還暦スイマー望郷日記

30余年のニューヨーク、今浦島の心境を…

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私は、行列に並ぶのは好きではない。
ラーメン店や寿司店に並んだ憶えもほとんど無いし、売り出された新製品のために徹夜したこともない。
それでも、子供の頃荻窪駅前のラーメン店の引き戸の外で、中を覗きながら待った記憶はある。
だが、今のように何処にでもラーメン店があり寿司屋があれば、並ぶよりは直ぐ座れる店を選ぶ。
新製品だって、数日待てばちゃんと買えることは分かっているから、並んでまでとは思わない。
ニューヨークでは、映画館に長い列がある場合がある。
休日の午後ともなれば、1ブロックはおろか2ブロックくらいまで列は伸びることも珍しくない。
午前中の1回目に来れば並ばずとも入れるのだが、アメリカ人はそういう考えは無いらしい。
友人や恋人同士、並びながらのお喋りに興じているようだ。
どうも、それを楽しんでいる雰囲気すらある。
ここら辺が、日本人とは随分異なっているのではないだろうか。
早めの上映に行けば、並ばずに見ることが出来る。
それは分かっているけれど、自分が観たい時間に固執するのがニューヨーカースタイルとでも言おうか。
レストランだって、夕方開店早々に行けば、恐らく待たずに席につけるだろう。
だが、それは自分のスタイルではない、と考えるのだろう。

実を言うと、私も幾度かレストランに並んだことはある。
勿論そんなに長蛇の列ではなかったが、10分15分くらいは待っただろう。
その店の名は、「Sarabeth Kitchen サラベス キッチン」。
東83丁目のマディソンアベニューに開いた、ごくありふれたざっかけないコーヒーショップ。
夫はBill Levine ビル レバイン、妻はサラベス。
手焼きのパンケーキやビスケットが評判を呼び、近隣の人たちのみならず、マンハッタン中から客が集まって来た。
その評判になりかかった時に、私たちが出かけて行ったのだ。
何を食べたか記憶も定かではないが、私は恐らく「2 Eggs over easy with Sausage 玉子2つ目玉焼き 両面を軽く焼いてソーセージを添える」を注文したのだろう。
なにしろ今だって、コーヒーショップに行けば、同じオーダーを繰り返しているのだから。
この店に行きたがった家人は、多分「Pan cake with fruits ホットケーキフルーツ添え」あたりだっただろう。
朝の9時頃だったが、勿論店内は満員。
それ以降、行列はどんどん伸びていったように記憶している。

週末、マンハッタンの人たちは、「Brunch ブランチ」と呼ぶ、朝昼兼用の食事を摂ることが多い。
別にわざわざそうするのではなく、金曜の夜遅くまで街中で遊んでいれば、起きるのはどうしても10時を過ぎる。
起きてぶらっと街中に出れば、朝飯には遅く昼飯には早い。
「Breakfast ブレックファースト(朝飯)」と「Lunch ランチ(昼飯)」をミックスさせた「ブランチ」なる言葉は、19世紀にイギリスで創られアメリカに定着したのは1930年ごろらしい。
「サラベス キッチン」は、そのブランチを中心に据えた方針で人気店に伸し上がった。
直ぐにウエストサイドに支店を出し、チェルシーに直販店を開く。
高々30年の間に、日本にも数軒の店を出す繁盛振り。
「たかが朝飯屋」と思っていたが、「されど朝飯屋」だったことに気づいた。
もうほとんど行くこともなくなったが、相変わらず行列の出来る店であり続けているらしい。
とは言え、海外支店は日本だけというあたりが、このビジネスの限界か。
朝飯に大枚をはたくのは、アメリカ人か日本人くらいだからなあ。

