シリーズ8作目にして、季節はくるりと回り、春。
三学期を向え、いよいよ進級へのカウントダウンが始まっている。
次回作がどのような内容になるのかわからないけれど、やけに煽られる今後の不穏。
「涼宮さんの精神はどんどん平穏になっています。それこそ拍子抜けするくらいにね」
と古泉は言う。
しかし――、
「それが問題なのです」
「涼宮さんが大人しくしていたら面白くない何者かがまだいるのかもしれません。情報フレア、時空震、閉鎖空間。なんでもいいですが、とにかく彼女の持つ分析不能な能力を発現させたいと思う一派がどこかの分野にいるのかもしれないのですよ」
ええ〜い、いっそ早くそいつを見せておくれ、と思うのだけど、それはまた今度のお話。
「ですから、今回の事件はなんらかの予兆なのかもしれません」
二つの中編で構成される本作は、どちらかといえば「一息入れました」的な、学園ドタバタものになっている。
いや、まあ、「幽霊」とか出てきますが。
SOS団が間借りしている文芸部存続の危機。
生徒会から下された条件は、文芸誌を作ることだった――。
キョンの恋愛小説、長門の幻想ホラー、朝比奈さんの童話に、古泉のミステリー。
各人の作中作も注目の『編集長★一直線』。
学年の終わりも近づいた気だるい三学期。
SOS団への通算2人目の依頼人は「自宅の近くで噂される、幽霊を調べてくれないか」と助けを求めてきた。
果たして、幽霊の正体とは?――関係するのは未来人?超能力者?それとも宇宙人か、はたまた別か?
「予兆」を予感させる「今回の事件」――『ワンダリング・シャドウ』
前作から思っていたのだけど、鶴屋さんの個性がやたらと光るここ最近。
なにやら重要な役だということも明らかにされ、いまやハルヒを「食い」かねん存在感である。
読者人気の高さが察せられます。
本作のウリはやはり、SOS団員が書いた小説であろう。
朝比奈さんの童話絵本は、SOS団員をモデルにした登場人物たちが織り成す、名作童話を戦記物風味にアレンジした寓話。
「悩み続けた朝比奈さんの作品は、言葉選びに四苦八苦する様を見かねた俺の助言に加え、ついには編集長自らの手で加筆修正されて完成した」とのことで、どこが編集長ことハルヒのアレンジなのかはわからないけれど、白雪姫とか人魚姫の物語が急に軍を率いての天下統一絵巻に変わるあたりに影響を感じさせる。
ちなみに挿絵から察するに、白雪姫がハルヒ、七人のこびとが長門、人魚姫が朝比奈さんで、難破船から投げ出され眠り続ける王子がキョンに対応。
古泉は「三回訪ねないと仲間になってくれない」くだんの軍師役で、人魚の足を人間のものに変える魔女を鶴屋さんが務めている。
白雪姫、七人のこびと、軍師が大陸統一をする間、人魚姫は眠り続ける王子の看病をしており、これが現実を象徴しているのだとすれば、王子=キョンの部分が不可解。
現実世界においては、(表層的には)キョンはハルヒ等が暴れまわる中「眠り続け、看病を受けている王子役」ではないからである。
どういうことなのだろう、というところでラスト、王子は白雪姫にたたき起こされ、「三日後」に目を覚ますという終わり。
眠り続ける王子=キョンというのが、「ハルヒ世界」=「キョンの夢」説を裏付けるようで、なんとも興味深い。
「三日後に目を覚ます」と具体的な数字が出ているところも気になるところである。
そして、ハルヒとキョンが理解に苦しんだ長門の『無題1』〜『無題3』超ショートショート三部作では、長門の内面が語られている。
「有希」という名前の由来も明らかにされ、ファンには堪らないエピソードだろう。
暗示的なのは『無題3』なのだが、いかんせん詩的すぎて掴み所がない。
キョンは、登場人物である「男」を古泉、「少女」を朝比奈さんに当てはめているが、本当にその通りなのだろうか?
「男」は「棺桶」に腰掛ており、「私」はその中に入りたいのだが入ることができない。
「私の居場所は棺桶の中だった。/私はそこから出て、再びそこに戻るために帰ってきたのだ」
「そこから出て」きたということは、「棺桶」は情報統合思念体なのであろうか。
「男」は、「発表会はまだ始まっていません」と言うが、「私」には何を発表すればいいのか「思い出せない」。
「時間はあるのです」と男は言う。
「待ちましょう。あなたが思い出すまで」と少女が言う。
「私」=長門の「発表」すべきものとは何なのであろうか?
そして、彼女はそれを「思い出せない」と語っていることから、長門には「覚えている」目的とは別の、何かすべきことがあるかのようにも読み取れる。
流れとしては、「発表」をすることによって、「男」は「棺桶」を退き、その中に「戻る」ことができる、ということになるのだろう。
長門が「棺桶」に「戻る」ことを邪魔している「男」とは果たして本当に古泉なのだろうか?
それともキョン?
古泉が特別に長門を邪魔しているようには考えにくい。
キョンが黒幕なのだとしたら、正解は後者であろう。
長門の小説は何を象徴しているのだろうか?
謎を残したまま、本作も閉じる。
早く新刊だしてください、お願いします。
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