バブルがはじけて間もない頃、この時、まだ20代前半だった私たちにはその影が深刻なものにはなっていなかった。そんな時代の話です。
スキューバダイビングを始めたころ、当時、私は都内のあるプロショップに仕事帰り遊びにいくことが多く、いつしか非常勤のスタッフになっていた。
とある夏、伊豆七島のM島ツアーに行かないかと誘われ、ついて行くことにした。今回は3人組みと2人組みの若い女の子だけのメンバーさんのツアー客だったので、うれしい半面緊張した。
インストラクターのNさんは当時、私の二つ上でダイビングと接客の師匠だった。
今回はスタッフ2名で気楽なツアーになるはずだった。
伊豆七島のМ島にはいつも利用していたダイバー御用達の民宿がいくつかあり、その中の一つを中継基地にした。上陸後、午前中に仮眠してI港で一本目をすましたあと、午後にいわゆる中級者向けのポイントに移動した。看護師さんと銀行員さんの彼女たちは常連客でスキルに問題なかったからだ。
海の中ではインストラクターが先頭を進み、補佐役の私はグループの最後尾に付く決まりになっていた。潜行を開始し定期的に先頭のインストラクターが振り向いて空気の残圧を一人一人チェックする。
この日は比較的透明度がよく、流れも穏やかでサポートし易かった。
何度目かの残圧チェックの後、インストラクターのNさんの様子があきらかに変わった・・・急にペースが速くなり、ジェットフィンが作る水流が見えるほどだ。
結局、見るものも見ずにエキジットポイントに到着してしまい、私の残圧は半分以上残っていた。
お客の女の子達はここは難しいと知っていたので早めに上がっても不思議に思わなかったようだ。
私達は平静を装いつつ、夜の宴会の買出しを終え、八畳間に集まって飲み会になった。女の子に囲まれ酒が回ってきたので、しばらく忘れていたが、一人彼氏に定時報告なのか席を立った子が出て、ふっと思い出し小声でNさんに聞いた「二本目でなんかあった?」・・すると盛り上がっている女の子に聞こえないように「おまえ(私)本当になにも見てないのか?」と逆に聞かれた。「なにを!?」と声が大きくなってしまい。女の子が気づいてしまった。男の内緒話は気持ち悪いと責められ、騒がないと言う約束でNさんは話し出した。
「初めは気づかなかったが残圧チェックで人数を数えると7人いたんだ。」
「なにいってんの?7人って普通じゃん」とメンバー女の子が言うと
「バカ!おれを入れないでだ!」
というとやはり大騒ぎになったが、冷静に聞いている人だけに話を続けた。
「おまえ(私)の後ろにもう一人いたんだよ。白衣着てにやにや笑ってた。こりゃやばいと思ったよ。あそこは水深20mくらいか?生きてる奴には無理だろ」
私は言葉を失い、冷静に聞いていた最後の女の子も耳を塞いで悲鳴をあげた。
次の日の朝、朝食をみんなで食べていると民宿のおばさんが、この間、ダイビング中に行方不明になって、遺体で見つかった人がいるから気をつけるようにと注意してきたので、「女の子ですか?」と聞くと、そうだと言ったのでNさんが「まさか・・おばちゃん・・その子看護婦じゃない?」と聞いたら、「なんだ知ってたの、知り合い?」ということで、
また大騒ぎとなった。今回のツアーはあのポイントを外そうということにして、違うポイントで潜る事にした。あの島では不思議な事が幾つかあり、またの機会に・・・。
|