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その日、放送室のブースに入ると、ユジンは準備したレコードと原稿、そして生徒手帳を机の上に並べ
た。
手帳からそっと、いつも隠して持っているチュンサンの肖像画を出した。
(チュンサン、あなたと私の最後の放送よ。)
「お昼の放送です。今週は3年生の卒業記念放送です。
しばらく振りにマイクの前に座ると色々な事が思い出されます。
あと、数日でこの学校ともお別れです。
3年前、心弾ませて、この学校の門をくぐったことが、つい昨日のことのようにも思えます。
校舎にも校庭にも運動場にもあの日、あの時の仲間と交わしたときめきや思い出が刻まれています。
ほとんどの3年生の卒業後の進路が決まりました。
放送部の卒業生も皆・・・・・・・。
・・・・・・・。」
ユジンは溢れそうになる涙を、必死で堪えた。
「ここで一曲、お届けします。
荒井由美、「卒業写真」。 」
「この先、10年、20年後、どんな自分になっているでしょう?
その時、この学校を訪れたとき、何を思うでしょう?
どんなに時間が過ぎても、ここに来ると、優しく私を包んでくれるような気がします。」
「最後に私の一番好きな曲を・・。
「初めて」です。」
ユジンの手の中のチュンサンの肖像画が少し微笑んでいるかの様だった。
放送が終了すると ユジンはいつもの様に放送日誌を開き、もう一度、「初めて」のレコードをかけた。
担当者の項目に「チョン・ユジン」と明記した後、思い切って「カン・ジュンサン」と付け加えた。
事故にあった時、すでに、転出手続きがとられていた彼はもちろん卒業名簿にも名前がない。
ユジンはせめて、この卒業記念放送に彼の名を残したかった。
チュンサンは確かに私たちの仲間なのだから・・。
そして、私が初めて愛した人・・。
・・・とうとう、あなた、帰ってきてくれなかったのね・・
待っていたのに・・。
もう、待ってはいけないの?
ユジンは放送日誌を閉じた。
※
昼下がりの校庭には冬の終わりを告げるようになごり雪がところどころに残っていた。
チュンサン、私、もうすぐソウルの大学に進学するの。
建築を勉強しようと思って・・。
「お転婆のチョン・ユジンらしいね」ってチュンサン、笑ってるんでしょ?
あなたの夢は何だったの?
もっと、あなたのこと知りたかったのに・・。
もっと、私の話を聞いて欲しかったのに・・。
私はね・・。
何か物を創る仕事がしたいの。
何もないところから何かを創り出すのはとても素敵なことじゃない?
チュンサン、ソウルから転校してきたわよね。
ソウルに行ったらあなたに会えるような気がするわ。
街角で突然、ばったりと出くわすような・・。
・・・そんな訳ないのにね。
私、まだ、あなたが死んだ様には思えないのよ。
信じたくない気持ちがあなたの死を認めたくないだけなんでしょうけど・・。
人ごみに流されて、忙しく生きていたら、あなたのこと忘れられるかしら?
いいえ、チュンサン、あなたを忘れて生きるぐらいなら、この胸の痛みを抱いたままの方がいい。
私を置き去りにして一人で遠い所に行ってしまって、少しあなたを憎らしく思うわ。
今度、あなたに会ったらうんと文句言わなくちゃ・・。
あなたに・・・会えたら・・・
いつか・・・・会えるかしら?・・・
私がそっちに行ったら、真っ先にあなたを探すの。
今度は会えるわよね。
待っていてね。
もう少し、時間がかかるけど、必ず、チュンサンのところに行くから・・。
山で迷子になった私を見つけてくれたように、あなたも私を探してくれるでしょ?
校庭をゆっくり歩くユジンの足元で落ち葉がやさしく舞った。
・・・僕が初雪を降らせてあげるよ・・・
いるはずのないチュンサンがすぐそこにいるような不思議な感覚だった。
・・・道に迷ったらポラリスを探すといい・・・
チュンサンの声が聞こえた様な気がした。
チュンサン、あなたを忘れないわ・・。
空を見上げたユジンの頬に静かに一筋の涙が光った。
(おわり)
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