活字の栄養分を答えよ
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「無論だ。彼らは根本的に間違っている」 彼は言った。 「なぜなら、我々が間違っていることなど有り得ないからだ」日本ファンタジーノベル大賞を受賞した我らがモリミーのデビュー作。 第1回で酒見賢一を、第2回で鈴木光司を輩出し、北野勇作、池上永一、宇月原晴明、畠中 恵……そうそうたる作家を発掘してきたこの賞が――、 満を持して(?)03年の第15回、森見登美彦を世に解き放った。魔法が出てくるわけでもない、もののけが出てくるわけでもない、舞台は京都、主人公はダメ学生、集うのもダメ学生、語られるのは日常のよしなし事、展開されるのは愚痴と妄想、どこまでも広がる脳内ワールド、まったく広がらない学園生活…… そんなものの何が面白いんや、と思いきや、これがまた読ませるのである――別に、たいしたことが起きなくたって「ええじゃないか」「ええじゃないか」とページをめくらせるのである。 選評で荒俣宏はこう語っている。 「通常の意味のファンタジーではない。夏目漱石や『けんかえれじい』を思いださせる青春妄想小説であり、男子寮の知と痴が暴力的にからまりあう。京都における京大生の尊大ぶりと稚戯性とを巧みなレトリックで描きあげた。地域も時代も極度に狭いだけに、危い妄想に満ちみちている。それでいて、どこかに純な心情があふれている。まるで岡本太郎の作品のように突拍子もない「彼女」の研究を通じ、よい意味で明治文学の真面目さを感じさせる小説であった。これならファンタジーの読者にも支持されると確信して、一位に推した。しかし問題もないわけではない。あまりに技巧に走りすぎた場合、鼻につく危険のある文体である」
ユーモアかつリズミカル。知的でありながらどこか間の抜けた文章が、モリミーの武器。 しかし、この文体には強い癖がある。なんせ主人公の言動には毒が溢れすぎているし――もちろんそこがこの男の“可愛さ”でもあるのだが――感情移入できないと読んでいてすこぶるキツイだろうと思う。 プロット自体は、何が起きるでもない平凡なストーリー。 そこに妄想というスパイスを振りかけたゆえのモリミー味である。 「大学時代に山ほど溜め込んだ妄想や鬱屈した思いの断片を気ままに膨らませ、自分で面白がりながら小説にしました。このたびの受賞の報に接し、このようにヘンテコな小説が選ばれたということで、選考に携わって頂いた方々の懐の深さを改めて思い知った次第です。
とは受賞後の感想。ただ、私個人にとって、今回の受賞は思わぬ幸運といった印象があります。これからも、まだまだ、長い修業時代が続くことになるでしょう。ふて腐れず、天狗にならず、あくまで自分の本分を忘れずに、愉快に暢気に健康に、修業時代を切り抜けたいと願っています」 このとぼけた――味わいのある文章が嫌いでなければ是非、といったところだろうか。 本作には数々の魅力的な人物が登場するが、そのほとんどは多くの謎を残したまま、物語のラストを迎える。 続編でも書くためにわざとそうしたんじゃないかと思わせるほど、語られないエピソードや、やたら強力な印象を残しているくせに素性は謎、というキャラクターが少なくない。スピンオフして欲しいキャラが満載で、登場人物がやたらめったら「愛しい」のである。 もう、ストーリーなんてどうでもいいとすら思わされてしまう。 愛すべきダメ学生たちの饗宴。空想ではなく、あくまでも妄想。 とはいえ――、 なるほど、こいつはファンタジーだ。 (07年 46冊目○) |






