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朝食を二人で囲んだ。
昨夜の出来事が嘘のように穏やかな時間が過ぎた。
ユジンは不思議だった。
今こうしてここにいることが・・・夢のような・・別の世界にいるような・・
友達もサンヒョクも母さえも傷つけてしまったのに・・
ミニョンに「よく眠れば元気がでます」そう言われて眠りについた。
こんなに穏やかな朝が来るなんて思いもしなかった。
そして、不思議とここにいることが必然で、ずっと前から決められていたことのように感じていた。
作った時と同じように二人でキッチンに立ち、食器を片付けた。
「沁みるでしょ? 痛くないですか?」
ユジンはミニョンの包丁で痛めた指先を心配そうに覗いた。
「私がしますから・・ミニョンさんは休んでいて下さい。」
「大丈夫ですよ・・・。何、たいしたことありません。」
「でも・・・」
「そんな顔しないで下さい。でも、光栄だな。僕のこと心配してくれるんですか?」
「ええ。お料理なんて普段、なさらないんでしょう? 」
「あはっ・・。バレましたね。 」
「それに、私の為にこんなに遠くまで・・・無理をさせてしまいました。
・・・・・ごめんなさい。」
「いえ、いいんですよ。 たまにはサボるのもいいでしょ?」
「・・え?・・・」
「どうです? 後で散歩しませんか?この近くに湖があるんです」
「・・・湖?・・・」
「僕とじゃダメですか?」ミニョンはユジンを伺うように聞いた。
「いいえ。そんなこと・・・」
「じゃ、決定。今日はサボリましょう。
僕たちスキー場に戻ったら大目玉くらうかもしれませんね・・」
「・・・・。」
ユジンの表情がこわばったままなのを気遣ってミニョンは明るく話した。
「あ、冗談ですよ。チョンアさんには僕からうまく言い訳しますから・・・心配しないで」
「・・・・・」
「さ、行きましょうか」
差し出したされた手のうえに少しためらいながらもユジンは手を添えた。
何もない湖のほとりを二人は黙って歩いた。
何も口には出さなかったけれど、優しくて穏やかな沈黙が続いた。
キラキラ光る湖面に目を細めるミニョンの横顔をユジンは静かに見つめた。
(・・・・確かに、似ている。
横顔も。微笑んだ時の優しい顔も。
時折みせる仕草や、声までも。
繋いだ手の温もりさえも・・・・こんなに似ているなんて・・・)
湖面は静かにユジンの顔を映した。
ミニョンの顔とユジンの顔が並んで、湖面で揺れた。
(・・・チュンサン・・・?・・・)
ユジンは黙って湖面に映る『その人』を見つめ続けた。
『・・・道に迷った時、ポラリスを探すといい・・』
(・・そうよね・・・チュンサン・・。
チュンサンが教えてくれたポラリスはミニョンさんだったの?
・・・・私、ついて行っていいのね・・・
チュンサンがミニョンさんのところに私を導いてくれたの?)
ユジンはミニョンの声で現実に引き戻された。
「そんなに似ていますか?」
「え?」
「カン・ジュンサン・・。」
「・・・・。ええ・・。」
「やっぱり、カン・ジュンサンの代わりにはなれませんか?」
「・・・ええ。チュンサンはただ一人です。誰も代わりにはなれません。」
ユジンは湖面の『その人』を見つめ続けていた。
「・・・・」
沈黙を破る様にユジンは静かに話し始めた。
「でも・・・」
「でも・・?」
ユジンはミニョンを見つめた。
「でも、イ・ミニョンさんの代わりもいません。誰もミニョンさんの代わりにはなれません」
「ユジンさん・・。」
ミニョンはじんわりと胸が熱くなるのを抑えきれなかった。
「ミニョンさん。スキー場に戻ってください。あなたがいなくてきっとみんな困っているわ。」
「ユジンさんは?」
「私も戻ります。でも、その前に春川に・・・母にきちんと話します。サンヒョクにも・・・」
「大丈夫ですか?僕もいっしょに行きましょうか?」
「大丈夫。心配しないで・・・。その前にもう一度、食事をご馳走させてくれますか?」
「ええ。よろこんで」
チゲから立ち込める湯気の向こうに微笑むミニョンの笑顔を見つめているユジンの瞳に薄っすらと涙が滲んだ。
ミニョンに気づかれぬようにと努めて明るい声で言った。
「さあ、熱いうちに食べて下さい。お豆腐のチゲも結構、美味しいですから」
「ユジンさん・・。・・・。美味しそうだ。いだたきます。」
ミニョンはユジンの涙に気づかぬ振りして、箸を運びながら続けた。
「ユジンさん・・。無理しないで下さい。チュンサンを思い出したら、僕に話して下さい。」
「・・・・。」
「前にひどいこと言いました。死んだ人へのプレゼントは忘れてあげることだなんて・・。」
「・・・・・。」
「もし、ユジンさんがイヤじゃなかったら、話してくれませんか? カン・ジュンサンのこと・・。」
「・・・・??・・」
「僕、なぜか、気にかかるんです。
僕とそっくりな顔して同じようにユジンさんを愛したカン・ジュンサンって人のことが・・・。
あ・・気に障りましたか?・・すみません・・。」
「いいえ。でも・・前にもお話した様にチュンサンとの思い出は少ないんです・・。」
「でも、ずっと、忘れられないのでしょう?」
「ええ・・。チュンサンは不器用で優しい人でした。私が初めて愛した人です。
でも・・死んでしまいました。私を残して遠いところに行ってしまったんです。
ミニョンさんは違います。こうして、私の料理を美味しいと喜んで食べてくれます。
幸せそうな笑顔を見せてくれます。
私、それが、嬉しいんです。」
「・・・・。ユジンさん・・美味しいですよ。・・・ユジンさん。ありがとう・・・。」
ミニョンは休めていた箸を動かし始めた。
ユジンはもう恐くはなかった。
母に会うことも・・。
サンヒョクに会うことも・・。
明るく穏やかなミニョンの微笑がユジンを満たしていた。
(おわり)
チュンサンはユジンのオンリーワン?
ミニョンは?
チュンサンの記憶が戻ってもミニョンの10年やミニョンの愛が消えたわけではありません。
ミニョンを愛したユジンの愛も消えません。
私はそう思うのです。
ユジンに言ってほしかったセリフはさて何でしょう?
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