180は路面を後車輪で削りながらフロントをインに向けた。
「これなら抜けられる!でも・・・」沿道からフラッシュがいくつもたかれた。
見物人も何人かいるようだ。セリカXXは蛇行しながらいつものテールスライドはな
く、カーブの軌道からはずれた。
助手席のSさんが見たものは衝撃音とともに闇の虚空に消えるXXの後ろ姿だった。
Nさんは直ぐに車を止めてカーブに走った。ギャラリー達も車道に出てカーブに駆け
寄った。何人かは再びシャッターを切る。この連中のほとんどはクラッシュ自体を撮
りに来ていると思われるが、Nさんの心中は穏やかではなかった。
ハンドライトでカーブの下を照らし、降りようとしたがギャラリー達に止められた。
誰かが通報のために後続の走り屋を止めて説明している。Nさんは彼らを振り切っ
て飛び降りた。急斜面を転がるようにXXに到達しYさんの確認をした。
全身を強く打っているようだがまだ息はあった。
Sさんはしばらく車から降りられませんでした。いろんな疑問が浮かび、自分を納得
させられる答えが出ないまま途方にくれました。
この時、ビデオカメラのスイッチをやっとOFFにすることができた。
救急病院でストレッチャーに乗せられたYさんを見送った。集中治療室らしい。
面会はしばらく出来ないようだ。しかたなくご家族の到着を待って他のメンバーと帰
ることになった。
帰り道の途中、Nさん、Iさん、Sさんと後輩二人は一旦、ファミリーレストランに立ち
寄り落ち着くことにした。
どうしてあんな事になったのか、単なる操作ミスではないことをIさんはNさんの様子
で気付いていた。Sさんはその時、撮影したカメラを再生してみた。
途中で放り出してしまったが、なにか映っているはずだった。
夜の峠道、追いつ追われつ、XXが見え隠れしている。
N「あれ?・・・どうしたんだろ?・・・やば!ぶつけられる!!!」
シフトダウンとエンジンブレーキの音。
S「え?え?いや〜!なんなのあれ〜!!」
加速するエンジン音、ここから音声だけになる。
N「Yさ〜ん!止まって!」その部分をなんども巻き戻し見てみた。
N「ほら暗いけど後ろになんか張り付いているでしょ・・・こればーさんだったんだよ。」
ビデオに映っている物体は灰色の塊で見ようによっては他の物にも見えた。
I「Sちゃん、もう一回戻してもらっていいかなぁ?」
その時、Sさんの後輩の一人がポロポロ涙を流し、
「Sさん・・・これ焼いた方がいいと思います・・・みなさん聞こえませんか・・・声」
Nさんは本格的に怖くなってきた・・・こりゃやばい・・・。
真っ暗なモニターをみんなで注視しています。
「ねぇ・・・・な・・・・・の?」
それは前触れもなくスピーカーから聞こえてきた。
Nさんはこの時、身体に電気が流れたように記憶がよみがえったそうです。
「あのガキだ!」
Iさんは自分の口を押さえ辛うじて悲鳴を呑み込んだ。
N「・・・このガキ、俺は乗せなかった」
I「ガキってなに?」
N「先々週、駐車場で俺がしゃべっていた小学生くらいのガキ見なかった?」
I「え?子供なんていなかったじゃない」
N「じゃあ、他の人には見えないんだ・・・自分が狙っている奴にしか・・・そおいうこと
なのか・・・?」
I「ねぇじゃあ、WさんもYさんも乗せちゃったんじゃない?」
N「ねぇ君こおいうこと詳しそうだよね?なんか知らないかな?」
Sさんの後輩でビデオテープを焼却することを主張した子は首を横に振った。
しかし、先ほどから妙な威圧感がありすごく怖いと言っていた。結局、走行シーンは
後日撮り直す事にして、今回のビデオテープはわかる人に相談することで纏まった。
数週間が過ぎ、Yさんから連絡がきた。順調に回復しているようだった。
IさんとSさんと落ち合いNさんは見舞いに行くことにした。
病室のドアを開けた時、Nさんは凍りついた。Sさんも同様だったらしくバックをその
場に落とした。
XXの後部に張り付いていた老婆がYさんのベッドの横に座っている。
身なりは綺麗だが間違いなくあの時の・・・
しかし、Yさんと母親はごく普通に老婆と接していた。父方の祖母だそうだ。
やわらかい栃木弁で「無事でよかった。」を連呼している。
とにかく一安心して帰った。
Yさんが回復し出歩けるようになってから、事故の時の話をNさんは切り出した。
Yさんが語ったのは、あの駐車場で自分のXXを覗いている子供がいたので、車が
好きかと聞くと、どうしてもこの車に乗りたいとせがまれ、軽い気持ちで乗せてやるこ
とにした。そして、出発する時、自宅が目的地の途中にあると言っているので、時間
も時間だし送ってやることにした。自宅の正確な位置を聞くが曖昧な事を言ってはぐ
らかしたり、しまいには峠について行くと言い出したので気味が悪くなり、警察に連れ
ていこうと思っていたら、ここだと言われ車を止めて降ろした。その時、180が追いつ
いた。しかし、近くには民家はないが本人がそう言うので直ぐに立ち去ったそうだ。
その後、Nさんとのバトルの最中、あのカーブ前の直線でさっき降ろしたはずの子供
が後部座席から身を乗り出して現れ、
「やっぱり、来ちゃった」
すると、急に身体の自由がきかなくなり、カーブを曲がり切れなかったということだっ
た。Yさんは加えて、なんだかあの時は夢なんだか現実なんだか、今でもわからない
が、小さな手がステアリングをいたずらしているような感じがしたそうだ。
Nさんは老婆の存在を聞くが老婆には会っていないそうだ。
Yさんは知る由もないが助かったのは奇跡に近い状態だった。
急斜面を横転転覆を繰り返し落下して、柔らかい斜面にたまたま生えていた大きな
木の根元に激突して、そこで止まった。それよりも下は土が無くなり岩場になってい
た。もし底まで落ちていたら車体はバラバラになり、乗員の生存は絶望的だったは
ずである。
このお話は関係者から断片的に聞けた話を一つにまとめてみました。老婆と子供の正体はわからずじまいです。その後、集合場所だったファミレスは閉店し、やむなく別の場所に変えたそうです。ただ本篇には書きませんでしたが、ファミレスの敷地内に何かを祭ったものがくち果てたままになっていたとか・・・関係あるかわかりませんが・・・Yさんはその後、スープラに乗り換え、免停と婚約を機に安全運転者になった。Iさんは海外で暮らしているようです。Nさんはまだ独身、遊び足りないおやじである。
おわり