お隣のビルに住むM子さん夫妻から、ご招待を受けた。
日曜日のブランチ。
場所はロングアイランドの高級住宅地にある、「Limani リマーニ」というギリシャレストラン。
ここのブランチは、なかなか豪華でシーフードが充実しているとか。
ギリシャ人は、世界に冠たる魚介類好きな国民。
何にでもオリーブ油をかけることもあって、日本人にはそれ程受けが良くないが、親しみは持たれている。
このレストランがあるマンハセット地域は、豪邸が建ち並ぶ一等地。
まあそれなりに期待して、予約時間の12時丁度に到着した。
駐車は「Valet parking バレットパーキング」と呼ぶ、係りが預かって、帰る時に運んで来るシステム。
広壮なガラス張りの建物は、高い天井と相俟ってなかなか豪華に見える。
既に食事を始めている人たちも、ほとんどが白人でアフリカ系はほとんどいない。
レセプションでM子さんが名前を言うと、さっと席に案内された。
ここのブランチは、バッフェ形式だそうだ。
「Buffet バッフェ」などと呼ぶと分かり難いが、要するに「バイキングスタイル」ということだろう。
食べられるだけ食べて下さい、金額は一定です、という方式。
ただこの店は出す物が良いということで、1人あたり50ドルという高額らしい。
その代金には、最初に吞む「Mimosa ミモザ(シャンパンとオレンジジュースのミックス)」か「Bloody Mary ブラディメアリ (ウオッカ入りトマトジュース)」、若しくはシャンペンが含まれているという。
M子さんと家人は「ミモザ」、私とM子さんのご主人はシャンペンでスタートした。
此処は全てセルフサービスで、好きなものを選ぶ方式だから、皿を持って出かけなければならない。

一番奥の棚に、茹でたロブスターの半身が山と積まれ、横にカクテルシュリンプ(茹で海老)も積まれている。
取りあえず半身のロブスターと海老を3,4尾皿に取り、別のコーナーへ向かう。
此処は熱を通したもの中心らしく、「ブイヤベース」、「ソーセージ」、「ラザニエ」、「ムサカ」などが、下から暖められる大きな器に盛られている。
右手には、「ローストビーフ」「羊のロースト」「七面鳥」などを、切りつけて皿に乗せてくれるコーナー。
別の列には、「サラダ」、「チーズ」、「茹で野菜」、「レモンポテト」などが用意されている。
一応ぐるりと見て、一旦自分の席に戻った。
ロブスターの尾の部分の身をフォークで剥がし、レモンを絞って口に運んだ。
少々茹で過ぎか、身がぱさぱさしているようだ。
随分久々に食べるから、よく判断がつかない。
シュリンプカクテルには、トマトソースをつけて食べてみたが、これもあまり味がしない。
大して旨くないもので腹を満たすのは馬鹿馬鹿しい、と次なる渉猟に立つことにした。

暇そうなコックに、「ローストビーフ」を1枚、切り分けて貰う。
小さめを寄こしたと思ったが、足りなければ又頼めば良い、ということを思い出す。
バッフェ形式では、価値観が少々変化するようだ。
グレービー(ソース)をかけて、再び歩き出す。
通りに面した一角では、女性だけ2,30人のパーティのようで、なかなか賑わしい。
晴れの日なのだろうか、みんな胸と腰を強調したドレスを着用に及んでいる。
マンハッタンでは滅多に見かけない装いだ。
車でほんの3,40分の町で、こんなにも服装が変わるのだろうか。
フロリダやカリフォルニアの雰囲気と似たものを感じる。
よく言えば開放的、悪く言えば田舎っぽい。
昔のアメリカ映画を、何となく思い出した。

隣の席のおばさんは、2皿目のロブスターを持って来たようだ。
アメリカ人にとって、ロブスターという食べ物は特別な存在なのではないだろうか。
日本人にとっての「鯛」のような、と言えばある程度当たっているかも知れない。
それがあれば「ご馳走」と呼べる、という感覚だろう。
食べ放題なのだから、一番のご馳走に向かうのは当然と言えば当然。
この分なら、あと2皿くらい行くかも知れない。
かと思えば、おばさんの亭主らしき男は、山盛りのサラダを頬張っている。
ここでちゃんと釣り合いが取れている、ということのようだ。

2順ほど廻ったら、早くも腹が八分目に近くなって来た。
最近あまり多量に食べなくなっているから、容積が小さくなっているのかも知れない。
「ラムロースト」を1枚にグレービー、ニシンのホワイトクリーム、レモンポテトでお仕舞いにしよう。
こういう時、食べ放題というシステムは困る。
食べなきゃソンだ、という気持ちと、食べすぎは良くない、という気持ちがせめぎ合う。
折角ご馳走してくれた人の手前もある。
それでも、最後の皿を終了させたら、本当に腹一杯という感になった。
周囲のアメリカ人たちは、切れ目無く食べ続けているように見える。

デザートに、苺をチョコレートで包んだものを、ひとつ食べた。
溶かしたチョコレートに、苺を漬けて固めたものらしい。
甘いような酸っぱいような、不思議な味だった。
そしてコーヒーを貰って、食事は終わった。
となりの夫婦は、まだ食べ続けているようだ。
我々が席を立つのを、不思議そうに見ている。
「所詮、日本はアメリカには勝てません」
出口に向かいながら、わたしはそう一人ごちた。

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