モグラのあくび

シンプルでシャープに。そんな感じに

上遠野浩平の「世界」

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「ペイパーカット、そう呼ばれている存在があるという。
それは銀色をしていて、見る者によって、まったく違った姿に見えるのだという。人によっては泥棒と呼び、人によっては殺し屋と呼ぶ。それが現れるところ、かならず誰かが生命を落とすことになるからだ。そしてその現場に“予告状”を残し、かならず何かを盗んでいくことから、怪盗と呼ばれることがもっとも多いという――それでも、ほとんどの人間はそんなものの存在などまったく知らないまま、人生を過ごすことになるのだが……」
刑務所から双季蓮生という初老の男が脱獄した。
調査の結果、直前に彼は「誰か」と話をしていたことが判明する。
しかし、「誰か」と話していたことは証言がとれるのだが、誰もそれが「どのような人物」だったのかは思い出せない。
そのことから、東澱奈緒瀬は事件にペイパーカットが関係していると断定。
伊佐と千条を呼び出し、双季の跡を追う。
その頃、刑務所の外の公園では家出少女が双季と出会い、そして……。


ストーリーが進むにしたがい、少しずつ明らかになる双季の過去――、
彼が東澱家の長男(奈緒瀬の父)の死に関わっていたことが判明する。
ペイパーカットの気配を求めて双季を追うオプの2人と奈緒瀬。
だが、新たな第三者たちの登場によって事態はこじれていく。

奈緒瀬の兄であり、早見の兄でもある――東澱久既雄の孫たちの長兄が、秘書の漆原と元軍人で組織された私的部隊を使い、父を「殺した」者として双季を追跡。
また、かつて双季を逮捕した刑事も執拗に追いかけまわしてくる。
果たして、双季の脱走の目的とは何なのか――?
彼が脱走前に話していた人物とは誰なのか――?
それぞれの思惑を交錯させながら、物語は結末へとなだれ込んでいく。


「きわめて特殊です――不条理、といっても言い過ぎではないくらいに、奇妙な脱獄なのです――」
双季には謎が多い。
奇妙な脱獄に始まり、圧倒的包囲網を敷かれながら、家出少女を連れた初老の男一人に、誰も「触る」ことすらできないという現実。
まるで瞬間移動かのように姿を消すことさえある。
一体、どんなトリックを使っているのか――?

その真相は……というと、

「ついに“そこ”まで行ってしまったか!!」な『ソウルドロップ』シリーズ第3弾。

いやあ、えらいことになっております。
確かに現実離れした作品ではあったけれども、まさか「あそこまで」行ってしまうとはねぇ……。。
うう〜む。


そして――あまりにも「今更」なのだが――ここまで読んで初めて、上遠野作品がすべて「リンク」していることを友人より教えてもらう。
「ペイパーカット=虚空牙説」……とかいわれても「誰だ、それ!?」な上遠野ビギナーぶり。
今回の『ソウルドロップ』シリーズと最も関係が強いのは、『しずるさんとよーちゃん』シリーズだそうで、さらにいえば『ブギーポップ』シリーズと同時代、同世界であるらしい。

伊坂作品がそうであるように、シリーズを超えて作品すべてが一つの体系の中にあるだなんて、読者のツボをわかっていらっしゃる。
「シリーズものを読む快楽」を超えて、「作者で読む快楽」にまで昇華された上遠野ワールド。
単作だけで評価を下してはいけないのかもしれないので、先は長いが、少しずつ読み崩していこうと思っている。
まずは『ブギーポップ』シリーズからでも。
それにしても、結局『ソウルドロップ』シリーズの「よさ」はよくわからなかったなぁ。


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“この場所に関わる者の、生命と同等の価値のあるものを盗む”
それがなければ生きていく意味がないようなもの――生命と同等の価値のあるもの――“キャビネッセンス”
それを「盗まれた」者は死んでしまうのだという。
“ペイパーカット”と呼ばれる怪盗――殺し屋は、そのキャビネッセンスを専門に盗む。

