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 弥勤信仰を変質させた疑経のひとつに『法滅尽経』がある。釈迦の教えが滅びようとするときのありさまを語った経典である。その描写がたいへんリアルなため、いくつかの仏教文献に引用された。そのため、古くから疑経と見なされながらも、今日まで伝えられてきた。敦煌からも写本がひとつ発見されている。五世紀の終わりか六世紀のはじめに、おそらく北魏で作られたものだろう。

 『法滅尽経』の冒頭で、釈迦は次のように語りはじめる。
 
 「わたしが死んでからしばらくすると、わたしの教えは滅びようとする。そのとき、五つの悪行が世の中をけがし、悪魔がさかんに活動する。悪魔は僧侶に化けて、わたしの教えを乱すだろう。彼ら魔僧どもは俗人の服を身にまとい、あるいは色とりどりのきらびやかな法衣を着てよろこぶ。酒を飲み、肉を食らい、命あるものを殺して美食にふける。いつくしみの心などどこにもなく、おたがいが憎みあい、そねみあう。」

 ここに「五つの悪行」とあるのは、母を殺し、父を殺し、聖者を殺し、仏陀を害し、教団を分裂させるという五つの重罪である。教えが滅びそうになるとき、こんなとんでもない悪行まで横行するようになるのだ。

 教えが滅びることを「法滅」という。『法滅尽経』は末法思想が中国にもたらされる前に作られた。だから「末法」ということばも、そういう考えかたも出てこない。いきなり法滅へとつき進む。

 法滅のとき、僧侶はむやみと豪華な袈裟を着たがるそうだ。だれの地位が上か下かでおおさわぎして、嫉妬に狂うという。しかし、そんな中にも、修行にはげむ人々はきっといる。人々に信心を起こさせるような、立派な修行者だっているのだ。「法滅尽経」にもそれはちゃんと書いてある。でも、そういう人々は坊さんたちからねたまれる。それもちゃんと書いてある。

 魔僧どもは修行にはげむ人々をねたみ、悪口を言い、欠点をあげつらう。彼らを追い出して、寺に住むことができなくする。魔僧どもは金目のものばかりためこみ、徳を積もうとなどしない。下僕を売りさばき、田をたがやして種をまき、山林を焼きはらう。下男を僧侶にさせ、下女を尼僧にさせる。道徳心などどこにもなく、その淫乱なさまは男も女も変わりがない。仏の教えを軽んじさせるのは、すべてこういった者どものせいである。

  税金のがれのために、僧侶になる者がいることも指摘されている。もちろん僧侶になったところで、まともにお経をとなえるわけがない。かってに省略し、強引な解釈もなんのその。そのくせ、わかったような顔をして、えらそうにしている。たっとい僧侶のように人には思わせ、供養ばかりのぞんでいるという。

 仏教が成立してから多くの時をへだてた時代にあって、このような危機感をいだく人々がいたことは想像できる。五世紀なかばに、中国仏教の歴史における最初の弾圧をこうむった北魏の仏教徒にとって、これは深刻な問題であったろう。数年のちにようやく弾圧はおさまるが、それからわずかな年月しかたたないうちに、またもや僧侶の堕落がはじまったのである。

 このような状況の中で、法滅を説く経典、法滅の危機を警告し、警鐘を鳴らそうとする経典、さらには法滅の危機からの脱却をめざす経典が翻訳され、あるいは中国人自身の手によって作られた。そこでは、僧侶の堕落と教団の危機がテーマになっている。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店


 『上生経』においては、兜率天のありさまがくわしく語られる。兜率天にある宮殿のようすが語られ、そこにいる弥勒の姿かたちもくわしく語られる。そして、そのさまを心に思い描くことがしきりにすすめられている。『上生経』の正式名称は『観弥勒菩薩上生兜率天経』である。「観」とは、思いをこらして心に思いうかべること、心の中で見つめることである。

 「観経」と呼ばれる一群の経典がある。『観無量寿経』もそのひとつ。そこでは阿弥陀様の姿を心に思い描く、そのさまざまな方法が説かれている。阿弥陀信仰にとってはだいじな経典である。『上生経』も観経の一つである。だから、その修行方法がくわしくでている。

 一群の観経は、だいたい同じころにあいついで中国語に訳された。どれもサンスクリット本は伝わっていない。サンスクリット本があったことを裏づけるようなチベット語訳もない。『上生経』だけはチベット語訳があるが、これは中国語訳から重訳されたものだという。

