩隈は一番それに近い投げ方をしていた、と思われる。
投手陣が今季絶望という状況に陥った今、残るはボストンの上原、田沢のワンツーコンビと、ナショナルリーグでプレーするイチローと青木の軽打俊足コンビしかいなくなった。
青木はレギュラーに近い使われ方をしているが、それでも打率はじりじりと下がっている。
2線級を打てても、先発を打てなければ3割には届かない。
体力の無い日本人選手には、連戦の続く夏場はかなり厳しいだろう。
コンディショニングの巧いイチローには不安は無いだろうが、年齢から来る衰えには勝てない。
上原も既に40歳を越えている。
技術的には一流だろうが、残された時間はそう長くはない。
開幕早々故障者リストに入ったことも、球団から見れば不安材料だろう。
そう遅くない時期に、並立するクローザーを入れる可能性は大きいように思われる。
3人のエースクラスの故障で、一番割りを食ったのは、これからメジャーを目指す日本人投手だろう。
広島の前田健太やオリックスの金子千尋などへ注がれるスカウトの眼に、厳しさが増すことは請け合い。
いや日本ハムの大谷だって、多少の疑問符がつけられる可能性もある。
今メジャーのスカウトたちは、日本人投手たちの中学高校時代の記録を探しているそうだ。
一体どれだけの回数、幼い肩や肘で投げ続けたのか、それを知りたいということ。
大きな話題になったゴールデンイーグルスの安楽智大への興味は、今やほとんど語られない。
あれだけ投げて、故障までした10代の少年の肩が、メジャーで通用するとは思えないのだろう。
遅まきながら、日本中学硬式野球協議会が一応のガイドラインを作ったという。
読んでみると、何となく煮え切らない文章で、厳正なルール、とは到底思われない。
高校野球に関しても、指導者たちに聞くと、
「球数を100球と決めますと、まず(相手投手に)やっぱり100球を投げさせちゃう。今までですと1球目から真剣勝負ですからそれが一つの醍醐味。まずそれがなくなる。三者連続三振でもいいからまず(球数を)投げさせろと」(帝京高校監督)
「高校野球だけで終わるという子も結構多い訳です。色々な社会の中で“あの時踏ん張ることができたから今があるんだ”という中で(経験が)活かされている。感動を与えてきた野球が薄れる可能性は十分ある」(横浜高校監督)
こういう発言が、今でも堂々と罷り通っているのを聞くと、絶望的とさえ感じてしまう。
生徒を潰しても甲子園で勝てば、自分には大きな未来がある、という自分本位の発言とも取れる。
過去にそういう指導者たちが大勢いた、ということの証左ではないか。
今、日本人投手の将来は袋小路に入ったように見える。
勿論、プロや大リーグで活躍するだけが全てではない。
高校野球の思い出を持って、新天地に行く球児も多いだろう。
だがそれが、将来ある投手の芽を摘む免罪符にはなり得ない。
根本的な論議と改革なくして日本の野球の未来はない、と言ったら言い過ぎだろうか。
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