モグラのあくび

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ギャンブルな日々

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ロス行きの飛行機の中にいた。成田から10時間、そこからトランジット(乗り換え)を挟んで、ベガスへと向う。遅くもらった夏休みだった。3泊5日。ラスベガスでの勝負には、ちょうどいいスケジュールに思えた。

一緒に行ったのは、高校の同級生で、その22年の人生の中で、2度も銃撃戦に巻き込まれたという奇跡の大学生(♂)・友人Yである。「俺が何かしたわけじゃない」。彼は言う。「あっちからいろんなものがやってくるんだ」。
一回目は幼少時に香港で。母親と食事をしていたところ、マフィアだか何だかが乗り込んできて発砲を開始。母親に抱えられるようにして脱出したのだという。
実に胡散臭い話である。
しかし、このストーリーが彼の実家に遊びに行ったときに、彼の母親の口から物語られたものである点が、判断を難しくしている。さすがにおかんは嘘をつかんやろ、と。
あるいは、この悪運の――引きの強さは、彼の血統的宿命なのかもしれない。

2回目は昨年。カナダに語学留学のため訪れた、その初日に彼は「フリーズ!!」という怒声に遭遇する。見れば、数十メートル先の車脇に銃を構えたポリスメンおよび逃げる男の後姿。続いて響き渡るは威嚇射撃の音。アンビリーバブルな大捕り物が目の前で巻き起こったのだそうだ。
さらにすごいことに、彼は咄嗟にこの騒動をビデオカメラで撮影。うむを言わせぬ証拠をばっちり押さえることに成功する。まあ、ブレブレでほとんど何が何やらわかりませんでしたが。「うおー!!」とか「やベー!!」と、彼と彼の友人の肉声が入っているのがやけにリアルであった。

そんな彼であるから、なかなかにギャンブルでも爆発力がある。
万馬券をとるにしても、一度に数十万クラスでぶち当ててみせる。ベガスを共にするには、非常にデンジャラスかつジャストな男なのである。


飛行機の中で、彼はひたすらに寝ていた。
前日にハロウィンパーティを行い、徹夜だったのだという。「あれは勝利のための黒魔術的儀式だった」とつぶやき、夢に落ちた彼に、とやかく言えることは何もない。
私は本書を取り出し、そっと作品の世界に没入していった。

舞台はラスベガス。そう、今から向う決戦の地である。
ベガスには、何もかもがある。
ショーがあり(なんとシルク・ドゥ・ソレイユの公演が連日5つも行われている!!)、アウトレットがあり(ドルガバのジーンズが200ドルだって!!、とY)、アトラクションがある(例えば、東京タワーのてっぺんからタワーハッカーに乗るような常軌を逸した乗り物がベガスには、ある)。食事も安くてうまい。夜景は、人工都市の――人間の作り上げた景色の中で、1、2を争う美しさを魅せる。
でも、やっぱり私たちにとってはベガス=カジノだった。
もう、人生観かえてきますわ、がはは、と意気揚々と向った。

カジノにおける最大の勝利は、スロットの――それもプログレッシブ(積み立て)・タイプのジャックポットだろう。
今までに幾人もの「私、今日から大金持ちになるの♪」という淡い希望を飲み込んできたスロットが、その“消え果てた希望”たる歴史上の投入金額すべてを吐き出す、まさにこの世のものとは思えぬ瞬間。しかも、最近の機体はネットワークで他のカジノの同機種ともリンクしているため、その金額は数十億を超える。
過去最大だったのは、03年にエクスカリバーホテルで起きた神の気まぐれ――3971万ドル。その日のレートで約48億円のビックボーナスである。

『オー・マイ・ガアッ!』では、このプログレッシブ・マシンで55億もの大金を手にしてしまった3人の男女が主人公だ。それも、並びあうスロットをプレイしていた3人が。
事態は少々、複雑である。
1人の男がトイレに立った隙に、その隣の男が勝手にトイレ男の台を動かし、結果の出る直前に、それを見ていた逆隣りの女が「台の権利をもらう」と交渉。勝手男が権利を売った瞬間に、スロットはジャックポットを知らせる唸り声を発した。
はい、では、このジャックポットは誰のもの?
カジノでは、台の共有プレイを認めていない。ゆえに、“割り勘”はできない。
はて、ではではどうなるか――?
と、物語は始めるのだが、後半に向って、浅田先生のメッセージは“日本人論”“アメリカ人論”“カジノ論”にまで切り込んでいくことになる。


本書は、ギャンブラーの“たぎり”のようなものを題材にした小説ではない。
飛行機は、すでにオーシャンパシフィックを横断し、アメリカ本土へとさしかかろうとしていた。ベガスが近づきつつある気配が、ひたひたと感じられ、でもYは今だ眠っている。
よっしゃ!!やったるぜ!!気分にある、私にとっては、本書の内容は少し想像と違い残念なものだった。もちろん、本書が面白くなかったわけではないのだけれど。

「ギャンブルってのは、1万ドルを2万ドルにする遊びのことじゃねえ。25セントを100万ドルにする夢のこった」

ラストは、浅田先生が「運命の輪(ホイール・オブ・フォーチューン)」と呼ばれるタイプのスロットをプレイするシーンで終わる。3つあるドラムのうち、右端のまん中に「SPIN」マークがくると、スロットの頭上にあるホイールが回り、止まった金額がもらえるタイプのスロットの人気機種だ。
スピンが始まると、スロットはこう叫びだす。
“ZERO!ALL!FORTUNE!”(なしか、全部か、さあ運命にかけろ!!)
このときは、まさかこのスロットに大変な目に合わされるとは思ってもいなかった。
飛行機は緩やかに着陸態勢に入りつつある。
(07年 63冊目▲+)


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