 どの観経も内容から考えて、インドで作られたと断定するに無理があるらしい。そうすると、中央アジア(西域)か中国で作られたということになる。

 中国においては、五胡十六国から北魏の時代において弥勒が盛んに信仰された。敦煌の莫高窟の初期の北涼時代の石窟には弥勒像が主尊とされている。また、北涼を滅ぼした北魏の時代の雲岡石窟にも弥勒菩薩像が多い。この時代の弥勒信仰は、弥勒を釈迦を継承するものであると考えたようである。弥勒を釈迦の後継者とみる考えの芽生えは、すでに『上生経』のなかに見られる。前回の内容の紹介の部分を再読していただきたい。読みようによっては、釈迦が後継者を指名したように読むこともできる。

 しかし、中国における弥勒信仰はその後意外な展開を遂げる。中国には「疑経」と呼ばれる仏教文献がある。弥勒に関する疑経の制作を通じて、弥勒は「知的、説法者的、人間的な性格の強い仏菩薩」から、「慈悲的、救済者的、神的な性格の強く現れた仏菩薩」へと変質させられていった。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店

17-03 『上生経』とは


 弥勒について語る中国語訳の経典には、もうひとつ別の『観弥勒菩薩上生兜率天経』というものがある。略して『上生経』と呼ぶ。五世紀の中ごろ沮渠京声(そきょきょうしょう)が訳したと伝えられる。サンスクリット本は伝わっていない。沮渠京声は、北涼を建国し、北魏に滅ぼされて中央アジア高昌に逃れた沮渠氏の一族である。沮渠京声は高昌で『上生経』の原本を手に入れたと伝えられる。

 次のような内容である。

 釈迦が弟子たちに教えを説いていたとき、その中に弥勒もいた。弥勒は今から12年のちに亡くなり、かならず兜率天に生まれると釈迦が語った。弥勒はあと一回この世に生まれ変わると、真理にめざめて仏陀になることができるという。

 つづいて兜率天のありさまが、ことこまかに語られる。そこには宝石に満ちた豪華な宮殿がある。弥勒の弟子になって兜率天に生まれたいなら、この兜率天のありさまを思いをこらして心の中で見つめなければならないという。

 弥勒は兜率天に生まれ、それから五十六億万年たって、また、この世にくだるという。弥勒を信じ、弥勒に祈るなら、きっと兜率天に生まれて弥勒にお目にかかれる。そして、弥勒とともにこの世に下り、だれよりも先に弥勒が説く教えを聞くことができる。いつか真理にめざめる約束を弥勒からいただくことができるという。

 以上が『上生経』のあらmしである。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店


 中国に弥勒信仰が伝わったのはいつか。『弥勒への約束』(以下『約束』という)というお経があることは別のところで述べている。もとはインドの文語であるサンスクリットで書かれたものである。その翻訳は四世紀ごろからあいついでなされた。今伝わっているのは次の五つである。

 一は、316年に没した竺法護(じくほうご)が訳した『弥勒下生経』である。
 二は、四〜五世紀ごろ、訳されたとされる『弥勒来時経』。訳者はわかっていない。
 三は、413年に没した鳩摩羅什が訳した『弥勒下生成仏経』。
 四は、同じく鳩摩羅什が訳した『弥勒大成仏経』。 
 五は、713年に没した義浄が訳した『弥勒下生成仏経』。
 以上が、『約束』の中国語訳である。まとめて『下生経』とよぶこととする。

『約束』の内容は次のとおりである。
 とほうもない遠い未来のことである。そのとき人間の寿命は八万歳になっている。そこはゆたかできよらかな世界が実現している。転輪聖王(てんりんじょうおう)という理想の王様が現れ、世の中を平和に治めるだろう。

 そのとき、弥勒は兜率天からくだってきて、この世に生を受ける。その身体は光かがやき、私たちの肘の長さの五十倍もの身長がある。弥勒は家にあって楽しまず、すべてのものはいつか滅びることに思いいたって、家を出る。そして龍華樹(りゅうげじゅ)の下で---あたかも釈迦が菩提樹の下で真理にめざめたように---真理に目覚めるのである。

 真理に目覚めた弥勒は、人々に教えを説きはじめる。最初の集まりで弥勒が教えを説くと、九十六億の人々が真理にめざめようとこころざす。二度目の集まりで教えを説くと九十四億の人々が真理にめざめようとこころざす。三度目の集まりで教えを説くと九十二億の人々が真理にめざめようとこころざす。弥勒はこうして六万年のあいだ教えを説き、最後に生と死のくりかえしから解放されて滅し去る。

 以上が『約束』のあらましである。

 弥勒について語る中国語訳の経典には『上生経』という経典がある。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店

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