「でも、そんなものが明確にあるものかな。人間はすぐに心変わりするものだぜ」

ある者は言う。
“キャビネッセンス”――そんなものは、果たして存在するのだろうか、と。
「そうなんだ、そこなんだ――」と、ペイパーカットは言う。
しかし――、

「それがない人間はこの世に存在しない」

と断言している。
「自分で“これがそうだ”と簡単に言えるようなものだったら、それこそ適当な辻褄合わせの産物で、生命ほどの価値はないんじゃないのか?」
そして、
「自分で“これがそうだ”と気付いてしまった瞬間、キャビネッセンスはその性質を失って、生命は別のものに変化してしまう――人は決して己を掴えることができない。」

ペイパーカットは「研究」している。
何を?――「人間」、を。
「――あんたは、何をしているんだ?」そう問われて、
「人間を知りたい」ペイパーカットは答える。
「生命というものが持つ意味がなんなのか――それを知りたいと思っている――だが、私の前にある手掛かりはあまりにも少ない」


『ソウルドロップ』シリーズ第2弾。
離婚問題を仲介しにメモワール興信所の早見壬敦が山奥にある良家、杜名賀家を訪れるところから物語は始まる。

「いや、土地は二の次です――いつだって、どこだって最大の問題は、そこにいる人間ですから」

離婚問題の調査をしている間に、早見は20年前の杜名賀家長女の死に疑問を抱き始める――そのきっかけとなったのが彼の能力“レイズィ・ボイス”。
「過去にあったことや、その人がずっと抱えている悩みの元だったり」を、無意識的に聞き取る力である。

また、早見は杜名賀家でペイパーカットの予告状を発見し――その段階では、それが何かはわからないのだが――ペイパーカットの関連と今後の展開が暗示される。
予告状の報告を受け、伊佐と千条、そして東澱奈緒瀬が到着。
そこで「早見は家を出て行った東澱家の次男」であることが明かされる。

一方、ソガという名の“殺し屋”が「誰か」を殺すために杜名賀家に接近。
伊佐の警察官時代の後輩であり、キャリアの神代警視、
東澱家を敵視する杜名賀家の面々などが複雑にそれぞれの思惑を交錯させていく。
ペイパーカットの目的は何なのか――今回のターゲットは誰なのか?
殺し屋が狙うのは誰か? 早見が追う20年前の杜名賀家長女の死の真相とは? 伊佐と千条、奈緒瀬はペイパーカットを捕まえることができるのか?
能力者や殺し屋、お馴染みロボット探偵らが大暴れ、やがてバラバラだった各自のベクトルは事件の収束へと向っていく。


一読しての感想は、
面白い……のか?
と疑問系であった。
確かに、ジワジワと世界観にハマリつつある。
千条カッコいい!!(あの空気の読めなさとか)
だし、
奈緒瀬から伊佐に矢印が!?
と気になってしまう出来事も少なくない。
東澱一族の関係図も見え始め、ペイパーカットの目的も何となくわかってきた。
しかし、キャラクターや世界観を追うだけにしては冗長で退屈でもある。

ある種の「シリーズもの」には、「面白いか面白くないかをとりあえず保留して、何となく続きが気になって惰性で読んでしまう」という「何となく」な無言の力があるように思う。
あるいは、それを「ハマった」と呼ぶのかもしれないけれど、「面白いんだけど退屈」という、何だか不思議な気持ちで読んでいた。
“とりあえず”次を読んでみようと思わせる、消極的な中毒性である。
きっと、漫画やアニメならばしっくりくるのだろう。
小説で読むには少々「まだるっこい」ように感じられた。


ウィキペディアに「独特の調子のあとがきでも有名」とあるが、本当に独特。
「あとがき」というと乙一が浮かんでくるが、上遠野浩平のものは、それとはまったく毛色が違う。
考えをそのままリアルタイムで「垂れ流した」感じ。
掴み所がなさすぎる.
「救いが必要なのは、はたして謎と真理のどちらなのか――しかしながらこういった答えはそれこそフィクション作品の上では作家は決してはっきりさせませんので、ええそりゃもう。絶対に。どんなにハンパであろうとも、です。それこそそいつは現実の話ですから。以上」
「あとがき」のある小説を読むのは至福である。


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講談社BOXの販促用パンフ『BOKO』の中で、編集長の太田克史はこうを言っている。
「僕の持論ですが、ミステリーとライトノベルが今、何故これだけ隆盛を極めているかというと、それは「シリーズものを読む快楽」に対して積極的に回答を提出しているジャンルがその二つだけだからなんですね」
それを受けて、「それはあるでしょう」と清涼院流水。

