西尾の戯言維新
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「この世に偶然なんかないわ。あるのは、必然だけ。」この本を読むに当たって、友人に『×××HOLiC』の原作を借りて読んだのだが、まさにこのコラボは「必然」であると思えた。販促コピーとして「それは<必然(ヒツゼン)>の奇跡(コラボレーション)」とあるように、読んでいて西尾作品とあまりにも「言葉の遣い方」が「近く」思え、驚いたというのが本音。 Amazonのレビューを見ると賛否両論、侃々諤々といったところだが、これは期待できるのでは、と読んだ。 果たして、結論からいえば「惜しい」といった感じである。 (ネタバレがありますので、読んでない人はご注意ください) 長篇として書かれた『デスノート』のノベライズに対し、本作は3作の短篇で構成されている。 『コミックファウスト』に掲載され、CLAMPの大川緋芭さん脚本でアニメ化もされた第一話『アウターホリック』、そして第二話『アンダーホリック』は、四月一日をワトソンに、侑子をホームズにした短篇推理小説仕立て。 特徴的なのが、この二作にはまったく「アヤカシ(的なもの)が出てこない点」である。三篇にはすべて、原作の一巻冒頭にあった言葉 世に不思議は多けれど
が書かれている。これほど奇天烈 奇々怪々なデキゴトも ヒトが居なければ ヒトが視なければ ヒトが関わらなければ ただのゲンショウ ただの過ぎていくだけの コトガラ 人 ひと ヒト ヒトこそこの世で 最も摩訶不思議な イキモノ 俗に言われるように、そして原作でも描かれるように、げに恐ろしいのは「アヤカシ」よりも「ヒト」である、という視点が本作のポイント。 原作冒頭の言葉を遣うことで、原作本来のメッセージ性をわかりやすく伝えているように思う。 それは“何か”の「欠落」であったり、「甘え」であったり、「肥大」であったり――によって起こる――誰にだって起きえる――「ヒト」の業である。 「幸福とともに“何か”を否定する女性」「友情を“何か”のために利用する女性」原作の世界観の中で、しかし決してその特異な「アヤカシ」なる世界を使わず、「ヒト」にフォーカスを当て、その「欺瞞」や「本質」を抉り出していく筆致はさすがの一言である。とはいえ、筆が滑りすぎた部分もある。各話ともに、侑子さんの謎解きまで行けば、ぐいぐいと読めるのだが、それまでの導入が冗長。また、第三話『アフターホリック』に関しては、全体的にあまりにも西尾色が強すぎて違和感を感じざるおえない。 もちろん、「西尾的解釈における四月一日と作品の世界観」がこれでもかと描かれたこの話は、「西尾がノベライズ化したのだ」――「彼」でなくては、この話は書けなかったのだ――という点を思えば、最も興味深いものではあるのだが、原作ファンが「受け付けない」のもわかるような気がする。 ここは、本当に「賛否」のわかれるところだろう。 「アヤカシ」的要素を極力排除し、原作ファンに配慮しながらも「ヒト」を描く「推理小説」として構築してみせたのは、いい意味でも悪い意味でも西尾ならでは。 また、謎解きでの侑子さんの語りは、それこそ「<必然>のコラボ」であったと素直に納得できる完成度であった。 『デスノート』のノベライズでもそうだったが、さりげなく「続編」の伏線を張っているように読めるあたり、抜け目ない。 第二弾が出るのかはわからないが、なんにせよ西尾維新が今度も目を離せない作家だということは間違いないだろう。 |
