モグラのあくび

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「その毒の、名前は何だ」


本作は出版当時、宮部さん3年ぶりの現代ミステリーとして注目を集めた。
3年前に出版されたのは前作『誰か』。その前も2年を挟んでおり、01年8月刊の『R.P.G』、3月刊の『模倣犯』まで遡らなければならない。

3月6日の読売新聞に、こんな記事があった。吉川英治文学賞を受賞した際のものである。
宮部さんは、『模倣犯』以後、「現代ものを書くのがつらい」との“弱音”を時々漏らすようになった。
「世相が変わってしまって、自分には理解できない世の中が来るんじゃないか、いやもう来ているんじゃないか、自分の書くものは、若い読者には『古いよ』と言われるんじゃないかという恐怖があるんですね」。現実に起こる事件の残酷さ、不可解さに「テーマとして逃げたくなる」こともしばしばだそうだ。
しかし、杉村というおよそヒーローらしからぬ、家族思いでお人よしの「普通の人」を探偵として育てていくことで、作家はある突破口を見いだしたようだ。
「普通の人が生きにくい時代だろうなとは思います。みんなが、うそでも自分に生きやすいストーリーを作りながら生きている。でも、事件や悪いことは目立つけれど、うまくいっている部分は見えにくいだけ。世の中全体が悪くなっているとは信じたくない」
近年、時代物やファンタジーに比重をかけている宮部さんだが、「現代ミステリーを書くことはやめない」と改めて宣言した。

作中で、主人公は何度も「名もなき毒」を前にして絶望にも似た諦観をみせる。
「思っても思っても、届かなかった。無理だった。いったい世の中にそんなことがあるのかと、空白のような心でそればかり考えた」
でも――、
決して投げ出しはしない。
本作には、現代の「名もなき毒」――「現代ものを書くのがつらい」とさえ思わせる「不可解な悪意」――を真っ向から受け止め、咀嚼し、なんとか立ち向かおうとする「熱意」が感じられる。
「それでも」――という宮部さんの声が聞こえてきそうな傑作である。「私は諦めない」、と。


主人公は、『誰か』と同じ、巨大コンツェルン会長の娘婿、杉村三郎。

彼は結婚条件の一つとして、義父のグループ内で社内報を作る仕事についている。

前作で活躍した職場のアシスタント・シーナちゃんが都合により退社、後任となる女性が採用された。しかし、その人がまた、とんでもないトラブルメーカーで、ついには暴言を残して仕事をばっくれてしまう。経歴詐称の疑惑まで出て、身辺調査に乗り出した杉村は、やがてある私立探偵を紹介される。

一方、冒頭では無差別毒殺事件の経過が描かれ、青酸カリによって男性が死亡。
杉村は、偶然にも私立探偵のもとで、その男性の孫と出会う。
トラブルメーカーの部下、毒殺事件の遺族――2つの「事件」の関係者。
「名もなき毒」という共通点を持つ2つの事件に首を突っ込み、そして――、

杉村は、その「毒」の闇の中に飲み込まれていくこととなる。

「広い世間には、我々の常識の範囲内では理解できない思考を持ち、その思考に沿った行動をとる人物が、我々が漠然と予想しているよりもはるかに大勢いる。そのことは、とりわけ都会で生活していれば、嫌でも判ってくるものだ。」


『誰か』同様、宮部みゆきは「恵まれた人間」たる杉村三郎への、皮肉めいた視線を忘れていない――彼が「正論」を言えば言うほど、それはある種の人間にとって「毒」にさえなってしまうことを静かに伝えてくれる。
経済的にも不自由なく、幸せな日常に――作中人物の言葉を借りるならば「なんの苦労もなく」――恵まれた彼の「光」は、その対極にある「闇」を浮き彫りにしてしまうのである。
「クリスマスには自殺者が増えるという。」
新聞記事には、杉村を評して「普通の人」とあるが、私には彼はどこまでいっても「普通の人」にはなりえない存在であるように思えた。彼の置かれた「状況」が――彼自身がいかに「普通の人」であろうとも――彼を「普通の人」でいさせてはくれないからである。


宮部みゆきが「現代もの」を書くことに苦しみ、その末に誕生させたのは「恵まれた人間」杉村三郎を探偵役とする本シリーズであった。
『週刊文春ミステリーベスト10』の著者インタビューには、
「三作目までは必ず書こうと決めています。次作は、杉村が本当の意味で探偵になろうとする話の予定です」
とある。
次回作がどのようなものになるのか、今からとても楽しみにしている。
(07年 38冊目◎)


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閉じる コメント(4)

続けて読まれたのですね!宮部さんの「本当の意味での探偵」というのがとても意味深ですね。やはり彼は探偵の道を選ぶのか・・・。次はどんな悪意の形を出してくるのか、怖い反面、楽しみでもありますね。こちらからもTBさせて下さい。

2007/3/31(土) 午後 11:50 べる

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宮部さんの口ぶりだと、どうも探偵への道を歩み出しそうな感じですよね☆そうなると、家庭や義父との関係もますます複雑になりそう^^;「本当の意味での」という言い回しもホント気になります。次はどんな「毒」が顕れるのか、私も楽しみでなりません♪

2007/4/2(月) 午前 0:30 [ typhooon_number23 ]

やはり三作目があるのですねー。この作品は本当に現代の「毒」を見事に描いていると思います。あまりにもリアルだからこそ、後味が悪いという感想が多いのでしょうか。けれども、目をそむけてはいけないと思わせる力をもった作品でした。

2007/4/2(月) 午後 8:29 zo_no_mimi

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宮部さんが悩んだ末に用意した「現代小説」を書くための舞台――このシリーズの「毒」には、なんとも言えぬリアルさがありますよね^^;後味の悪さも、その「毒」が、決して「物語の中だけのもの」ではないとなんとなく思えてしまうからかもしれません。次回で杉村さんはどう身を振るのか。今からホントに楽しみです☆

2007/4/2(月) 午後 9:40 [ typhooon_number23 ]

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