確かに、と思った。
連作短篇とは違う長い継続の中で、過去は暴かれ、謎は解け、好きなキャラクターを追って、あるいは世界観を愛し、読み進むほどにどっぷりハマっていくのがシリーズものの魅力。
確かに、現在ミステリーとライトノベルほど、「シリーズもの」としての在り方を強く提示しているジャンルもないだろう。
本シリーズにもまた「シリーズものを読む快楽」というものがあるのだと思う。


その人物にとって「生命と同等の価値のある物」――“キャビネッセンス”。

「何が生命と同じだけの価値がある宝なのか、誰も知らないままにそれをぞんざいに扱っているのが、人生だ」

“ペイパーカット”と呼ばれる怪盗は、その――ある者にとっては「アメ」であり、またある者にとっては「人形」である――キャビネッセンスを盗む。

キャビネッセンス(生命と同等の価値のある物)を盗まれた者は死んでしまう。

「ヤツは怪盗じゃない。泥棒とは呼べない。ヤツはむしろ――殺し屋だ」

銀髪に、長身。モデルのような姿で本作の表紙に描かれているが、ペイパーカットは“見る者によって、違った姿に見える”。

そのペイパーカットを、サーカム保険会社の調査員(オプ)2名が追う。
かつて、ペイパーカットを「直視」した経験をもつ元警察官の伊佐俊一と、ある事件をきっかけに体を機械化された“ロボット探偵”千条雅人である。
伊佐は「直視」によって視神経が弱まり、いつもサングラスをかけている。
千条は思考法も“ロボット”で感情や斟酌に欠け、意識的に“理性”のたがをはずして火事場のくそ力状態を作りだすことができる。
サーカムの社長(?)――作中では、「サーカムの婆さん」と表現されている――には、ペイパーカットとの因縁が暗示されており、オプの2人はその意思によってペイパーカットを追っている。


そして、“怪盗”と“追跡者”の構図の中に、自身の影武者を殺された日本の裏の権力者、東澱久既雄が絡んでくる。
影武者が殺される前、彼の下には一枚の“紙切れ”(ペイパーカット)が届けられていた。

「この部屋の住人の、生命と同等の価値のある物を盗む」

ペイパーカットが犯行前に必ず送る予告状である。

同様の予告状が天才女性歌手の追悼ライブ会場に届けられた――というところから、物語は動き出す。
久既雄は、孫の奈緒瀬に「ペイパーカットの対処」を指示。

「わかりました。テストのようなものだと思って、お引き受けいたしますわ」

一方、追悼ライブを邪魔しようとする“4CARD”を名乗るファン、ペイパーカットが起こしたある事件を収めるために雇われた“殺し屋”の石川など、別口からも役者は揃い、入り乱れ、謎は深まる。
――ペイパーカットとは何者なのか?
――ライブ会場に届いた予告状は、誰が送ったものなのか?
こうして追悼ライブを舞台に、ペイパーカットを巡っての大攻防戦が始まる――。


『ブギーポップ』シリーズで知られる上遠野浩平、初体験。
前から友人に薦められていて楽しみにしていたのだが、う〜ん、正直それほど「のれ」なかった。

あくまでもキャラクターありきで、脇が甘く、ディティールが疎か。
例えば、ある人物が「巨大な権力を持つ」ことはわかるのだが、それが記号でしかなく、その担保となる具体的な描写に関しては「そういうものなのだ」と言わんばかりに省略されているといった種類の「乱暴さ」が散見された点である。

きっと、そんなところを気にしながら読む小説ではないのだろう。
それは「そういうものなのだ」と記号的に認識して先に進んでいくのが正解なのだと思う。
西尾維新が上遠野浩平の影響を受けたと語っているのは有名な話だが、「キャラクターの周辺情報を記号的に処理する」という点に、近いものを感じた。

とはいえ、なんだかんだでキャラクターが動き始める後半は楽しかったし――千条カッコいい!!――最初から「シリーズもの」として作られている作品なので、巻を経るごとに「シリーズものを読む快楽」が増し、面白くなっていくのだと思う。
早速シリーズ2作目を読み、検証してみたい。


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