「女性でありながら異例の早さでFBI捜査官として採用され2002年8月22日『ロサンゼルスBB連続殺人事件』と呼ばれた難事件の犯人を逮捕」――これが、原作『DEATH NOTE』二巻で触れられる南空ナオミのデータである。 キラを追っていた――そしてキラに殺されたFBI捜査官の婚約者として、ナオミは登場する。 Lは考える。 ――しかし、すでに手遅れだった。 彼女の悲しい末路については、本作の言葉を借りるならば「強いて言うまでもないこと」だろう。 生前、彼女はこう語っている。 皮肉にもこの言葉を聞いたのは夜神月――フィアンセの殺害者であり、Lの敵対者であり、世界の“死神”であるキラだった。 しかし、彼女の声がLに届くことはなかった。 私たちは、Lとナオミの言葉から、二人の間に少なからざる“絆”が存在することを知ることができる。 では、ロサンゼルスBB殺人事件とはどのような事件だったのだろうか? ――本作『DEATHNOTE ANOTHERNOTE』で描かれるのは、まさにその真相なのである。 「十人以上の被害者、あるいは百万ドル以上の被害額が出ない事件には原則として関与しない」と言われるLが関わった、“例外”的事件。 当時、『藁人形殺人事件』ないし『LA連続密室殺人事件』と呼ばれていたこの事件の「被害者」は3人“しか”いない。 そして、これは「Lが初めて竜崎と名乗った事件」でもある。 語り部は、「あの」ミハイル・ケール。 (個人的には、彼は「こんな」語り口で、「こんな」内容を語るような人間ではないように思うのだけど……そこのところどうなのだろう?) 彼がLから聞いた「3つの手柄話」の一つとして、本作は語られている。
西尾の描き出す――トレースした――「竜崎」やナオミには、やはり西尾色が色濃いように思えた。 Lなんかは原作でも割とおとぼけキャラだったので、西尾キャラとして嵌るのだけど、クールに描かれていたナオミは、妙に萌えキャラになっていて、作者ならでは。 でも、それがとても魅力的で違和感なく、ここらへんのキャラクターの作り方は、まさに作者の面目躍如である。 (本作を読んだ後に原作を読んだら、ナオミがツンデレにしか見えなくなっていた(笑)) ――原作の世界観の中に、しっかりと自分の世界観を馴染ませることができたからこそ、本作はノベライズとしてだけではなく、一つのミステリーとしても傑作たりえたのだろう。 想像していた以上に面白く、あっという間に読んでしまった。 キャラ設定とは別に、原作につながるエピソードや原作を補填するディティールなども、さすが西尾維新!!ツボを押さえている!と拍手もの。 「同一人物である世界三大探偵、L、エラルド・コイル、ドヌーヴの名は、別の個人として存在していたものを、Lが探偵合戦の結果獲得したものである」 なんて、一体どんな事件があったのかと、それだけで想像力をかきたてる。 Lの「あの」変わった格闘スタイルの原点、とか、ワイミーズハウスの歴史など、「にやり」とするような伏線的ディティールの描き方は、やはり天才的にうまい。 また、ミハイルの聞いた「3つの手柄話」の残りにしても、 「ワイミーズハウスの初代Xから初代Zまでのそそるべき子供達(ラストアルファベット)がゲストとして参戦する、世界三大探偵による探偵合戦の舞台、ご存知欧州バイオテロ事件」と、 「世界一の発明家キルシュ・ワイミーことワタリと、当時推定八歳のLとの出会い――世紀の名探偵L誕生のきっかけとなった、第三次世界大戦をすんでのところで食い止めたウィンチェスター爆発魔事件」であることが語られており、続編への期待も高まる。 本作では、幾度も「原作を読んでいる前提で話を進めますよ」的な言葉が書かれている。 最初は不思議に思ったのだけど、ラストを読んで合点がいった。 うまい!!と思わず声をあげたほどである。 原作を読み、漫画のイメージの檻の中に入ってしまった読者は、まず間違いなく「引っかかってしまう」のではないだろうか。 純粋にミステリーとしても楽しめるが、原作を読んでいれば何倍も楽しめることと思う。 |
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戯言シリーズ完結編。 |
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「死なない研究」をする大学の助教授。 |




