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遠いむかしこんなこともしていました。もちろん今は転職して別の仕事をしていますが・・・
演習場内のとある森の近くに兵員輸送用のトラックが、一台停止した。普通化連隊の一個分隊ほどの自衛隊員がトラックから降りて、夜営準備を始めた。
今回は連隊検閲(自衛隊が毎年受ける試験みたいなもの)を意識しての演習だった。森の中に二人用の天幕を2張偽装してつくり、トラックも草木で偽装し航空機から見えないように施した。
状況は戦時下ということで、全員がテントの中で寝るわけにはいかない。野営地近くに一人用の銃座を掘って作り、交代で見張りに付かなければならない。1時から3時までの深夜は下っ端の担当である。迫撃砲の砲手や運転手、分隊長を寝不足にさせないためだ。
私は当時、2等兵(2等陸士)だったので、この日その時間を担当した。銃座は森の端から地壁(チヘキ・・雨が降ると川になる溝で深いところになると2m近くある)に向かって設置した。
この演習には他の部隊が仮想敵役で参加していたので、夜襲を受ける危険があった。
見張りに付く前、空砲弾を60発渡されマガジンに詰めた、20発づつ分けて入れようとしたら、「18発ずつにしろ・・ジャミング(装弾不良)を起こすぞ。覚えておけ」とアドバイスを受けた。「この余りの6発は?」と聞くと「音がしないようにテープでまとめて、実戦ではこの6発で活路を開くか自決のためにとっておくんだ」と言われた。
この日は満月の夜でひと際、星空がきれいだった。64式小銃の脚を出し何度か短連射の体制を練習していると、前方地壁のカーブしている先から、数名の足音が近づいて来るのが聞こえてきた。間違いなく自衛隊の聞き覚えある半長靴が小砂利を踏みしめていた。私はゆっくりと初弾を薬室に装填し、短連射の構えをとった。「誰か!?」自衛隊特有の誰何をするが、返答がない。足音がするのになかなか姿がみえない、銃座からカーブまでは概ね20M・・・実戦だったら接近戦になる。基本的に当時の自衛隊は接近戦はやらないはず、なんでもっと遠くから先に撃って来ないんだ?相手はスぺツナツ役のレンジャー部隊か?後ろに回りこまれたか?・・対処を誤ると責任問題になる・・新兵の私にはストレスが多すぎた・・ベトナム戦争で新兵が取り乱して直ぐ戦死してしまうとよく言われていたそうだが、うなづける。
すると月明かりでカーブの先から人の影が伸びているのが見えた。鉄っぱち(軍用ヘルメット)を被った数名確認・・・一人でつぶやき、次の瞬間、ゆっくりと引き金を落とした。「敵襲〜!」私はあっという間に18発を撃ちつくし、予備のマガジンに換えた。分隊長が飛び起きて、「散開し各個に応戦!歩哨!状況報告!」私は一旦振り向き、「地壁より数名、接近!」と報告したとたん。
「打ち方やめ〜!・・・また出たか」分隊長が言った。
そのあと「むやみに発砲するな!」と怒られ。先輩が説明してくれた。「ここで昔、死亡事故があったんだ。暴走した装甲車に数名巻き込まれた・・・そのあと、ここで歩哨につく新兵をからかいにくるそうだ・・実は俺も分隊長も新兵のころ、あいつらに遭ってるんだ・・・」その森は看板もなく、地図にも載っていない。森の名前はあるがその由来も今となってはわからない。
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